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波乱を呼ぶ隣国からの客人14

ラフレス皇太子たちがしょんぼりと連行され、場内に残ったのはわたくしたちを含めた数えるほどの貴族たち。つい先ほどまであれだけ騒音のように響いていた拍手やらざわめきやらが、嘘みたいにサッと引いていくんですもの。いやもう、こういう“盛り上がりの直後の静けさ”って、本当に気まずい空気を孕んでおりますわ。どこもかしこも「何があったの?」って顔。実際にはめちゃくちゃ濃い事件があったのに、もうお開きのムードに傾いているあたり、社交界の切り替えの早さはあなどれません。

 

 わたくしはそんな空気を感じつつ、シャルロットやリリアたちと一緒にサッサと隅の方へ移動。まだドレスの裾がひらひら舞っているのを感じて、「さっさと着替えたいわ……」なんて思いながら一息つきました。はぁ、ほんとに今日はいろいろ働きましたもの。

 

 するとシャルロットが「ねえ、セレスティア。こんな大騒動の後だけど、まだ料理は残ってるらしいわよ?」と興味津々のキラキラ顔。リリアも「尋常じゃないほど豪華なデザートワゴンがあったはずですわ。わたくし、ひとつ書類にメモしておきたいので、ささっと確認しに行きたいですの」と続くではありませんか。……この二人、どこまでもたくましい。大事件を経ても食とデータ収集に一切ブレない姿勢、心の底から尊敬に値しますわ。

 

 「でもさすがにあちらこちらでお堅い顔の方々が睨んでますのよ? “こんなシチュエーションでケーキほおばりたいの?”なんて眉をひそめられるかもしれませんわよ?」

 

 わたくしがそう釘を刺すと、カイが鼻でせせら笑って「あー、むしろそっちのほうが楽しくね? だってほら、陰でこそこそ説教されたって知りませんよーって感じで、楽しんだ者勝ちじゃないか」と肩をすくめています。ま、あなたが言うとやたら説得力があるわね。陰口や不本意なうわさ話に関しては、ここんとこ散々鍛えられてきましたから、今さら怖いものなし、というわけ。

 

 「じゃあ、甘いもの補給してからさっさとおいとましましょうか。――ただし、さりげな~くよ?」

 コソコソと目配せし合うわたくしたち。いつものチームワーク発揮ですわ。いざとなったらディオンも後ろからフォローしてくれそうな気配。あら、彼はあんなに繊細そうな見た目をしているのに、こういうミッションでは妙に爽やかな微笑みを浮かべながら役に立ってくださるんですもの。ますます頼れる存在ですわ。 

 

 と、そこへルーファス様がひょこっと近づいてきて、「もう大丈夫そうですか?」なんて優しく声をかけてくださるではありませんか。目の下にうっすら疲れがにじんでいるけれど、その瞳にはどこかホッと安堵したような色が見て取れます。さっきの勢い込んだ“婚約者宣言”が嘘みたいに穏やかな笑顔。やはりお仕事が山積みなのか、これから近衛の上層部とちょっとお話をするみたい。 

 

 「ええ、わたくしは元気にケーキ探しの旅に出ようかと。ルーファス様こそ、お疲れではありませんこと?」

 ちょいと底意地悪く笑ってやると、彼は「いや、君がいるだけでだいぶ気楽だよ」とか何とか言ってくれまして。あらやだ、そういう口説き文句は控えてくださらない? そりゃあ嬉しいにきまってるけど、わたくしの心臓に悪いったらありませんわ。

 

 「さーて、それじゃあ皆さま、わたくし達はスイーツをかっさらって先に退散いたしますわね。ルーファス様もお話が終わったら、どうぞご自由に……」

 と告げたところで、彼は苦笑交じりに「うん。ダンスでもしつつ待ってて――いや、やっぱり今日はダンスどころじゃないかな?」と言葉を濁します。こんな世界規模の炎上騒ぎのあとに踊り出す余裕なんて、そうそうないでしょう。わたくしだってそこまでハート強くないですもの。 

 

 というわけで、わたくしたちは騒ぎの余韻が漂う大広間を後にし、会場端にずらりと並ぶ料理テーブルのゾーンへ向かうことにしました。すると、すでに同じ考えの人がちょびちょび現れていて、ちらほらスプーンを握っているではありませんか。あらまあ、人種は違えど発想はほぼ一緒。被害をこっそり被らないようにするため、さりげなく悟られないようスイーツ回収……というくだりでしょうか。 

 

