Ep.71 暗黒戦争~転換点~
白永歴、1010年。
聖カーリエ国が二度目の勇者召喚を行ってから七年が経過していた。
そして、その聖国内では少し慌ただしい空気が流れていた。
聖国は、世界平和を銘打って数々の魔法が絡む政策を行っていた。一つ一つ例を挙げていたらキリがないが、その中で代表的なものが、「聖女育成」、そして「勇者召喚」である。
派手な装飾を身に纏った一人の男性に素朴な服装をした小太りの男が付き添うように広い廊下を足早に歩いていた。
「遅いぞ、ジャッコア!このノロマが!何をしていた!今は、一分一秒が如何に重要か知らない訳ではあるまい!!」
派手な服装の男が、ジャッコアと言う小太りの男に怒鳴る。
「再び世に魔王が現れたのだぞ!己の行動一つで世界の命運が分かれてしますかもしれぬと自覚を持て」
ジャッコアはこれに対してペコペコと頭をひたすらに下げ続ける。だが怒鳴った男の方は、そんな彼の態度が、どこかあざとく許しを乞おうとするものに見え段々とそれを鬱陶しく感じてしまう。
二人は突き当りにある魔法式のエレベーターに到着した。慣れた手つきで、ジャッコアがボタンを押すと、エレベーターが静かに地下に向かって動き出す。
ものの数十秒で最下層に辿り着き、先には大きく荘厳な扉が構えていた。
扉に近づくと、見た目に反し自動で開いた。
中は広いホールのようになっており、中央には巨大な魔法陣が刻まれていた。
既に多くの人が中におり、騒がしくなっていた。だが、部屋の至る所で暑苦しそうなローブを羽織った人達が倒れているので、何かが起こった後であることは間違いないことが誰が見ても明らかであった。
「これは!大司教様!」
直ぐ近くにいた一人の男性が、入ってきた二人に気が付き、声をかける。
「首尾は?」
端的に派手な装飾の男__いや、大司教と呼ばれた男が問う。
「はい、成功いたしました。あちらにいらっしゃいます」
「そうか、ご苦労」
大司教はそのまま部屋を横断した。その目には、明らかに服装が異なる一人の人物が捉えられていた。
「我らの呼びかけに答えて頂き、有難うございます。勇者様」
聖女育成計画が軌道に乗っていない状況下で新たな魔王がこの世に現れた。まだ、かの大戦の傷は世界中で癒えてはいない。だからこそ、今この世界に必要なのは人々の心の拠り所となるべき象徴が必要なのだ。
時は更に経過し、白永歴1011年。
世界は再び、混乱に陥っていた。
二代目と言うべき、魔王が現れ暴れていた。ただ、前回の魔王と異なる点は、狙いがエルフやドワーフなどを除いた人族に対し、宣戦布告を行っていることだ。
__暗黒戦争_____。後にそう呼ばれる戦争が起きていた。
また、前回の魔王であるディタロは角の生えた最上位魔族と呼ばれる者であったが、今回は同じ魔族と呼ばれる中でもまた違う、吸血鬼の魔王であった。
この魔王は、吸血鬼の名に恥じぬよう、人族を襲って眷属にしていた。質を無視して数だけで言えばかつての魔王ディタロの軍を超える。
雑兵はほとんどが眷属と化した人族。失っても痛くも痒くもない。この魔王が本当に大事なのは側にいる三人の幹部を務める吸血鬼達ぐらいである。
当然、この問題に対しアルティオ達ラーテル王国は、魔王に対し非難したが国というものを持った以上、個人の判断で動くことは難しくなった。更に、現状ラーテル王国と繋がりのある国々は魔王関連の被害が皆無なので下手に手が出せない状況にある。
このようなことなら、世界会議で魔王に対してすぐに武力行使できるような案を決定しておくべきだったと、思うアルティオであった。
現在、この国の戦力の要と言えるオルウェルとマーヤは国内の敵が攻めてくると仮定した場合に想定された場所で待機してもらっている。
彼らなら安心して任せられる。
しばらくは、様子見を強いられていたラーテル王国であったが、部下の一報により、状況が大きく変化したことが判明する。
「聖国が勇者と聖女を対魔王戦に投入した、ですって?」
「ああ」
ちょうど近くにいたミューカに収穫したての情報を告げた。
ラーテル王国の状況は普段と変わりないが、主大陸の方はそうはいかない。戦争が始まってから二ヶ月ほどが経過しているが、日に日に魔王軍の戦力が増強されていくため戦況は少しずつ悪くなっていく。
そんな状況下で、今勇者が投入されたわけだ。
「勇者はわかるとして、聖女というものはなにかしら?」
「それは、ミューカ、君のような存在のことではないだろうか?」
「私?」
いまいちピンと来ていない様子なので、アルティオは付け足して説明する。
「過去の大戦時、ミューカは多くの人を治療していた。それが元で君は聖女と呼ばれていたと、記憶しているが?」
そう言うと、ミューカは思い出したような表情をした。
「そういえば、言われていたような気がするわ」
あまり覚えていない、ということは彼女は見た目通り息をするかのように治療していたのだな、とアルティオは感じた。
「ということは、私のような存在ということかしら?」
「おそらくだが、治療特化ではないか?流石にミューカみたいに回復も攻撃も完璧に両立できるわけではないと考えている。尤も、多少の攻撃魔法等の自衛の手段はあるだろうが。…しかし……」
「何か気になることでも?」
「ああ、ナツトも魔王ディタロも能力とは違う未知の力を持っていた。それが特別な勇者や魔王に与えられるものであるならば…」
「聖女にも何かしらの力があるかもしれない、ということかしら?」
「そうだ。ちなみにミューカは何か変わったことを感じるか?」
「私?…私は特に何も感じないわね」
「そうか」
「でも、あなた。今大事なのは魔王をどうするかよ」
「そうだな、すまない。…もし、この勇者と聖女が魔王討伐を成そうが、成せずとも、世界会議で魔王に対する国際規約を決定し、我が国は魔王討伐に乗り出すことができるようにする」
覚悟の決まったアルティオの顔を見て、ミューカはただ静かに頷いた。
特にいうことなし!




