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王宮夜会の騒乱と公爵家の策略12

ちょっと前までバタバタと陰謀とざまぁ騒ぎ三昧だったグレンフィールド邸ですが、今いちばん熱いトレンドは“指輪文化”だそうです。ええ、わたくしのささやかな提案がいつの間にか貴族界隈で火を噴き上げておりまして、なんとあちこちで「私も欲しい!」「わたくし用の特注はできないのかしら?」と、お気楽な貴夫人やらお嬢様やらがジュエリー業者を引っ張り回している模様。ここまで盛り上がるとはわたくし自身想定外でしたのに、周りが勝手に祭り上げてくれるなら乗らない手はないでしょう? おかげで連日連夜、デザイン案やら見本やらが邸に山積みでございますわ。


そんな中、わたくしがノア・リードとちょっと世間話(あるいは脅し)を交わしたところをルーファスが目撃。「お前、どの口で『嫉妬はほどほどに』と言ったんだ?」とブツブツご機嫌斜めになりまして。わたくしも「ノア様のことなんて、単に指輪文化の意見交換よ」と軽くあしらったのに、まるで利きやしない。

結果どうなったか? お察しくださいませ。ええ、今やわたくしは侍女たちを引き連れ、客用棟に拠点をパッと移動してしまいました。ちょっとした“別居”ごっこってやつですわ。


「奥様、ルーファス様本当に大丈夫でしょうか? さっきから『ちくしょう、あのリードめ』とか呟きながら書類を破ってたとか……」

シーツを整えながらステラリアが、おずおずと訊ねてきましたけど、大丈夫大丈夫、今さらあれくらいで夫婦の仲が壊れるわけがないでしょう。わたくしが家出したのだって、彼にちょいと“苦い思い”を味あわせてあげたいだけなんですもの。

「でも奥様が笑顔で“じゃあ暫くここで暮らしますね~”って飛び出してきたときの旦那様の顔、まさに雷雲みたいでしたわよ?」

そうですよねえダリア。わたくしもさすがにその場で爆笑しそうになってしまいましたもの。けれど陰謀と嫉妬が横行するこの屋敷で、愛らしい拗ね方を見せる彼の姿に胸がキュンとするのも本当。ああもう、こうしてわたくしはまたしてもドキドキとニヤニヤを同時に味わうはめになるのです。


そんな“家出”生活を始めた翌日の深夜、ドアの向こうから誰かがコソコソとうろつく気配に、ミモザが「こわっ、ゴーストですか?」なんて怯える声をあげるので、思わず耳を澄ませてみました。するとそこで聞こえるのは──「ったく、暗くて見えないが、セレスティアは無事か……」という聞き覚えありすぎる声じゃありませんか。

そこでわたくし、こっそり扉を開けて外を覗いてみたんです。すると、廊下の隅っこで毛布のようなものを抱えて彷徨っているルーファスを発見。本当に夜回りしているとは……! 愛してますよ! もう可愛すぎて胸が苦しい!


けれど見るからに神経すり減らしている彼を目にすると、さすがに意地悪心が揺らぎます。わたくし、そっと息を整え、扉を開け放ちました。

「ルーファス様、まさかピエロ真似をしに来たわけじゃありませんわよね? わたくしの安全確認ならそこから離れたほうが怪しまれませんこと?」

「あ、ああ……そうだな。だけど……その、俺が顔を出したらまた煙たがるんじゃないかと思って……」

その一言に、わたくしは心臓がぎゅっと締まるのを感じました。彼はただ、変なところで不器用なのです。だったら、わたくしから折れてあげるのが妻の務めというものじゃなくて?


さっと音もなく廊下に出て、ルーファスの間近に立った瞬間、彼の目が驚きで見開かれました。

「わたくしがここにいる以上、“煙たい”なんて思うわけないでしょう? 少し、わたくしも悪ノリが過ぎたわ。ごめんなさいね」

素直にそう言った途端、ルーファスは目を伏せて小さく笑いました。

「いや、俺も嫌味たらしく嫉妬して悪かった。人のこと言えた義理じゃないけど……ノアと親しげにしてる姿を見たら、どうしてもな」

「嫉妬は悪くありませんわよ? わたくしだって、あなたが別の誰かと親しげなら悶々としますもの。ただ、度を過ぎたらこういう騒動に発展するのを身をもって学んでくださいまし」

「反省してる。二度と奥を拗ねさせるもんか……いや、拗ねさせられてるのは俺のほうか?」

そう呟いてから、ルーファスったら照れくさそうにわたくしの手を取るじゃありませんか。あまりにも可愛い仕草に、またしても笑いが込み上げてくるのを必死に堪えましたわ。


そこへ寝巻姿のダリアとステラリアが、ひそひそ声で「なんだか甘い雰囲気になってますね~」「今がチャンスかしら」なんて言いながら顔を出して、こちらをからかうように指を差してくる。ちょっとあなた方、さっきまで“心配”とか言ってたくせに態度が豹変しすぎじゃございませんこと?

「おいそこ、勝手に写真――じゃなかった、肖像画とか撮るなよ?」

「えっ、ナイスアイデア! ふふ、次はこういう瞬間をキャンバスに納めるのも楽しそうですね~」

「やめてくださいまし!」

思わずルーファスと声を揃えて叫び、三人でドッと笑い声がこぼれました。こんなにも軽やかな気持ちで笑えるなんて、ついさっきまでのあの拗ね拗ね状態は何だったのかと思うほど。


互いの機嫌をちゃんと確かめあえたわたくしたちですが、一方で残る懸念も多いんです。ノアをめぐる不穏な動きやら、ディオンの魔力不安もまだ解決していない。でも、とりあえず夫婦喧嘩という些末ごとを抱えたまま事件に突入するのは嫌でしょう? だからこそ、今のうちにスッキリと心を整理し合っておくのが最善策。

「あなたには何も隠していません。わたくし、あなたを疑ったりしないし、絶対にあなたを裏切ったりもしない。……これで安心してくださる?」

「十分すぎるほど。ありがとう、セレスティア」

ふと顔を上げると、ルーファスの瞳には今にもこぼれそうな優しい光。そんなまっすぐな彼のまなざしを、わたくしはまぶしいくらいに感じました。そして心の中で誓います。どんな陰謀だろうと後ろ暗い策動だろうと、二人で力を合わせて蹴散らせばいい。ざまぁ上等、この指輪文化ブームの波に乗って更に強く、輝く夫婦になりましょう。


ところで客用棟の部屋に一緒に戻るかって? そこは焦らしてあげますわ。もうちょっとだけ拗ねさせておいたほうが、男は大切さをしみじみ実感するんですもの。今宵も“夜回り”頑張ってね、わたくしの愛しい公爵様。玄関の鍵は開けておくから、いつでもノックしに来てちょうだいませ。

…誰もいなくなった廊下に響く、わたくしの抑えきれない笑い声は夜闇に溶けていきました。寂しくなんてないわ。むしろ、明日こそ指輪文化にかこつけてあなたをもっと翻弄する予感がしてなりませんから。わたくしの“ざまぁ”魂に一片の迷いなし! さあ、嵐の前の夫婦仲直りを存分に楽しんで、次の陰謀情報に備えましょう。


(だいぶ感情のジェットコースターになった気がします? まだまだよ。これから先が本番なんですから!)

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