海辺の別荘と夜会での華やかな波乱 13
あれから一日経ちまして、わたくしは再び公爵家の書斎にこもり、ざまぁ対策とやらを練り直しておりました。なにしろ昨夜会の余韻が社交界じゅうを揺るがしたおかげで、今朝からずーっと人の出入りが絶えないのですもの。使用人がフラフラになりそうなほど来客が続いておりますのよ。いえ、わたくしをひと目見たいだけの好奇心まみれの方々が多いだけなのですけれど。昼下がりになってようやく客足が落ち着いた頃、満を持してシャルロットとリリアがわたくしの隠れ家(書斎)にズカズカと入ってきたのです。
「やっほー、セレスティア。たまに陰にこもるときは注意したほうがいいわよ。『悪巧みの天才、お籠り中』なんて変な噂立ってるから」
開口一番、シャルロットがそんなことを言います。いや、悪巧み? ……完全に図星ですね。でもそんなのバラさなくてもよろしいでしょうに!
「そうそう、もう噂の坩堝状態よ。『旦那様に嫉妬されてるのにニコニコ笑ってられる強者令嬢』ですって。逆にそこに畏怖を感じる噂もあるそうよ」
リリアが「うっかり敵に回したら怖そう」と、わざとらしく身震いしてみせました。ちょっとあなたたち、面白がってるだけでしょう?
とはいえ彼女たちの言葉どおり、あの夜会以来、わたくしたち夫婦がやたら注目されてるのは事実。おかげさまでルーファスは「男らしくなったよねぇ」「公爵様がまさか怒りっぽいとは意外」などなど、いろんな角度で評価されているようです。わたくしにとっては「そっちより『隠れ猛獣』感がバレたんじゃ?」とヒヤヒヤでしてよ。表向き病弱だなんて話、どこまで通用するんでしょうかね。
「それにしても、ディオンが妙に落ち着かない様子だったわ。朝も一度会ったら、頭を抱えながら“やっぱり魔力のことを真剣に調べたい。セレスティア殿、お力を貸していただけませんか”って言ってたし。ま、目の下真っ黒なのはいつものことかもしれないけど」
シャルロットの報告に、わたくしは「なるほど」と頷きました。ディオンの魔力研究を手伝う件、近々本腰を入れる必要がありそうね。夜会で変な研究者軍団と接触してしまった余波かもしれませんし。皇女ソレーユの怪しい噂もあるしで、どうにも胸騒ぎが止まりませんわ。ま、お得意の“鉄壁ざまぁ防御網”を展開しておけばそう簡単にはやられませんけれど。
そこへ、書斎の扉を控えめにノックして入ってきたのはルーファスその人。わたくしを見つけると、まず一瞬びくっとした様子になってから「その……少し、話をしたい」と、ほぼ蚊の鳴くような声で口を開きました。
「わたし、シャルロット。ちょっと空気読めてるから、ここは退散するわ。リリア、いくわよ」
「え、なになに、そういう流れ? わたし自由席で見学した……あ、やめて、痛い痛い、引っ張らないで!」
シャルロットに腕をホールドされたリリアがわたわた騒ぎながら部屋を出ていき、あっという間に二人きり。ああ、さっきの朝食時も微妙なタイミングで言葉を呑み込んでいたし、よほど何か話しづらいことがあるのかしら。
「セレスティア、ちょっとあの……昨日、おまえのことを困らせたんじゃないかって」
まーたその話題ですか。わたくしが軽くため息をつくと、ルーファスはさらに声を下げて言いました。
「嫉妬している姿って、周りから見たら怖かったかもしれない。本当なら、あんなふうに感情的にならないほうがよかったと思ってる。かと言って、二度としないとも言えなくて……」
「それはどうして?」
「正直、俺だって男だから。おまえのこと、大切だから」
さらりと鼻血ブーもののセリフを吐かないでくださる!? 心臓に悪いですわ。しかも本当に困り顔しながら言うもんですから、はたから見たらキュン死不可避。わたくしの腹筋が悲鳴あげちゃうじゃないの!
「そもそも、あれを困ると思ってる時点で認識がズレてましてよ。わたくしは迷惑だなんて微塵も感じておりません。むしろ大歓迎。一点の曇りもなく」
「……本当に?」
「ええ。バシバシ妬いてくださると助かりますわ。わたくしも、“おやおや、そんなにわたくしが可愛いですか?”とニヤニヤできますから」
まさかのわたくしの直球応答に、ルーファスは目を丸くしておりましたけど、最後には「ははっ、参ったな」と小さく笑ってくれました。よし、これでもう変なすれ違いはないでしょう。わたくしとしては素直な言葉を引き出せて大満足ですもの。
ところが、その一件が片付いたと思った矢先、またも執事が駆け込んできて「緊急の情報でございます!」と大仰な声。訊けば今のところ海辺の治安はさらに悪化しつつあり、フォーン家なども動き出しているとか。わたくしたちがせっかく落ち着いてイチャつこうと(?)思っても、じっくり平和を味わう暇はなさそうね。
さらに驚いたのは、皇女ソレーユ殿下の動向。なんでも、彼女が夜会のあとにこっそりバーベナ侯爵令嬢を呼び出したとかいう話が出回っているんですって。バーベナって、ほら、かつて派手だったけれど今はナチュラル路線に転身したあの方。あの子がどうして皇女殿下と? これ、一筋縄ではいかなそう。バーベナ自身、以前よりは落ち着いてる雰囲気だったけれど、内心何を考えているかはまだ未知のまま。もしかしたら、今すぐ飛び込んできて「セレスティア様、あなたと親友になりたいんです!」とか奇妙なことを言い出すのかもしれませんし。
「急ぎ手を打たねばいけないことが山ほどあるな」
ルーファスがやや困り顔でぼそっと呟いたのに対し、わたくしはピンときました。だって、この状況――まさにわたくしが一番燃える展開でしょう? 皇女殿下の暗躍、ディオンの魔力、海辺の治安悪化、バーベナの微妙な動き、それにクロード皇太子のお決まりの上から目線ときたら、もはや敵役勢ぞろい状態。こんな豪華なネタを前に、わたくしが黙っていると思いまして?
「ふふっ……みんなまとめて、最高の舞台を用意してあげなきゃいけませんわね。わたくしとあなたの婚姻劇、まだまだクライマックスには早いんですもの」
そう言いながら、わたくしは書斎の窓を開け放ちました。吹き込む初夏の風が、まるで「さあ、次の出番だよ」と囁いているように感じられます。ルーファスがそんなわたくしの横顔を見つめて「頼もしいよ」と微笑むのを尻目に、わたくしはさらなるざまぁ計画を頭の中で組み立てはじめました。この妙に高揚する予感、どうせまた一騒動二騒動じゃ終わらないわね。
でも大丈夫。わたくしのモットーは“華麗に笑って華麗に踏み潰す”なのですから。さぁ皆さま、次なる騒乱への階段はもう目の前。今回もジェットコースター級の展開をお約束いたします。どこからでもかかっていらっしゃいませ。婚約破棄だろうが愛憎劇だろうが、ぜーんぶ丸ごとざまぁ返しのターゲットにして差し上げますから!




