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王宮夜会の騒乱と公爵家の策略5

「ねえ、わたくしの足が完治するまでおとなしくしていろ、と言われても無理ですわ。だって“安静=暇”じゃありませんの?」

そう言い放った瞬間、ルーファス様が眉をひそめて苦笑なさった。ええ、そりゃあお医者様の言うことは分かっておりますとも。けれど、足を休ませている間に皇太子殿下がどんな悪巧みを仕掛けてくるか分かったもんじゃありませんわ。実際あの方、わたくしへしつこく言い寄る暇があるなら国政の一つでも動かしてほしいですのに。やっぱり王族は一筋縄ではいかないんですのね。


「セレスティア、だからこそ少しだけ自重してくれないか?」

お優しい声色ながら、ルーファス様の目にはうっすらと焦りが見えている。先日の夜会で大恥をかかされた皇太子殿下が、まさに今、ぎりぎりと挽回(という名の仕返し)を狙っているやもしれませんものね。わたくしだって一応は分かっておりますわよ? 火に油を注ぐのは危険極まりないって。でも、悪役令嬢気質にブレーキはどだい無理なお話ですわ。


「まあまあ、セレスちゃん。せっかくお医者様にも注意されたんだし、せめて湿布ぐらいはサボらずに貼っておきなさいよ」

いつの間にかリリアがむくっと顔を出し、妙に呆れ顔を向けてくる。彼女の手にはまたケーキの箱。あら、今回はリトル・ベリー風味ですって? かわいらしい名前の割に味はかなりさっぱりなんですの。前に一口いただいたけれど、想像以上に酸味が効いていたわ。まるで今のわたくしを象徴するような“トゲと酸味”。なんだか笑ってしまいそう。


そこへシャルロットが、急ぎ足でプレゼント袋を抱えて駆け込んできた。

「セレスティア、少しは気分転換を――って、またそのケーキ? まだ皇太子殿下にぶつけるつもり?」

ピタリと手を止めて目を丸くする彼女の前で、リリアが「やだわ、そんな物騒なこと」と肩をすくめる。わたくし? わたくしはお行儀よくソファに座ったまま、にっこり笑っております。ええ、今のところ、自由に歩けないというリミッターが付いているせいで“突撃ケーキアタック”は封印中ですの。夜会の再現はさすがに二度もやらかしませんわよ。たぶん。


「足が不安なら、カートを用意してド派手に移動してもいいんじゃない?」

リリアがおどけてみせると、シャルロットが「それ私が押す役? 全力で拒否するわよ」と即座にツッコミ。彼女たちのやり取りを聞いていると、こちらまで気が抜けそうだわ。おかげで痛みがちょっと和らぐ気がします。


では本題に入りましょうか。わたくしはソファの肘掛けを軽く叩き、皆に声をかける。

「ところで、今の王宮の動向はどうかしら? 表立った騒動は起きていないのに妙にざわついている、みたいな話をさっきカトレアから耳にしたんですの」

殊勝な顔つきのシャルロットが、真面目モードに切り替える。

「どうやらクロード皇太子が、公爵家側から正式な謝罪やらなんやらを引っ張り出そうと動き始めたみたい。あの夜会での“衝突未遂”を蒸し返し、『今度こそ公爵家を一泡吹かせる』とか何とか」

あらまあ。夜会での出来事を有利に使う気満々だったのですね。なにしろ公の場で“剣抜きかけ”未遂まで起こったわけですし、弄られるネタには事欠かないでしょう。


「皇太子にしてはまだ可愛い綱引きじゃない?」

リリアが鼻で笑うのに対し、シャルロットは苦笑いを返す。そしてそっと声を落として言う。

「ただ、その裏でディオンの魔力が揺らいでいるって噂がどんどん膨れ上がっているの。皇太子と皇女がその噂を利用しようとしている――って線はかなり濃厚かも」


ディオンはルーファス様とは別の意味で周囲の目を引き付ける存在。もしも皇太子勢が巧妙にディオンを“危険な爆弾”扱いして騒動を大きくするつもりなら、私たち公爵家サイドにも飛び火してくるでしょう。わたくしはルーファス様と目を合わせて小さくうなずく。これ以上“ゲスい噂”を好き勝手に広めさせないために、こちらも対策を立てねばなりませんわ。


