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114.アーサーと砂漠の民

「あれがブリテンの皇子か……」

「いったい何の用だ?」

「なんでもミランダ様が連れてきたようだぞ……」



 ざわざわと里の人間が騒ぐなかアーサーは、モルガンたちを引き連れてミランダの後をついていった。

 もちろんどや顔をイキるのもわすれない。『万能の木の実』を取ってきたと知れば彼らがおどろくのを知っているからだ。じつにうざい。



「アーサー様こちらになります」



 オアシスの近くに並ぶ天幕の中でもひときわ豪華な装飾のされたものの前でミランダが止まる。

 そして、中の人間に声をかけると扉が開かれた。おそらくは砂漠の民の重鎮たちなのだろう。険しい顔をした老人が数人と一番奥にアーサーを襲った男がいた。



「族長のカリムだ。万能の木の実を手に入れたって言うのは本当なんだな?」

「お兄さま!!」

「……その前に私たちに言うべき言葉があるんじゃないかしら?」



 興奮した様子で詰め寄ってきそうなカリムをミランダとモルガンが冷たく睨むが、彼は気にした様子も見せずにアーサーの前とやってきた。



「お前が探しているのはこれか?」




 アーサーが何個かの虹色に輝く木の実を差し出すと、それを見たカリムが大きく目を見開いて、その瞳から涙を流す。



「ああ……これは伝承にある……よかった……これさえあれば砂漠の民は救われる……」



 こいつは喧嘩売ってきたし別にあげるとは言っていないんだが……などとはとてもではないが言える雰囲気ではない。まあ、アーサーとしても意地悪をする気はないのだが、いきなり襲われているのだ。

 正直目の前の男には良い印象は持っていないというのが事実だ。



「お兄様その前にアーサー様に伝えることがあるでしょう」



 ミランダがため息をついて兄を睨みつけるとばつが悪そうに答えた。



「ああ……わかっているよ……」

「ん? なんだっていうんだ? うおおお?」

「俺がすまなかった!! こちらを倒しに来たのだと勘違いして攻撃してしまい本当にすまない。俺の事は好きにしてくれていい。だから、その万能の木の実を砂漠の民にわけてはくれないか?」



 カリムがいきなりその場にひざまずき、両手を地面に突いたかと思うと。頭を深々と下げ、額が土に触れるまで身を低くして謝ってきたのだ。

 その表情は見えないものの必死さは伝わった。それは土下座という最大限の詫びの動作なのだがもちろんアーサーは知らない。だが、敵意がないことはアーサーにも通じた。

 そんな兄を見て、ミランダも同様にひざまずいて頭を下げる。



「アーサー様……わたしからもお願いします。砂漠の民はいまや全滅の危機にあります。これだけの万能の木の実さえあれば数年後には食料に困らなくなるでしょう。我らには希望が必要なのです。このお礼は必ずいたします。なにとぞ万能の木の実をもらえないでしょうか?」

「なっ……誇り高き砂漠の民がブリテンの人間に頭を下げるとは……」

「ばか、そんなことをはいってはいられないだろう。むしろ、我らも頭をさげるべきでは?」



 いきなり土下座をした族長とその妹によって場がざわめいていく。そして、徐々に老人たちも頭を下げていく。そんな中アーサーは……


 え、なにこれ? ちょっとかっこつけただけなのにえらいことになっているんだけど……


 とテンパっていた。助けをもとめようとモルガンを見るが、彼女は不気味な笑いをうかべながらこちらを見て頷いている。

 なにこれ、殺せってこと? そんなことはできるはずないだろと内心突っ込みながらアーサーは二人に声をかえる。



「しゃべりにくいから頭をあげてくれ……そもそも万能の木の実を取るのにはミランダの力も必要だったんだ。俺たちが独占するはずがないだろう。こちらはハーヴェを説得できるだけの量があればいいしな」

「おお……ありがとうございます」



 アーサーの言葉に安堵の吐息をもらす砂漠の民たちそんな彼らをあきれた顔で見つめながら話を続ける。


「だが、この木の実をわたしても今の食糧問題は解決しないだろう? どうするつもりなんだ?」

「それは……魔物を狩って何とか生計を立てるつもりだ。今はつらくとも何年か後には……」


 少し気まずそうなカリムにアーサーは大きなため息をつく。彼の脳裏には空腹のあまりスリに手をだしたあの少女の辛そうな顔が浮かんでいた。

 そう、前世で飢えに苦しんでいた彼はそのつらさをしっていたのだ。



「話にならんな。それでは、今貧困にあえいでいる子供たちはどうするつもりだ。お前らにこれを与えるわけにはいかない。だから、俺が使わせてもらう」

「なっ、待ってくれ。アーサー様、襲ったのはあやまる。だから、何とか……」



 踵を返して天幕の外に向かうアーサーを慌てて取り押さえようとおきあがったカリムをミランダが止める。



「お兄様……大丈夫よ。アーサー様は冷酷な人ではないわ」

「ミランダ。木を植えるのにちょうどいい場所を教えてくれないか?」

「はい!!」



 元気よく返事をするミランダと困惑しているカリムを見て、モルガンがあきれたとばかりに苦笑する。

 だが、その瞳には彼への強い信頼がやどっていた。



「まったく、あなたという人は言葉が足りないのよ……変な勘違いをされてしまうじゃないの」

「おお、私だけがアーサー様をしっているという正妻アピール良いですね!!」

「……うるさいわよ」



 顔を真っ赤にしたモルガンを放って、ミランダについていくと、奥に枯れかけたオアシスと、わずかな緑の生えている場所へとたどり着いた。



「……ここです。この地で植物を育てていたのですが『死の軍団』によって……」

「そうか……」



 自分のミスを言われているような気分になってちょっと焦るアーサー。そして、何事かと砂漠の民たちが見ている中で『万能の木の実』を地面に埋めると治癒魔法を放つ。

 アーサーの手から光が解き放たれるが何もおきない……



「アーサー様……」



 不安そうなミランダに、やばいあれだけイキったのに失敗とかまずくない?とおもったときだった。


 地面から徐々に草がはえてきて、それはどんどん成長していき大きな木となった。そして、それには大量の虹色の木の実がなっていたのだ。

 これでしばらくの間は食料は問題がないだろう。そうおもえるくらいに。



「うおおおお、すげえ、奇跡だ」



 砂漠の民たちがさわぐなかミランダもまたかんきわまった表情でアーサーに感謝の言葉を告げる。

 


「ありがとうございます……あなたのおかげで砂漠の民はすくわれました」

「勘違いしうるな。俺はあくまで万能の木の実をたべてみたかっただけだ」


 照れ隠しでそういうアーサーをミランダは尊敬の念に満ちた目でみつめるのだった。

 そして、この時の光景は『救世主とその巫女』というはなしとして砂漠の民の間に長く肩率が得るようになることを彼らはまだ知らない。


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よろしくお願いいたします。

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