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私を愛することはないらしいので、取り敢えずお兄様と呼ばせていただきますけれども(連載版)  作者: 鬼多見 青


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第3話:過去の婚約者と新たな婚約者候補

このお話からが短編の続きです。

翌日から、ブレンダンの態度は比較的分かりやすく変化する。

ブレンダンの対応は、マティルダに対して、これまでは同居人感とか親族感が強かったが、一転して婚約者感のあるものになった。


例えば、挨拶はブレンダンから積極的にしてくれるようになったし、一緒に歩くときは、自然とエスコートをしてくれるようになった。

既にマティルダが日々の朝のお見送りや夕方のお出迎えをすることはルーティンとなっていたが、いってらっしゃいの時には優しく頭を撫で撫でされたり、お帰りなさいの時はそのまま腰に手を添えられて、一緒にリビングやダイニングに移動するようになった。

マティルダは、毎日幸せだった。


(お兄様、何だか優しくなったなぁ)


つい先日は、遠征に出かけるブレンダンを見送るマティルダの髪を一房手に取り、ブレンダンが流れるような自然な仕草で口付けを落とした。

気障な振る舞いなのに、見目麗しいブレンダンが実行すると妙に様になっていて、マティルダは真っ赤になった。

キスされたのは唇でも頬でもなく髪だった。

それでもマティルダは、体が丸ごと心臓になったんじゃないかと思うくらいに動揺し、恥ずかしくて嬉しくて、きゅんきゅんした。


(控えめに言って最高だわ。萌え死にしそう)


結論、マティルダはチョロかった。

家族以外の異性に免疫ゼロな上に、ブレンダンの見た目は完全に好みど真ん中だったからだ。


しかも、存在感のなかったブレンダンの表情筋は本来の働きを取り戻しつつあり、マティルダの初々しい反応にだけ柔らかく蕩けるようになった。

家令をはじめとする使用人たちは、ブレンダンの変化に最初こそ衝撃を受けていたが、やがて2人の様子を微笑ましく、そして、どこか生ぬるい表情で見守るようになるのだった。



*****



使用人たちは固く口を閉ざしているが、ブレンダンは過去に2人の婚約者に去られている。

ブレンダン自身は、王命で結ばれたはずの婚約が2回も駄目になったことで、口にこそしないが流石に凹んでいた。


真面目で優秀で腕っぷしも強く、見た目も家柄も良いブレンダンは、それなりにモテた。

しかし、不器用で口数が少ない上に、表情も乏しい。

女性経験がないわけではなかったが玄人を相手にしたことしか無く、基本的には、女誑しとは真逆を行くタイプだった。


ブレンダンの1人目の婚約者は、心を病んだ。

きちんと婚約者らしく扱われたものの、ブレンダンは無口で無表情。

王都から遠く離れ、家族や友人もいない場所で、炊き出しなどといった高位貴族らしからぬことをする生活に馴染めず、3ヶ月経つ頃には笑顔を失って痩せ細った。


心配したブレンダンが女性の生家と王家に連絡を入れたところ、4ヶ月が経つ頃には王都から迎えが来て、5ヶ月が経つ頃に婚約は解消となった。

慰謝料の話になったが、自らにも原因はあったかもしれないという理由で、ブレンダンは断った。


ブレンダンの2人目の婚約者は、そこそこ屋敷に馴染んだ。

しかし、2ヶ月経ったある日、突然屋敷からいなくなった。

忽然と消えたことに大騒ぎになったが、不幸中の幸いと言うべきか、手紙が残されいた。

どうやら婚約前に懇意にしていた使用人と駆け落ちの約束をしていたらしく、この辺境伯領に来たタイミングで、それを決行したらしい。


ブレンダンが女性の生家と王家に連絡を入れたところ、女性の生家の者が慌てて飛んできて、平身低頭お詫びされた。

そして3ヶ月が経つ頃、婚約はまた解消になった。

今回は、流石にブレンダンも慰謝料を受け取った。




破談になった2回共が、マティルダ同様に王命で結ばれたはずの縁だった。

これは、辺境伯を継いで落ち着いたのに、あまりにも結婚しない――というか、婚約すらする気配のないブレンダンを心配した国王陛下の気遣いである。

聞こえは良いが、要は、国防の要のこの地を治めて王国に長く安寧を齎すために早急に血を繋げ、という命令だった。


当然ながら、婚約解消を許可したのは国王陛下である。

また、婚約解消に至った経緯は、原則、口外しないように箝口令を敷いたのもまた、国王陛下である。

より正確には、国王陛下から届いた書面に対して、厳罰は特に望まないことと、この件の判断は国王陛下にお任せするとだけブレンダンか記載したため、関係する貴族の体裁を重んじた結果がこれである。


