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私を愛することはないらしいので、取り敢えずお兄様と呼ばせていただきますけれども(連載版)  作者: 鬼多見 青


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第12話:贈り物の意味

「あれは何かしら?」

「あれは野鳥のお肉です。串に刺さったまま、かじって食べるんですって」

「まあ、そうなの。あれは?」

「あれは、隣国から入ってきているタペストリーですね。魔除けの飾りだとか」

「すごいわね。見たことがないものばかりだわ」


キラキラしながら、活気のある街並みを眺めるラウラローズに、マティルダも笑顔になる。

本日、マティルダとラウラローズは、街へ来ていた。

炊き出し以外で屋敷を出たことがないラウラローズに、オルフェイの街を案内するためだ。

といいつつ、実はマティルダ自身が、お洒落なカフェに入ったり、友達と街歩きをしてみたかったというのもあった。


因みに、ラウラローズの衣類については、数日前に屋敷に仕立て屋を呼んで採寸し、必要な分をオーダー済である。

費用はブレンダンがマティルダ分とまとめて支払うと言ってはいたが、ラウラローズは自ら持参した支度金で支払うと言っていた。

前から思ってはいたが、多分この2人は似通った部分があるとマティルダは思う。


(カフェに一人で入るのも気が引けてたのよね)


マティルダは、何度か此処に来たことがある。

それは、散策だったり、ちょっとした買い物だったりするが、いつも侍女のアマンダと護衛が付き添ってくれている。


ブレンダンは、衣食住こそきちんと提供してくれるが、デートのようなものをしたことはない。

ブレンダンは辺境伯として忙しい上に、つい最近まで、マティルダは王命による名ばかりの婚約者で、単なる遠縁の者として過ごしてきたからだ。


最初の段階で、はっきりと「愛することはない」とブレンダンからは言われていたし、マティルダは特に不満に思ったことはない。

しかし、寂しいとは思っていた。


「ラウラローズ様もそうなんですね。私も最初に来た時、ヤーウェイ子爵領では勿論、王都ですら見たことがない物が多くて驚きました」

「マティルダ、呼び方」

「あ、失礼しました。ラウラ様」


恥ずかしそうに口にするマティルダに、ラウラローズは綺麗に笑った。

呼び捨てで構わないとラウラローズは言ったものの、マティルダは恐れ多くてなかなかできず、愛称のラウラに様をつけることで一旦着地している。


ラウラローズは、出会った頃よりも、随分と刺や角が取れて柔らかな雰囲気になったとマティルダは思う。

まるで仲の良い姉妹か親友のような2人に、侍女1名と護衛2名は顔を見合わせ、ほのぼのとした雰囲気になった。


「あの、ラウラ様にお願いがあるのですが」

「なあに?」

「私に刺繍を教えていただけませんか?」

「構わないけれど、どうしたの?」


「オルフェイでは、出征に行く男性に、お守り代わりに手作りのものを渡す文化があるのです。

それで、出征に持っていくハンカチに刺繍ができたらなと思いまして」


「あら、組紐ではないの?」

「!」

「女性の出迎えがある騎士の方は、皆それぞれ、髪や手首、あとは剣帯ソードベルトあたりに、色の違う組紐をつけていた気がしたのだけれど」

「く、組紐はもう渡しましたので」

「まあ、そうなの?」

「はい」

「ふぅん。いいわ、刺繍は教える。その代わり、私に組紐の作り方を教えてくれる?」

「え?」

「上手くできたら、ハイリンヒ様に渡そうと思うの」

「!」

