表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/222

王宮夜会の騒乱と公爵家の策略3

わたくし、セレスティア・イヴァンローズが華々しく(なるはずだった)王宮デビューを迎えた、その夜会当日。もう「足が痛いんですから無理はしないで……」なんて声が頭の片隅で響きまくりでしたけれど、はい、気合と意地で痛みを押し込めてドレスアップしましたわ。なにしろ「夫婦そろって夜会に登場する」と大きく宣伝されておりましたもの、自宅待機などという選択肢は存在しません。むしろ、こうなったら足首にバッチリ巻いた包帯すら最先端のファッションに見せて差し上げましょう。そう、わたくしは転生悪役令嬢。どんな災難も“盛り上げアイテム”に変えてみせる精神でございますわ!


とはいえ、会場に着いた直後は「きゃあ、グレンフィールド公爵夫妻がいらしたわ!」なんて、ぱっと見は平和な歓迎ムード。ルーファス様もほんのり微笑みながらわたくしをエスコートしてくださるし、周囲から「あら噂とは違って仲睦まじいのね」的な視線がバシバシ飛んできますの。……けれど、その視線の奥に眠るドロドロした観察魂を、わたくしは感じ取っていましたわ。なにしろ“皇太子様への無礼を働いたらしい”とか“婚約破棄待ったなし?”などなど、盛大に尾ひれが付いた噂が既に飛び交っているのですから。はあ、本当に素晴らしくご自由な社交界。いっそ白旗でも揚げたほうが楽なのでしょうけれど、わたくし、悪役令嬢ですので逃げませんよ?


すぐさまどこからともなく飛んできたのは、よりにもよってクロード皇太子ご本人。いきなり「セレスティア嬢、昨夜はお楽しみだったようで?」などと笑みを浮かべてきましたわ。わたくしのどこをどう見たら“楽しんでた”と解釈できるのかしら? その下卑た笑顔を覆い隠すかのように、ルーファス様がすかさず前へ。もう“あいつに近づくな”というオーラがめいっぱい出ていて、横にいるわたくしはむしろ笑いそうになるほど。けれど、ここで笑ってはわたくしの悪名がさらに高まること確実。よって、ひっそりと微笑を保っておきましょう。


「皇太子殿下、ご挨拶をどうも。わたくし共は特に“楽しんだ記憶”はありませんが、ご存じのとおり夜会は大変にぎやかでございましたものね」

極上の皮肉を込めて返してみましたところ、クロード皇太子の頬がピクリと引きつり、「そうか。ならば、今宵こそあなた方との会話を満喫させていただこう」とかぬかすではありませんか。ほう、この狭い会場で何を仕込んでいるのかしら。ルーファス様もさすがに薄く瞳を細めて「満喫……ですか。どうかお手柔らかに」とひとこと。ええ、いろいろ言いたいことは山盛りでしょうに、ここはとりあえず大人の対応で。けれど、心の中じゃきっと「今すぐ剣を構えたろか」と思われてそうで少しヒヤヒヤですわ。


ところが、階段のほうから突然、「セレスティアさーん、こんなところで立ち止まって大丈夫? 足首、痛まないかしら?」と元気いっぱいの声が。振り向けば、わたくしの学友リリア。しかも手にはトレーいっぱいにスイーツを抱えているから驚きです。どうやら彼女いわく「このケーキ、食べておくと足の復活が早まる」というわけのわからない迷信を真顔で信じているらしく……むしろ逆効果では!? 少なくともカロリー的に足が重くなるのでは? と心配しましたが、彼女の本気度はすごい。ついにはクロード皇太子の真横をすり抜け、無遠慮にわたくしへケーキを差し出すではありませんか。


「い、今は場が……!」と遠慮がましく手を振ると、リリアはすんごい笑顔で、「何言ってるの、補給は大事よ?」と押しつけがましく皿を突き出す。視線の端で、何やら呆気にとられた皇太子殿下。そりゃそうでしょうね、“世紀の夜会の最中にケーキを頬張る悪役令嬢”の図、なかなかショッキングでしょう? わたくしも意地で「ええ、まぁ……お気遣い感謝します」と口に運んでやりました。「……お菓子の甘味で痛みをごまかす作戦ですわ」とか半笑いでつぶやいたら、リリアが満足げに「でしょ!?」とうなずいたのが謎にツボでした。


一方、その超自由な振る舞いにさっきまで喋りまくっていたクロード皇太子は言葉を失い、ルーファス様は溜息まじりに肩をすくめていらっしゃる。ややもすると危険な静寂が流れかけたのだけれど、そこへシャルロットまで駆けつけて「セレスティア、わたくしの方でも手頃なイスを確保しておきましたわ!」と大声でアナウンス。さらに止まらない彼女は「よろしければ皇太子殿下もご一緒にいかが?」なんて無邪気に誘ってしまうものだから、場の空気がもうカオス。いくら何でも“敵意むき出し”な皇太子殿下と仲良く同じテーブルで雑談するなんて、異世界転生をしても想像の斜め上ですわ!