よって、この事情を知る者は少ない。

王家と、婚約者となった女性2名の生家、そして、ブレンダンの屋敷の使用人達と、オルフェイで暮らすごく一部の者達だけとなっていた。




ブレンダンがマティルダに向かって初日に告げた「貴方を愛するつもりはない」という宣言は、最初の2名には行っていない。


1人目には、「政略結婚とはいえ、良き夫婦になれたらと思う」とブレンダンが告げたものの、婚約者は酷く不安気で頼りない顔をしていた。

その後、婚約者はじわじわと心を病んでしまい、どうやら何かを間違えた、負担だったのかもしれないと、ブレンダンは反省した。


だから2人目には、「結婚はするが、自由にしてもらって構わない」とブレンダンは告げた。

すると、婚約者は安堵したように、少し嬉しそうな顔をしていたため、今度はいけるとブレンダンは思った。

しかしその後、婚約者は駆け落ちをしてしまい、どうやらまた何かを間違えたのかもしれないと、ブレンダンは苦悩した。


結果だけを見れば、どちらも上手くはいかなかった。

だからブレンダンは、3人目の婚約者であるマティルダには、「貴方を愛するつもりはないから、取り敢えず安心して健やかに暮らしてほしい」と告げた。

理由は、また破談になるかもしれないと思ったからだ。

どうせだめになるならば、相手が心身ともに健やかな方が、まだ後味がマシだと思ったからでもある。




マティルダは、このあたりの事情を一切知らない上に、知るのはもう少し先のことになる。


しかしマティルダは、受け止め方によっては酷いと言える台詞をサラリと受け止めた上で、ブレンダンを「お兄様」と呼び始めた。

そして、塞ぎ込むこともなく、姿を消すこともなく、ただ穏やかに、そして懸命に、オルフェイに馴染む努力をし始める。


ブレンダンの婚約者として、まともに半年も持ったのはマティルダが初めてで、最高記録だった。



*****



ブレンダンがマティルダとの婚約を領地内に正式に発表してから約1ヶ月後、その日は突然やってきた。

いつもの通り、討伐に出たブレンダンから、家令とマティルダが留守を預かっている屋敷に、数名の侍女を引き連れた1人の女性が現れたのだ。


「オルフェイ辺境伯の婚約者というのは貴方なの?」


その身なりの良い女性は、まるで陽の光を集めたような金の髪と、エメラルドグリーンのパッチリした目を持つ美人だった。

年齢は、マティルダより少し上といったところか。

身長もマティルダより高く、スラリとしている。

ココアブラウンの髪と青い瞳を持ち、派手さはないが整っているマティルダと違って、ぱっと目を引く華やかさというか、ツンとした美しさがあった。


「はい。そうですが、貴方は?」

「そう。わたくしは、ラウラローズ・ワイルダムよ」

「ワイルダム……まさか侯爵家のご令嬢ですか?」

「あら、ご存じだったの。ただのお馬鹿さんではないということね」


ラウラローズはにこりと笑みを深くした。

さらりと、豊かに波打つ金髪が眩しい。

マティルダは驚き、そして、慌てて頭を下げた。


「大変失礼いたしました。ご挨拶が遅れましたが、ヤーウェイ子爵家の長女、マティルダ・ヤーウェイと申します」

「ええ、お名前は知っているわ。王命でこの地に来たのでしょう?オルフェイ辺境伯の婚約者として」

「はい。仰る通りです」

「私もよ」

「……?」


「私も貴方と同じで、国王陛下の御心を受けてこの地に来たの。オルフェイ辺境伯の婚約者候補として」


「!?」

「書類上の正式な婚約者は貴方よ、ヤーウェイ子爵令嬢。現時点での私のポジションは、貴方のスペアといったところね」

「そんな、侯爵令嬢がスペアだなんて」


マティルダは愕然とした。

こんなに綺麗な、そして、侯爵令嬢ともあろう人が、マティルダのように凡庸な子爵令嬢のスペアだなんて、とんでもないと思ったからだ。

ラウラローズは、マティルダの素直な反応に小さく微笑んだ。

そして、宝石のような緑色の瞳を細め、穏やかに言った。


「そういうわけだから、私も今日からこのお屋敷でお世話になるわ。どうぞよろしくね」


最早、わけのわからない状態である。

しかし、見えない圧に圧倒されて、嫉妬をする暇もないままにマティルダは頷いた。


「は、はい。よろしくお願いいたします」

「それで、オルフェイ辺境伯はどちらに?」

「数日前から討伐に出ていらっしゃいます。お戻りは来週になるかと」

「そう。噂には聞いていたけれど、やはり大変なのね。こういうことは多いのかしら。頻度はどの程度なの?」

「はい、月に一度はございます」

「そう、心配ね。貴方も大変でしょう」


労わるように、憂いた表情を滲ませるラウラローズは、同性のマティルダから見ても非常に美しい。

しかも、理性的で優しく、嫌味でもなく高圧的でもない。

第一印象は、控えめに言って抜群だ。

実に素晴らしい女性だと、マティルダは内心感心した。


「お気遣いありがとうございます。仰る通り心配ですが、私は騎士の皆様のご無事をお祈りしつつ、なすべきことをなすまでです」

「そう、頼もしいわね。とりあえずオルフェイ辺境伯がお戻りになるまで、色々教えてくださるかしら?貴方の方が数ヶ月先輩だものね」

「恐れ多いですが、私でよろしければ」

「あら、貴方がいいのよ」


ラウラローズは、にこりと柔らかな微笑みを浮かべた。

まるで茶飲み友達にでもなるかのような気安さと、失礼ではない程度の絶妙な強引さに、マティルダは舌を巻く。

流石、侯爵令嬢だ。


(この人がお兄様と結婚するのかしら?)


マティルダの胸は、ずきりと痛んだ。

もしそうなると、マティルダはブレンダンと結婚できないことになるが、いくつかの選択肢がある。


此処に残る場合は3択。

ブレンダンの内縁の妻なり愛人なりとして第二夫人となるのか、この屋敷で使用人になるのか、別の相手を探すのか。

ヤーウェイ子爵家に戻る場合は2択。

別の相手を探すか、修道院に入るかになるだろう。


(どうしよう)


マティルダは、ブレンダンが好きだ。

ブレンダンも多分、マティルダをそれなりに好いてくれているとは思う。

しかし、マティルダよりも条件の良い高位貴族令嬢が新たな婚約者候補として現れ、そこそこ感じの良い美人となると、勝ち目があると思えなかった。



読んでくださってありがとうございます。

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