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波乱を呼ぶ隣国からの客人11

あの夜会の空気が、一気に冷え込んだ瞬間でしたわ。――ラフレス皇太子とヴェロニカ皇女の強引かつお粗末な“セレスティア嬢拉致計画”が白日の下に晒されたのは、ほんの一瞬の出来事だったのです。

 まさか彼らがわたくしを囲い込もうとしていた現場に、近衛騎士たちがドッと雪崩れ込んでくるとは……。ええ、もちろんわたくし的には「ここぞとばかりに華麗な返り討ちを楽しもうかしら」と思っていましたけれど、タイミングよく(少々早すぎるくらいに)助っ人が投入されてしまったのですもの。ちょっと拍子抜けしたのは否めませんわ。


 しかし、それでも結果オーライです。これで証拠隠滅だの改竄だの逃亡だの、おバカ皇太子ペアには一切できなくなりましたからね。わたくし、彼らがいかに言い訳を垂れ流すかが楽しみで仕方ありませんでした。


 「お待ちなさい! 勝手に突入してくるなんて、こちらはただ、少し話をしていただけです!」

 舞踏会場のホールを徘徊しようとしていたラフレス皇太子が、まさにガシッと腕を掴まれたところ。彼は憤怒の形相で近衛騎士に噛み付きそうな勢いでしたけれど、うーん、その否定はさすがに苦しすぎやしませんこと? 

 ドレスの裾を乱しているヴェロニカ皇女も、「わたくしは何も計画なんて聞かされていませんわ!」と恐ろしく単調に演技していらっしゃる。いつもの妖艶さはどこへ消え失せたんでしょうね。その焦りっぷり、痛々しくてほほ笑みすら浮かびますわ。


 「ラフレス皇太子殿下、こちらの控室で入手したメモには、あなたの印がしっかりと残されておりますが?」

 近衛騎士の長らしき男が、手帳らしきものを振りかざしてラフレス皇太子を問い詰めます。

 よく見ると、そこにはわたくしの名前にバツ印が書かれていて、さらに『次の手段:○○を使って連れ出す』みたいな物騒な指示が書いてあるではありませんか。あらあら、これは確定的にアウト。さあ、どう釈明なさるのかしら?


 「こ、これはその……僕が書いたものではない! 捏造だ! これは陰謀だ!」

 はいはい、王道の言い逃れね。隣国に伝わる“責任転嫁”の秘術とやら、堪能させていただきますわ。周囲の貴族やギャラリーたちも揃いに揃って「えー?」みたいな冷たい目線を浴びせ始めている。まさに公開処刑タイム突入ですわね!


 わたくし、ルーファス様の傍でその光景を眺めながら、少しばかり口元をゆがめて笑いました。正直、こんなにもあっさり暴露されてくれるとは思わなかったもの。

 すると、ルーファス様がわたくしに声をかけてくださいます。低く落ち着いた声色ながら、その瞳はまるで勝ちを確信したかのように静かに輝いていました。

 「セレスティア、無事で何よりだ。どうやら連中には動かぬ証拠が集まっていたようだね。……本来なら、僕が直接彼らを抑え込みたかったところだけれど」

 「ふふ、わたくしとしてはもっと派手に闘いましょうかと思っておりましたけれど、結果的にはこれで十分ですわ。ルーファス様の手を煩わせずに済んだのは光栄なことですし。――それに、お心遣い感謝いたします」


 そのささやかな会話を聞きつけたのか、ヴェロニカ皇女がギロリとこちらを睨んでから気色ばみました。

 「何よ、あのあざといイチャつき……! わたくしだって、かつてルーファス公爵様と結ばれる可能性はあったのに……っ」

 なるほど、やっぱり根に持っていらしたのね。わたくしはあえて言いますわ、“だったらもっと賢く立ち回れば?”と。


 そこへシャルロットが割って入り、彼女特有のキラッキラ笑顔で遠慮なく告げます。

 「ヴェロニカ皇女様、お気の毒さまですけれど、もはや『あったかもしれない世界線』はあなたの手で崩壊させちゃったご様子ですね~。いくらでもぶり返すがいいわ、黙って見てるなんて退屈だから」

 タフで毒舌なシャルロット、ナイスです。警備が固められているこの状況下、迂闊にわたくしたちへ手出しできない相手を前にして、思い切り煽ってくれるんですから。


 リリアも同調するように、面白がるような目元でペンをクルクルさせつつ、

 「そうですねえ、皇女様が“ルーファス様を射止められると妄信していた時代”……なんだか白亜紀みたいに遠い過去に感じますわ。死滅した恐竜を葬るくらい簡単に、あの夢は泡と消えましたものね」

 あらあら、相変わらずリリアったらサディスティック。わたくしが一言で言うなら“ざまぁ!”ですが、彼女は遠回しにつついて、さらに相手を窮地へ追い込むタイプ。なんとも頼もしいわ!


