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王宮夜会の騒乱と公爵家の策略1

わたくし、まだドレスの裾を踏みそうなほど足がじんじん痛むんですけど、そんな弱音はちょっと脇に置かせていただきますわ。何しろ今宵は夫婦そろって盛大な“社交界デビュー”のはずでしたのに、いきなり皇太子殿下がケチをつけてくださったおかげで雲行き怪しさ満載ですもの。あの方、前にどこかで失敗でもしたんですか? それとも単に性格がアレなんでしょうか? 彼がこちらをじっと見てニヤリとするたびに、自慢のハイヒールでその足を思いきり踏んづけてやりたい衝動に駆られますけれど、さすがに公の場でそれはよろしくありませんわね。


ところが、そんなわたくしとは対照的に、ルーファス様はひたすら冷静。騒ぎの直後だというのに、まるで何も起こらなかったかのように涼しい顔をして貴族方と挨拶を交わしているんですよ。ちょっと待ってくださいませ? 先ほど剣に手をかけようとしたのはどこのだれでした? あれをスッと隠し、満面の笑みで「今宵の夜会は実に盛況ですね」なんて口にするあたり、さすが公爵閣下と申しましょうか。とにかく堂に入ったもので、まわりの方々は皆「あれは気のせいだったのね」と納得しているご様子。……ええ、わたくしの足にはしっかり被害が残っているんですけどね? けれどもルーファス様が社交界で十二分に“有能公爵”を演じてくださらないと、後々こちらが何かと困るのも事実。文句はノンノン、わたくしは大人しく微笑むに限りますわ。


しかし、そんな場を取り繕うそばから「でもあの公爵夫人予定の子、足を引きずっているわよ」なんて、好奇の視線と小声の嵐が飛び交います。もう、みなさま観察好きにもほどがあるでしょう? わたくしがいたずらに転んだだけって思っていただいてもいいのに、「おやおや、夫婦喧嘩でもしたのかしら」とか「実は仮面夫婦で愛憎トラブル発生?」などと意味不明な話を作り上げていらっしゃる。当然、わたくしは大人の笑みを浮かべつつ「ご想像にお任せします」と華麗にスルー。どうせ社交界なんて八割が噂話でできているんですわ。ならばこちらはさらに上を行く“新ネタ”でも仕込んであげれば、一瞬でたちまちそちらが話題をさらってくれることでしょう。


……と思っていた矢先、仕事が早いお方がすでに動いていました。ほら、リリアとシャルロットですわ。ふたりともわたくしの足に一瞥をくれて、「うんうん、新たな燃料を与えてあげましょう」とばかりにニヤッとしたんですもの。そうして二人は、あっという間に情報を回す網を張ってしまいました。「セレスティア様は実は皇太子から無理やり言い寄られていた」「ルーファス公爵がブチギレて宵のうちに剣を抜きかけたけど、それは奥方を守るための行動だった」と、まるで冒険譚のように語り始めたのですわよ。あまりの脚色っぷりに思わず吹き出しそうになりましたが、これが見事に貴族方の興味を攫ってくれまして。少々大げさではありますが、まぁ“誰も傷つかない脚色”ならよしとしましょう。実際、大いに傷ついたのはわたくしの足だけですし……。


そこへカイが合流し、不適な笑みとともに「相変わらずお前んとこは騒がしいな」と言い放つ。もっともです。そのとおりです。甘いお菓子と紅茶で談笑しつつ、ちゃっかりビッグニュースを撒き散らすなんて、なかなか面白い友人達だと思いません? でも彼らの働きの甲斐あってか、さっきまで「愛憎ドロドロ夫婦ウォッチ」だった流れが「ロマンチックな守護騎士&お姫様ストーリー」に早々と書き換えられていくんです。もう勝手にやってください、ええ、どうせだったら秋の演劇にして上演していただいても構いませんわ。そしたらスター役は誰がやるのかしら。あ、カイが真顔で「俺は脇役の方が気楽だ」とか言って逃げそうだからやめておきましょうか。


