Ep.76 真・暗黒戦争~二つ目の能力~
二話目
アルティオの能力である「共有」は味方はもちろん、敵にも有効である。
一番簡単な攻撃方法は、敵のいずれか一人に対して与えた攻撃をその周囲にいる者達にも同じ効果を与えるというものだろう。
要は、何かしら共有を行うものを決定し、それを共有する対象を決める。
これが基本的な流れである。
「流石に、三万という規模には一度に共有を行ったことはないな…」
これまで能力と向き合い、ステージ2へと到達したアルティオでさえ、この数に自身の能力を試すということは初めてであった。
ステージ、というのはあくまで目安である。
条件は不明であるが、能力が魔素に対する影響が大幅に向上するときがある。それをアルティオ達はステージ2と呼んでいる。それ以前がステージ1であり、ほとんどの能力を有する者がこの段階で終わる。
「この魔物でいいだろう」
魔物の群れを上空から見下ろす十羽の鳥の内、一羽が見ている景色に映る一匹のゴブリンにアルティオは目を付けた。
単純に魔物の群れに言っても、数多くの種類が群れを成している。
分かりやすいもので言えば、ゴブリンやスライム。他は、見たことのない鳥の魔物や猪、狼などといった新種の魔物も確認済みだ。
しかし、監視して感じるが、どこか魔物たちに生気を感じない。虚ろな目でただひたすらに人の多くいる場所に向かって突撃しているような印象を受ける。
それに、弱いとされているゴブリンも体内魔力量を確認したところ、通常種の三倍以上の魔力を有している。
成程、確かにこれは異常だ。そもそもの話、ラーテル王国内では、魔物が発生する原因と言われている魔力だまりという自然発生する淀んだ魔力がたまる場所を排除している。
その結果魔物が生まれていないのだが、今回はそれにも関わらず、だ。それに居住区の近くで魔物が発生するという到底あり得ない事態も起きている。
事態が収束した次第、原因究明に乗り出さねば。
さて、鳥たちが配置に着いた。
十羽の内、九羽は魔物の群れを取り囲むように円状に展開。残りの一羽がきっかけを起こす係だ。
上空を羽ばたいていた魔力で作られた鳥が急降下を開始する。空を切り迷うことなく、群れの中へと突き進んでゆく。
そして、翼に魔力を纏わせ、一瞬のうちにその首を刈り取った。
直後、周囲の魔物の首も飛んだ。
切断面より、赤い何かが飛び散る。
しかし、その散り方は「血」の散り方ではなかった。
…それは、核も魔物たちの体内にあった魔力であった。
血飛沫ではなく、魔力が飛び散った。これの意味することは即ち、この魔物たちの身体は通常の魔物とは全く異なっているということだ。通常の魔物はちゃんと血を持つ。血肉でできた肉体を。
しかし、この魔物たちは血を持っていなかった。つまりは肉体を持っていなかった。
だが、彼らと似た身体の特徴を有す特別な魔物が存在している。それは、純魔と呼ばれる身体を魔素で形成している魔物たちである。
つまり彼らは、その純魔に該当する可能性が高い。恐らくだが、世界各地に発生している魔物たちも同じ純魔であるだろう。身体が魔素であるため、魔素があるだけ発生が可能だ。それならばこの度の急な発生の説明にも多少納得がいく。
しかし、仮にそうだとしても純魔が発生することはとても稀なことで一度にこんなに発生することは前例がないことだ。
ますます事態の異常性に拍車がかかる。
一瞬にして、魔物が死亡し、群れの進行が止まったかのように見える。
だが、これではまだ終わらない。
今の攻撃はせいぜい頭が刎ねられて死ぬ程度の魔物たちにしか効かない。スライムなどのそもそも首がないような魔物や再生能力の高い魔物には効果がない。
死体が比較的簡単に獲得できる魔物たちは、今回の事件の原因究明や今後の研究にも役立つためいいのだが、残った魔物たちは残念ながら手を抜いてやれる余裕はもうない。残念ながら、消し炭になってもらうしか道はないのである。
消し炭というのは少し過激な言い方であるが、そうしなければならない理由がちゃんとある。
スライムである。
この魔物は、世間一般的には弱いとされているが、成長次第では並のドラゴンをも超える力を有す可能性がある。核があるならば、それを破壊するだけで生命活動を維持できなくなり絶命するが、中には脱核…つまりは核を捨て去った個体がいる。
これが厄介なのである。
この脱核したスライムは、その体を完全に蒸発などして完全に消滅させないと無限に再生する。
そういう訳で、手を抜くことはできない訳である。
生き残った魔物の群れが、再び都市部へ向かって動き出す。本当にそれだけしか興味がないと言った様子であり、ますます不気味に感じる。
先程倒した魔物たちの死体を回収する必要があるので、少しだけ進行を許す。
「…燃やすと言っても、この辺りは木々が少し多いな。考えもなしにい魔法を使えば、面倒なことになるな…。仕方がない、穴を掘るとしよう」
十羽の鳥の様子が変わった。赤い光を帯び始めた。
魔物の群れを円状に囲む十羽の鳥たちから、第一の魔法である結界魔法が展開された。
これの役割は魔物を逃がさないことと後に続く攻撃の範囲指定を簡単にするためである。
都市部へ向かうことしか頭にない魔物たちは実に簡単に結界内に囚われるが、結界の壁に辿り着いた魔物たちは突進や魔法でそれを壊そうとする。
しかし、結界の破壊より当然アルティオの次の手の方がずっと早かった。
「衝破十連撃」
上空の十羽の鳥たちから結界内に強力な衝撃波が放たれた。土煙が結界内を埋め尽くした。
この攻撃はアルティオの二つ目の能力である『権能;連撃』を利用したものである。効果としては、アルティオの魔力を纏った攻撃を対象に当てて、魔力を対象中に留め、その後アルティオの魔力が対象中に残っている限り、アルティオが任意のタイミングで先ほど与えた攻撃と同じ威力の衝撃を対象に与えることが可能というものである。
今回は対象を魔物と地面に選び、「衝破」によって与えられた衝撃を十回これらに与えたことになる。
元々衝波一発で、十分なぐらい威力はある。それと同じ衝撃が十回地面に与えられたということは、それ即ち…。
結界内の地面は周りと比べて、ビルで言うと五フロア分低くなっていた。
「やはり、燃やすと言えばこの魔法だろう…。獄炎」
そこに間髪入れず、魔法が撃ち落とされる。
遠くからたまたまそれを見た兵士は、十数秒その場所に真っ赤な火柱が立っていたという。
結界が消える。穴の中に魔力探知をかけてみるが、そこには一切の魔物も残っていなかった。
アルティオは残しておいた魔物の死体を自身の収納魔法内に鳥経由で回収し、鳥を二羽残して後は消した。
「想定通りの魔力消費だな。…ああ、そうだ。ある程度の地形破壊は容認すると伝えておかねば」
とりあえず、魔物の群れの一つは排除した。ここからは各地に派遣した騎士たちのバックアップを中心に行っていくとしよう。
アルティオの戦闘だけで一話終わってしまった。
本来は他の三人も含めて一話の予定だったけど、よくよく考えたら、一話の長さの目安が大体2,500字だから、一人当たりが600字ちょっとっていう計算。
……そりゃ、無理だわな。
そして安定の九話以内に〆る目標、完全失敗のお知らせ。




