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波乱を呼ぶ隣国からの客人13

ざわめきの染みついた大広間。妙な緊張感が残るなか、わたくしは例によって胸を張っておりましたわ。つい今しがた、あのラフレス皇太子とヴェロニカ皇女の荒っぽい“求婚&連れ去り”未遂が暴露されたばかりですもの。事件の下手人コンビは、騎士たちに囲まれて大慌て。せっかく派手にこちらを寝込ませようと企んでくださったみたいですが、生憎わたくしと仲間たちは“お試し版”で終わらせるつもりなんてございませんでしたのよ。


 「ラフレス皇太子殿下、あまり無茶をなさらないほうがよろしいのでは?」

 ルーファス様が静かにそう告げた瞬間、大広間の空気がピリリと張りつめるのを感じました。いつもは病弱扱い(自称)なのに、やる時はきっちりやってくださる。おまけに今の視線は、完全に“大人の余裕”で皇太子殿下を見下ろしているんですもの。これはもう、相手側のメンタルをゴリゴリ削るには十分な破壊力ですわよね。


 一方のラフレス皇太子、といえば。さっきまで「オレのものになれ!」などと傲慢な笑みで迫ってきていたくせに、今やお顔は蒼白。「どうしておまえらに包囲されてるんだ!?」という気分を隠しきれておりません。まさか自慢の威圧オーラがここまで通用しないなんて思っていなかったんでしょう。いやいや、こちらは毎度いろんな形で陰謀トラップを避けまくってきてる猛者揃いですから。隣国皇太子さまだろうがなんだろうが、わたくし達にかかれば超スピードで返り討ちですわ。


 「おや、殿下はどうかなさいました? 先ほどまでの強引なアピールはどこへ?」

 わざと目を丸くして小首を傾げてみますと、背後に控えるヴェロニカ皇女がやけに悔しそうなお顔でわたくしを睨みつけてきました。あらあら、そんなに睨んでいただいても無駄よ。いま騎士さんたちの囲み取材状態で逃げ場なんてゼロでしょうに。あなたがたはもう、この国の社交界に返り咲くチャンスを自分で踏み潰したも同然。まさに自業自得のざまぁってやつですわ。


 そこへ、近衛騎士の一団が来賓たちの前で正式に「拉致未遂罪などに関して問いただす」という宣告をしました。ええ、この国が誇る公式の“重いお達し”というやつですよ。さすがにラフレス皇太子もヴェロニカ皇女も声を上げられずにぐぬぬ~……と沈黙。周囲の貴族や王宮関係者も、興味津々と冷たさが半分ずつ入り混じった視線で見つめておりますわ。


 「ふうん、隣国の“尊き血”を持たれているはずが、ずいぶんあっさり追い詰められちゃいましたね?」

 シャルロットがわざとらしく笑いをこぼすと、リリアが横でペンをくるくる回して「記録はしっかりとっておりますので、あとで事実関係を広めさせていただきますわ」と告げました。天晴れなコンビネーション! あちらさんの心臓にダメ押しの一撃をぶっ刺す匠の技ですわね。カイも余裕しゃくしゃくと腕を組み、「今度こそ話盛って拡散決定だな」とボソッと笑う。その姿に、ヴェロニカ皇女はもう怒りゲージが限界に近いらしく、がちがち眉間にシワを寄せています。けれど今さらどうにもならないでしょう? この場は完全なる“公開処刑”モードなんですから。


 「セレスティア様、ひとまずご無事で何よりです」

 ディオンがやって来て、わたくしにそっと声をかけてくれます。魔力の不安定さに日々悩んでいたはずなのに、こういう時は頼れる優しい紳士に大変身。わたくしも思わずニッコリしてしまいますわ。


 すると、その隣でルーファス様がスッとわたくしの手を取り、おもむろに言い放ちました。

 「今回の一件、彼女が被害に遭わないよう対策を講じていたのは間違いなく僕たち全員の協力の成果だ。……だけど、理由はどうあれ、僕はセレスティアを守りたい。それが婚約者として当然の責務だからね」

 ああ、こんな公衆の面前でさらっと“守りたい存在”呼ばわりされるなんて。妙に胸がドキリとするではありませんの。周囲の貴族たちまでざわついているのが伝わってきて、ちょっと気恥ずかしい。でも……うれしくないわけ、ないじゃありませんこと。


