海辺の別荘と夜会での華やかな波乱 6
あれから数日が経ちました。わたくしは依然として包帯ぐるぐるの足首と格闘中ですが、意外にもテンションは高めですわ。ええ、痛いけど楽しいという謎のジェットコースター感覚にハマってしまいそう。おかげで、カイに「お前、ドMになった?」と真顔で心配されました。失礼な! ただ、この足首が完全に治ったら、きっと派手に社交界を大暴れするに決まってますから。その日を思うとワクワクして仕方がないのですもの。
さて、本日のメインイベントは“セレスティア・サファイア”の具体的な売り出し計画を決める作戦会議。ただし、会議といっても堅苦しいものではなく、海辺のテラスに座り込んでお茶をすすりながら、ルーファスやロータス、そしてお付きの人々を適当に巻き込むゆる~いスタイルになります。ええ、それがわたくし流。おかげで使用人たちからは「うちの公爵家、こんなノリでいいのか?」という戸惑いが漏れているような気もしますけど、気のせいですわよね。たぶん!
「セレスティア様、まずは宝石のお披露目ですが、やはり次の夜会が鍵になりそうですね」
ロータスが相変わらず有能にスケジュールを整理してくれる。書類をパタリと広げながら、
「ここに載せた貴族名簿のうち、何人かはクロード皇太子派につながりがあり、不穏な噂が絶えません。正面からぶつかるか、穏便にかわすか、一度方針を決めたいのですが」
「方針? そんなもの、“敵にしてくる人はまとめて成敗、味方になってくれる人はまとめて利用”に決まってますわ。ほら、わたくし悪役令嬢ですし? ご期待通りざまぁ祭りを開催して差し上げるまでよ」
ロータスは苦笑い。わかっているのなら、今さら驚かないでちょうだいね?
一方でルーファスも真剣な表情。彼は新しい警護の配置図を眺めながら、静かに小さくうなる。
「海辺の町に潜んでいる輩の正体がわからない以上、警備はさらに強化せざるを得ない。セレスティア、くれぐれも危険な場所には近づくなよ」
「はーい。あら、ちょっと退屈しそうなフラグ? でもまあ、わたくしが乗り出すのは“決定的瞬間”だけにしておきますわ。興味本位で行動して、また足をくじくのはごめんですもの」
「いや、お前の場合は足首より先に、牙をむく方が怖いんだが……」
ルーファスがぼそりと呟くのを聞き逃さず、「えっ、牙だなんて物騒ね。歯医者にでも行く?」と返したら、周囲は吹き出し寸前。彼も完全に脱力してましたわ。
そんな中、カイが波打ち際から手を振りながらダッシュで戻ってきて、息を切らしつつ叫ぶ。
「おーい、セレスティア、すぐ来て! なんか見覚えのある馬車が停まってんだ。荷台から怪しげな箱を下ろしてる奴らがいて、めっちゃ不審なんだよ!」
「マジ!? それは興味深いわね。よーし、さっそく――」
「行くなって言ってんだろ!」
即座にルーファスが止めにかかる。まあ、彼の言い分も最もだけど、ここは悪役令嬢の直感を信じたいところ。胸騒ぎと興奮とが服を引っ張り合いしてる感じですのよ。こりゃ行くしかないでしょうが!
「では、わたくし抜け駆けしちゃいますね。あとで“守ってくれないとか酷い!”って泣きわめいても知りませんわよ?」
「逆だ。俺が泣きたいんだが……」
ルーファスが頭を抱えてため息をつく。その横でロータスが「どうぞ、お好きに」とばかりに目を伏せて微笑。使用人の分際ですって? いえ、ロータスにおいてはもう半分主君の上をいってる気がしますわ。
カイに導かれるまま、わたくしは奴らが作業している場所へ足を帳尻合わせながら急ぐ。わざわざ包帯足を蹴っ飛ばして歩く様、まるでゾンビ映画のモブみたいですわよ? でも痛くても面白そうなものには目がありません。好奇心で死んだ悪役令嬢って前代未聞じゃなくって?
「セレスティア、やべえ感じするけど……本当に大丈夫か?」
「大丈夫と大丈夫じゃないの境界線って意外と曖昧なのよ、カイ。わたくしはそこを突っついて生き甲斐を感じるの」
「どんな趣味だよ……!」
そうこうしているうちに、海に近い路上の陰に馬車が止められているのを発見。降ろされている箱の横には、黒づくめの男が二人……まるでしょっぱい演劇の悪役みたいな格好をしてるわ。その数メートル後方ではディオンが木陰から様子を伺っていて、こちらに気づくなりこっちこっちと手招きする。
「ディオンまで? あら、あなたも気になって見に来たクチ?」
「まあな。魔力が妙に揺れてるから何かあると思って」
ディオンもまた“匂い”を嗅ぎつけたってわけね。頼もしいわ。わたくしとカイがそろりと近づいたところで、男たちの会話の断片が聞こえてきたんです。
「……これで皇太子さまに恩を売れる。間違いなくあの宝石の品評会は荒れるはずだ……」
「あの公爵令嬢って、実際はただのマヌケらしい。利用しがいがあるぜ」
ほほう。わたくしのことを“ただのマヌケ”ですって? 寝言は寝てから言いなさいっての! これはもう“ざまぁ”チャンスが到来しているに違いありませんわ。むしろわざわざ自分から災厄の種を運んできてくれるなんて、サービス旺盛じゃないの。ありがとうございます、下衆の皆さん。
カイがわたしの袖を引っ張る。「おい、ここで強行突入するつもり?」
「当たり前じゃない。わたくし、悪役令嬢の名を背負ってるんだから。見つけたら叩くのが筋よ」
「筋っていうか……まあいい、俺も腹くくる」
少なくとも“何か悪い計略が渦巻いてる”のは確実。だとしたら、このまま帰って宝石のデザインにかまけていられませんわ。一言お仕置きしておかないと、夜会で変な妨害を受けるだなんてゴメンよ?
