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海辺の別荘と夜会での華やかな波乱 2

急勾配の丘を登る輿(パランキン)って、想像以上にスリル満点。前を歩く護衛騎士たちが「足元ご注意を!」と声をかけてくださるけれど、いやはや、乗り心地はまるで遊園地の絶叫系アトラクション。輿の上で多少揺られるくらい、悪役令嬢のわたくしには朝飯前ですけれども。……というか、もうちょっとゆっくり行きましょうよ騎士の皆さま? ここでわたくしが海に転げ落ちたら、それこそロマンスもへったくれもございませんわ。


「ちょっと、セレスティア。大丈夫か?」

そんな揺れる輿の中、隣で小声ながらも笑いを含んで尋ねてくるのは旦那様ことルーファス。あら、病弱アピールを欠かさない割には、今日はやたら元気っぽいじゃありませんの。わたくしが「あなたこそ無理なさらないで?」なんて優しく囁くと、彼の目がずいぶん楽しそうに細められるから不思議ですわ。もしかしてちょっとからかっているのでは? ま、いつものことでしょうけれど。


「セレスティア様ー、さっきの急カーブご無事でした?」

護衛騎士の一人が振り返るなり、カイの声が横から突っ込んできた。

「いやいや、セレスティア様なら多少の揺れなど余裕でしょ。むしろ俺なんて汗びっしょりですよ! あーもう帰りたい。海なんて遠いし、潮風にも負けそうだし」

「だったら丘の下に置き去りにして差し上げるわ。花束でも持って誰か故郷へ弔ってくださるかも?」

「ええっ!? ちょ、冗談ですよ、彼女おそろしやー!」

わたくしが軽く肩をすくめると、カイは大げさにぶるぶる震えてみせる。まったく、遊び半分なその態度、いつか怪我をなさらないよう祈っております。


とはいえ、視界がパッと開けた瞬間に現れた海辺の光景には、わたくし自身も一瞬息を呑みました。あれほど回り道をしてきた甲斐があるというもの! 太陽の光を反射して、どこまでも広がる海の青。輿の窓から顔をのぞかせれば、風がさらさら髪をなびかせてくれて、ああ、それだけでちょっぴりロマンチック。こんな青年漫画の表紙みたいな景色を独り占めできるなんて、悪役令嬢最高ではありませんこと?


「到着したらすぐに付近を視察する予定だ。お前は無理せず宿泊棟で休んでいてもいいんだぞ?」

そう促すルーファスに、わたくしは首を横に振ります。隠された陰謀もあるやもしれぬこの別荘地、さすがに好奇心全開でしょ。うっかり魚の干物みたいに日干しになりたくはないけれど、ここは同行して情報をキャッチしなくては。公爵閣下の新妻(仮)たる者、この程度の裏事情を探れずしてどうする。


さて、別荘に到着するやいなや、侍女のシャルロットが満面の笑みでこちらへ駆け寄ってきた。

「セレスティア! 待ってたわよ、ようやく来たのね~。見て見て、海に面したテラスがとっても綺麗なの! もうテンション崩壊寸前よ!」

「あなたが弾け飛ぶ前に、スカートの裾を踏まないようお気をつけ遊ばせ。ここ、足元に砂や貝殻がちらほら落ちてますから」

「ぎゃー、ほんとだ、ヒールの先に貝殻が! いきなり地味な嫌がらせを食らった気分だけど、負けないわよ!」

その姿がおかしくて思わず吹き出しそうになる。シャルロットは器用に片足立ちしながらヒールの隙間をチェックしていて、なんとも滑稽な光景。でもこの別荘内にも意地の悪い視線が潜んでいるかもしれませんものね? わたくしも見習って、足元には気をつけていきましょう。


一方、リリアが「お疲れでしょうから、まずはお茶をどうぞ」と控えめに誘ってくれる。爽やかな潮風の中で飲むハーブティーなんて、最高にリフレッシュできそうですわ。ところが、そんなやり取りを見ていたディオンがまるで幽霊のごとく背後からすっと近づいてきた。

「セレスティア様、少々。今回の領地巡回に関する情報ですが……」

「ええ、わかっています。面倒くさい裏があるんでしょう?」

「……正直、気配が不穏です。魔力が集中しているらしき報告が相次いでいて」

淡々と言葉を交わすわたくしたちの会話を盗み聞きするように、カイが「おやおや、また難しい話ですかあ? 俺には無関係、っと……」なんて鼻歌交じり。でもあなた一応、わたくしの幼馴染じゃありませんの。もうちょっと協力していただきたいところ。まぁ、カイはカイで気遣いのつもりかもしれないけど。


そこへルーファスがディオンの話に割り込んだ。

「この周辺で騒がしい連中が蠢いているという情報がある。俺たちが来たことを知って、歓迎ムードよりも厄介ごとを仕掛けてくる可能性が高い。……セレスティア、危険な場面に首を突っ込むなよ」

「まあ。わたくしが自ら首を突っ込まずにいられる子に見えます?」

「やれやれ、言うと思った」

彼の溜め息は決して嫌そうじゃなく、むしろ心配半分・期待半分という感じ。どこか嬉しそうに見えるけれど、その理由がもし“わたくしのドタバタぶりを楽しんでいる”からだとしたら、後でしっかりお礼参りをして差し上げますわよ?


さあ、とにもかくにも広々としたテラスへ足を運んでみれば、潮風が心地よく頬を撫で、遠くの海面に陽光がキラキラ踊っております。リリアとシャルロットが「あら素敵!」と歓声を上げ、わたくしも思わず笑みがこぼれる。悪役令嬢たる人生で、こうした美しい風景に感動する機会があるなんて、ちょっと得した気分。おまけにルーファスがさりげなくわたくしを支えてくれたりして――はいはい、甘やかしはほどほどでお願いいたしますわ。それ以上されると心臓に悪いんですもの。


すると急に、丘の下の方から慌ただしい声が聞こえてきた。護衛騎士が走ってきて、「奥様! 向こうの浜辺に不審者らしき人影が!」と大声で報告する。シャルロットが「うそ、早速?」と顔をこわばらせ、ディオンは目を伏せて「やはり始まったか」と一言。

「どうする、セレスティア?」

ルーファスはわたくしの決断を待っている。もちろん返事はひとつ。

「決まってますでしょ。わたくしも行きます。……だって、ここで黙ってお茶をすすってるだけの悪役令嬢なんて退屈じゃありませんこと?」

「フフ、やはりそう来たか。騎士たち、彼女を頼む」

旦那様の口調に感じる僅かな翳り。わたくしが危険に巻き込まれることを案じているのか、それとも“一緒にトラブルへダイブする相棒”を待ち望んでいるのか。どちらでもよろしい。わたくしは前世同様、何度だって悪役ぶりを楽しみながら、無双するまでですわ。


こうして、海辺での穏やかな休息なんぞ夢のまた夢とばかりに、さっそく事件の幕開けらしき合図が鳴り響くのでした。まったく、なんてサービス精神が旺盛な領地なのでしょう。いいわ、望むところよ。わたくしの“ざまぁ”を目に焼き付けるがいいわ! めくるめくジェットコースター的展開、まだ序章ですわよ? ここから先は、読者の皆さまも覚悟なさって。だって、悪役令嬢に休息など無縁ですもの。波乱がてんこ盛りの海辺ステージ、アドレナリン全開で突っ走りますわ!"

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