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千年ぶりだね、大英雄  作者: 十五夜
【第5章】勇者不在の一千年間
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Ep.80 旧時代の終わり

「そうか、貴様が元凶という訳か」


教皇が納得したように言った。


「元凶と言われるのは納得いきませんが、此度の国中をあげた革命の中心は私であることは否定しませんよ」


その言葉に対して、落ち着いたトーンでギフトと名乗った男は返した。


「我らの神に仇なす異教徒どもめ」


ギリっと歯を噛み締める音まで聞こえてきそうな雰囲気で教皇はそう吐き捨てた。


「はは、神に仇なす、ねぇ。どう思う?カテラキア?」


「ちょっと!名前ばらさないでよ!仮面の意味!!」


カテラキアと呼ばれた人物は焦ったかのようにギフトに向かって叫んだ。


「いいじゃあないか。ここにいるのは結局今日死ぬんだし」


ギフトは終始落ち着いている。その顔には怪しい笑みを浮かべ全体に向けて話しかけるようにしている。


目の前で自分たちが殺すことを話されていたが、教皇たちは別のことに意識が傾いていた。


「か、カテラキアだと?」


カテラキア、その名前に教皇たちは大いに覚えがあった。

当たり前だ。その名前は、自分たちが選出した聖女の名前だからだ。


聞き間違い、もしくは人違いだと瞬間的にその考えが脳裏をよぎったが、カテラキアと呼ばれた女性がその仮面を外したことでその考えが間違っていたと知った。

仮面の下にあった顔は間違いなく聖女本人であった。整った顔立ちに、光によって眩しく金に輝くブロンドの長髪が空を靡き、栗色の目が教皇たちをはっきりと捉えていた。


「お久しぶりです、教皇。それとお爺さんたち」


「カテラキア…貴様、裏切ったのか!?」


驚きを隠せないまま思ったことをそのまま口にする教皇。


「裏切るもなにも、私始めからこっち側」


聖女から発せられた言葉は彼女のことを理解するのに十分だった。

最初から騙されていたのだ。

衝撃の事実に、教皇たちは更に驚きを隠せない。


「…待て!勇者はどうしたのだ!」


急に頭に浮かんだ心配。先ほどジャッコアが勇者が死んでいると言ったことを思い出したのだ。


「あんな脳筋、邪魔になる前に私が始末したわよ。ああ、死体は研究価値があるから渡せないけどね」


「なっ…」


これがカテラキアの本性だったのか!?そう内心で叫ぶ教皇。聖女として振舞っていた時とはまるで別人である。静かだが爽やかな笑顔で民衆を元気付けていた治療専門の魔術師。少なくとも教皇以下重鎮たちの聖女に対する認識はこれである。人々に寄り添い、治療し、支持を得る。そして芋づる式に教会の支持も得る。聖女とは所詮政治を思い通りに進めるための道具でしかなかったはずだ。

