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王宮夜会の騒乱と公爵家の策略7

朝の陽ざしがほんのりと差し込む窓辺で、わたくしは足首をさすりながら思わず顔をしかめました。昨日よりは痛みもいくぶんマシではありますが、まだまだ「楽に踊れます!」なんて状況にはほど遠いのがもどかしいったらありませんわ。部屋の隅では、完成したばかりのドレスがハンガーに揺られて鎮座している。その優美なシルエットを見つめると「足首は言い訳にならないわよ」と無言で煽られている気がして、ちょっとイラッと。


そんなわたくしの苛立ちを尻目に、カトレアがすっとティーカップを差し出してきます。

「奥様、痛み止めにもなるハーブティでございます。お身体が少しでも楽になればよろしいのですが」

とびきりの優しい声に甘えそうになるのを必死に堪えて、「ええ、ありがと」と返事だけは淑女ぶってみせる。いやもう本音を言えば、この足首を切り落として新しいのに交換したいレベル(※もちろん比喩)ですもの。


そこへ、突進する猛牛よろしくバタバタと走り込んで来たのはリリアでした。

「セレスちゃん、聞いた? グレンフィールド前公爵様が今日から本気出すってウワサ! 皇太子殿下との外交折衝が始まるとかで、屋敷のあちこちが慌ただしくなってるみたいよ?」

彼女は興奮のあまり、鼻息が荒いのなんの。おかげで淑やか←→台無しの二語が脳裏を行き来しましたわ。

「そこまで大事になるとは……面白そうじゃなくて? あら、いけないわ、ほんのちょっと笑みがこぼれてしまったわ」

わたくしはわざとらしく口元を隠す。事件の香りを嗅ぎつけるとワクワクしちゃう性分はもう直らないみたいですの。


そうこうしていると、シャルロットが息を切らせながら登場しました。

「セレスティア、皆が談話室に集まってるわよ。ルーファス様もいらして“対策会議を開く”とか。急げって言ってたけど、足は大丈夫?」

真面目に心配する彼女を前に「ノープロブレム!」と胸を張るのは若干苦しい。でもこれくらい言い切らなくては、悪役令嬢の名折れでしょう。

「痛みはあれど、立てなくはないわ。さあ、会議とやらに全力で突撃しましょうか」

言葉の勢いで何とか立ち上がり、カトレアの支えを借りながら廊下へ向かいます。


廊下では執事カーブルトと侍女トリーシャが小声で相談中。「今日も奥様を安静にさせてあげたいが……いや、でも会議とは……」などなど聞こえてくるものですから、思わず「大丈夫ですわよー!」と先に答えてあげました。痛いには痛いですけど、わたくし的には“痛み<面白いイベント”の法則が成立中。もうレッツゴーしかありません!


ドアを開けた瞬間、談話室にはバッと視線が集まります。ルーファス様、リリア、シャルロット、そしておまけのようにカイまでご丁寧に椅子を囲んで待機しているではありませんか。まるでわたくしが主役の舞台に来たみたい。気分悪くないですわね――まあ、足首以外はまだまだ絶好調ということで。

「やあ、セレスティア。体調はどうだ? 無理はしなくていいからな」

ルーファス様の優しげな声に、とりあえず微笑んで返しておきましょう。でもこの部屋の空気、えらくピリリとしているような?

「どうぞ遠慮なく言ってくださいね、会議とかしんどかったら抜けてもいいんだから!」

そう言う割には、全員の瞳が妙にギラギラしているような……。まさかわたくしたち、既に戦闘モード突入? まあいいでしょう、どんな作戦が繰り広げられるのか楽しみ。


「それじゃ時間も惜しいし、さっそく始めましょうか」

ルーファス様が手短に切り出すと、先陣を切ったのはカイ。キリッとした表情になって、男前度5割増し。

「昨夜、ジェラルド前公爵様が皇太子殿下側近の数人と膝を交えて話し合ったそうだ。表向きは“和解ムード”に見せかけて、実は牽制し合ってるらしい。皇太子側はどうやらディオンの魔力を何かに利用しようという動きが伺えるんだと」

「ほほう、それを知ってなお、父上はあえて“微笑み外交”を展開しているわけね。裏をかこうという算段ですわね」

わたくしは図らずもニヤリ。加えてリリアが「んもう、皇太子ってば懲りないのね。ディオンを操れると思ってるらしいけど、あれかな? 脳内がお花畑すぎ?」と辛辣コメントをぶっこんでくるものだから、シャルロットが小声で「ちょ、言葉が刺々しいわよ……」と苦笑。いや、わたくしとしては大賛成よ、そのトゲ。