するとリリアが、「じゃあ先制攻撃ってやつ?」とにやり。

「強請られる前にこっちから“先に謝っておくフリをして皇太子の攻撃手段を取り上げる”とかどう? いわゆる“ごね得”を封じる常套手段ってやつよ」

この堅気じゃない発想、平民出身の才女らしいと言えば聞こえはいいけれど、やることはなかなか腹黒でわたくし好み。シャルロットも目を輝かせて「いいわね!」と乗り気になっている。


「俺の父上も同じ考えらしい。シンプルに“王宮内で公爵家ができる最大限の誠意だけは示しておく”形を取るんだそうだ。それを証拠として、あちらが無茶を言ってきたら逆に突く」

ルーファス様が淡々と説明する姿に、胸がすっとする。「誠意」という美しい言葉を使った裏で、相手の下手な策略を踏み潰す腹づもりがバリバリ感じられて最高ですわ。いや、悪役令嬢のわたくしが言うのもなんだけど、“草の根を分けて復讐する”などと燃え上がるより、“相手を勝手に自滅せしめる”方が好きなんですの。握りこんだ手札で華麗にざまぁ返しできれば、こんなに愉快なことはありませんわよね。


「それにしても、皇太子殿下はほんとにあなたに執着してるわねぇ……。普通なら夜会で恥をかかされた時点でもう勘弁願いたいと思いそうなのに」

シャルロットのつぶやきに、ルーファス様が低く唸った。ひょっとしてこの場で“嫉妬の炎”に再点火するのでは? そう感じた瞬間、わたくしはそっと彼の腕をつつく。

「わたくしと殿下の間にあれ以上のものは何もございませんわ。ご安心を」

はっきり断言すると、ルーファス様は目を伏せて小さく安堵の吐息を漏らす。彼はけっして病弱などではなく、心身ともに強靭。だが、“恋愛”に関しては割と新米気味というか、不慣れ丸出しが可愛らしいのだ。


「いいわね、そういう初々しい夫婦感。まあ、その一方で“閑話休題”といっちゃ何だけど、わたしらはしっかり根回ししておくから」

リリアが食えない笑みを浮かべ、シャルロットも「準備は万全にね」とウインクする。二人とも何やら楽しそうだわ。自己主張が苦手そうに見えて、こういう策略めいたことになると目が輝くんだから、本当に頼もしいというか、容赦がないというか。


そうやって「先手必勝作戦」の大枠が固まりかけたところへ、侍女カトレアがまた小走りで報告に来る。

「奥様、急ぎの連絡です。前公爵様からの伝言で、“宰相との交渉が今夜にも動きそうだから、そちらの準備を頼む”とのことです」

わたくし、心の中でしめしめとガッツポーズ。ジェラルド様(義父上)はやはり裏で動いていらっしゃるようね。となると、わたくしの出番も近いじゃありませんの。考えただけでゾクゾクしてくるわ。


「足の怪我には悪いけど、これ、張り切るしかないよね」

リリアがすかさず絡んでくるが、わたくしもやる気満々。王宮の策謀なんかで痛みはごまかせる、いえ、痛み以上の面白さがここにあるのですもの! “皇太子のお仕置き”とやらがどんな形で襲いかかろうとも、こちらには周到な根回しと、最高の「ざまぁ返しコンボ」がそろっている。なにより“ギブミー安静”とか悠長に言ってる暇があるなら、一瞬でも早くあちらの戦線をかき乱すほうがラクチンですわ。


「では皆さま、今宵も派手な舞台が待っているかもしれません。足の痛みに負けず、気合を入れてまいりますわよ!」

わたくしがそう宣言すると、リリアとシャルロットは「おー!」と拳を突き上げ、ルーファス様も苦笑しつつ「肝心の負傷者が一番張り切ってるんだからな……」と呆れ顔。しかしその瞳は、わたくしを信頼しているようにも見える。


ああ、今度はどんなトラブルが待ち受けているのかしら。夜会だけで終わるはずもない、ファーレン王国のゴタゴタがかえって燃え上がろうとしているのを感じます。見えない火種や魔力の噂もろとも、まとめて“ざまぁコース”へご招待いたしませんと! そう、悪役令嬢の華やかな活躍は、足を痛めた程度でストップするはずがないのですから。


もう笑うしかありませんわね。次の一手、そしてそのまた先に待つ策略合戦。痛みを力に変えて、わたくしは走りますわよ! ……いえ、正確には少々ヨロヨロ歩きながらですけど。でも“大いなる勝利”への道は一歩ずつ踏みしめるのが肝心なんですもの。さあ、誰が相手でも、わたくしのひねった足ごと華麗に蹴散らしてみせますわ。準備万端、さあ本番開始です!

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