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21.馬車の中で

「アーサー皇子いってらっしゃいませ!!」

「あ……ああ……」



 なぜかやたらとテンションの高いモルガン達に見送られて、アーサーと専属メイドのケイは馬車に乗っていた。

 モルガンのやつ無茶苦茶嬉しそうだったけど、このまま俺を海外で幽閉しようとか企んでいないよな……?

 そんな風に心配そうな顔をしているアーサーの横には少し困惑しているケイがいた。



「私なんかが一緒の馬車に乗っていいんでしょうか?」

「いいんだよ。俺が一緒にいてほしいんだ。だめかな?」

「うふふ、アーサー様は甘えん坊ですね。それならお言葉に甘えますね」



 などというやり取りがあり、彼女も一緒の馬車に乗る事になったのだ。その時にケイが甘えられて嬉しそうな顔をしたのはここだけの話である。

 そして、馬車に乗ると……



「アーサー様、これすごいですよ。すごく柔らかいです。馬車に乗るといつもお尻が痛くなっちゃうのに!!」

「そうなのか、ケイが楽しそうで何よりだよ」

「う……少し興奮してしまいました。失礼しました」


  

 ふっかふかのクッションにはしゃいでいるケイにアーサーが微笑むと恥ずかしそうに、ちょっと悔しそうに顔を赤く染める。

 アーサーの前ではお姉さんぶりたいケイだった。

 


「こほん……アーサー様は今から行く聖都市エルサレムのことはどれくらいご存じなのですか?」



 咳ばらいをして、ごまかすようにまじめな話をするケイ。



「いや、実はあんまり知らないんだよな……特定の国に属しているのではなく、教会が治めている自治領ってことくらいは聞いたことがあるんだけど……」

「うふふ、そう思って私の方で色々と調べておきました」

「おお、流石はケイ。なんでも知ってるな!!」

「うふふ、何でもは知らないです。知っていることだけですよ」



 アーサーの尊敬の篭った声にケイは嬉しそうに微笑んで口を開く。



「エルサレムは教皇が治める国であり、周囲の国とは同盟関係にあり何か起きた時の仲介役となっています。そして、それを可能にしているのは、エルサレムの強力な治癒能力を持つ聖女の存在と、プリーストの多さですね。彼女達はいくつもの国に派遣され、国や身分に関係なく治療をしているため、他国への抑止力となっているのです。教会を敵に回せば治癒をできるプリーストが去ってしまいますからね。また、治安も良いので、巡礼の旅をするものも多く、市場は活気があふれていると言います。ちなみにエルサレムの鳥はとてもおいしいと有名なんですよ」

「なるほど……やっぱり治癒能力はすごいんだなぁ……わかりやすかったよ。ありがとう」

「うふふ、私はアーサー様の専属メイドですからね。これからも、頼ってくださいね」



 アーサーの感謝の言葉にケイはちょっと得意げに笑う。ちなみにその日を暮らすのが精いっぱいである平民出身の彼女は元々はエルサレムに関する知識は世間知らずの彼とどっこいどっこいだった。


 ただ、アーサーと接して、彼が自分が思っている以上に世間知らずな事、そして、それが彼の人生で損をすることになるだろうと思い至った彼女は、エルサレムに同行することが決まった時にマリアンヌに必死に教わったのである。

 マリアンヌの説明は少し難しかったけど、それはもう頑張ったのだ。それもすべては……アーサーの頼れるお姉ちゃんとなるために!!





 アーサーはケイのおかげで少しリラックスできたこともありこれからのことを考える。



「聖女に教会か……」



 前の人生では、あまり接点がなかった存在だ。聖女とは今回の会食をきっかけに一年に一度意見交換として会ってはいたが、言葉遣いこそ丁寧なものの、明らかにこちらには興味がないのがわかったし、教会とやらも、ブリテンで革命がおきている間には手助けどころか何もしてくれなかったのだ。

 ケイの説明だと、本来はそういう時に仲裁してくれる存在な気もするのだが……、なぜ彼らが前の未来で動かなかったか、その理由を知る方法はない。

 それよりも、アーサーには一つ気になることがあった。



「なあ……さっき聖女が強力な治癒能力を持っているって言ったな。ケイは、俺と聖女どっちの方が優秀だと思うんだ?」

「え……?」



 ちょっと拗ねた様子のアーサーの言葉にケイは思わず聞き返す。アーサーにとって治癒能力は自分にとっても絶対的な自信を持っている。だから、ケイが聖女の事を優れた治癒能力を持っていると言ったり、どこか誇らしげに語っているのを聞いて、少しだけ、モヤっとしてしまったのだ。


 もちろん、ケイが聖女を優れていると言ったのはマリアンヌの説明の受け売りで、誇らしげに語っていたのは、アーサーに頼ってもらえたのが嬉しいからなのだが、人の心がまだまだわからないアーサーは思わず嫉妬してしまったのである。

 そして、それを聞いたたケイは、目の前の少年の可愛らしい嫉妬に思わず抱きしめたくなった衝動をおさえ優しい顔でほほ笑む。



「うふふ、私は聖女様の治癒能力のことはわかりません。ですが、アーサー様の凄さはこの身で知っています。私の火傷を癒し、ベディ君の深い傷を癒しました。だから、どっちがすごいって聞かれたら絶対アーサー様って答えますよ」

「ふーん、そうか……」



 興味なさそうに答えているが、アーサーは嬉しそうに、にやにやとしている。そして、そんな子供っぽいところを見せる彼を愛おしそうに見つめながらケイは、一つの提案をする。



「アーサー様、エルサレムには屋台がたくさんあると聞きます。せっかくですので、まだ時間もありますし、ついたら一緒に回りませんか?」

「本当か、楽しみだな。ブリテンとどう違うのか気になるしな!!」



 ケイの言葉にアーサーは嬉しそうに答えるのだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] エルサレムって流石に不味いんじゃないですか? かなり敏感な場所ですし別の名前にした方がいいんじゃないですかね
[一言] そうか…ケイには化け猫が憑いているのか…(笑)
[良い点] 巨乳委員長が出てきたところ!
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