その後もバシバシ情報交換が飛び交います。

「ディオン本人は公爵家から離れたがってるって話もある。魔力の不調がピークに近いとかで、余計な刺激を避けたいそうだ」

「でも皇太子がそれを放っておくわけないでしょ。いっそ彼を味方に引き込むか、または安全な場所にかくまうか、選択を迫られるんじゃない?」

「それってまさに三十路手前で“婚期逃すか玉の輿狙うか”を迫られてる貴族令嬢みたいな進退窮まる話じゃない?」

妙な比喩まで飛び出す始末。途中、呆れた様子のルーファス様が「……例えが下世話すぎるな。ディオンに失礼だろう」と咳払いするも、わたくし的には「どっちも大変よね!」と内心爆笑。


話が一区切りついたところで、わたくしは足首にわずかな疼きを感じながら口を開きます。

「結論としては、わたくし達も“ディオン救済案”を練っておくのが妥当ですわね。皇太子の思惑を先にポシャらせる意味でも、ディオンの居場所を確保して差し上げましょう。ついでに焦ったクロード殿下を華麗にざまぁしちゃうという寸法で!」

するとリリアが「出たわねセレスちゃんの“ざまぁ”!」と大ウケし、シャルロットは「また場所を荒らすことになりそう……」と呆れ顔。でもわたくしは曲げませんことよ。やると決めたらやるのです!


ガタリと椅子を引いたルーファス様が、わたくしの方をちらり。

「父上がもう少し根回しを続ける間、俺たちはギリギリまで態勢を整える。セレスティア、足が回復しきらない間は屋敷から派手に動けないと思うが……無茶だけはするなよ」

いかにも心配げな声色に「わかってますわ」と笑顔で応じつつ、「いや実はすでに無茶の真っ最中です」と内心で呟いておきます。バレたら飛んできそうな小言は後で受け止めるとしましょう。


ひとまず会議は小休止となり、皆それぞれ書面のチェックやメモの整理に散っていく。わたくしはおとなしく椅子に座ったまま、次の手を考え込むフリをしながら足をさすりさすり。

「うーん、はやく思いっきり歩けるようになって、王宮に直接乗り込んで一泡吹かせてあげたいのに。焦らされるのもまた乙……いや、やっぱり早く治りたい!」

半ばうめき声を漏らしたところに、シャルロットがそっと寄ってきて微笑む。

「セレスティア、まだ痛むんでしょ? でもね、焦ると治りが遅くなるってお医者様も言ってたじゃない。だから、しっかり養生して早く戻ってきてよ。あなたの“悪役オーラ全開のざまぁ劇”がないと、みーんな寂しがるから」

「……もう、先に言ってちょうだいよ。そのセリフ、ちょっと嬉しいじゃありませんの」

あまりに素直に褒めてくれるものだから、鼻の奥がツンとなりそうでしたわ。ザラザラじゃない、しっとりした展開は不意打ちに弱いんですの。


と、感涙ポイントなのかと思ったら、今度はカイが「ま、セレスティアの毒舌と派手な笑いがないと退屈だろうな。俺も若干物足りない」とノタマったので、一瞬でしんみりモードが吹っ飛びました。何ですのよ、「若干物足りない」って何か失礼じゃなくて? はあ、でもわたくしの魅力が減ってるわけじゃないでしょうから、まあいいわ。


そんなこんなで感情がジェットコースターさながらに上がったり下がったり忙しないうちに、侍女たちが続々と戻ってきて「前公爵様から新たな知らせです!」「皇太子殿下がお忍びでどこかに現れたとか!」と情報を投下してくれます。どうやら嵐の予感が強まってきた模様。

「ああ、これは今夜も寝ていられないわね。足に休息を与えたいけれど、面白そうな展開には首を突っ込みたいジレンマがすごいわ」

ちょっとした独り言も、周囲に聞かれているのかシャルロットが「はいはい、後で車いす的な何かを用意してあげるから、とりあえず無理しすぎないで」と苦笑しながら肩をすくめている。


もはやこの家全体が“事件の分厚い予兆”をはらんでいて、空気にスパイスが混ざったようなスリルに包まれ下降する間もない。まさに締まっていこうって感じですわね。痛む足首を騙し騙し、わたくしはさらに濃厚な作戦を煮詰める覚悟を決めます。

「さて、皇太子殿下がどんな手を打ってこようと、わたくしはその上を行く! この足が完治したときこそ、心底気持ちいい“ざまぁ”をプレゼントして差し上げますわ!」

剣や魔法以上に威力抜群の“言葉の爆撃”をかましていくため、頭の中で毒舌レパートリーを整理してみる。ああ、思わずにやけちゃう! この足の痛みさえ、彼を撃破するエネルギーに変えられるような気がしてなりません。皆の期待に応えるためにも、まだまだ休むわけにはいきませんことよ。


さあ、嵐よ、どんと来い。わたくしの華麗なる一撃を味わいたいのであれば、皇太子殿下もどこからでもかかっていらっしゃいませ。必ず―必ずや―この足が完治する頃には、笑い泣きするほどの“爆笑フィナーレ”をお見せいたしましょう。わたくしの人生、こんなにもエキサイティングだなんて、転生して大正解ですわ!

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