30.宴会2
「いつまで、立っているのですか? 主役であるあなたが席に着かないと、宴会が再開できないでしょう? こちらへどうぞ……別に嫌だったら他の席でもいいですが」
酔っているのだろうか、なぜか顔を顔を赤くしているエレインが隣の席を指さす。少し言い方がきついのが気になるが、お言葉に甘える事にする。
決して、村人たちに歓声を上げられたり、ライバルであるエレインに主役と言われたのが嬉しかったというわけではない。
彼とケイが席に着くのとすぐにコップにワインが注がれるのを確認して村長が声を張り上げる。
「それでは村人と騎士様を救ってくださった救世主のアーサー様とエレイン様に乾杯!!」
「「乾杯!!」」
再び村人たちの歓声が響き渡る。こんな騒がしい状況ははじめてのアーサーはどうしていいかわからず、ワインに口をつけて目を見開いた。
「市場で買った安物ですので、アーサー様のお口にあいませんでしたか?」
「いや、逆だよ。無茶苦茶美味いぞ。なんでだ……?」
これは決してアーサーが馬鹿舌というわけではない。アーサーが口にしたワインは平民が好んで飲むようなものであり、彼の取り巻きの貴族がプレゼントしてくる高級ワインとは比べ物にならないくらい安い。
ならばなぜこんなにおいしく感じるのか……それは少し呆れた様子のエレインの言葉で説明してくれる。
「そりゃあ、みんなが楽しそうにしている場で、感謝されながらもらうのよ。普段よりも美味しいに決まっているでしょう?」
「そういうものなのか……っていうか、お前口調が全然違うな!!」
アーサーが来る前にすっかり飲まされたのか、エレインの美しい顔は紅潮しており、その瞳もどこか潤んでいてちょっと艶めかしい。
こいつ酒に弱いのか……? と思っていると、彼の方に村人たちがやってきた。
「アーサー様、うちの息子を助けていただいてありがとうございます!!」
「しかも、アーサー様は毒に感染する恐れがあるというのに、気にせず治療をされたとか!! 流石です!! どうぞ、お飲みください!!」
「あ、ああ……」
アーサーはこういう風に直接感謝をされることには慣れていない。ましてや、今回は彼らを助けるためというよりも、エレインに自分の方が優れていると思わせるのが狙いだったのだ。
助けてくれ!! と視線をケイに送るも彼女は、彼と村人たちを交互に見た後に「頑張ってください」とばかりにウインクをして、パクパクと鶏肉を食べ始めてしまった。
人見知りであるアーサーに慣れてもらうようにあえて、放置したのだ。それは獅子が子供を鍛えるために崖から落とすようなものである。決してだされた料理が美味しすぎたので、そちらに夢中というわけではない。
「こちら、我が村の特産の極ウマ鳥のソテーです。お食べください」
「このワインがこいつには合うんですよ」
「こっちのとり刺もお奨めですよ。この村の名物で鮮度の関係でここでしか食べれないんです!!」
「ああ、いただこう……」
観念したアーサーに、村人たちが感謝の気持ちを込めて色々なものを勧めてくる。その気安さはブリテンでは絶対味わえない物であり、前の人生でも無縁だった。
だけど、どこか悪くはないと思うアーサーだった。
アーサーに感謝の言葉を伝たがっていた村人達もようやく落ち着いたので、彼はようやくコップに残っていたワインを飲み干した。
今まで彼は酔って気分が良くなるということはなかった。彼の体質がアルコールも即座に癒してしまうのである。だけど、今は不思議と良い気分だった。
「アーサー様、まだ食べれますか? これとかお奨めですよ」
ずっと彼を見守ってくれていたのだろう。一息ついたタイミングでケイは鳥の刺身の盛られているお皿を目の前に置く。
「ありがとう、ケイ。だけど、ちょっと食べすぎじゃないか?」
お礼を言いながらも、助けてくれなかった仕返しとばかりに、アーサーが先ほどまでいたケイの席を指さす。そこにはいくつもの綺麗に食べ尽くされたお皿があった。作った人が見たら喜ぶであろう食べっぷりである。
「もう、女の子にそんな事を言っちゃだめですよ!! ここの鳥が美味しいからしょうがないんです!! ほら、アーサー様も食べてみてください。あーん」
「おい、みんながみてるって……」
「そんなアーサー様は私が食べたいのに我慢をしていた鳥刺しを食べてくださらないんですか……」
「いや、食べる食べるっての!!」
「えへへ、よかったです。はい、あーん」
酔っているせいかいつもより押しが強いケイに負けて、彼女が差し出したフォークにささっている鳥刺しを口に含む。
「おお、うまいな!!」
臭みもなく、噛めば噛むほど鶏肉の旨味があふれ出してくる鳥刺しにアーサーも夢中になる。ちょっと食べすぎたかなと思うと、ケイもおなじくらいひょいぱくひょいぱくしているのでまあいいかと思う事にした。
彼が夢中で食べていると、服の袖が引っ張られた。
「アーサー皇子、こうするともっと美味しいわよ」
なぜか睨むような顔をしているエレインが自分の皿にある赤い調味料がたっぷりとかけられた鳥刺しを差し出してくる。
え? なにこれ真っ赤なんだけど……
「……私のは食べてくれないのかしら?」
「ああ……もらおう」
なぜか上目づかいで皿を差し出してくるエレインにお前の施しなんぞ受けるものか!! と普段だった言うアーサーだったが、初めての宴会という事もあり、みんなの空気を壊したくなくて、珍しく空気を読んで口に含む。
「うぐぉぉぉ……」
口に含むと同時に口から脳に駆け上がる痛み。そう痛みだった。今回の人生では今だかんじていない感覚。痛みである。
この女……まさか、俺の治癒能力に反応をしない毒を作り出したというのか!!
