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王宮夜会の騒乱と公爵家の策略11

部屋の空気がむずがゆいほど甘くなりかけた、カーブルトとトリーシャの挙式後。その祝宴の余韻を引きずったまま、わたくしセレスティアはグレンフィールド邸の中庭をそぞろ歩きしておりました。夜風がちょうど良いクールダウンになるかと思いきや、すぐ隣から濃厚な視線がビシバシ飛んできて、まったく落ち着かないんですけれど。


「セレスティア、そんなに離れて歩くと俺だけ蚊帳の外みたいに見えるんだが」

とん、とわたくしの肩を叩いてくるルーファス。すねたような口調がおかしくて思わずクスッとしてしまいました。

「へえ、今度は『蚊帳の外』発言ですか。わたくし、あなたを空気扱いなんてしてませんわ。もっと堂々と“嫉妬深いご主人様”を押し出していただいて結構よ? 今夜も耳が真っ赤になるまで盛大に焼きもちを焼いてくださったらいかが?」

しれっと唇をゆがめて返すと、「お前な……」というルーファスの溜息混じりの声が返ってきました。でも、その瞳の奥は甘ったるい光で満ちていて、全然嫌がってるようには見えません。今夜くらいとことんラブラブを満喫すればいいでしょうに。


しかし次の瞬間、「セレスティア様、ご無沙汰しております!」と元気いっぱいの声が飛んできて、わたくしは思わず振り返りました。こちらに向かって勢いよく手を振っているのは、噂の帰国子息、ノア・リードではありませんか。つい先刻、祝宴の最中にもちらりと姿を見かけたけれど、不意打ちで話しかけてくるとは。


「ノア様、ご無事に戻られたようで何よりですわ」

「そりゃもちろん! これからは僕も社交界で大いに爪痕残すつもりなんで、その第一歩にセレスティア様という最強の盟友が必要なんですよ~」

満面の笑みで腰を深く折るノアに、わたくしは一瞬、怪訝な視線を向けてしまいました。だって“盟友”? わたくし、あなたとそんなに親しかったかしら? 確か留学前に少し顔を合わせた程度では?


――すると、当然ながらルーファスの表情がどんどん曇っていくのを背中越しに感じます。早くも嫉妬モードONでしょうか? おーこわ。でもここはわたくしも悪役令嬢として、ちょっぴり揺さぶってあげないと面白くないですものね。


「まあ、盟友とは光栄ですわ。でも生憎とわたくし、既になかなか多忙でして“指輪文化の推進”など色々新プロジェクトを抱えておりますの。手が回るかどうか……」

「そこをなんとか! セレスティア様の社交手腕は留学先でも噂になるほど有名だったんですよ。誰にでも臆さず、ざまぁ上等で斬りこむ姿勢がカッコいいって!」

「ふふ、それなら“ざまぁ”の現場を存分に楽しませて差しあげますわ。……もっとも、今度はノア様ご自身が標的にならないとも限りませんが?」

イタズラっぽく目を細めると、ノアは「ひぇっ」と可愛い悲鳴をあげ、慌てて後ずさりました。そのまま、何かを言おうとして口をパクパクしている。思わず笑いがこぼれちゃいます。


「ノア、あまりセレスティアの邪魔をするなよ」

割って入ってきたルーファスが、わざと低めの声で唸るように言いました。この声色、完璧に「オレの女に手を出すな」フェーズですわね! いいわいいわ、ルーファス様ったら本当にわかりやすいんだから。

「いやいや、邪魔なんてとんでもない。どうかルーファス公爵も仲良くしていただければ。僕、公爵家にご厄介になろうかと――」

「はあ? 今なんと?」

めずらしくルーファスが声を荒らげました。もう、面白すぎでしょこのやり取り。わたくしは口元を押さえて笑いをこらえつつ、ノアの真意を探ります。まさか本当にグレンフィールド家に泊まる気じゃないでしょうね? そんな場面が展開したら、ルーファスの嫉妬メーターが振り切れて大騒動確定ですもの。