少なくとも、カテラキアは戦闘特化の勇者に勝てるとはにわかに信じ難かった。

だが、今彼女の目を見るとその言葉が嘘偽りなど一切ないということが瞬間的に察することができた。


「ねぇ、これ私の印象がどんどん悪くなっていってない?」


目の前の年老いた協会の重鎮たちを見て、カテラキアがふと気づいたかのように仲間に言った。


「ホホホ、自業自得じゃ」


それに答えたのは未だ仮面をつけている者の一人だった。声と話し方から、かなり歳のいった男性であると思われた。


「てか、あんたたち二人もさっさと仮面を取りなさいよ。別に顔がバレても問題ないでしょ。貴方たちは!」


「それもそうじゃな。メベリータ、ワシらも外してやろう。お嬢が泣いてしまうわ」


「畏まりました、イデリス翁」


カテラキアの言葉をきっかけに、残りの二人も仮面を外した。

一人はイデリスと呼ばれた、予想通りかなり歳のいった老人だ。白髪白髭の茶色い瞳で雰囲気は面倒見が良さそうな好々爺だ。


一方でメベリータと呼ばれた者は侵入者の中では一番の年少者のようで、見た目からして十代前半程度。伸長も街中にいる少年のような高さしかない。髪も目も一般的な茶髪だ。


「さて、意図せず軽く紹介が済んでしまったね。やることと言えばあとは君たちに消えてもらうことだけだけど…折角会ったんだ。少しお話しようか」


手をぱんぱんと叩き、注目を集めたギフトが場を仕切る。


「ま、待て!」


しかしこれに待ったをかけた者が現れた。


「何?君」


「わ、我はダイロ司祭だ。頼む。他の者はどうなってもいいから命だけは助けてくれ!」


「な!何を言うか!ダイロ司祭!」


ダイロと名乗った司祭はまさかの命乞いを始めた。教皇さえも裏切る前代未聞の行為を行った。


ギフトは静かにダイロを見つめていた。


「ねえ、君」


「は、はいっ!」


その瞬間ダイロの首が飛んだ。この場にいる者のほとんどが何が起きたのか瞬間的に理解することはできなかった。


途端に場が騒がしくなる。未だジャッコアの透明な壁に閉じ込められた重鎮たちは壁を叩き「出してくれ」とそれはそれは五月蠅く叫ぶ。

そんな彼らに、ギフトは一言、「黙れ」と言った。不思議とよく通るその声によって今度は一点、吃驚するくらい静かになった。


「折角お話をしようとしているのに、邪魔するとか馬鹿なの?それとも…もう死にたいのかな?」


ギフトの突き刺すような雰囲気が場を支配する。誰も返事はしなかった。否、できなかった。恐怖で声が出せないのだ。


「まあ、いいや。…そういえば、教皇。さっき神がどうこうって言っていたけど、君たちが信仰する神が一体どんな存在かご存じかな?」


「は…?何を言っている。テルトゥーアス神我々人はもちろんのこと万物を生み出し、この人々を世界を守護する絶対的な神に決まっている」


「…………はっははははははは!!」


怒りから今度は突然の大笑い。その変化に教皇たちはついていけなくなっていた。


「傑作だ!教皇が無知とは実に滑稽で悲しいものだな」


ギフトは哀れむような顔で教皇を見た。


「何だと!?」


「アレは、君たちが言っているほど完全な存在ではない。所詮は我らこの星に生きるものと同じようなものさ」


思い出すかのように話すギフトは、明らかに何かを知っているようだった。

だが、自分たちが信じる存在を侮辱されて赦せる者はいなかった。


「貴様!テルトゥーアス神が人と同列だと言いたいのか!?」


「否定はしないよ?現に神だ神だと祀り上げられているのに、今この窮地を救ってくれるのかな?」


誰も言い返せない。


「ほらね?…街の方もそうだ。頑張って戦っている君たちの兵士たちは神の救いも得られずただただ無駄死にしている」


「じゃあ、お前たちの神とやらは今この瞬間で救っているとでもいうのか!?」


返す言葉で重鎮の一人が言った。


「勿論さ。我らの神、ロドアード神は力と勇気を司る神だ。彼の存在を信じれば、悪しき存在を打倒す力と勇気を借りることができるのさ」


天を仰ぐように高々とギフトが宣言する。


「何をまやか___ 」


「まやかしではないさ。現に彼の加護を得た市民たちは少ない犠牲で君たちの兵士を打倒して、この近くまで既に到達している。魔力探知をすればわかることだ」


面々は再び驚愕した。目の前にいる男は、話しながら街の様子を観察していたのだ。


何という技術。この男が使っていることすら誰も気づけなかった。


「実に悲しいものだ。魔法の知識は少なからず提供してあげていたというのに、誰も私の魔法に気付けない無能であるとは」


ギフトは、はあ、とため息を吐きながら全体を見渡した。


「どういう意味だ?」


ギフトの言葉に引っ掛かりを重べた教皇は問うた。


「そうだな。君たちがこれまで使ってきた勇者を召喚する魔法陣も、国を守護する結界も、聖女を選定する魔法もすべて我々が君たちに与えたものということだ」


「なっ!?ふざけるな!あれらは我らが神の加護を得て独自で創り出した魔法だ!出鱈目をいうな」


また、重鎮の一人が叫んだ。


「では、聞こう。君たちはこれらの魔法を提案した人物が誰か覚えているか?」


「何を………あ、あれ………?」


言われてみて気付いた。この場にいるものすべてがこれらの例に挙がった魔法が誰からもたらされたものかわからなかった。確かにその人物はいるはずなのに思い出せない。誰一人として。