「な、何よ」

「ふふ。はい、喜んで」


美人でツンデレ感のあるラウラローズは、立派な淑女だがとても可愛らしい人だ。

マティルダは、思わず笑顔になった。


マティルダとラウラローズは、仲良く手芸品屋へと向かった。

お昼ごはんには、先ほどの野鳥の串焼きを食べましょうとか、行ってみたいカフェがあるのですが、などと話しながら。



*****



その頃、ブレンダンは執務室で動揺していた。

何故ならば、やっとマティルダがくれた組紐の意味を知ったからだ。


ハイリンヒとの会話を不意に思い出したブレンダンが家令のジョセフに尋ねたところ、ジョセフは知らなかった。

そして、ジョセフに聞かれた侍女長も、曖昧なことしか分からなかった。

その結果、侍女長が若い侍女数名に尋ねるに至るわけだが、その答えはすぐに判明した。


曰く、組紐は、おまじないや目印のようなものとして、最近街で流行っているらしい。

主に若い女性が、贈りたい相手との関係性や想いによって、色を変えて編むとのこと。

親兄弟友人ならば相手の色で作り、夫婦や婚約者ならば自分の色で作り、恋仲や片想いならば相手と自分の色を混ぜて作り、その人の無事や幸運を祈るものらしい。


当時、ジョセフや侍女たちも、出征するブレンダンにマティルダが組紐を手渡すところを見ている。

そもそも組紐を編みたいとマティルダが言い出したのは、炊き出しの際に、比較的多くの騎士たちが、似て非なる組紐をつけていることに気付いたからだ。


その時一緒に作業をしていた若い侍女たちに尋ねたところ、侍女たちがオルフェイの街での流行りをマティルダに教えたのである。

因みに、ジョセフはブレンダンの父、つまり先代のオルフェイ辺境伯の頃から仕えているロマンスグレーの紳士で、侍女長もジョセフより若干若い程度なので、比較的新しい文化らしい。


(色に意味があるのか)


組紐の意味を知った時、ブレンダンは、婚約者だからマティルダの色ということかもしれないと思った。

しかし、思い返してみてもそうではなかったような気がして、ブレンダンは、いそいそとマティルダがくれた組紐を引き出しから取り出して眺めた。

そして、編まれている紐の色が、マティルダの青と茶、そして、ブレンダンの瞳の色である金であることを改めて確認した瞬間、組紐を握りしめたまま心臓を鷲掴みされた気分になった。


(マティルダ……!)


ブレンダンは、この上なく気分が高揚した。

喜びと愛しさが溢れて、息が詰まりそうになる。

これをマティルダがくれたのは数ヶ月前で、マティルダがオルフェイにやってきて、半年が経つ頃だ。

それはつまり、ブレンダンがまだマティルダに正面から向き合う前のタイミングである。


(まさか、そんなに早くから私のことを想ってくれていたのか?もしそうなら、非常に勿体無いことをしてしまった)


組紐こそ最近の流行りだが、手作りものをお守りとして相手に渡すというのはオルフェイに昔からある文化だ。

ブレンダンも、その意味をきちんと理解している。


国境に面したこの地では隣国とのいざこざも多く、出征に行く男性たちの無事を祈り、女性たちがそのようなことをしてきた歴史がある。

疲れた時、窮地に陥った時、一休みする時。

騎士達がそれぞれ、家族、友人、恋人等の大切な人を思い出すことで、自らを奮い立たせ、何とか勝って生きて帰ろうという、強い気持ちを引き出すためのアイテムとして活用されてきた。

へえそんなものか、くらいだったこれまでが嘘のように、ブレンダンは今この瞬間、オルフェイの文化の意味が腹に落ちるのを感じた。


(待てよ。もしかして、出征の時しかつけないのは、マティルダに対して失礼なのか?)