 「けっこう盛り上がってますわね。まさに“残り物には福がある”ってやつかしら?」

 シャルロットが鼻歌混じりにうきうきと手を動かし始め、カイは「おいおい、詰めすぎて皿の上が山盛りだぞ」と苦笑い。それでも彼女は「だって、もう二度と味わえないかもしれない高級スイーツですよ? 我慢とか無理!」と開き直る。伍してリリアは「味のレポートを後でまとめたいの……!」とか真剣モードでフォークを運んでるし、ディオンまでも「甘い香りは落ち着きますね」と柔らかい微笑。 

 

 ……ええ、もういつもの光景ですわよ。さっきまであんな殺伐とした空気漂う戦場のような舞踏会会場だったのに、一気に“ケーキ食べ放題フェスティバル”状態。周りを見回せば、先ほどのラフレス皇太子の拉致未遂騒動にすっかり霞んだ顔ぶれも、口にデザートを頬張ってちょっとだけ幸せそうになっているではありませんか。なんだかんだ言って、甘いものは世界を平和にしますのね。 

 

 そんなくだらない平和論を噛みしめていると、背後から誰かに視線を向けられている気配を感じました。振り返ると、そこにはクロード皇太子ご本人。ソレーユ皇女と並んで笑みを浮かべているのですが、どうにもその笑みの裏側に妙な“探り”を隠している感じが否めませんわ。 

 

 「セレスティア、今日もお見事だったな。あの傲慢な皇太子殿下を転がす様を、実に興味深く拝見させてもらったよ」

 クロード皇太子が皮肉じみた口調で言うと、ソレーユ皇女が「まぁまぁ、まだショーは終わりじゃないんですもの。これからどんな展開が待っているのかしら?」などと上機嫌そうに続けます。お二人とも、完全に“次の観察対象”としてわたくし達を値踏みしているのが見え見え。 

 

 「お気になさらず。何しろわたくし、次なる陰謀がどんな荒波だろうと、なるべく楽に回避して美味しいところだけいただく自信がありますもの。まあ、皇太子殿下と皇女殿下も、どうぞ飽きずにこちらをご監視くださいな?」

 そう返すと、クロード皇太子は軽く目を見張った後、くつくつと笑い出しました。ソレーユ皇女までも「だいぶ言うようになったじゃない? 悪役令嬢って肩書きも板についてきたんじゃありませんこと?」と悪戯っぽくウインク。それに対してわたくしは、にっこりと笑って「そりゃあ、こっちの看板商品ですので」とさらっと毒を投げ返しておきました。もうこのあたりのカウンター、手慣れたものですわ。 

 

 「ふふ、ではまた近々。妙に楽しみにしていますよ、セレスティア」

 クロード皇太子とソレーユ皇女は、まるで秘密でも握ったかのような余裕顔。でもわたくしからすれば、この場でさらに事件を起こされても困るので、帰るならさっさと帰ってくださるとありがたい。……なんて思いながらも、彼らが去っていく背中をじっと見送ります。このまま大人しく消えてくれるタイプじゃないわね。むしろ、また厄介ごとの種を撒き散らしていくに決まってる。 

 

 だけど、わたくしだって負けずに逆境を跳ね返しますわ。守られるだけじゃなくて、しっかり守り返してやりますもの。どうせならハデに、誰もがびっくり仰天するくらいの“ざまぁ”展開をおっ広げてやるのも一興ですわよね? チャレンジ精神が満ち溢れてくるではありませんの。 

 

 「……でもその前に、とりあえずケーキ!」

 というわけで、わたくしは己の手元を見て思わず苦笑しました。いやもう、そろそろお皿が限界なんですけれど。スイーツとの戦い(?)も侮れませんわね。誰かおかわり用のお皿を持ってきてくださらないかしら。忍び足気味に回り込んできたカイが、呆れ顔で「このあとさらにケーキ行くのかよ。ほら、もう一枚皿を渡してやる」と手渡してくれたんですもの。あら、気が利くじゃありません。 

 

 こうなったら、まずは未知のフレーバーを含むスイーツの世界征服から。陰謀劇も愛憎劇もおあずけですわ。甘い糖分をてんこ盛り摂取しながら、次のバトルに備えるのがわたくし達流ということで。さあ、そろそろ社交界に新たな波紋が広がりそうな気配ですが――どうかご心配なく。悪役令嬢セレスティア、次なる舞台がどれだけドロドロだろうが、わたくしはこの“ざまぁ上等スピリット”でバッチリ乗り越えてみせますわ! ちょっと腹ごしらえしてから、ね。

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