王宮夜会の騒乱と公爵家の策略4
あれからどれくらい経ったのかしら? 痛む足首を抱えながらソファに沈み込んでいたら、もう時間の感覚がおかしくなってきましたわ。でも「悪役令嬢はどんなにめげても華麗に復活する運命です!」なんて謎の決意を胸に、わたくしセレスティア・イヴァンローズ本日もがんばります。……ええ、足はズキズキしましたけれど、あれしきで落ち込んでいたら明日の笑い話にできませんわ!
そんなわけで急きょ“対策会議”なるものが開かれる運びとなりまして。わたくしを取り囲むのは、学友リリアとシャルロット、そして公爵家サイドのメンバーたち。ルーファス様は「医師の手配」は済ませたとのことで、今はわたくしの隣をピタリとキープしてくださっています。いやもうルーファス様、表情がずっと苦そうで見ているこっちが胸キュンを通り越して申し訳なくなりますわ。そもそも、わたくしが派手に足をひねる前に、あの皇太子殿下への“剣抜きかけ事件”を未然に回避してくださったと聞きましたし……そりゃあ気まずい空気になりますわよね、と軽く頭を抱えます。
「でもさ、セレスティア。ひとまず大惨事にならずに済んだんだから、これはこれで勝利じゃない?」
とリリアがお気楽に笑いかけてきました。彼女のケーキ攻撃で皇太子殿下の出鼻を挫いたのは正直スカッとしましたけれど、いまだに周囲は“公爵家VS皇太子”の構図を興味津々に見守っているようですし、どこまでがセーフなのか。いや、夜会場で「激突寸前だった」なんて噂が広まっている時点で、アウト寄りな気もしますが……まぁいいでしょう。わたくしは悪役令嬢、多少の炎上など痛くもかゆくもございません(実際は足が痛いですが)。
一方のシャルロットは、わたくしに分厚いクッションを手渡しながら、
「ところで、ディオンの魔力がまた不安定だという話が急に広がっているようですわ。皇太子殿下のことだけでも面倒なのに、うわさが交錯して大変なことになりそう」
と深刻そうにつぶやきます。ディオンといえば、昔から“何か抱えている感”が半端じゃないのですけれど、こういうタイミングで不穏な話題が投下されるところに、誰かの悪意めいたものを感じますわ。……ほらほら、よくあるじゃありませんか。“恋愛と陰謀は同時進行”の法則みたいなやつ。わたくし、こういう“お膳立て”には慣れておりますので、できればまとめてざまぁ返しして差し上げたいところですけれど、まずは自分の足を何とかしませんと……。
「セレスティア、痛み止めはちゃんと効いているか?」
ルーファス様がわたくしの手をそっと握りながら尋ねるので、思わず笑みがこぼれました。いやあ、あの硬派でクールな公爵様が、こんなに優しい声色になるなんて。これも足首負傷の副産物かもしれませんわね? ならば怪我をしたかいがあったというもの……などと変な方向で得した気分になりそうですが、声に出せば絶対に怒られますわ。ここは「おかげでマシになりましたわ」と愛想よく答えておきます。
ただ、こんな風に仲睦まじい空気を出していると、どこかで誰かがまた“腹黒疑惑”とか唱えそうで怖いですわね。実際、前公爵夫妻(いわゆる義父母)も「もう少し落ち着いた方が世間体が……」的なことをチラリと言っておられたし。えっ、それって“仲が良すぎると逆に黒い?”という意味? 何ですかその理不尽な噂の拡散スピード。貴族社会はまるでチェーンメール状態ですわ。
「さて、ルーファス。これからどう動く? 皇太子殿下には正式ルートで抗議でもした方がよろしいのかしら?」
