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急に視線を合わせ、睨んできた青山に千川は少し驚き、手首を掴む力が緩む。

その隙に、勢いよく千川を押し倒し、さっきと形勢逆転する青山。

千川に馬乗りになり、手首をキツく掴む。無表情に千川を見下ろすと、その顔はどこか笑みを浮かべているようで、この場に似つかわしくない。それは余計に、フォークとしての僕を駆り立てるのには十分だった。

「お前、僕に食い殺されたいの?僕はフォークで、お前はケーキだった。死んでたかもしれないんだぞ?」

「美味しかった?」

「……は?」

「俺、甘かった?タブレットなんて意味ないくらいに甘かった?」

なぜ、タブレットの存在を知っているのか驚いた。これは症状が出たフォークが貧血という名目で病院から支給されるものだ。多くのフォークは殺人鬼予備軍として恐れられるため、存在を隠している奴がほとんどなはず。それにフォークの割合は人口の一割にも到底満たないと言われている。

「っな」 んでと口にする前に不敵な笑みを浮かべた千川に遮られる。

「いいよ」

「え?」

「だから、食べてもいいよ。俺のこと。あ、でも痛いのは嫌だな、殺されるのも。まーいざとなったら、これがあるけど」

そういって、いつの間にか拘束が解けた手で千川はポケットを探る。

そこから出てきたのはケーキ用対フォーク麻酔だった。

……ケーキはフォークよりも少ない。それでいて自覚できる確率も少ない。

それなのになぜ、そんな希少なものを持っているのか。

技術が進んだといっても、まだフォーク予備軍やケーキを検査で事前に探し出すことはできない。それにケーキを自覚した奴に無事だったものは少ない。

「なんでこれを持ってるか気になる?でも内緒」千川はフッと笑う。

「俺、人と関わることなく本を読んでいる青山が、どこか寂しそうな目が、ずっと気になってた」

なんだか心臓の音がうるさい。

「だからあの時、びっくりしたけど怖くなかった。むしろ、ちょっと嬉しかったのかもしれない。青山の素顔を見れた気がして」

思いもよらなかった千川の言葉は、僕を馬鹿にしているわけではないだろう。

でも、どうしてそんなに簡単に自分の命を差し出すのか。期待する本能と理性でぎりぎりと拳をきつく握りしめながら「お前、何言ってるのかわかってるのか?!」

と声を荒げつつも、ごくりと喉を鳴らす。

「だからさ、二人だけの秘密。俺のこと美味しいと思ったならあげる」

そういって千川はニッと舌を出し、腕を広げ僕のことを迎え入れる。

その瞬間口元にたらりと唾液が流れ、さっきまで考えていたことはぶっ飛び、千川の舌に噛み付いた。

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