波乱を呼ぶ隣国からの客人9
ルーファス様と華麗に踊りきったあと、大ホールを出たわたくしは、さっそく楽屋裏みたいな小部屋でリリアやシャルロットと落ち合いましたの。皆さまがお待ちかねの“高貴なるレディの楽しい反省会”といったところでしょうか。……まあ、楽しいかどうかはさておき、さっきの騒動であれこれ溜まったものを発散しないと、今夜はお肌に悪影響が出そうですわ。
「セレスティア、おめでとう! あのイヤ~な殿下をギャンギャン言わせてる姿、最高にスカッとしたわ」
シャルロットは小声で大はしゃぎ。わたくしも「ふふん」と鼻先で笑ってみせますが、内心ではまだ興奮が引かなくて手が少し震えているのが正直なところ。華やかな音楽と、騎士たちが場内に踏み込んでくる緊迫感と、ラフレス皇太子の取り巻きが右往左往していたあの光景……思い返すだけで、はらわたが沸騰しそうな不快感と、ざまぁ感が混ざり合うんですのもの。
「でもセレスティア、本当に危なかったわ。あのまま眠り薬を吸い込んでたら倒れてたかもしれないじゃない」
リリアが心配顔で差し出した手鏡をパカッと開いて、自分の化粧が乱れていないか確認するわたくし。こういう時こそ見た目を整えるのが、貴族レディの矜持ですわ。
「ありがとうリリア。……ほんと、あれは即効性が高いって噂のやつみたいですし、急場であのマスクを使えてなかったら、わたくし今ごろ恥ずかしい姿で殿下に担がれてたかもしれませんの」
「担がれて何処へ連れていかれるんだか、想像しただけで虫唾が走るよな」
横からカイが眉間にシワを寄せて口を挟みますが、わたくしは彼を見て思わず吹き出しそうになりました。というのも、カイの腕に白粉がベットリ付着しているんですもの。先ほどもみ合っている際に、どこかの令嬢のドレスか何かがこすれたのかしら。一瞬「その姿ゴリゴリの悪役感出てるわね」と言ってあげそうになったのを、なんとか飲み込みます。
「ディオンは大丈夫だった? あの騒動の最中、あなた結構まわりに目配りしてたでしょう?」
わたくし、ディオンを探すと柱の陰から申し訳なさそうに姿を現しました。どうやら事件が落ち着くまではあえて表で動かず、リリアやカイをサポートしてくれていたそうです。彼は小さく肩をすくめながら、
「少しばかり魔力が反応しそうになりましたが、何とか抑えました。セレスティアさんが危ないときに、もうちょっと早く駆け寄れればよかったんですけど」
「いいのよ、あなただけじゃなくみんなが助けてくれたんですから。わたくし、ザ・主人公顔して『ありがとう!』なんて泣き叫ぶタイプじゃないけど、感謝してるのは本当ですわ」
軽いジョーク混じりに言ってやると、ディオンは苦笑しつつもほっとした表情に。やれやれ、ほんとに手間と気苦労ばかりをかけてしまいました。
するとそこへ、ルーファス様がちょうど扉から入ってこられます。さすがに公務なのか、わたくしたちのように一カ所に留まって昔話に花を咲かせるほどの余裕はないみたい。けれど、わたくしの顔を見かけるなり、いつもの穏やかな笑みを向けてくださるのですから、心臓がドクッと跳ねるじゃありませんの。
「セレスティア、みなさん。とりあえず一通りの取り調べは済みました。ラフレス皇太子もヴェロニカ皇女も、あの薬瓶を“単なるリラクゼーション目的”と強弁し続けているようだけれど、王宮の衛兵たちはまったく信じていない様子だ。これで向こうがどこまで強引に反論してくるかが、今後の焦点になるだろうね」
「ふむふむ。わたくし的には“強引に反論してみなさい、どうぞどうぞ”って感じですけれどね。彼らの悪趣味を国中に晒すチャンスが増えるだけですから」
こう言い放った瞬間、リリアとシャルロットは「相変わらず毒舌が冴えてるわね」と笑顔で拍手。カイはククッと声を押し殺して笑っています。ディオンに至っては「いや本当にスッキリしますね……」なんて呟いてますもの。
ルーファス様はそんなわたくしたちを見渡して小さく苦笑しながら、「でも油断は禁物だよ」と言い添えます。まさしくその通りでしょう。このまま隣国からの使節が丸ごとトンズラするとは思えないし、皇太子クロードやソレーユ皇女が無言で見過ごすとも考えにくい。国同士の絡みやら、裏でつながった貴族たちの思惑やら、いろいろ複雑に動く予感がありすぎて、今夜は絶対に胃が痛くなりそうですわ。
「……まあ、いずれにせよ今は勝利の余韻を味わっておきましょう。それにしても、わたくしたち、なかなか好調な連携を見せましたわよね!」
そう言いながら拳を軽く突き出すと、シャルロットが「イェーイ!」と同調して、自分の指輪ごとわたくしの拳にぶつけてきました。そのままカイが苦笑まじりに同じポーズ、ディオンも恐る恐る真似。リリアは仕上げとばかりに、もう片方の手でパチンと指を鳴らして締めくくり。何か妙な達成感がこみ上げて、わたくし、今この瞬間だけは嫌なこと全部忘れられそうです。
「騒ぎの後始末は騎士団がやってくれる。だから君たちは少し休んだほうがいい」
ルーファス様がそう言い残して部屋を出て行かれたあと、わたくしたちはひと息ついてからシャルロット提案の“控え室パーティ”を始めることにしました。バトルじゃなくて陰謀劇でも、終わった直後にはエネルギーチャージが必要ですもの。軽いお菓子とジュース(お酒じゃありません)で乾杯し、ささやかながら「勝利は甘い」ひとときを満喫。
──もちろん、これで全てが解決したわけではありません。隣国の皇太子と皇女が完全に大人しくなるとも思えませんし、クロード皇太子たちの動きだって何やらキナ臭い噂が絶えません。でも、だからこそ一歩ずつ攻め込んで、わたくしの思うとおりにざまぁして差し上げますわ。友人たちと築き上げた連携も、ルーファス様との距離感も、存分に活かしてやらないと損ですもの。
「さあ、次はどんな手を打ってくるのかしらね? 来るなら来い、って感じよ」
わたくしがそう呟いてグラスを掲げると、カイがニヤリと同じようにグラスを傾けます。リリアも「なんだか燃えてきた!」と目を輝かせ、シャルロットは「とびきりのドレスを準備しておくわ!」と腕まくり。ディオンは「気配り担当として頑張りますよ」とどこか気乗りしない風ですが、まあ彼は彼なりにやる気なのでしょう。
ざわつく王宮、消えきらない陰謀の匂い。そのすべてを塗り替えるような痛快な仕返しが、わたくしには必要。ならば遠慮なく突き進みましょう。もともと“悪役令嬢”のレッテルがあるのだから、多少やりすぎたところで「ああやっぱりね」って思われるだけ。だったらもっと……ひと味強いスパイスを効かせてみてもよろしくってよ?
――なんだか次の舞台が早くも待ち遠しいですわ。この余韻が冷めぬうちに、わたくし自身がさらにレベルアップして、今度こそ完膚なきまでに“ざまぁ”をかまして差しあげる。決意の笑みを浮かべたわたくしを、仲間たちは好奇心と面白がりの入り交じった眼差しで見つめていました。いいでしょう、チーム・セレスティア総出演の華麗なる逆襲劇は、まだまだこれから。今宵の一件は、その序章に過ぎないのですから。




