IFルート:芽衣てんてーの合流が遅かった場合の優弥の顛末
(!)注意(!)
これは本編ではありません!
柏木先生が危惧していた『もしわたしがその場に居なかったら』世界線のお話となります。
ー佐藤優弥、お前を追放する。」
「なっ!なんでだよ委員長!僕は何か悪い事をしたのか!?」
「アァッ!?何が『悪いことしたのか』ーだ!!
ふざけんじゃねぇぞゴミカス野郎が!!」
ー僕の名前は佐藤優弥。
17歳の高校2年生だ。
ある日の授業開始直後、僕達は謎の光に包まれてこの異世界の王国へ召喚された。
そこで皆はまるでゲームの様な職業を付与され、勇者として祭り上げられた。
正直、僕は冷めた視点で見ていたさ。
だって、こんなの普通に誘拐だろう?
実際、最初の頃はクラスメイトの半数が怯えていたり泣いていたりしていたさ。
今はただ、従うしかないから諦めているだけ、それでもダメな数人は、部屋にひきこもっているけれど。
やる気があるのは現実を捉えられてない問題児や妙な義勇に駆られた委員長みたいなタイプだけ。
……まぁ、友達の榊原君に関してはゲーム感覚だけど。
まぁそうだよね、何しろ皆、そう、僕以外の皆はレベル50以上だなんてふざけた数字で、最初から【職業スキル】とやらを全習得した状態からスタートしてるんだからさ。
そんな中、僕だけがレベル1。
しかも職業は盾しか扱えない【盾使い】。
どこぞの英雄ゲームみたいに、円卓の騎士の力を持った少女とか、
どこぞのライトノベルの成り上がっていく盾使いの青年みたいな、
そんな凄い盾使いだったら、もう少しマシだったかもね。
でも生憎、僕はそんな凄い力なんか無い、ただの盾使い。
訓練でレベルは多少上がったけれど、そんな凄いスキルなんか覚えなくて、皆と比べたら全然弱い。
更に酷いのは『盾使いなんだからこれぐらい耐えてみろよwwwこれは訓練だwww』と毎日の様にボコボコにされているだけな事だ。
榊原君ですら目を逸らし、義勇(笑)に駆られたはずの一ノ瀬さんや大原君ですら僕を約立たずのゴミだからストレスの捌け口くらいにはなれとばかりに見て見ぬふりをする。
僕はクラスメイト共を恨んだ。
そして、こんな世界に連れてきやがった国王やこの国を恨んだ。
僕が何をしたってんだよ!!
日本に居た時も特に問題は起こさなかった!
このクラスにはこんなイジメなんて無かったし、担任の先生は親身になってくれていた!!
……唯一、罪があるのだとしたら、そんな担任の先生……芽衣先生に惚れてしまった事だろうか?
でも、だとしたら、それがこんな目に遭わなきゃならない程の罪なのか?
きっと、ここに芽衣先生が居たら、僕の味方をしてくれたかもしれない。
それで、『柏木先生が言うなら…』とアッサリ解決してくれたかもしれない。
クラス内で密かにアイドル扱いされてたあの芽衣先生だし………
本人は無自覚だけど、アイドルグループに居ても違和感ない程度には可愛い系の美人だし。
ともかく、そんな僕を、クラス委員長である神野や、その腰巾着共である熊田や猪頭が、
事ある毎に冤罪を重ね、執拗に排除しようとしてきた。
クラスメイト共は全員それを信じて、最早全員敵だった……
いや、2人だけ、相川さんと榊原君だけは冤罪を信じず、僕の事を心配してくれていたけど。
でもそれなら助けろよ。
心配するだけなら要らないんだよ!!余計に惨めになる!!!