 そして、カイはわたくしに向けて付け足すように言います。

 「セレスティア、懲りないヤツらかもしれないけど、これだけ証明されりゃさすがに観念するだろ。ま、もし逆襲するならおれが全力雑巾絞りにしてやるけどな」

 「フフッ、疎開前の台所雑務と同じノリで、どうぞ思う存分やっちゃってちょうだい」

 こういう掛け合いが自然発生するのが、わたくしとカイの長年の仲というもの。ちょっと蔑み混じりなのはご愛敬ですわ。ディオンも苦笑しながら控えているし、無事に騒ぎが片付いて何より。


 やがて騎士団が用意した控室に、ラフレス皇太子とヴェロニカ皇女は押し込まれ、人目から隠すように引き離されていきました。あの二人に課せられる処分はいかほどかしら。引き連れられていく後姿が、なんとも滑稽なほど震えていますね。ほら、自業自得ですこと。


 ほっと一息ついたわたくしが、視線をめぐらせてみれば、周囲の貴族たちが興味津々にこちらを覗いているのがわかりました。さっきまで「なんかドロドロの修羅場があるらしいわよ~」と囁いていた連中が、今ほど面白い見世物はないとばかりに群がってくるわ。でも、いいですわ。どうぞ見てくださいまし、“わたくしたちの勝利”を。


 そのとき、ルーファス様がほんの少しだけ眉を下げ、やわらかい声で言いました。

 「セレスティア、君には迷惑ばかりかけてしまったね。僕の事情がなければ、もっと早く駆けつけられたんだけど……」

 「いいえ、これで十分ですわ。あなたが最後に味方してくださったおかげで、わたくしも安心できました。そもそも、わたくしは“助けてー!”なんてナイーブな人間じゃありませんし。とはいえ、ルーファス様の顔を見られてほっとしたのも事実ですの」


 わたくしがさらりと本音をこぼしちゃったせいかしら? ルーファス様は一瞬、瞳を驚きで見開き、でもすぐに笑ってくれました。ああ、なにこの無敵オーラ。わたくしの心臓、ちょっと暴れすぎじゃありませんこと?


 その横で、リリアがパシッと手を叩きます。

 「ところで、ひと段落したのはよいけれど……クロード皇太子とソレーユ皇女の動きも気にならない? 先ほど、あの方たちが急にひそひそ話をしていたのを見かけたのよ。もう新しい“出し物”用意してる匂いがプンプンするわ」

 「まったく、次から次へと休む暇がありませんのね。でも大丈夫。少々手強い陰謀が来たって、わたくしは今の爽快感を糧に乗り越えてみせますわ」


 シャルロットも「それそれ!」と乗り気で返してきました。

 「何かあったらまた一緒に作戦立てようよ。まだまだお祭り騒ぎは終わらないでしょうし、ドラマティックなイベントほど燃えるじゃない?」

 彼女の目の輝きがさらに増しているのを見て、わたくしもつられて元気が湧いてきましたわ。たとえどんな敵が立ちはだかろうとも、友情パワーとちょっとの毒舌でざまぁしてみせる――そんな確信を持っていられるのですから。


 ふとディオンのほうを見ると、彼は複雑そうなため息をついています。でも、その瞳にある不安の色は、先ほどより幾分か和らいだように思えました。もしかして、魔力の不安定さと向き合いながらもわたくしたちと行動してくれるのは、彼なりの決意なのでしょう。


 「さて、ひとまずわたくしたちも場所を移動しましょうか。ほら、まだ舞踏会は続行されるでしょうし、わたくしは優雅に踊り明かすつもりでおりますの。――こんな大騒ぎがあったからこそ、堂々と楽しんでみせますわよ」

 そう宣言すると、ルーファス様がやや困惑しつつも「君らしいね」と苦笑してくれました。いいじゃありませんこと、危機にさらされた後にこそ、心の底から味わう勝利の瞬間。それが生きる糧になるのです。


 それにしても、終わったと思ったら次が来る――まるでジェットコースターですわ。スリリングかつドラマチックすぎて、ページを閉じる暇もありませんもの。

 だけど、わたくしはこの“今世”で愛するものを守り抜くと決めた以上、ちょっとやそっとの陰謀をくぐり抜けるのなんて朝飯前。ラフレス皇太子とヴェロニカ皇女が降板したとしても、まだまだ幾多の波乱が控えていそうな気がしてなりません。クロード皇太子に、ソレーユ皇女に、その他もろもろ。


 ――けれど、わたくしは決して怯まない。ルーファス様の手を取り、リリアたちと笑い合い、状況がどう転んでも立ち向かってみせるの。だって、これほど胸が高鳴る舞台は滅多にないんですもの。哀しい恋愛劇? ドロドロの婚約破棄? ご自由になさいませ。わたくしはそのすべてをまとめてざまぁ!して、幸せをつかみ取るだけですわ。


 さあ、幕間はおしまい。再び始まる騒動がどう転んでも、わたくしの輝かしい未来を妨げるなんて不可能。ここに誓いましょう――“暴かれた陰謀”を綺麗に掃除したあとも、わたくしは決して踊りのステップを止めやしませんことよ!

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