表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

異世界恋愛モノ

愛しの弟を毒親から守るために、やられ役になります。

作者: さんっち

趣味は創作小説投稿、さんっちです。ジャンルには広く浅く触れることが多いです。


ざまあ劇とかを計画して実行するのって、滅茶苦茶大変そう。でもそこまでするのは「自分のため」だったり、「誰かを救いたい、という自分の願い」だったり。



「アンジュ・ギルガード、及びギルガード伯爵夫妻!お前たちを聖女騙りと、真の証を持つ者への冒涜で、身柄を拘束する!」



とりわけ強い魔力、聖なる力を得た者、いわば「聖女」任命式の会場。大勢の前で叫んでいるのは、この国のルーイ王子。ついさっきまで聖女だと思われていた私、アンジュ・ギルガードの婚約者。でもこの瞬間、その関係は消えた。私が偽装と冒涜をしていた、犯罪者だと明らかになったから。


あぁ、ざまあ展開お決まりの場面。私はようやく辿り着けたんだ。兵士から強引に腕を掴まれる痛みも、達成感を感じる今はもう感じない。あ、両親は世界の最後並みに騒いでるけど、私は面倒だから睨むだけにしておこう。


アッシュ・・・家族と認められず、ずっと搾取されてた双子の弟。1人残される彼を、私は悪役として睨まなければいけない。でも弟を守れた満足感と、今までの扱いの酷さに後悔する顔が、どうしても顔から漏れ出してしまった。


ごめんなさい。


どうかこれからは、幸せにね。






ーーー夏の赤い月の元に産まれた、紅玉の瞳を持つ子供こそ、聖なる力を得る。


ーーー聖なる力を得た者は、齢10を迎えた頃、体に太陽の紋章が浮かぶ。


ーーー聖なる力を得た者は、王族に招き入れられて、共に国を加護すべき。



そんなお告げが出ていた夏の赤い月に私、アンジュ・ギルガードは産まれた。紅玉のように赤い髪と瞳を持っていたから、両親は「この子が次の()()に違いない」と喜んでた。高級なお酒を開けて、随分騒いでたな。うるさくて眠れなかった。


え、どうして赤ちゃんの頃の記憶があるのか?だって私は現代日本からの転生者、産まれた瞬間から意識と物心があったからね。平凡な人生を終えた普通の女。転生モノはそれなりに読んでて、状況は理解できた。受け入れるまで、時間はかかったけど。


で、その影に隠れて産まれていたのが、双子の弟アッシュ・ギルガード。黒髪に赤い瞳の男の子で、誕生を喜ばれた私と真逆で「余分な子」扱い。両親は私ばかり可愛がり、アッシュは無いモノ扱いしていた。産まれた瞬間から、双子の姉弟で差を付けるなんて・・・とにかく辛かった。


それに加えて、今世での両親は金の亡者。浪費癖のせいで、伯爵家はいつもギリギリ。だからとにかく、私を聖女にしたくてたまらなかったらしい。聖女になれば、膨大な報酬金が国から出るからね。


前世の価値観がある私は、子供を金稼ぎの手段と見る両親を、どうしても好きになれなかった。その分、弟のアッシュが大好きだった。弟はずっと部屋で1人、本ばかり読む根暗な性格だけれど、私より勉強も魔法も出来る。だからいっぱい褒めてあげた。一緒に本を読んだり、1人分のおやつを分け合ったり、とにかく一緒に楽しい時間を過ごすよう心がける。


「その、アンは僕と過ごして良いの?お父様かお母様に怒られてない?」


「え、どうして?」


「だって僕、余分だから・・・あの時産まれるのはアンだけで良かったって、お前はどうでも良いって言われてるから」


嘘でしょ、「アンタなんか産まなきゃ良かった」って言ってんの、あの親!?ぐぬぬと湧き出る怒りを抑えながら、アッシュの暗い気持ちを振り払わせようと話す。


「アッシュは余分じゃないよ、むしろ一緒に産まれてくれてありがとう。私にとって何にも代え難い、大切な弟だよ」


アッシュは驚いたような顔をしてたけど、エヘヘと笑ってくれた。うん、それで良いんだよ。聖女のお告げとか関係ないの、貴方は産まれてきて良いんだよ。表だってそう伝えられない代わりに、信頼している証でアッシュの手を包み込むのがお決まりになった。


