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私を愛することはないらしいので、取り敢えずお兄様と呼ばせていただきますけれども(連載版)  作者: 鬼多見 青


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第18話:誘拐の理由と帰る場所(side.ラウラローズ)

ラウラローズは、幌馬車の荷台に乗せられていた。

相変わらず手首と足首は縛られているが、特に乱暴なことはされていない。


荷台に張られたテントは、明かり取りのために後ろ側が少し開いているが薄暗い。

あの隙間から飛び降りれば、怪我はするけれど逃げられるかもしれないと想像してみる。

しかし、ラウラローズは、手首と足首を縛られたままだから、飛び降りたところで道の真ん中で転がっているしかないかもしれない。


敵は、ラウラローズの側に1名。これがラウラローズを抱えた金髪の男性だ。

そして御者席に2名いる。ドアの外で見張っていた1名と、馬車で待っていたのが1名だ。

頭数と全員男性であることを考慮すれば、ラウラローズは完全に不利である。


「何処へ向かっているのかしら」

「サアナ」

『何処へ向かっているのかしら』

『ミズーリだ』


ラウラローズは、全く同じことを、ノード王国の公用語であるユール語と、マイナー言語のベルンガルド語で話した。

その結果、男性の回答は言語によって異なった。

男性の顔は前髪のせいで半分くらい見えないものの、口元を見るに、さほど高齢ではなさそうである。


(この人、ユール語があまり分かっていない可能性が高いわね。でも、どうして?)


ベルンガルド語とは、20年ほど前に滅びた国・ベルンガルド公国でのみ使われていた超マイナー言語だ。

隣にある大国・リスランド王国が侵略し、ベルンガルド公国を自国の一部とした歴史がある。


なぜそれをラウラローズが知っているかというと、ワイルダム侯爵家の書庫に本があったからである。

そして、その本を見ていることを知った父親が、ベルンガルド語もできるリスランド語の家庭教師を見つけてきたのだ。


『ミズーリを拠点にしているの?』

『そうだ。あそこは、俺達のような流れ者も違和感なく過ごせるからな』

『オルフェイはいい所よね。旅でもしているの?』

『旅か。物は言いようだな。あんた、自分が何故連れ去られたのか聞かないのか』

『あら、聞いたら答えてくれるの?』


ラウラローズは、少しも怯まずに堂々と尋ねた。

囚われているとは思えない図太さに、男性は瞠目した。

そして、心底嫌そうな顔をした。


『本当に調子の狂う女だな。あんた、なんでベルンガルド語が話せるんだ』

『リスランド語の先生が、ついでに教えてくれたからよ』

『あんたの先祖はベルンガルド人なのか?』

『分からない。私、本当の父親を知らないの。母親はノード人の筈よ』

『そうか。悪かった』

『別に気にしてないわ。貴方こそベルンガルド人なの?』

『そうだ』

『そうなのね。じゃあ、私がベルンガルド人かもしれないと思った理由があるのかしら』


ラウラローズの質問に、金髪の男性はほんの一瞬だけ躊躇う様子を見せた。

ラウラローズは何となく、この人は、単なる平民や破落戸ではないのではないかという思いを抱く。

男性は、観念したようにため息をついた。


『あんたは似てるんだ。ベルンガルド公国の皇女に』


ラウラローズは咄嗟に何を言われたか理解できず、思わず聞き返した。


『誰が、誰に、似ているですって?』

『あんたが、ベルンガルド公国の皇女に似ていると言った』

『他人の空似ではなくて?まさか、貴方は私の親戚だとでもいうの?』

『親戚ではない。俺の父親が、皇女の息子の側近だった』


かまをかけたはずが、そう遠くない回答が飛び出し、流石のラウラローズも驚いた。

しかし、だからといって遠慮するのはラウラローズのポリシーに反する。

ラウラローズはひとつ深呼吸をして、嫌味を口にした。


『そう。では、元皇子様の側近の息子が、亡国ベルンガルドの皇族の血を引くかもしれない私をたまたま見つけたから、この状況になっているということなの?

なかなかの横暴ね』


『手荒な真似をしたことは悪かった』

『私については理解したわ。もう1人の女性は何故捕らえたの?』

『あれが本命だ。捕まえて、あの場所に閉じ込めておくようにという依頼を受けた』

『誰から、何のために?』


『名前は知らないが貴族の坊っちゃんだ。

理由は、愛する人を救うためとか言ってたな。

よく分からないが、金払いが良かったから引き受けたまでだ』


ラウラローズは、ゾッとした。

今回、ラウラローズがマティルダの後をつけたのは、他ならぬリチャードがマティルダに声をかけたからだ。


ラウラローズは、オルフェイに来て日が浅い。

その上、屋敷でのポジションがはっきりしない。

よって、賢いラウラローズは、一人で部屋にいるか、マティルダと行動を共にするのか、の2択で生活していた。


リチャードは、今回の炊き出しのみならず、毎回よく目についた。

これはひとえに、リチャードがラウラローズの視界に頻繁に入るからに違いない。

ラウラローズは頻回に、マティルダを見ているリチャードを見ていた。


(いつも、マティルダを見ていたものね)