どれだけ足掻いても、抗っても、僕の立場は悪くなっていき、そして今日………
ーテメェは死刑だな!クズ野郎!!」
「君を拘束させてもらうよ。佐藤。
やってくれ、音無、葉山。」
「分かりましたわ。【ハイ・グラビティ】!!」
「アガッ!?」
「光よ/悪しき者を縛れ/顕現せよ神の鎖!【シャイニング・バインド】。」
「うぐウッ…!」
詠唱破棄の重力魔法が避ける間も無く発動し、地面に這いつくばされ、
更に光の鎖に拘束された僕を見て嘲笑する猪頭。
「ハハハッ!無様だなぁ佐藤!!」
「ぐ……がが……猪頭ぁぁ…!」
そんな僕を、神野は、クラスメイト共は、汚物を見るような目を向けてくる。
「フン…君の様な協調性の欠片も無いような奴はこのクラスには要らない。
即刻、この城から出て行ってもらおう。」
「神野…!お前に…!何の権限が…!」
「儂が許可したに決まっておろう。」
「…!国…王…?」
「貴様、勇者の癖に全く使えぬでは無いか。それだけならまだしも、この者たちとの和を乱し、身の回りの世話をしてくれている従者達にも酷い仕打ちをする始末。
貴様の様なクズが勇者を名乗る資格は無い。
潔く出てゆくが良い。」
「なん…だと…?」
「どっかで野垂れ死んどけって事だよカスw」
「まぁ、女子やメイドに手を出そうとして毎回失敗する様な君のその足りない頭では理解できないかもしれないが、
君はやり過ぎたんだよ。佐藤。」
「俺の美樹にまで手を出そうとしやがってよォ!この猿がァァッ!!」
「うぐぁっ…!」
味方には効果が無いのか、重力と鎖で地面に縫い付けられていた僕を熊田はアッサリ掴み、投げ飛ばしてくる。
ここまで全て、防御力の高さからか、痛みは無い、が、衝撃はあるし肺の中の空気は抜ける。
そして、敵である僕を対象に発動している魔法は、再び僕を地面に縫い付けてきた。
うつ伏せに縫い付けられた僕の頭を足蹴にしてくる神野。
「そうだな、君の様なクズには死よりも苦しい罰が必要だ。
厄介な事に、君は簡単には殺せない訳だしな。
……国王陛下。」
「…なんだね?」
「コイツを魔王城に送ってやってくれませんか?
仮にも勇者…モドキですので少しは役に立ってもらわないといけませんよね?」
「おおそうだな!よし、魔術師達よ!!
罪人を魔王城の刑に処せ!!」
「なっ…!?やめろ…!やめろぉぉぉ!!僕は何も悪くないっ!!何もやってない!!」
「黙れクズ。
お前は調子に乗り過ぎたんだよ。」
「そうだゴミカス野郎!!
魔王を倒してもテメェは日本に帰る権利なんかねぇよ!!だから死ねや!!」
「生きたまま魔物に食われて死ねないまま苦しめバーカwwwうひゃひゃ!
ウヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャwww腹いてーwww」
「殺れ!」
『【転移術式・魔王城】起動!!』
「やめー
ーろぉぉぉっ…!」
そして、僕は。
たった一人で見知らぬ場所へと飛ばされてしまったのだった。
本当に……本当に………勝手な奴らだ。
冤罪を重ねて、勝手に敵にして!!
僕のスタートがただのレベル1の盾使いだったからって!!!それだけの理由で!!!
「クソッ…!くそォォォッ!!!
何でだよ!?何で僕が!!ふざけるなぁぁぁ…!!!!」
……術者から離れたからなのか、単に時間切れなのか、重力魔法と鎖は解けていた。
だから僕は感情のままに、力任せに地面を殴り、慟哭する。
魔物が寄ってくる、とか冷静な頭の片隅で理性が警告するが、もう。どうでもよかった。
どうせ、僕はもう、助からないのだから。
そう、思っていた。
「……佐藤君!?もしかして貴方、佐藤君よね!?」
この世界で聞こえるはずのない声が聞こえるまでは。
「良かったぁぁ…!やっと知ってる人に会えた!!」
「……柏木…先生…?」
「そうだよ!わたしは貴方の担任教師!柏木芽衣先生ー!!