だけど私たちが10歳を迎えた時、思ってもいないことが起きてしまう。お告げ通りの太陽の紋章が、左手の甲に浮かび上がったの。


私じゃなくて、弟のアッシュに。


家中が混乱した、聖女の証が男の子に浮かぶのか?って。でもよくお告げを見れば「聖なる力を持つ者」ってだけで、性別は限定していないじゃない。両親が勝手に思い込んでいただけなのに、「どうしてお前なんだ!」と2人揃ってアッシュを怒鳴りつける。


「クソッ、双子のお前さえいなければ、アンジュが何事も無く聖女になっていたというのに!どれだけ親不孝なんだ、不吉な見た目をして産まれてきおって!!」


「そうよ、アンタのせいで全部台無しよ!せっかく王子がいるから、アンジュを聖女にさせて彼と婚約させれば、より多くの資金が手に入ったのに!!」


あぁ、もうダメ。両親は人間として終わっている。産まれることなんて、産まれる本人が決められるわけじゃないのに!そう文句でも言ってやろうとしたら、父はコップをアッシュの目の前で叩き割り、こう言い放った。



「貴様のような親不孝者を、息子などと認めるか!お前の生きる理由など1つ、アンジュを聖女に()()()()()()。使用人として隣に付き、永遠に影に徹しろ!!ここに置かれているだけ、ありがたいと思うんだな」



当主である父の言葉は、全て決定事項。アッシュは震えつつも、頷くことしか出来ない。私の反対も、全く聞き入れて貰えなかった。両親も使用人たちも部屋から去って行って、残ったのは私たち双子だけ。静かに泣くアッシュを、慰めることしか出来ない自分が辛い。


「ごめんなさい、ごめんなさい・・・。アンに証が浮かべば、皆は喜んでたのに。双子の弟なんかの僕が、奪っちゃったんだ」


「やめてアッシュ!そんなことないよ、皆は自分勝手に思ってるだけ。酷いのは向こうなんだよ、アッシュは何も悪くないの」


「ねぇ、お願い・・・何でも言うことを聞くから。アンの隣に置かせて」


ダメね、もうアッシュは父の言うことを受け入れてる。私の影になることを受け入れてる。ならこの関係を保ちつつ、アッシュを守るしかない。震えた涙声で喋る弟の手を、そっと優しく包んであげる。


「・・・今から2人は“共犯者”だよ。だから辛かったら、何でも言ってね。私はずっと、アッシュの味方だからね」


私たちは共犯者。私が選ばれた聖女として振る舞い、アッシュが影で代わりに力を使う。この関係がバレないよう、世間には徹底して隠し通す。同時に2人の約束を、両親に隠しながら。




あれから8年近く経って、私たちは貴族学園に通っていた。私は左手に太陽の紋章の偽物(タトゥー)を入れて、選ばれた聖女だと誤魔化している。アッシュはその隣、学生兼私の使用人として、荷物持ちやら下っ端をやらされていた。紋章を隠すように、両手に真っ黒な手袋をして。


周囲は「見て、アンジュ・ギルガード様よ!」「今日も一段と麗しい聖女様ですわ」と、私の雰囲気を褒める声。それと同時に「なに、あの使用人?黒髪赤目で不吉ですこと」と、アッシュを馬鹿にする声。


「そこの方、人を見た目で侮辱するのは良いことですか?」


侮辱の声に私が威圧感を持って反応すれば、呆気なく押し黙るけど。


「アンジュ、君はなかなか芯がある女性だね。さすが聖女に選ばれただけある」


そう言ってくれたのは、同級生で私の婚約者に決まったルーイ王子。私に太陽の紋章が浮かんだと広まれば、半年後に婚約者となった人。彼の人柄も良いから、本当に罪悪感が半端ない。


「いえいえ、そんな恐れ多い。貴族として・・・いえ、人として真っ当な忠告をしているに過ぎません」


「いや、それを公言できるのは素晴らしいよ」


学園卒業後、すぐに結婚する約束になっている。既成事実さえ作ってしまえばコッチのモノ、ってあの毒親は言ってたけど・・・なんかなぁ。半年後に迫った卒業式直後の任命式で、私は正式に聖女になる。今は慣れるために、少しずつ執務に取り組んでいるけれど・・・日に日に罪悪感は増すばかり。



ーーー聖女アンジュ様、本日もよろしくお願いいたします。


ーーー教会での治癒作業、あれほどの怪我人を相手するのは、さぞかし大変だったでしょう。ですが皆様、喜ばれておりましたよ。


ーーー干ばつに襲われた近くの村々にて、枯れた川を蘇らせたり、干からびた土壌を潤わせたりと、素晴らしいご活躍でした。本当にありがとうございます。



私も一応魔法は使えるけれど、その力はアッシュの足元にも及ばない。私の聖女の功績は全て、弟のお陰で成り立っているの。大変なことは全部アッシュがやっているのに、敬われるのは、労れるのは、褒められるのは、いつも私。


