32.いざ森の奥へ
朝日がまぶしい早朝にアーサーは一人、動きやすい軽装に身を包んで村長の部屋から出た。今回は森の中に入ると言う事で、ケイには内緒だ。
ふふふ、極ウマ鳥よりも美味しい鶏肉を食べれるって言ったらケイは喜ぶだろうな。
鼻歌交じりで森を歩く。本来であれば、王族な上に戦いの心得がたいして無い彼が魔物の住む森に入るなんてことはありえないし、危険だと思っているので近づこうともしないのだが、強力な治癒能力を持つアーサーは完全に自分の力を過信していた。
魔物に襲われてもダメージを負わないし、治癒すればいいだろ。程度の認識である。ここで彼の世間知らずが悪い意味で出てしまった。
「確か森の奥の湖で騎士達は襲われたんだっけな……」
昨日の宴会で聞いた情報を参考にして、彼は森を歩く。五分ほど進んだ時だった。
ざわざわ ざわざわ
と何かが周囲の木々が揺れているのに気づく。何かが彼を囲んでいるようだ。
「ゴッブゥゥゥ!!」
どこか間の抜けた泣き声と共に姿を現したのは緑色の人型の魔物であるゴブリンだ。不格好な木製のこん棒を片手に五人のゴブリンは警戒しならがらもアーサーを囲む。
少しすばしっこいが、力は子供と大人の中間くらいであり、成人男性ならば一対一では負けはしない最弱の魔物である。
「ふははは、ゴブリンごときが俺の食への渇望を邪魔をできると思うなよ!! あっぶね!!」
にやりと啖呵を切ってからアーサーは慌てて飛んできた小石をよける。反撃をしようと剣を構えると途端に距離をとってきやがった。
やっべえ、冷静になったら俺って戦えるのか?
一応護身用に剣は持っているし、最低限は習った。だけど、ここ数年は訓練もしていない。森の主とやらはどうせ、鳥だから近付けば何とかなるだろうと思ったが、こんな風に遠距離からいたぶってくるのは想定していなかった。
「ゴブッゴブ!!」
こちらの様子を見て煽ってくるゴブリン。ムカッと来たアーサーが強引にでも斬りかかろうとした時だった。ビューっと風きりを音を立てて、矢が一匹のゴブリンのこめかみに刺さった。
「ゴブゴッブ!?」
「なっ!!」
いきなりの攻撃に俺とゴブリンが声を上げて矢が飛んできた方向を見つめる。そこには竪琴のようなものを持った長身の青年が立っていた。
アーサーの護衛の一人トリスタンである。彼はまるで散歩でもするかのように彼の元にやってくる。
「まったく、聖女様との密かな逢瀬かと思いきやゴブリン相手とじゃれ合っているとは……アーサー皇子、危険な所に行くときは護衛の私に一言いただけると嬉しいです」
「ゴブッ!!」
「私は今アーサー様とお話をしているのですよ」
彼が竪琴を引いた時だった。竪琴の先から矢が発射されて、四匹のゴブリンたちを射抜いた。
こいつこんなに強かったのかよ……
アーサーが驚きの目で見つめていると、トリスタンが笑みを浮かべながらやってくる。その様子は普段と同じように見える。だけど、その目は何かを見極めようとして……
それはアーサーの婚約者であるモルガンを彷彿とさせてくる。
「それで……アーサー皇子、なぜこんな危険なところにおひとりでいらっしゃるのですか?」
「それは……」
適当なことを言ってごまかそうとしたアーサーの脳裏に、前回の記憶が思い出される。モードレット率いる革命軍から逃げるときに戦ってくれた親衛隊の数はかなり少なかった。それは他人に興味を持たなかったアーサーの人望のなせる技なのだが、今になって彼は思うのだ。
あの時もっと兵士たちと向き合っていたらどうなっていただろうか?
きっともっと多くの人数が彼のために戦ってくれていたのではないだろうか? それに、善行ポイントはマリアンヌたちからの評価が上がった時ももらえていた。
彼に今から良いことをすると思わせれば善行ポイントはより、上がりやすくなりギロチンから逃げることをができるにちがいない。そう思って必死にトリスタンが納得できる理由を探す。
どこまでも自分のことしか考えていない男である。
「……アーサー様?」
「森の主……倒して……」
森の主を倒して、みんなで食べるため!! じゃだめだよな……「そんなのは狩人の仕事ですよ」と呆れられることくらい彼にだってわかる。本当はケイと二人で食べるつもりだったのでアーサー的には十分妥協しているのだが……
考えろアーサー!! 俺は皇子だぞ!!
必死に頭を頭を回転させるが、彼の英知(自称)は何の考えももたらせてくれなかった。
「アーサー様……森の主を倒すというのは本気なのですか?」
「ん……ああ、そのつもりだが……トリスタン!?」
アーサーが驚くのも無理はない。トリスタンは突然彼にひざまずいて礼をしたのだ。それは騎士が忠誠を誓うという意味を持っており、軽々しくするものではない。
「あの宴会での話を聞いて、森の奥にいるであろう。今回の騒動の原因となった森の主を倒すつもりなのですね!! 民衆を思うその気持ちにトリスタン感激です!!」
「ああ、そうだな……」
「しかも、それだけではないでしょう?」
なんか勘違いをしているので適当に話を合わせようとしたアーサーだったが、トリスタンの意味深な笑みに冷や汗を流す。
やっべえ、主を食べてみたいだけってばれたか?
「しかも、誰にも言わなかったのは、先にいった聖女様を心配してなのでしょう? もしも、聖女様があなたに助けられたとなれば教会の権威に傷がついてしまいますからね!!」
「いや、違うが……」
あいつも行ってるのかよ、先に倒されたら俺の方が下だと思われる!!
「ふふ、恥ずかしがらなくても大丈夫ですよ。このトリスタン!! 口の堅さには定評があります!! 何よりも、美しきエルフの聖女を救うために強力な魔物と戦う……まさに英雄的!! 喜んで手を貸しましょう!!」
アーサーの焦った顔を何かかんちがいしたらしく、わかっていますよとばかりにトリスタンがウインクをする。何もわかっていないのだが……何はともあれトリスタンが仲間になった!!
「いいから行くぞ!! 先を越されるわけにはいかないからな!!」
そうして、彼らは森の主の元へと急ぐのだった。
トリスタンはカップル厨!!
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