「そういうことだ。さて、話すのも飽きてきたし、そろそろさようならかな。教皇は私が殺すとして、他は欲しいかい?」


ギフトは、仲間たちを振り返り世間話をするような声で聞いた。


「可愛いのいないから私はいらなーい」


「儂も、能力もなければ大した魔力も持ち合わせていない能無しはいりませんな」


「では、私が処分いたしましょう」


「わかった。では、メベリータ。君は壁の中の老害を処分せよ。ジャッコアは周辺の騎士共の処分を」


「承りました」


「了解だ」


指名された二名は動き出す。二名がそれぞれ魔力を開放する。ジャッコアはもちろんのこと、このメベリータと呼ばれた少年も膨大な魔力を有しているようだった。


「戦え!こいつらは異教徒の頭だ!討ち取ればどうとでも対処できる!我らの神に忠誠を示すのだ!」


諦めない。まだ負けたわけではない。現に戦闘は今始まるのだから、格付けは済んでいない。

教皇が叫ぶ。それに感化された重鎮や騎士たちの目に戦おうとする意志が宿る。

各々が武器を構え、魔法を詠唱し、迫りくる敵に備えようとする。


だが、魔法を行使しようとしていた者達が一斉に困惑した。


魔法が使えなかったのだ。否、詠唱が済んでも発動しなかったのだ。

魔力は確かに消費している。ギフトがけなしたとは言え、腐っても聖国のトップ。世間一般的に見れば魔法は使える部類に入る。


教皇とて、例外でなかった。魔力は使った気がするのに一切の効果が得られていなかった。


「な、何故だ」


思わず思ったことを口にする教皇。それに答えたのは、教皇を殺めるべく距離を縮めるギフトであった。


「ああ、教皇。そういえば君だけは能力を持っていたのだったな。確か、『権能;幻想』だったかな?人心掌握に実に有用であったから教皇にしたのだが、能力を持っている君ならわかるだろう?能力とは、通常の魔法より、魔素をに対する影響力が強い。そして、これは知らないことかもしれないが、冥途の土産に教えてやろう。能力には段階があり、段階が上に行くほど、魔素に対する影響力というものは上がるのだ。それに伴い、能力のできることが増える………要は自由度が上がるのだ。そして影響力が上がるということは即ち、魔素を一方的に支配できるということだ」


教皇は、ギフトの長い説明を聞き、理解した。

こいつらは少なくとも誰かが能力を有し、ギフトの言う段階が自分よりずっと上なのだろう。

そして、あまりにも差が開いているため、抵抗も出来ず魔素の掌握がされており、自分たちは魔法すら使わせてもらえないのだと。そして、自分は彼らの傀儡として教皇にされたのだと。


それに至ったときには教皇の首は既に胴体と切り離されていた。


「君ごとき、力を使うのも勿体ない。魔法で十分だ」


ギフトは教皇が死んだことを確認した後、振り返る。後ろには、何もできず絶命している重鎮たちと、すべて真っ二つにされた騎士たちの死体が転がっていた。


ギフトはそれらを一瞥すると、こう言い放った。


「さて、目的は達した。これからは我らの新たな神が世界を救済するのだ」





歴史では、教会の旧体制が終わりを告げたこの日までが、旧時代とされている。



ちょっと長くなりましたが、問題はないでしょう。ギフトさんにもう少し喋ってもらうつもりでしたが、止めにしました。


割とベターな展開ですが、こういうのは好きな方。

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