ディオンは魔力を操作しているのか、そっと手を差し出してくる。
「俺が陽動するから、お前たちは回り込んで証拠を押さえろ。下手に物理で殴りかかると足首が爆死するぞ」
「あら丁寧なご指示ありがとう。悔しいけど、この足では全力キックは無理ね」
そこですかさずカイが「代わりに俺が蹴り飛ばすぞ!」とやる気満々。馬車のそばでゴソゴソしている奴らを想像してみると、ああ、もう今すぐにでも悲鳴を上げてほしい。悲鳴こそ悪役令嬢のBGMって言いません?
ディオンがひそかに魔力を放った瞬間、海風がゴウッと巻き起こり、男たちのフードがばさりと吹き飛ぶ。そのどぎまぎした隙を突いて、わたくしとカイは横合いからダッシュで回り込む。無茶な姿勢で無理してるけど、こういうツッコミ役はもう慣れたものですわよ!
「ちょいと失礼、なーにを企んでるんですの?」
「なっ、誰だ!?」
驚きに目を剥く男たち。そりゃそうでしょうね、まさか包帯足を引きずった女が仁王立ちするとは思うまいわ。
「えー、私はただのマヌケらしいですわよ? でも意外としぶといかもしれませんの。あ、そうそう、わたくしには強力な“ざまぁ”スキルがあるので、そこはご注意くださいますよう」
「ど、どういう意味……って、ぐあっ!!」
言うが早いか、カイが華麗な足払いを見舞い、男の片方が転倒。ご丁寧にディオンの魔力が地面を盛り上げるように誘導してくれたおかげで、馬車近くに積んであった木箱ごと巻き添えクラッシュ。わ、なんという運動神経の連携プレー。悪役令嬢としても、観客席に座って拍手したいくらいですわ!
もう一人の男は思いきり絶句してて、バッグを放り出して逃げようとする。それをわたくしが狙うわけですが……足、足が言うこと聞かな――
「きゃっ!!」
おっとバランスを崩し、逆に自分がスッ転びそう! まじで足首がヤバい!? しかし、そこにスッと腕を差し出したディオンがわたくしを受け止めてくれました。慢性的に病んでいるはずのディオンが、こんな瞬発力を発揮してくれるなんて……ちょっとときめきましたわ。
「不覚を取ったな、マヌケ嬢……」
「そこ、マヌケはいらないわよ! でもありがとう。いま助かったわ」
ディオンと一瞬目が合い、こそばゆい空気が流れる。んまっ、ルーファスには内緒にしておきたい。ぜったい変な嫉妬で頭が爆発しそうだもの。
そうこうしているうちに、男たちは逃走失敗でがんじがらめ状態。周囲を見回すと既にルーファスの部下が駆けつけていて、海辺の現場は一気に騒がしくなりましたわ。おお、これは逮捕劇かしら? そう、まさにこちらが先回りでざまぁ達成よ。いい気味♪
ルーファスが遅れて到着し、わたくしの足を見て呆れ顔。
「……やはりこうなったか。まったく、無茶ばかりするんだから」
「いえいえ、これで夜会の邪魔虫が減るって思えば痛みなんてチョロいもんですわ。ほら、いまさら足首が一本折れたところで驚きませんことよ?」
「やめろ、本当に折れるフラグを立てるな……」
ルーファスが深いため息をつく。その横顔を見ながら、わたくしは満足そうに肩をすくめる。だって悪役令嬢の働きっぷりはこんなものじゃ済まないわ。夜会本番でもっと派手に見せ場を作って、おバカさんたちを根こそぎ泣かせてやりますもの。
馬車に積まれた箱をチェックした部下が「何やら怪しい魔導具らしきものが……」と口走っているのが聞こえた。たぶん、その道具で夜会を攪乱する計画だったんでしょうね。バレバレ! 皇太子派の策略だかなんだか知りませんが、それならこちらも次なる“ざまぁ”対策を考えるのみ。今回の捕縛がほんの序章に過ぎないっていうなら、わたくしの“地獄の門でお待ちしてますわ”ルートをお見舞いするまで!
そう――悪役令嬢としては、むしろ燃えてきたわ。ルーファスにもディオンにも心配かけてるけど、そのくらいで挫けるセレスティアじゃない。だって“婚約破棄”も“闇魔導具の妨害”も、まとめてひっくるめておいしくざまぁ返しするのが醍醐味でしょ? 足はひとまず悪化してる気がしますけど、細かいことはどうでもよろしい。痛みに悶絶しながらも、わたくしは勝利の微笑を浮かべるのでした。
――さあ、次は夜会という名の決戦ステージ。皇太子クロードやその他もろもろがどんな手を打ってくるか楽しみじゃありません? わたくしの“ざまぁ力”がまた試されるわけですから。震えて待ちなさい、すべての陰謀屋たちよ。今度は猫の手どころじゃない、悪役令嬢の爪痕をしっかり刻んで差し上げますわ!