ブレンダンは、マティルダがくれた組紐で、出征や外出の時は赤い髪を結っている。

しかし、屋敷にいる時は執務室の立派な机の一番上の引き出しの、鍵がかかる場所にしまってあった。

これはひとえに、愛しいマティルダお手製の、出征の時のお守りだと思っていたからこそである。


しかし、それだけではなく、恋仲や片想いの相手の無事や幸運を祈る意味があるとなれば話は別だ。

毎日、いや四六時中身につけても足りないくらいだ。

見えるところに飾るべきかもしれないと、ブレンダンは密かに思った。


(まずは花や菓子がいいとハイリンヒは言っていたな。あとで庭師に相談してみるか)


次の視察はいつだっただろう。

少し時間を作って、何かお礼の贈り物を用意しなければとブレンダンは思った。


結局、ブレンダンは夕方頃に、庭師に案内されて花を選ぶことにした。

庭師曰く、花は朝摘むのがいいらしく、翌朝、庭師が切ってくれるらしい。

春の優しい色の花をマティルダに贈ろう。

ブレンダンはそう思った。



*****



翌朝マティルダは、起こしに来た侍女から、小ぶりな花束を渡される。


「綺麗ですね。これはどうしたのですか?」

「旦那様からです。マティルダ様にと」

「え?急にどうしたのでしょうか」

「分かりません。庭師曰く、昨日の夕方、旦那様が自ら庭に出て、マティルダ様にとお選びになったお花のようです。それを今朝、庭師が切ったものを私が受け取りました」

「お兄様が……」

「初めての贈り物ですね。通常、婚約者には節目節目で贈り物をするものですから、もしかして何か進展などございましたか?」

「進展……」


マティルダは復唱した後、ぼっと赤面した。

明らかに何かありました感のあるリアクションに、侍女は瞠目して、思わず破顔した。


「よかったですね」

「えっ?いえっ、その、はい。ええと、これ、花瓶にいけてください」

「ふふ。かしこまりました」


使用人たちは、今度こそちゃんとしたブレンダンの婚約者がくることを祈ってはいた。

無論、ブレンダンが自ら積極的に探さないというのがそもそもの問題ではあるのだが、それにしたって、いかに家柄がよくても、最初の人は弱すぎたし、次の人は自由奔放すぎた。


3人目としてやってきたブレンダンの遠縁の女性マティルダは、これまでと違い、家格自体は高くなかったものの、媚びることも嘆くこともなく、飄々としていた。

そして、真面目で優しく、朗らかで控えめで、この人ならばと思ってはいた。


順当にいけば、数カ月後には、マティルダはブレンダンと正式に結婚する予定である。

使用人一同、ほっと胸を撫で下ろしていたところ、4人目と名乗る高位貴族令嬢ラウラローズが急に現れた。

しかも、4人目は最初の2人と違って、なかなかちゃんとしていた。


マティルダもそれを理解したのか、気を遣いつつもきちんと対応していて、どちらかといえばライバルと言うよりは客人や知人や対するような振る舞いで、とても親切にしていた。

ただ、マティルダは、ラウラローズがいないところでは明らかに元気をなくし、笑顔を失いつつあった。

ぼんやりしたり、悲しそうにしていることが増えた。

時には一人で部屋で泣いていたことにも、使用人たちは気付いていた。


だからずっと、この心優しいマティルダが、この先どうなるのだろうと気になってはいた。

しかしこの分だと、ブレンダンはマティルダの方を選ぶと決めたのかもしれない。


(進展ですって!?あったわよ。おおありよ。

ついに好きって……お兄様から好きって……キャー!

それに、ぎゅって抱きしめられて、初めてキスを……っ)


一方で、マティルダの脳内は大変忙しかった。

マティルダは一人で百面相をしながら、初めての口付けを思い出して身悶える。


(お兄様……ブレンダン様……だ、旦那様……?)


心の中だけで呼び方を変化させ、その響きの甘さにマティルダは身悶えた。

マティルダは、最初から割とブレンダンが好きである。

見た目が好みだ、からスタートしたものの、徐々にその好きは大きくなり、最近は、好きを超えて大好きになっている。

特にちゃんと両想いになってからは、物凄く大好きだ。


マティルダは、一人でによによしながらぼふんと枕に顔を埋めて幸せを噛み締めた。




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