表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/222

波乱を呼ぶ隣国からの客人4

 翌朝、目が覚めるなり「ああ、昨夜はなんてカオス……」とついつい天井を見つめため息をついてしまいましたわ。だってラフレス皇太子の“俺サマ宣言”に始まり、ヴェロニカ皇女のあからさまなルーファス様狙いときたら、胃が痛くなる要素しかありませんもの。おまけにあの「拉――…いや、迎え入れたい!」とかいう頭痛を誘発する爆弾発言。まだ朝だというのに回想だけで疲労感が波うちます。でもここで寝込むわけにはいきませんわね。早速、起き上がってドレスに袖を通します。


「おはようございます、セレスティア」

 ふと寝室に顔を出したのはリリアです。実は昨夜も夜更けまで情報収集していたらしく、寝不足気味で目にはうっすらクマが。

「大丈夫? ちゃんと眠れました?」

「……驚くほどよく眠れたわ。むしろ疲れすぎて深い眠りになったというか」

 リリアはちょっと苦笑しながらも「話があるの」と声を潜めました。こういうとき、間違いなくヤバイ内容の匂いがするのです。わたくしはドキッと胸が高鳴り、椅子に腰掛けリリアを促します。

「聞いた話だと、ヴェロニカ皇女がルーファス公爵との昔話をあちこちで吹聴しているみたい。『あんなに可愛らしかったのに、今じゃあ私へ目もくれないなんて寂しいわ』とか、わざと溜息交じりに語ってるって」

「へぇ~、随分と“名残惜しそう”な態度ですわね」

 はいはい、そりゃあ名残惜しいでしょうとも。けれどルーファス様に今さら自己アピール全開で張り合うだなんて、ちょっと魂胆が見え透いていますわ。わたくしが「ざまぁ」ルートを構築したくなる気持ちを、彼女自身が煽っているようなもの。まあ、それならそれで結構。悔し紛れに騒いでみるがいい、最後にはこちらが美味しいところだけかっさらわせていただきますわよ。


 そんな危険な笑みが漏れそうになるのを必死で抑えていると、そこへシャルロットが入室。

「セレスティア、朝食をとったらすぐ広間へ行ってほしいって。どうも今後の日程について執事長が説明したいらしいわ」

「また“次の晩餐会”とか“舞踏会”とか、無駄に華やかな計画を詰め込んでくるんでしょう? 今度はどんな嫌がらせを画策しているのかしら、あのお客さま方は」

 思わず斜め上を睨みつつ呟くと、シャルロットは「まあまあ」と優しく肩を叩きます。

「今のうちに情報を押さえておけば、いざというとき動きやすいでしょ? わたしもリリアも、あとはディオンやカイも含めてフォローするわ」

「……そうね。ありがとう」

 “何かあったら即行動するぞ”という頼もしい視線を向ける二人に、わたくしも気合を入れ直しました。昨夜のドタバタでボロボロになったけれど、仲間がいれば心強い。何としてもこの状況を“お望み通りの地獄絵図”にして、最後に笑うのはわたくし……こほん、我が陣営にいたしましょう。


 広間へ向かう途中、カイが廊下で待ち伏せしていました。

「おはよ。……具合はどうだ? 変に気張りすぎてねえ?」

「おかげさまで元気よ。むしろ暴れ足りないくらい」

 口をとがらせてそう言えば、カイは苦笑しつつも、小声で耳打ちしてきます。

「今朝、ラフレス皇太子の取り巻き連中が騎士団と小競り合いになったらしい。朝っぱらから自国の宝剣がどうとか、検閲がどうとか言い出して騒いでるって話だ。オレら凡人の想像を超えた自己中心ぶりだな」

「さっそくやらかしてますわね。ああ、国に帰る前に何かとんでもないこと仕掛けてくる予兆しか感じません」

 思わず天を仰いでしまいましたが、カイは途中で声を潜め、まるで策士のようなニヤリ顔に。

「このままじゃマズいから、護身の稽古をもう少し詰めたほうがいい。夜に時間があったら付き合えよ」

「それは心強いわ」

 正直、わたくしの本音としては、いちいち“体を鍛える”なんて貴族らしくない。でもこの非常時、とやかく言っている場合じゃありませんもの。お姫様抱っこされて救われる乙女ゲーム的展開なんて、当てにできるはずありませんわ。


 さて、広間に着くと執事長がずらりと書類を並べ、一日二日のスケジュールをすごい形相で説明し始めました。「まずは明々後日、歓迎舞踏会の開催。次いで夕刻には予備の晩餐会。その翌朝には……」と続く予定は、正直言って頭がクラクラしそうなほど多い。それに加えてラフレス皇太子&ヴェロニカ皇女との“心のこもった交流”?? ちょ、誰がそんな罰ゲームを発案したのですか? 思わず耳を疑いました。

