海辺の別荘と夜会での華やかな波乱 11
ディオンを庇うべく、わたくしが一歩踏み出したその瞬間。周囲の空気がピリリッと凍りついたように感じましたわ。あらあら、言い争い真っ最中の魔力研究者がわたくしを避けるように飛びのく姿が、まるでネズミが急ブレーキ踏んだみたい。そりゃそうでしょう。どの貴族もわたくしの“悪役令嬢毒舌モード”を知ってる人は「今日は誰が餌食ですか?」とワクワクしてますもの。下手に絡んだら盛大にざまぁ洗礼されるって噂が広まってるのよ。ほんと、ありがたやありがたや(鼻歌)。
「あなた、ディオンに何用かしら? もし彼が逃げたくなるほどの強引なお願いや、踏み込み過ぎた魔力解析を要求しているなら、先にこちらへ説明なさいませ?」
わたくしはニッコリ笑ってみせますが、その奥では“フッ、おとなしく言うこと聞かないと容赦しないわよ☆”というオーラをムンムン出している自覚あり。おかげで研究者氏は冷や汗にじませながらしどろもどろ。ディオンの背後ではリリアとシャルロットが「何なら資料全部まとめて論破しましょうか?」という顔をして待機してますし、カイまでもが腕を組んでにやり。全員やる気満々ですね。
「そ、そんなつもりでは、ございませんよ……! ただ少々、ディオン殿の特殊な魔力に興味が……学問的に……」
「学問的な興味で相手を追い詰めていいのかどうか、まだ理解されてないみたいですね。えーっと、学者先生はもう少し紳士的に振る舞っていただけません?」
わたくしの肩越しでルーファスが低い声で杖をコツンと床に振り下ろすと、研究者は青ざめた表情でお辞儀を繰り返す。おやおや、わたくしの毒舌よりもルーファスの“公爵閣下オーラ”のほうが効いたのかしら。やるじゃないの、我が旦那さま。先ほどまで少し苛立ち気味だったのに、ここぞという場面ではバシッと決めてくれるから憎いわ。
「別に拷問檻に放り込むつもりはないですけど、気をつけてちょうだい。ディオンを追い詰めるなら、わたくしたちから倍返しの査問会が待っているってことを」
シャルロットが含み笑いで肩をすくめると、研究者は「あ、あわわ……」と視線を泳がせながら退散。よし完了。ここでリリアがパチンと指を鳴らし、
「ざまぁ処理一丁あがり♪」
とキメ顔。わたくし、背筋ぴんと伸ばして「素敵なコンビネーションね」と微笑んでおきました。ディオンはというと、ほっと息をついてから「助かった……ありがと」と弱々しく微笑んでくれたので、わたくしは「困ったときはお互い様ですわ」と返しておきましょう。わたくしが彼に借りを作るとかありえませんものね。
そんなこんなで、さっきまで大騒ぎだった一角が一瞬にして静かになった途端、何やら会場全体が「今のやりとり見ました?」「さすが悪役令嬢!」などとヒソヒソ。ほら、いい宣伝になってるじゃありませんか。“セレスティア・サファイア”ブランドの天敵とか言われる変な連中は、わたくしたちの痛快ざまぁ劇を見てひっそり尻込みしてるかもしれませんわ。
「ふはーっ、息つく暇ないわね。夜会といってもトラブル祭りかって感じ」
シャルロットが大きく伸びをすると、リリアも「でも派手に暴れてくれたおかげで、あの研究者に執拗に絡まれてたディオンが助かったわ。華麗なる“悪役令嬢様”さすがです!」とウインク。ちょっと、褒められると照れるんだからあまり大声で言わないでよね。周りが「悪役令嬢万歳!」なんて拍手喝采しはじめたら、本当に立ち直れなくなりそう……と言いつつ、嫌いじゃありませんが。
「おかげで体力使ったよ……」
とディオンがボソリと呟き、クロード殿下にしれっと横目で睨まれていたことも追加報告。まったく、殿下は何を怒ってるんでしょ。わたくしまで見てくるってことは、「公爵閣下とその妻」がまた面白いことやらかしそうだと警戒してるのかしら? ええ、残念ね、わざわざ今さら来てもわたくしたちはトラブル上等ですから。