さて、ようやく周囲の雰囲気が元通りに落ち着きかけたころ、今度はディオンがつかつかとこちらに近寄ってきました。わたくしと目が合うや否や、低い声で「皇室の方から、そろそろそちらに“お願い”が届くかもしれませんよ」と耳打ちしてきたではありませんか。おやまあ、これはまた不吉な響き。昨今の皇室は色々と揉め事続きですもの、どんな曰く付きの“お願い”なのか想像するだけで胃がギュッと締めつけられます。わたくしの不安をよそにディオンは「ご安心を。もし何か起これば、微力ながら手を貸します」と言うのですが、その瞳の奥に潜む暗い影は、まだ完全には晴れていないように映りました。ほんの少しでも悩みを吐き出してくれるならよいのだけれど――この場では追及できる雰囲気でもありませんし、とりあえずは彼を信じるしかないわけで。


そうこうしている間に、ルーファス様がわたくしの腕をそっと引いて「少し、人目から離れようか」と囁いてくださいました。えっ、何でしょう、急に距離感近くありません? 心臓がちょっとどきっとするんですけど。周囲の視線を気にしてか、彼はほんのり笑みを浮かべたまま耳元でそっと言うのです。「どうやら皇太子殿下は、あの騒ぎで終わる気はないらしい。今度こそ正式に“夫婦仲を引き裂いてやる”くらいの勢いで仕掛けてくるとか。だから、君とゆっくり対策を練ろうと思ってね」――さすがですわ。最悪を想定して先回りされるそのお姿、ほんとに頼もしい。なんならわたくしの足の痛みまで先回りして直してほしいところですが、それは神様のお仕事でしょうか。ため息をひとつ吐きながら、わたくしは彼の腕に甘えるように身体をあずけてみました。すると、少しだけ安らぐ感じがするから不思議です。


そうやって会場の隅のほう、薄暗い柱の影に隠れるようにしてやり取りを始めるわたくし達。何というか、まるで闇取引でもしているみたいではありません? いや違いますわよ、抱き合ってるわけでもありませんわよ! でも話が話だけに、もし誰かに聞かれたら「うわあ何かいけない関係みたい!」って尾ひれが付いて広まってしまいそう。もうほんと、噂好きには困ったものですわ。それならいっそ人前で堂々と「どうも、ラブラブ夫婦です!」ってやったほうがスキャンダルにならないかもしれません。……ちょっと試してみます? え、止められました。ルーファス様に「からかうのはほどほどに」と優しく叱られてしまいました。はいはい、了承です。


ともかく、今回の夜会は“不気味なスタートライン”として捉えたほうがよさそうです。皇太子の執着心、わたくしの足の怪我に付随する妙な噂話、ディオンの抱える闇、そして新たに巻き込まれそうな皇室からの使者――どれをとっても気が抜けませんわ。まるで次々といろんな火種が落とされているような気分で、気軽に「ざまぁ!」とやるには、少し嫌な予感がしちゃう。だけどもちろん、ここで立ち止まるのは性に合いませんの。次に何が起ころうとも、わたくしはドレスの裾を翻してそいつを蹴散らす所存。転生悪役令嬢の底力、まだ見せ足りないじゃありませんか。そのうえ頼もしい友人達に、ルーファス様――あら、そちらはもはやたまーに夫っぽいことをして甘やかしてくださいますし。はい、こんな条件が揃っているなら負ける気がしませんわね!


というわけで、波乱だらけの夜会はひとまずお開き。わたくし達は一歩屋敷の外に出ると、次にどんな陰謀が来ようが大歓迎とばかりに笑い合いました。足を痛めているわたくしを気遣って、ルーファス様がそっと腕を貸してくださるのです。いえいえ、こんなの慣れていますから――と思いつつも、甘えられるときは甘えておかないと損、なんてズルいことを考える自分がいます。だって幸せの瞬間って、思いがけない悪役令嬢の特権みたいで、やけに楽しいんですもの。さあ、これから迫りくる皇室の“お願い”とやらにどう立ち向かいましょうか? 正々堂々と勝負して差し上げますわよ。もちろん“ざまぁ展開”を最大級に盛り込んでね! ふふ、わたくしの足が完治したあかつきには、今度こそ華麗に踊りましょう。夜会で散々わたしたちを邪魔した輩が、次にはどんな顔をするのか――今から楽しみで仕方ありませんわ。

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