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波乱を呼ぶ隣国からの客人7

「あらまあ、ここの控え室ってずいぶん広いんですねえ。けれど足元を見たら、暗がりに怪しげな瓶がコロコロ転がってるじゃありませんか。まるで『どうぞ拾って嗅いでみてください』と言わんばかり。誰がそんなに親切心を発揮したのでしょう?」

わたくしは物陰に隠してあった瓶をひょいと拾い上げて、軽く振ってみます。中身の液体がチャプチャプと不穏な音を立てるたび、カイとシャルロットが「出た出た、あからさまな罠だな」と顔をしかめて小声で合図。リリアは手早くふたをこじ開け、鼻先でそっとにおいをかぎました。

「ん~、どうやら眠くなる成分以外に何か変なものが混ざってるっぽい。ひょっとしたら幻覚系?」

「いやがらせにしては手が込んでますわねえ。あの皇太子、まさか本気でわたくしを連れ去る気なんでしょうか」

わたくしが瓶を片手になげて放り投げると、カイがすかさず受け取って中身をぶちまけるフリをします。慌てふためいて近寄ってきたのは、ラフレス皇太子の取り巻きらしき男。額に冷や汗を浮かべ「き、貴女は何を……!」と声を裏返し。

「なにって? あなたたちが仕込んだ薬瓶を確かめてるだけですけど? こういうイタズラ、あまりお上品じゃありませんわよ」

皮肉たっぷりに言い放つと、男はモゴモゴ言い訳しつつ逃げるように去っていきます。おやおや、ずいぶん腰が引けるじゃありませんか?


そんなやり取りを見計らったように、奥からラフレス皇太子が登場。外套をひらりとなびかせ、まるで劇場の主役気取りです。

「セレスティア、ずいぶん楽しそうだな。まさか俺が用意した“特別な香り”を何もしないままにするなんて、もったいないぞ?」

「まぁ恐ろしいわ。皇太子たるお方が危険物の管理すらまともにできていないんですの? そりゃもったいないですねえ」

ピシッと皮肉を返した途端、彼の目がきらりと光り「フッ」と笑いました。その傲慢な笑み、何度見てもイラッときます。

「どうでもいいが、お前をオレの妃に迎える準備はいつでも整ってる。さあ、このままオレと一緒に隣国へ――」

「わたくしの返事は『ノー』と、何度も申しあげておりますのに。言語がお通じにならないなら、もっと大きな声で言いましょうか?」

背後でシャルロットが「いいぞいいぞ、もっと言ってやれ」と小声で囃し立て、カイは「捕まったら全力で蹴り飛ばしていいからな」と励ましてくれます。わたくしは喉元に笑いをこらえながら、皇太子の蠱惑的な仕草にビクともせず堂々と対峙。内心はちょっとドキドキしますが、ここで怯んだら“悪役令嬢”の名がすたりますもの。


そこへノックの音とともにディオンがひょっこり顔を出しました。低い声で一言、「グレンフィールド公爵が到着したらしい」と耳打ち。おや、ルーファス様が? 彼がこのタイミングで来てくださるなんて…思わず胸が熱くなります。すると、ラフレス皇太子が「まさか」とばかりに苦々しい表情で語気を強めました。

「ふん、グレンフィールド公爵? 病弱で倒れやすい奴で有名だろ? あんなのが本当にお前を守れるとでも?」

「ええ、守ってくださいますとも。少なくとも薬瓶をこそこそ仕込む暇などなく、公務に忙殺されている方ですからね。裏工作に全力を注ぐ余裕はありませーん」

わたくしがわざとらしく笑って見せれば、皇太子の唇がピクリとひきつります。これまで威風堂々だったお方が、感情むき出しの顔になっていくのはなかなか爽快。ざまあ味わってくださいませ。


その場の空気がぴりぴりする中、廊下の奥から聞こえるのは控えめな足音。わたくしの大切な婚約者――ルーファス様! いつもはどこか頼りなげな雰囲気をまとっていらっしゃるのに、今夜はピンと背筋を伸ばし、すっと冷たい視線を皇太子に向けています。むしろ“病弱設定”はどこへやら。ここまで精悍な姿を見たのは初めてかもしれません。

「遅くなってすまない、セレスティア。あちらこちらで雑務を押しつけられてね」

「いえ、わたくしこそ。もう少しで『強制的に隣国へ拉致されます』という面倒な展開に巻き込まれるところでした」

冗談めかして返すと、ルーファス様は微笑みながら、つとめて冷静に皇太子へ向き直ります。

「ラフレス皇太子殿、いくら外交のためとはいえ、無理やり相手を奪うのはやりすぎですよ。ご自分の評判を下げるだけでは?」

澄ました口調の中にわずかにこもる怒気。皇太子は口を開きかけましたが、言葉に詰まったのか舌打ちだけが返ってきます。ヴェロニカ皇女もそばに居たはずなのに、さっきから姿が見えず、どうやら先に退散した模様。何だか拍子抜けですが、ここはひとまず勝利と言っていいでしょうか?


「さ、セレスティア。階下のホールで一曲踊ろうか。君のドレス姿をまだちゃんと見ていないんだ」

ルーファス様がすっと手を差し出してくださるので、わたくしはカイたちに目で「ありがとう」と合図し、すんなりとその手を取ります。遠巻きにこちらを見つめる皇太子の視線は鋭いけれど、そんなもの痛くもかゆくもありませんわ。

「わたくしたちのダンスにケチをつけるなら、どうぞご勝手に。でも、つまらない寸劇を打っている間に、あなたの地位がどんどん危うくなっても知りませんわよ?」

最後にちょっぴり毒を吐いてやると、皇太子は「クッ…」と悔しそうに目をそらしました。その様に何とも言えないざまあ感がこみ上げ、思わず笑みがこぼれてしまいそう。ああ、今宵は実にスッキリした気分!


わたくしはルーファス様の腕に軽く寄り添い、階下のホールへ戻る階段をゆっくりと下っていきます。背後から聞こえてくるのは、カイやリリアたちのひそひそ声とクスクス笑い。どうやらみんな、わたくし以上にこの瞬間を痛快に楽しんでいるようですわね。

「まったく騒がしい宴ですこと。でも、これぐらいのほうが退屈しなくていいですわ」

次は一体どんな手が飛び出すのか? わくわく半分、面倒くささ半分。それでも構いません。わたくしは“破滅フラグ”と呼ばれようがなんだろうが、生きて踊ってざまあする。それだけは、誰にも邪魔させませんから!

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