「いずれ改めてお話しさせてくださいね! それじゃ、僕は一足先に失礼します。お二人ともどうかお幸せに~!」

すぱっと会話を打ち切り、ノアは朗らかな笑みを浮かべたまま去っていきました。そこに残るのは、渋面のルーファスと、思わず「くくっ」と笑みを噛み殺すわたくし。そして遠巻きに観察していたリリアやシャルロットまでが「胴上げ前夜かしら?」と噂しているのがチラリと聞こえてきます。ほんとにこの屋敷、面白がり屋が多すぎですわ。


「……全く、何が“仲良く”だ。このままじゃ俺が先に切れてしまう」

「きゃー、まさかルーファス時限爆弾がこんなに早く点火するとは! でも、わたくしとしては見ものなのでそこは全力で楽しませていただきますわ」

「おいコラ、嫁だろうが……!」

「まあまあ、主役(?)がご立腹のうちに失礼しますね~」

わざとらしく背を向けて踵を返すと、背後で「待てよ!」と足音がどたどた追ってくる。いいじゃないですか、こんなふうに夫婦がじゃれ合うのも日常のスパイス。むしろ円満の証拠じゃありませんか!


そんな小競り合いを微笑ましそうに見守っていたリリアが、パタパタと走り寄ってきました。

「セレスティア、夫婦漫才はいいけど、今夜の“クロード皇太子情報”は押さえてる? さっき使用人から聞いたんだけど、何やらまたひと騒動起こす準備してるっぽいですよ?」

「やっぱりね。婚約破棄とか愛人疑惑とか、彼らの引き出しはまだまだ底なしですもの。面倒くさいけど刺激的でいいわ」

「だよね。ところでディオン、相変わらず顔色が真っ青なの。先ほどの魔力抑制具合が急にガタ落ちしてるかもって」

「ディオン……。本当なら見過ごせないわね」

思わずわたくしは表情を引き締め、リリアと視線を交わします。トラブルと陰謀に彩られながらも、放置できない人がいるなら手を差し伸べるのが“わたくし流”。そろそろ動きどころかしら。


「セレスティア、俺も一緒に行く」

突然背後からルーファスが口を挟んできました。ほら、ちゃんとわかってるじゃない。わたくしを独りで行かせるわけにはいかない、夫婦は二人で共闘するもの。わざわざ宣言するまでもないでしょうに。


「リリア、先にディオンのいるほうに行って。わたくしとルーファスですぐ後を追うわ」

「了解~。あとシャルロットにも声かけておくから!」

軽く敬礼して駆け去るリリアを見送りながら、わたくしは震える胸の鼓動を抑えました。お祭り騒ぎな祝宴はひとまず終わったけど、その陰で蠢く陰謀とトラブルは次の幕を開けようとしている。ディオンを巡る魔力の問題、ノアの奇妙な動き、皇太子クロードの新たな画策――どれも一筋縄ではいかなそう。だけど、そこに立ち向かうのがわたくしの真骨頂。“ざまぁ”精神全開でまいりますわ!


「ルーファス様、くれぐれもわたくし一人を出し抜いてカッコつけないでくださいね。そんなことされたら今度こそ“蚊帳の外”へ放逐しますわよ?」

「ははっ、わかった。二度とそんな真似しない。いや、できないな。お前が怖いから」

「承知しているならよろしいですわ」

自虐混じりの微笑に、わたくしも意地悪く笑い返しました。手を軽く繋いだまま廊下を駆け抜けると、遠くからシャルロットの「はやく~!」という声が聞こえます。いいわ、行きましょう。

クロード皇太子の策略? 婚約破棄の噂? 上等ですわ。まとめておいでなさい。“悪役令嬢”は太刀打ちできないなんて誰が決めたんです? わたくしがひっくり返し、痛快な笑いに変えてみせますとも。


夜の闇に浮かぶグレンフィールド邸。この邸宅に渦巻く運命の渦と、ざまぁの予感。嬉々として胸が高鳴るのを感じながら、わたくしはルーファスの手を強く握りしめたのでした。

(さあ次はどんな大騒ぎが待っているのかしら!)

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