わたくし、痛む足首をそろそろ庇いつつ、一度だけ深呼吸。いいでしょう、何が来ようが受けて立ちますわよ。……と思った瞬間、クロード皇太子の取り巻きとおぼしき騎士団員がこちらへ押し寄せてきました。彼らは「殿下、先ほどの件でご相談が……」「公爵家の方々にご迷惑をかけないよう……」などと口々に言い始め、皇太子殿下からわたくしたちをそれとなく引き離そうとしています。なるほど、本格的に何かしようと思ってたところへ、リリアやシャルロットの妙な“ケーキ攻勢”“イスどうぞ攻撃”で予定が崩れてしまったんでしょうか? ここはまあ、わたくしたちにとっては棚ぼた展開。拉致があかないままグダグダ粘られでもしたら面倒ですが、今は向こうがさっさと離れてくれるなら万々歳です。


結果的に、ひとまず皇太子殿下は騎士団に囲まれて去っていきました。わたくしはその背中に「さようなら、どうぞ次はもっと無敵な作戦を用意しておいでくださいませ」と心の中で声をかけておきます。するとルーファス様が苦笑して「あんな調子じゃ、さすがに場の大惨事にはならずに済みそうだな」と小声で言うものですから、わたくしは「ええ、まるで嵐が巻き起こる前に何かが空回りしてるようでしたわね」と肩をすくめました。いやはや、完全にピンポイントの大火事には発展しなかったけれど、騒ぎの種はしっかり撒かれたはず。周囲の視線はさらに好奇心と疑念で煮えたぎっていますとも。


そして何より困ったのは、わたくし自身の足首です。ケーキを食べたからって痛みが瞬時に引くわけがなく、むしろ鋭いズキンという疼きがきたので、とうとうリリアとシャルロットに両脇を抱えられて移動する羽目に。いやもう、デビュー早々“担ぎ出される公爵夫人”ってなんだこの絵面……と自嘲しながらも、「これも悪役令嬢の王道パターンかもしれませんわ! 注目度MAXで笑いを誘うとか」と苦し紛れに冗談を呟いてしまうあたり、痛さで少々ハイになっていたのかもしれません。周囲の貴婦人方が「あらまあ……!」と問答無用の笑顔を向けてくださるのも、別の意味で痛々しかったですけれど。


結局わたくしたちは、控室に近いソファへたどり着きました。ああ、ありがたい。ちょっと落ち着いてルーファス様と視線を交わせば、彼は苦い表情のまま「すぐ医師を呼んでこよう」と走り去っていかれました。その後ろ姿がいつになく焦っているようで、わたくしは少し胸が痛くなる。……こんなところで怪我を悪化させて、ルーファス様にまた余計な心配をかけてしまうなんて。最低最悪の夜会になる大ピンチかもしれませんわ。でも、待って。悪役令嬢の本領発揮は“逆境を燃料にする”ことよ? ならば、ここから挽回に転じるのもアリじゃなくて?


足の痛みで涙目になりながらも、わたくしはちょっとだけ笑ってしまいました。だって、この状況こそがドラマチックな展開への入り口かもしれないのですもの。愛憎ドロドロ、婚約破棄だの皇太子の暴挙だの、何でも来い! いただいた瞬間、まとめてざまぁ返しして差し上げます。そう心に誓いながら、リリアたちがくれるハンカチで汗を拭き、わたくしは何とか息を整えました。ええ、わたくしの“波乱の夜会”はまだまだ続きそう。痛んだ足首にケーキのカロリーが効くかは疑問ですが、こうなりゃ気力でどうにかするしかありませんわね。


――さあ、次はいったいどんな騒動が幕を開けるのかしら? 皇太子殿下が仕掛けてきた謎の和解劇は本当の嵐を呼ぶのか、それともルーファス様や仲間たちがさらなる一手を講じるのか。わたくしの足首が持ちこたえるかどうかも含めて、確実に“衝撃の続編”が訪れる予感がします。どうぞ皆さま、次なる展開をトコトン楽しみにしていてくださいまし! わたくし自身が一番、それを楽しみにしているんですから。例え足が痛くても、悪役令嬢は逃げませんことよ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