あぁ良かった……本当に良かった……1人でこんなネトゲみたいな世界をウロウロしてたから怖くて怖くて……!」
温かかった。
皆から冤罪で嫌われ、追い出された今の僕に。
安心して泣きながら、芽衣先生が抱きついてくる。
ただでさえ、そもそもが好きな人である芽衣先生。
普段は明るくて優しくて頼りになって皆から好かれる人気者の芽衣先生。
そんな先生が、僕を嬉しそうに抱きしめて、頬擦りまでしてくれる。
この世界に来てもう1週間は経っているから、多分その間、先生は1人でここをさまよっていたって事になる。
よく見れば服はボロボロ、髪もボサボサだ。
極限だったんだろう。
だから、堪らずに僕も芽衣先生を抱きしめた。
「先生…!」
「佐藤君…!」
しばらく2人で抱き合い、お互いの温もりを確かめ合った。
それから、おずおずと芽衣先生は僕から離れた…手は繋いできたけど、好きな人で信頼できる芽衣先生だから僕は構わず握り返した。
「ところで佐藤君、他の人達って居るのかな…?」
「居ないよ、僕一人だ。」
「そ…うなんだ…
頭では担任教師として自身の教え子の安否を気遣っているという事は分かっている。
だけれど、僕に冤罪をかけて追い出したあんな奴らを心配して欲しくなかった。
だから僕は真実を話すことにした。
「芽衣先生、その、他の皆の事なんだけどー
僕が話終えると、芽衣先生はまた泣きながら僕を抱きしめてきた。
「ひどい…!酷いよ皆!!
佐藤君の話を聞かずに一方的に悪人に仕立て上げるだなんて!!」
「…先生は、僕を疑わないの?」
「なんで?ここで君がわたしに嘘をつくメリットって何かある??」
「少なくとも先生を僕の味方に出来るよ?」
「あはは…わたし一人を味方にしたって何にもならないよ〜♪
きっと皆、わたしが貴方に騙されてるとか言うんじゃないかな?」
うん、本当に無自覚だね?この先生…
まぁ、確かに?神野一派はそう言うだろうけど、
だとしても芽衣先生の一声はクラスメイトの大半を動かせるだけの魅力があるんだけど??
同時に『芽衣先生が言うなら冤罪ってのは本当の事じゃないのか?』って疑問を植え付けれるだけの力はあるよ。
今まで親身になって接してきた分皆から信頼されていて、見た目も中身も可愛いくて優良な先生なんだからさ。
まぁ、だからこそ、僕がそんな嘘つきで強姦未遂魔じゃないって理解もしてくれたんだけど。
「ともかく、貴方はもう城には戻れないのね?」
「うん、城じゃあ僕は戦犯だからね。」
「そっか…ならこんな世界、救わなくても良いし、生徒達もお灸を据えるって意味で見捨てるよわたし。」
「えっ…?」
「わたしと2人だけで帰ろっか、日本にさ。」
「えっ??」
「実はわたし、魔王さんとバトって仲良くなったから【送還術】を教えてもらえてね?
もう使えるのよ♪
だからその力で生徒達を見つけて送り返そうと思ってたんだけどね?
やーめた!
佐藤君一人をそんな風に皆で責め立てるような悪い子達にはお仕置だよ!まったく!!」
「でも、それじゃあ……他の人は……
いや、でも先に僕を殺す為にこんな所へ飛ばしたのはあいつらだし、だったら勝手に勇者気取ってろって思うな。うん。
「別にいっか。」
「そーそー♪だから帰ろ?」
「うん。もういいやこんな世界。」
「はいはーい♪じゃあ帰りましょ?」
こうして、僕は芽衣先生と2人だけで日本へ帰還した。
僕も芽衣先生もボロボロだったからか、2人だけで帰ってきても世間は同情的だった。
ちなみに、それ以降皆が帰ってくる事はなく、日本に戻ってきた芽衣先生に再び異世界に渡る力なんて無くて、
1クラスが集団で誘拐された前代未聞の事件は当事者の親以外の人々の記憶からは風化して行った………
その後の僕はと言うと……
「ーあぁ、そんなこともあったね、芽衣。」
「わたしは、今でも後悔しているよ…魔王さんとの一騎打ちで疲れていたとか、孤独だった時にゆーくんに出会えた事とかでおかしなテンションだったとは言え、教え子を異世界に置き去りにしちゃったんだもの。
そんなわたしが教師だなんて………もう出来ないわ………
…………ごめんなさい………ごめんなさい…………皆…………
「大丈夫だよ、芽衣。
芽衣は間違ってなんかないしあれは仕方がなかったんだよ。
それより、僕だけでも連れ戻せたじゃないか。」
「そう……そうよね…?優弥は居るものね??