私はずっと、色々なモノを騙して生きるしかないの?そう思っていて、ぼぅっと王子とのお茶会をしていたら・・・バタン!と聞こえた音。気付いたときには、汗だらけのアッシュが倒れていたの。


どうやら今までの過労が祟って、体調を崩してしまったらしい。でも私についているのが当然だと、無理してしまったみたいで。急いでお茶会を切り上げて、屋敷に戻って自室で休ませる。どうして無茶したの、とは言わないでおいた。返ってくる答えは、分かりきっていたから。代わりにそっと、アッシュの手を包み込む。


「アッシュ、何か果物持ってくるね。確か林檎があったはず」


「良いの?ありがとう・・・」


弱々しい返事で不安になりつつ、私は厨房に向かう。その途中・・・大きな部屋から聞こえてきた、両親のバカ騒ぎ。おそるおそる扉の隙間から覗き見ると、たくさんの見知らぬ貴族が呼ばれた、パーティの最中だった。



「いやぁ、まさかギルガード伯爵家から聖女が出るとは。お陰で報酬金もガッポリ貰えて、こうして希少な酒が山ほど飲めるとは。ささっ、皆さん好きなだけ飲み食いしなさい!」


「ねぇ見てよ貴方、素敵な宝石でしょう!最近流行りのデザインなんですって。あとでアンジュにも幾つかあげましょうか、とても喜ぶわよ」


「いやぁ、我が家も聖女のいるお宅と繋がれて万々歳ですよ」


「ですがギルガード伯爵、今月に入ってパーティも5度目ですぞ?太っ腹ですな」


「なぁに、そろそろアンジュが学園卒業だろう。そして王子と結婚する。その時の祝い金で、またガッポリさ」



(・・・・・・!!)


気付かれないように、部屋の前から走り去るので精一杯だった。後や厨房に誰もいないことを確認して、ゆっくり扉を閉める。黙々と林檎を剥いていたけれど、やっぱりさっきの光景が粘ついて離れなかった。


あの親は、自分たちの利益しか考えないんだ。アッシュの新しい衣服や欲しい本にはお金を渋るのに、自分たちの豪華な食事や宝石は簡単に大金を出す。アッシュには労いすらしない、それどころか出来損ないだからもっと稼げと強要してくる。


大切な弟は・・・あんな毒親のために生きるの?動揺でボロボロになった剥き林檎でも、気にせず食べてくれるアッシュを見ていれば、さらに胸は苦しくて。私はどうすれば良いの?このままで良いの?その日の夜、枕を濡らしながら考えていた。


(そんなの嫌・・・自分ならともかく、弟が搾取されて弱っていくのを見殺しにするなんて。そんなので苦労せずに生きるくらいなら、明日にでも偽聖女だとバレて捕まった方が・・・)


そう思った瞬間、ハッと気付いた。そうだ、私の立ち位置・・・悪役じゃない?主人公を好き勝手利用して、最後は暴かれて断罪される“やられ役”じゃない!だったら、そうなってしまえば良い。私の偽聖女さえ明らかになれば、あの毒親もおじゃんだ。


でも私は悪役、騙せているフリをしなければいけない。ざまあ展開お決まりの場面にするには、私の不正を誰かに気付かせて、気付いた者の手によって断罪される必要がある。そして同時に、アッシュには気付かれちゃダメ。きっと私のすることを知ったら、心優しい彼は必死で止めに来てしまうから。


社交界は悪い噂ほど広がりやすい、その特性を利用させてもらうわ。私は他の貴族のフリや紙面上で素性を隠して、匿名の情報を広め始めた。



【魔力測定では、アンジュ・ギルガードは平均ほどの力しかない。彼女の使用人の方が、何倍もの力を有する】


【聖女で発せられる力は、アンジュ・ギルガードの属性と違う。彼女の使用人の魔力と属性が同じだ】


【薄れるはずのない太陽の紋章が、アンジュ・ギルガードの左手には薄れている。彼女の使用人は手袋をしているが、似たような跡が見られる】


【王家との婚約で、アンジュ・ギルガードをはじめ伯爵家は豪遊している。だが使用人たちには、一切還元されていない】



私の聖女の地位を揺らがし、使用人であるアッシュが何か関係があると示すモノばかり。都合の良い情報しか入れないあの家は、そんなこと微塵も知らないけど。急速に広がった悪い噂は、遂にルーイ王子の元に届いたらしい。もしものことを危惧して、王家は調査を始めたとも聞いたわ。そりゃあ偽聖女を王族に入れたら不名誉だもんね。