「ディオン、ここは一旦休憩してきたら? さっき神経すり減らしてたでしょ?」
わたくしがそう提案すると、リリアも「賛成! 私とシャルロットでスイーツの陣地を確保しときますから、思う存分休んでちょうだい」と笑う。ディオンは微苦笑で控えめにうなずき、カイが「じゃあ俺が付き添ってやるよ」と腕を組む。おお、珍しく優しいじゃない、カイったら。幼馴染パワーでディオンをきちんと守ってね。
さて、このまま夜会が静かに終わるかというと、それはやっぱり甘い見通しでした。なにせクロード殿下とフォーン侯が、またぞろ集団でコソコソしているんですもの。どうせわたくしの“セレスティア・サファイア”にケチをつけるか、ルーファスの病弱アピールを再燃させるか、どちらかよ。わたくしとしては“病弱夫”ネタはもう飽きたし、“新ブランド潰し計画”があるならどーんと来いと思ってますわ。
「セレスティア、向こうがそれなりに動き出すなら、こちらも準備しよう。執事や筆頭家令たちを交えてさっさと作戦会議する」
わたくしの耳元でルーファスが低く囁く。その眼差しは、さきほど嫉妬に燃えていたのが嘘みたいに冷静。そして守るべき自分の妻に意識を燃やしている雰囲気が、何だか頼もしいではありませんか。あれ、やだ、胸がキュンとした……って、今さら情緒不安定な乙女ゲー展開は勘弁してほしいんですけど! 悪役令嬢はもうちょっと毒舌で華麗にないといけないのに、ルーファスのまっすぐな眼差しは反則よ。
「……ええ、そうね。わたくしも備えるわ。駆け引きは嫌いじゃないもの」
照れ隠しでそう言いつつ、つい口元がほころぶ。ルーファスはわずかに笑みを返してくれる。まったくもう、こうして肩を並べていると“お似合いカップル”とか囁かれちゃうんだから! でも自分で言うのもなんだけど、わたくしたち、知れば知るほど妙にしっくり来るのよね……。
ともかく今宵は、この夜会のアフタートークが社交界に広がるのは明白。しかも、ディオンの魔力問題やら皇太子派のチョッカイやらが絡まり合って、次の場面ではもっと大きな波が押し寄せてきそうな予感。
「ルーファス、じゃあ今度はあなたがご挨拶回りする番よ。お歴々が手ぐすね引いて待ってるわ」
「……ああ。だけどその前に――」
ルーファスがスッとわたくしの手を取り、まるで舞踏会さながら優雅にエスコート。ふと見れば、さっきまで散々言い争いしていたはずの人たちや、クロード殿下までもがこっちを見ているじゃありませんか。何よ、そんなにわたくしたちのイチャイチャに興味津々ってこと?
「おまえが俺に手を貸してくれるなら、どんな嫌がらせもへっちゃらだ。……ありがとう、セレスティア」
ルーファスの甘い囁きに、わたくしは一瞬息が止まりそう。ほら、リリアとシャルロットが「ぎゃー! 本当にイチャラブモードに突入だ!」と横で騒いでるっていうのに、もう意識なんてフワフワしてきちゃって……。
……はっ、いけないいけない! 悪役令嬢、こんなところでとろけてどうするの! きっとこの後には、「嫉妬? 上等よ」「陰謀? まとめてかかってらっしゃい!」な大波乱が控えているはずだもの。まだまだ気合を入れて走り続けなくちゃ。今夜のざまぁ必殺劇は、プロローグみたいなものなんですから!
そう、わたくしとルーファスの未来は始まったばかり。ディオンもリリアも、シャルロットもカイも、みんなそれぞれ面倒ごと抱えているけれど、一緒に解決へ向かう準備は万端。こんな楽しいバトルロイヤル、次こそ誰が標的になってもおかしくないわね。むしろ望むところですわ!
息つく暇もない婚約生活! 嫉妬の嵐も陰謀の渦も、全部まとめて背負いながら――さあ、次はどんな騒動が待ち受けているのかしら? わたくしの“ざまぁドラマ”はまだまだ続きます。読者の皆さま、そのまましっかりつかまっていてちょうだいませ! スリル満点のジェットコースター劇場、わたくしが思う存分ご案内して差し上げますわよ!