 「あら、ルーファス様、ずいぶんと情熱的ですね。もしかして先ほどの騒動で高揚しちゃってるんですか?」

 わたくしがついつい茶化すように返すと、彼は苦笑しながら「高揚というより安心したんだ。君が傍にいてくれるなら、僕は何度でも立ち上がれる」と言ってくれました。そういうのはもっと人のいないところでお願いしますわ。……と、口には出しませんでしたが、こういう台詞に一瞬グラッときちゃう自分もまた認めざるを得ない。まったく、やられましたわ。


 そのやり取りを見届けたあちこちの貴族令嬢たちが、小声で盛り上がっているのが耳に入ります。「え、あの公爵様があんなに情熱的……?」「もしかしてあれが本性かしら?」「うわー、あれ絶対いい! でも勢いすごそう!」などなど、妙に生々しい囁きが飛び交っているんですが、もう自由に噂してくださって大丈夫。わたくし今、いろんな意味で満たされておりますゆえ。


 ほどなくして騎士団は正式に「尋問のため、お二人には近く別室で事情聴取を受けていただく」と宣言しました。あんな強引な求婚未遂の顛末が暴かれては、隣国皇太子の立場も風前の灯火。その証拠に、先ほどまで踏ん反り返っていたラフレス皇太子は言葉を失ったまま、静かに連行されていきます。ヴェロニカ皇女も「あり得ませんわ!」と一度叫んだけれど、あっという間に周囲の冷たい視線に重石をかけられて沈黙。もはや社交界での信用なんて、砂糖菓子のようにパッと砕け散ってしまったでしょうね。


 「さて、これで晩餐はお開き……というか、こんな大事件のあとに食事や踊りを続けられる人がどれだけいるのかしら」

 わたくしが肩をすくめると、シャルロットが「でもせっかくだから何かつまんで帰らない? 騒いだらお腹空いちゃったわ~」とケロッとした顔で言うではありませんか。ほんと、この女性はたくましいったらありません。リリアは「わたくしもひとかじりしながら、早速書類整理を進めたいですわ」とうずうず。あなた達、すごい体力ね……いやいや、わたくしだってお腹は空いておりますとも。


 そろそろ落ち着きを取り戻しつつある会場では、すでに何人かの貴族がお先に失礼しますと退散し始めておりました。まあ、目玉イベントは全部見終わりましたからね。――なんて、他人事のように思っていたその時、後方をちらりと見るとクロード皇太子とソレーユ皇女が薄く微笑んでいるのが目に入りました。あら、出番が終わったはずじゃないんですか?


 「なるほど、隣国の皇太子殿下は完敗か……でも、面白い材料はまだ残っているみたいですよ」

 ソレーユ皇女が小声でそう呟くと、クロード皇太子も「ふむ、これで舞台が終わるなどと考えていただいては困る」と意味深な笑みを浮かべています。何を企んでいらっしゃるのか、さあ、またご準備をくわだてているんでしょう。そしてここから先はわたくしの得意分野。陰謀が渦巻くなら受けて立ちましょうとも。最近は護身術だって功を奏して、わたくし調子に乗りまくっているんですから。


 そんなこんなで、結局わたくし達は彼らの視線に背を向けるかたちで会場を後にしました。あれほど派手に散ったラフレス皇太子&ヴェロニカ皇女の罪状は、正式にまとめられたら外交問題へと転がる可能性大。わたくしとしては「隣国とバチバチやりあうとか面倒くさそうだなぁ」というのが正直な感想なのですけれど、まあ、事件としてはさらに波乱が加速しそうで何より。器の大きい王族様たち(皮肉)のおかげで、退屈する暇なんて当分なさそうですもの。


 わたくしはみんなの顔を見回して、ひそかに意気込むのでした。次はクロード皇太子とソレーユ皇女、そしてディオンの魔力問題ってやつも待ち構えている気配が濃厚。ついでにルーファス様の“実は病弱じゃない疑惑”も深掘りしたくなってきましたわ。――ともあれ、今宵の晩餐の余波はまだまだ続きそうです。だけど、それがなんだっていうのかしら? この悪役令嬢セレスティア、“ざまぁ”劇が大好物ですのよ。もっともっと、面白いネタを盛っていきましょうわ! わたくしの華麗なる毒舌劇場は、常にウェルカムですから。

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