わたくし、淡々と話を切り出してみました。会議を開くからには、具体策を練らねばなりません。するとルーファス様はわずかに目を伏せ、「父上が裏でいろいろ調整を進めているらしい」と低く呟くではありませんか。すなわち、“表向きは大事にしないが、裏では手を回す”パターン。おお、さすが前公爵様、手慣れた策略をお持ちのようです。わたくしは「あら、心強いわ」とニヤリ。……こんなとき、悪役令嬢の腹黒さを疑われるほどに頼もしく思います。
「でもさー、皇太子殿下ってセレスティアにご執心じゃない?」とリリアが間の悪いことを言うので、シャルロットが「ちょっとリリア、そこをツッコむと公爵様の眉間に皺が寄るわよ」と制止する。ですが時すでに遅し、ルーファス様は「……あの男、いつまでしつこくまとわりつくつもりだ」とご機嫌斜めです。わたくしは「殿下が勝手に勘違いなさっているだけですよ?」と肩をすくめて囁きました。内心(いっそ面倒くさい殿下にNOの三行半を突きつけたい)と思いますが、それやったら逆ギレで何されるか分かりませんからね。慎重に、腹の底でざまぁを温めておきましょう。
そうこうしていると、侍女のカトレアが慌てた様子で扉をノック。「奥様、医師が到着いたしまして、今から診察を……」とのこと。会議はここで一旦お開きですわ。リリアとシャルロットが「お大事にね~」と軽く手を振りつつ去っていくのが見え、ルーファス様は「俺も一緒に行くよ」と当たり前のごとくついて来ようとします。……嬉しいけれど、そんなにベッタリだと余計な誤解を生まないかしら? でもまあ、この際どんな誤解でも来い! ルーファス様の手を借りなければ、わたくしは歩くどころか立つこともままならないのですもの。
医師の簡易診察によれば「しばらく安静」という実にありきたりな処方箋が渡されました。そりゃそうですわ、バキバキに骨でもいってない限り包帯と休養で済むでしょう。でも「安静」が通用するかは別問題。わたくしはこのままゆったりベッドで寛ぐ……なんて優雅にはいかない予感がビシバシいたします。むしろ皇太子殿下がまた妙な動きを見せるとか、ディオンの魔力問題が噴火するとか、次から次へと事件が押し寄せてきそうですもの。ついでにノア・リードという留学帰りのお貴族様もチラついているとかで、ルーファス様のヤキモチゾーンが爆発しそうな気も。
でも、わたくしはどんな逆境でも「大好物です!」と笑い飛ばせる女。夜会デビューが苦々しくても、足首が痛くても、負の噂が渦巻いていても、すべてネタにしてしまえばいいんですわ。だって悪役令嬢に生まれ変わったからには、豪快にやらかして華麗にざまぁ返しするのが定番でしょう? そのための演出として、痛む足なんて飾りみたいなものよ! ……とはいえ、やはり実際の痛みはシャレになりませんので、あとで鎮痛ハーブティーを追加でいただこうと心に決めております。
こうして“苦くて甘い夜会デビュー”の幕は一旦下りましたが、あくまで一旦。今後わたくしとルーファス様を待ち受ける騒動の数々を思うと、むしろここからが本番ですわね。皇太子殿下、ディオンの魔力、そして貴族間の見えない火種——すべてをまとめて粉砕するには、まだまだ準備と周到な根回しが必要。そしてそのカオスに翻弄されながらも、わたくしは遠慮なくざまぁを唱えて参ります。いや~、燃えますわ! 読みがいというか“生きがい”を感じてしまうのが悪役令嬢の性。このまま終わるわたくしではありませんの。
ええ、次こそはもっと大きな山が動くはず。わたくしの足首に優しい世界かどうかは知りませんが、それも含めて大歓迎ですわ。だって、どれだけのハプニングが押し寄せようとも、その先に待っているのは“私tueeee&ざまぁ!”な結末。少しばかり足を引きずりながらでも、わたくしは歩みを止めません。皆さま、どうか次の波乱もお見逃しなく。さあ、患部に湿布の用意をしていただいて、ドンと来い陰謀劇——こうなったら完全燃焼してやりますわよ!