優弥は居なくならないよね?ねっ??」
「勿論だよ、僕はずっと一緒に居るからね。」
(うん、そうなると職は在宅ワークだね。)
日本に帰ってきて、日常に戻ってからは二度と異世界に飛べないと知った芽衣は、罪悪感から壊れてしまった。
そして、教師も辞めて家に引こもる様になってしまった。
そんな芽衣を支える内に、当事者の1人であり、当時何が起こっていたのか全てを知っている共犯者(?)でもあるからか、僕に依存する様になった芽衣と恋仲になり、大人になって僕が働き始めてから結婚した。
そうして芽衣を甘やかす内に、芽衣は完全に僕に依存し、僕の事だけを考える様にする事で自分の心を守る様になって行ったんだ。
「いい子いい子…ゆーくんは働き者ですねー♡」
「芽衣…。」
「なぁに?ゆーくん♡」
「いや、今日も芽衣は可愛いね。」
「あっ…うふふ♪ありがとう♡」
僕が頭を撫でると、嬉しそうに笑う芽衣。
まるで教師だった頃の様に明るく振舞っているけれど、
もう芽衣はあの頃の芽衣では無い。
自分が高校教師だった事も、実年齢が僕と7つも離れている事も忘れている。
今の芽衣は、自分の事を高校生の時に僕と同じクラスの生徒で恋仲となり、大学卒業後に恋人の僕と結婚したと自己暗示をかけていた。
「あれ…?でもわたし、教育課程を受けて教員免許も取ったのに、なんで学校の教師として働いてないんだろ………
「ははっ、僕が働かないで家庭に入ってって頼んだら、それを芽衣も受け入れてくれたからじゃないか!」
「あっ、そうだったかな?
も〜ゆーくんってば強引だよね♡
でもそれが出来るだけの甲斐性があるんだから好き〜♡」
「ははは。でも、結婚して落ち着いてからはなんだかんだ教師はしたいって言っていたから最近は僕が紹介した同じ会社の人達の娘さんへの家庭教師のバイト、してるでしょ?」
まぁ、元々堅実に行く質だったからね、安定した職につけて本当に良かった。
芽衣は【教師】の職自体にトラウマが出来た訳では無いのか、(自己暗示で表面上は)正気に戻った今は家庭教師として働いている。
まぁ、女の子相手に限定しているけど。
引きこもっていた間の事も綺麗さっぱり僕に甘やかされていた充電期間として美化されて上書きしているからね。
「ゆーくんって昔から本当に頼りになるよね〜♪
そんなゆーくんと結婚出来て良かった♡」
「僕もだよ、芽衣。」
まぁ、今でもたまに、夜寝ている時に真実を思い出して発狂しちゃうけどね。
そんな時はキスで口を塞いで、僕に意識を向けさせて、ヤッて、疲れさせてあげて寝かしつけている。
ははは、ざまぁみろよ、僕を追い出したクラスメイト共。
僕は追い出されたお陰で、日本に帰れたし芽衣も手に入れた。
お陰で毎日が幸せだよ……はは……ははははは!!
~IFルート:HAPPY END…?~
という訳で。
はい、メリバですねコレ。
佐藤クンは幸せそうですけど。
芽衣サンも(表面上は)幸せそうですけど。