「はあぁ~……。この国の礼儀も大変ですわね」

 言葉だけは慇懃に返しつつ、内心では「ああイヤイヤ、またあの地雷コンビと顔合わせ?」と胃がキリキリ。ルーファス様は相変わらず忙しくて朝からいないし、もしかすると舞踏会までほとんど会話もできないかもしれない。ちょっと不安と寂しさが胸をかすめますが……ここは耐え時です。再び“ざまぁ”の舞台が整い始めていると考えれば、忍耐力も湧くというもの。


 広間での説明が終わると、ディオンがひょっこり姿を見せました。黒髪を揺らしながら、うっすら警戒モードの目つきです。

「セレスティア、何か胸騒ぎがするんだ。あのラフレス皇太子……ただの強引な求婚目的だけでここに来たわけじゃなさそうだ。魔力の流れも不自然に乱れを感じる」

「魔力ですか? それ、一体……」

 ディオンは小さく頷き、「俺もまだ断言はできない」と続けます。

「でも、もし意図的に何らかの“魔力操作”を仕掛けるなら、この先の舞踏会か、それとも晩餐会……どちらかだろうな。油断するな」

 なんだか背筋がゾワリとしました。単なるロイヤルパワハラじゃ済まない可能性があるなんて、どこまでも迷惑なゲストですこと。でも警戒は大事。ディオンがこう言うときは、大抵当たりますからね。


 その後、シャルロットやリリアを交えて対策を練っていると、「皇女さまがルーファス様との“二人きりのお茶会”を希望なさっている」との一報が飛び込んできました。はあ、もう呆れすぎて笑えません。二人きりですって? まるで昔の恋を再燃させようという狙い丸出しじゃありませんか。自分の兄がわたくしを強奪しようとしている横で、妹はわたくしの婚約者を誘惑中……。こんな笑える兄妹コント、どこまで盛り上げる気なのかしら?

「あの皇女さま、わざとこちらを挑発してるつもりかもしれないわね」とシャルロットが吐き捨てるように言えば、リリアも「ひたすらウザいです……」とドンヨリ顔。

 わたくしも心底同感ですけれど、彼女の動向を放置しすぎると危険な気もする。いや、だからといって今から火花バチバチの直接対決に行くほど愚かじゃありませんわよ? もうしばし待ちの姿勢。舞踏会当日に派手に引導を渡すのもアリですし――あと少し煮込めば、より大きな「ざまぁ」の香りが漂うに違いありませんもの。


 そして、ふと胸をよぎる違和感。また微かに頭の片隅で前世の記憶がチラつくのです。乙女ゲームのストーリーにこんな展開はあったかしら? 強引な隣国皇太子と、ルーファス様を狙う姉妹キャラではなく妹皇女、そして魔力トラブルの伏線……。おかしい。原作での“悪役ルート”なんてこんな修羅場展開じゃなかったような? ますます否応なく胸騒ぎが強まります。


 でも――それならそれで上等ですわ。ゲームの筋書きと違うなら、ますますわたくしの独壇場になるだけ。

「悪役令嬢はどこまでも自由に暴れられる」

 前世の記憶が何をささやこうと、今のわたくしなら好きにルートを作り変えてみせます。蹴散らされるどころか、こちらが“華麗に潰す”番なのですから。


 こうして不穏な空気に包まれつつも、次の舞踏会と晩餐会の準備は止まりません。周囲は皇族への対応に躍起になり、お屋敷じゅうバタバタと走り回っている。ルーファス様はといえば、どこぞの会議へかけまわり今日も遅くなるらしい。おまけにヴェロニカ皇女の“お茶会要望”などという麗しからぬ予定も追加されて、本当に気が休まらない日々が待っています。でも、むしろ燃えてきましたわ。どんな毒花でも咲かせようというなら、とことん付き合ってあげましょう。最後に枯れて散るのはあちらのほうだと、わたくしの邪悪な笑みが確信しておりますもの。


「さあ、勝負はこれからですわね」

 思わず口元を歪めながら、小さくつぶやいた瞬間、そばにいたシャルロットが「こ、怖い顔になってるよ」と苦笑混じりでツッコんできました。

「ええ、失礼。今は作戦計画の真っ最中よ。女はあらゆる手段を使って、守りたいものを守るんですもの。」

 バトルは派手じゃなくても、陰謀と舞踏が織り成す愛憎劇はまだ始まったばかり。嵐のような日程がわたくしを待ち構えているけれど、この逆境こそが悪役令嬢にとっての活躍ステージです。徹底的に踊らされそうで、でも最後に踊り狂わされるのは、あの傲慢兄妹……そしてわたくしの敵対者すべて。どうかご覚悟なさいませ。


 この胸の奥底に渦巻く“ざまぁ魂”が、もう出番を待ちきれませんもの。さあ、次にどんな無礼と罠が飛び出そうと、返り討ちして差し上げますわ。ページをめくって覗き見する皆さま、どうか一緒に見届けてちょうだいませ。……交錯する視線と思惑が、次の夜会をさらに波乱に染め上げようとしているのですから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