そして・・・遂に彼らは、真実に辿り着いてくれたの。



「アンジュ・ギルガード、そしてギルガード伯爵家!よくも我らを騙し、真の選ばれた者を冒涜してくれたな!!」



任命式の会場、着飾った私に対してルーイ王子がそう糾弾した。そして次々に、()()を明かしていく。私の魔力と聖女における魔力は一致せず、さらに左手の証も魔力を発していないことから、偽物であると判明した。それを聞いた両親は、真っ青な顔で震えている。いい気味ね、まぁ私も一応同じ立場だけど。


「しかし王子、アンジュ・ギルガードが偽聖女であることは判明しましたが・・・では、今までの力はどうやって?執務における魔力自体は、かなり確認できましたぞ?」


神官の問いに、ルーイ王子が自信を持って答える。よかった、全部分かってくれてるのね。これで・・・アッシュが認められる。


「ここからが本題だ、真の選ばれた者は・・・彼女の後ろにいるアッシュ・ギルガードなのだ。彼の魔力が、今までの執務で使われた魔力と一致したとの報告を受けた」


バッと全員が、アッシュを向いた。彼も、何が起きているか理解できていないみたい。


「伯爵家を調査した結果、元使用人からの証言から、彼はアンジュ・ギルガードの双子の弟だと判明した。だがアンジュだけを愛した伯爵夫妻により、無下に扱われたと聞く。そして彼に太陽の紋章が浮かんだ後、アンジュ・ギルガードを聖女に仕立て上げるよう脅迫したそうだな!


その手袋の下にこそ、太陽の紋章がある。アッシュ・ギルガード、証明として手袋を取ってくれないだろうか」


思わず左手を右手で掴む彼だけど、ここで隠されちゃ計画が崩れかねないから。私はヤケクソになった悪役令嬢を演じて、無理矢理その手袋を外した。


「アン!?」と叫ぶアッシュの左手から現れた、本物の太陽の紋章。偽物と違って、確実に魔力を発している。これで周囲は完全に、王子の言うことが真実だと分かったみたいね。両親が何か騒いでるみたいだけど、もう無駄よ。間違いないと神官がさらに信憑性を高めてくれたし。



「アンジュ・ギルガード、及びギルガード伯爵夫妻!お前たちを聖女騙りと、真の証を持つ者への冒涜罪で、身柄を拘束する!」



・・・・・・終わった。ようやく、終わったんだ。私の計画は、無事に成功した。周囲のざわめきも、毒親の悲鳴も、兵士に掴まれる痛さも、何ともない。こんな悪人の私を、心配そうな表情でアッシュが見つめてくる。


今までごめんなさい。これでようやく、貴方を救える。


どうかこれからは、自分が本当に好きなモノを見つけて。幸せにね。




窓がないから、光も音も入らない独房。まぁ罪人を入れるだけの場所なんて、これで良いのか。あの断罪から大分経って、色々聞いた話もある。


今回の悪事を受けて、ギルガード伯爵家は取り潰し。あの毒親は貴族身分を剥奪されて、長い牢獄暮らしになるらしい。まぁ当然よね、聖女騙りを企てて真の選ばれた者を侮辱したんだし。アッシュの力は認められて、彼は王族に招き入れられた。王子には妹王女がいるって聞くし、きっと彼女と婚約するんだろうな。王家の人は常識もあるし頼りになるから、きっと大丈夫でしょう。


私は罪人、ここで一生を終えるか処刑かな。前世と比べて、短くて濃い人生だった。でも悔いはない、大切な弟を救えたんだから。アッシュ、今はどうしているのかな。まぁ傷つけた本人が、容易く思うなんて許されないでしょうけど。


ふと、コツコツと聞こえた足音。看守かなと思ったけれど・・・格子の向こうにいる人物を見て驚いた。


「・・・久しいね、アン」


「アッシュ・・・」


もう私は家族じゃない、そもそも犯罪者だし。今更どうしたのかなと思った瞬間、ガシッ!と鈍い音を立てて、アッシュは格子を掴んだ。


「何で・・・何でアンだけ、犯罪者扱いされるんだよ!だって僕たちは“共犯者”だろ!?」


共犯者・・・そういえば、ずっと前に言った気がする。アッシュが私の影になるよう命じられたとき、2人だけで誓った約束。でもそれは、2人にとって合意じゃなかった。日に日に私だけが得をするようになって、すっかりその考えを捨てていた。