戦慄しながら、睨むようにエレインを見つめると、彼女は何故か得意げに真っ赤な鳥刺しを口に含む。
「どう……美味しいでしょう?」
「な……」
当たり前のように毒物を口にするエレインを前に思わずうめき声をあげる。この女……舌がいかれてんのか? と喉まで出かかった言葉を抑える。
これは勝負なのではないだろうか? 先ほど村人たちに感謝されまくった俺に嫉妬して、自分の得意分野で煽ってきているのだろう。アーサーはそう確信した。
俺だったらそうするからな。実に器の小さい男である。
「おかわりをもらおうか」
「へぇ、あなたもいける口なのね。実はエルフの里から送ってもらったもっと辛いのもあるのよ」
「うへぇ……」
エレインが得意げに取り出した紫色の粉末の入った瓶を見て思わずアーサーは思わず情けない悲鳴をあげてしまった。
だけど……挑発するように微笑みながら食べるエレインに負けじとアーサーも毒物とかした鳥刺しをたべるのだった。
「ひどい目にあった……」
エレインが村長に呼ばれていったおかげで解放されたアーサーは、ようやく一息ついて水を飲む。傷はすぐいえるので気のせいなのだが、まだ舌がひりひりしている気がする。
「うふふ、すっかりエレイン様と仲良くなられましたね」
「どう見たらそうなるんだ……」
「アーサー様はまだ女心がわからないようで……」
なぜかからかう様子のケイに疲れた声をあげたがなぜかクスクスと笑われてしまう。ちょっと拗ねつつもアーサーは鶏串を口にする。
ああ、やはり普通に食うのが一番うまい……
その様子を見ていた初老の村人が話しかけてきた。
「アーサー様もお付の方も極ウマ鳥を気にいってくださったようで何よりです」
「ああ、すごい美味いな。ブリテンにも持って帰りたいくらいだ」
「ああ、それいいですね……でも、毎日出てきたら太っちゃいますね」
いや、流石に毎日は食べないが……と思ったが、ケイが幸せそうな表情をしているので黙っておく。まあ、実際は傷みやすい鳥を他国に運ぶのは難しいので現実的ではないのだ。
だけど、彼女の気持ちもわかるアーサーだった。
「そこまで言ってくださって嬉しいですな。せっかくなので、森の主も食べてみて欲しかったのですが……」
「森の主だって?」
「はい、この森の奥には強力な毒をまき散らす鳥型の魔物がいるといううわさがあるのです。その魔物の毒を浄化して、調理すると、なんとも美味な味になるらしいと祖父が語っておりました」
「この鳥より美味しいだと……」
「信じられませんね、アーサー様」
アーサーとケイの目が輝く。正直極ウマ鳥の鳥刺しだけで、鳥の概念が変わったくらいなのだ。森の主とやらの味を想像するだけでよだれが出てきそうである。
「まあ、私も祖父から聞いただけですし、森の主も最近見ないので本当かどうかはわからないんですけどね」
酒の場の冗談ですよとばかりに「あっはっは」と笑っている村人の言葉は、考え事をしているアーサーの耳には既に入っていなかった。
村人が襲われた毒を持つ魔物……こいつはもしかして……
彼の隣で幸せそうに鳥料理を楽しんでいるケイを見て、彼は一つの決意をするのだった。
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