気の所為でなければ、リチャードがマティルダを見る目は、明らかに情欲に塗れていた。

情景とか恋情というよりは、もっと粘度の高い、絡みつくような視線。


(マティルダ。どうか無事で)


オルフェイ辺境伯領で出会ったマティルダという人は、優しくて真面目で、少しだけ危うかった。

しっかりしているのに隙があって、どこか抜けていて、ラウラローズはつい、マティルダを可愛いと、守りたいと思ってしまった。


『その人は細身で、茶髪で、黄緑色の目をしていた?』

『!あんた、知り合いなのか』


金髪の男の反応を見て、嘘はついていなさそうだとラウラローズは思う。

そして、やはりマティルダの誘拐はリチャードの仕業に違いないと確信する。

同時に、ブレンダンが駆けつけていることを祈った。




ラウラローズは炊き出しの持ち場を離れる際、近くにいた使用人の内、最もマティルダを気にかけているように見えたマティルダ付きの侍女・アマンダに伝言を頼んできた。

アマンダは、マティルダについていこうとした。

しかし、あるじたるマティルダにそれを断られれば、基本的には従うしかないのが使用人という立場である。


もしアマンダと、あの時その周囲にいた人々――主にブレンダンの屋敷の使用人達や、騎士団の家族の人々が、きちんとブレンダンに伝えてくれれば、恐らくブレンダンは、すぐにリチャードを追うだろう。

ラウラローズの伝言以外に手掛かりがない場合、十中八九、ブレンダンはエデルフィン子爵家へ向かう筈だ。


正直、リチャードがマティルダをどうしようとしているのか、何処へ向かうのかは分からない。

しかし、貴族のお坊ちゃんがそうやすやすと家を捨てて遠方へ行くとは思えない。

となると、遅かれ早かれ、リチャードはエデルフィン子爵家へ戻るはずだ。


それよりも心配なのは、ラウラローズからの伝言が、きちんとブレンダンに伝わるのかということだ。

ラウラローズはそもそも、ブレンダンの4番目の婚約者候補として、オルフェイに来た。


但しそれは、ラウラローズの父であるワイルダム侯爵の思惑と、真っ赤な嘘ではないが限りなく嘘に近い言い分にラウラローズが薄々気付きつつも乗っかったが故のことではあるのだが、この事実を知る者は限られている。

よって、マティルダが使用人に慕われていればいるほどに、ラウラローズをよく思わない使用人は当然にいると想定される。


因みに、数日前には、ハイリンヒとラウラローズの婚約が国王陛下に認められたという先触れが、ハイリンヒからブレンダン宛にあった。

しかし、流石にハイリンヒ不在の状況での正式な発表はしていない。


よって、ラウラローズは最初から今日までずっと、ブレンダンの客人ということになっている。

つまり使用人たちは、ラウラローズがブレンダンの次の婚約者候補としてオルフェイに来たこと――つまり、マティルダの立場を脅かす存在になりうると思い続けている筈だ。




『顔見知り程度よ。取り敢えず、私は彼女のついでに捕まったわけね。私をどうしようというの?』

『悩んでいる。引き受けた仕事の完遂のために、あんたが邪魔だった。ただそれだけだ』

『ああ、そう。ついでというわけね』


思わずジト目になるラウラローズに、男性は口元だけに笑みを浮かた。

動機からラウラローズの使途まで、かなり適当だ。

否、もしかしたら大真面目で、男性の気怠そうに見える雰囲気がそう思わせるだけかもしれないが。


『なあ。あんたには、帰る場所があるのか?』


金髪の男は不意に真顔で尋ね、ラウラローズをじっと見た。

ラウラローズは、思わぬ問いかけに一瞬瞠目し、男性を見つめ返した。

前髪の隙間から見えた男性の瞳は切れ長で、琥珀色をしている。

しかし、何を考えているのかその真意を推し量ることは全くできない。

ラウラローズは、1つ深呼吸をして本心を吐露した。


『分からないわ』


そう。ラウラローズには、分からなかった。

王都にあるワイルダム侯爵家では、十分な衣食住と教育は与えられたものの、いつも居場所がなかった。

逃げ出したくて、オルフェイ辺境伯領に望まれぬ4人目の婚約者候補として来てみたものの、招かれざる客扱いだ。

マティルダがいい子だったから何とかなっていたけれど、ラウラローズはいてもいなくてもいい存在――否、むしろいない方がいい存在なのかもしれないということに、聡いラウラローズは気付いていた。


『そうか』


男性はただ同意して、それきり黙った。

ラウラローズも、口を噤んだ。



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