「でも、私が貴方を苦しめたのは事実。貴方の手柄を全て奪い、何の苦労もせず、聖女として名誉も地位も手に入れてしまった。こうなるのも当然よ」


「何を言ってるんだよ!僕はアンがいたから、あの扱いにも耐えて来られたんだ。1人ぼっちだった僕をいつも気に掛けてくれたし、不吉な見た目だと馬鹿にされても庇ってくれたし、何か合っても味方でいてくれた。


なのに・・・あの家から僕を救うために、自分まで犠牲にするなんておかしい!いくらこれから富や地位を得て幸せになれたって、ここでアンを犠牲にしたら一生後悔する!!


だから、言ってやったんだ。アンに処罰を与えるのなら、僕にも全く同じ処罰を下さいってね」


え!?と思わず間抜けな声が出てしまった。同じようにガシッ!と鉄格子を掴んでしまう。


「そんな、貴方は被害者なのよ!?ずっと私たちが縛り付けて、沢山傷つけてきて、挙げ句の果てには搾取して・・・それなのに、どうして!?」


その瞬間、私の手がギュッとアッシュの手に包み込まれた。こんなに汚れた手を、どうして・・・?でもこの感触、今までずっと私がしてきたことだ。



「・・・アンが、好きだからだ。誰よりも、ずっと。あの世界で、ずっとアンだけが生きる光だった。それを、こんなことで失いたくないんだ!!」



ポタポタと、手に落ちていく涙。アッシュは本気だ、本気で私を失いたくないと願ってくれる。アッシュを幸せにしたい、それは今も変わらない。そして、私自身も・・・本当は、ずっと前から分かってた。


「・・・ありがとう、アッシュ。私も、貴方が好きよ。貴方がいたから、貴方を守りたいと強く思ったから、こんな無茶だって出来たの」


それが姉弟愛か、友愛か、それとも・・・後で考えることにしよう。ようやく言えた本心は、不思議と恥もためらいもなくて。今まで縛られていた何かに、ようやく解放された気がしたの。


格子越しで触れた彼の手は、私よりずっと大きくて、今までよりもずっと優しかった。





森に囲まれた村は、最近起きた山火事の復興途中。そこにやって来た、王家の紋章付きのローブを纏う魔法使い。彼が授かった聖なる力で、植物は芽吹き、小川は潤い、空気も澄んでいく。


「あ、ありがとうございます!これでようやく、この村で暮らせます」


村人からの感謝やこれからの生活物資を受け取りながら、魔法使い・・・アッシュは村を出る。その少し後ろ隣で、白いローブを纏う従者・・・私アンは後に続く。


聖女騙りをした私と、それを自らの意思で共謀したとされたアッシュに告げられた判決は、無期限の奉仕活動だった。国中を周って町や村を転々としつつ、滞在する地域で魔法を使っていく。拠点はないけど魔法があれば生活出来るし、行く先々で感謝されるからやりがいはあるの。


「僕、今の方が幸せだよ。誰にも邪魔されずに、アンといられるから」


そんなコト言われて、ギュッと恋人繋ぎされた。なんだかあれ以来、アッシュは随分積極的になった気がする。人前では静かだけど、2人だけだと甘えてくる。今までの反動かな、なんて思っちゃうけど。


アッシュ、罪人の私はあくまで従者ですよ!というか、双子の姉ですよ!そう言いたいけど、今はこうしていられることが嬉しくて。私も自然と笑顔になってしまう。


この旅での約束は1つ、守るために自らを犠牲にすることを出来るだけ避けること。私たちはそれで何度も、互いに不安にさせてしまったのだから。これからは一緒に、沢山のことを乗り越えていくんだ。


今は終わりを考えていない。アッシュと一緒にどんな道を歩むのか、それを考えるのが楽しみの一つだから。


fin.

読んでいただきありがとうございます!

楽しんでいただければ幸いです。


お知らせ:8月いっぱいは小説投稿を休みます。活動整理やら色々したいので。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 表向きの真実とはいえ、救うつもりで大騒ぎに裁いた王子は、救ったはずの相手から自分も裁けと言われてどう感じたのでしょう。 弟からしたら、これまでの絆も苦労も何も知らない外野から一方的に騒…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