Ep.70 報告
「どういうことだ?説明を」
部下よりもたらされた衝撃の事実にアルティオは少し口早に言った。
今、この世界には魔王はいない。当然だ。自分たちが確かに倒したのだから。
魔王と倒してからまだ数年だ。存在していれば、世界が再び混乱に陥る可能性がある。
だが、自分たちが気付いていないだけで、聖国が新たな魔王を見つけたのかもしれない。
しかし、判断材料が少なすぎる上、聖国が勇者召喚という一大事を秘密裏に行っていた理由の説明ができない。魔王がいたのなら速やかに各国に伝えるはずだ。
真意を推測するためにも、部下の話を聞くのが最優先だ。
部下はアルティオに促されて事の顛末を話始めた。
「まず、このナツト様に続く第二回目の勇者召喚はかなり秘密裏に行われおり、聖国内でも上層部と一部の魔法士_いや召喚術師のみが知っているという状況です」
始めからかなりの衝撃だ。上層部しか知らない、というのは相当異常な話だ。何か怪しい感じがしてならない。
実は、ナツトが召喚されたときも怪しい感じはかなりあった。だが、あのときは世界が今よりはるかに危険な状態であったし、召喚は父の治める国で行った。
その理由は、父の国__サタナル王国に膨大な「星の魔力」が突如湧き出したことに関係がある。
そのエネルギーが一過性のものとはいえ、当時の世界で一番早く一番多くのエネルギーを得る方法であったため、これを使って勇者召喚を行うことになったのだ。そうして召喚されたのがナツトというわけだ。
「召喚された時期は、一年ほど前です」
考え事をしながら聞いていたらさらに驚くべきことが話された。
一年前、だと?
アルティオは内心そう思った。一年前と言えば特に何かがあった訳ではないが、世界が復興に向けて尽力していた大事なときに何をしていたのだと強く思う。
しかし同時に疑問が湧いてくる。
「それで、その二代目勇者というべきその者は現在___」
そう、それだ。召喚された勇者が今何をしているのかだ。
一年間というものは、勇者にとってかなり大きな時間だ。
あのナツトは一年間で常軌を逸する速さでこの世界に適応し、魔王討伐を成し遂げた。
そう、一年というものは勇者が己の力に適応するのに十分すぎる時間であるのだ。
尤も、これは比較対象がナツトのみであるため、根拠としては非常に弱い上、彼が例外でなければ、という前提になる。だが仮にナツトが例外であったとしても、彼基準で考えた方がいいだろう。
「死亡しています」
「__は?」
部下が話す度驚かされる。
「資料…いえこの『召喚の記録』によりますと、ナツト様のようにすぐにこの世界に適応したわけではなく、一向に話が通じず暴れまわったそうです。表向きには魔物との戦闘で命を落とした、とされているみたいですが、一度も聖国から外に出ていないようなので…恐らく…」
聖国内で秘密裏に殺害されたということか。
とんでもないことだ。こちらの都合で勝手に召喚したというのに、酷いことをしたものだ。
「それはどこにあった?」
「はっ、聖国の禁書室であります」
禁書室に置くほど重要な資料だ。それならば、嘘ということではないだろう。
「この勇者には能力がなかったとあります。ですが、気になる記載が…。ナツト様と同様に“鑑定魔法”が効かなかったと」
「鑑定魔法?」
鑑定魔法というものは、千年後のナツトが転生した後の世界では一般的な魔法であるが、この時代では聖国のみが知る魔法であった。
だがその名前から、対象者の能力などの所謂個人情報を見ることができるものであると察することができる。
「はい、何でも対象者の能力や魔力量を見ることができる魔法のようです」
やはり、予想通りだ。
だが、同時に思い至る。
過去にアルティオ達は、聖国の上層部の人間と会ったことがある。
アルティオ達の能力が知らない間に彼らに鑑定されてバレているという可能性が高い。
そう思うとなかなかに不愉快な魔法である。
「その鑑定魔法というものの情報も追加で調査してくれ」
「はい、承りました」
「…そうだ、先ほど、召喚の記録と言ったな?ということはナツトに関する情報も載っていたのか?」
「はい、しかしあまり大した内容の記載はありませんでした。ナツト様の能力が複数あるという考察に、死亡という風に内容自体は薄かったです」
「そうか、報告ご苦労。引き続き任務を続行せよ」
「はっ」
魔法通話を切り、アルティオは愛用の椅子に深く座る。
目を瞑り、先程の会話の内容を反芻する。
(勇者には鑑定魔法なるものが効かない…。私とナツトの違い……『勇者の力』か。恐らくあの能力とはまた違う未知の力が原因だろう…。となれば、似た力を有していた魔王にも鑑定魔法が効かないのか?)
勇者の力…それは魔王戦において非常に重要な働きをした力。能力とはどこか違う力であり、『魔王の力』と呼んだ力と同じときに使用すれば効果を打ち消し合うもの。言わばこの二つの力は対局関係にあると言える。
ナツトの使っていたその『勇者の力』は、魔王の効果を打ち消していた。つまり、その効果によって鑑定魔法が効かないのだろうか、とアルティオは考察する。
しかし、聖国の資料にはこの『勇者の力』関しての記述はなかった。ということは、聖国はまだこと力について気が付いていないのだろうか。
(二代目勇者は死亡__。しかも秘密裏に。とすればかの聖国は何を考えている?何のために勇者を召喚する?)
アルティオは彼らの目線から考えた。
(______実験か)
異界より、強力な人間を召喚できる魔法。膨大な魔力を使用するが、成功したときのリターンは大きい。この星の人間ではないから、その人間の身分を誰かが保証しない限り、人として扱わなくても問題ない。
ナツトのいた星には、魔法がないと言っていた。そのため魔法に対する知識が乏しいため、方法さえ確立してしまえば服従も容易であるだろう。
何度も召喚でき、強力で自分達の言うことを聞く傀儡。仮に勇者がみなナツトのようなレベルになれば魔王以上の脅威となる。
(警戒しなければ)
考えすぎかもしれない。だが、常に最悪を想定し、対策を考えておく必要はある。事の次第によっては聖国と戦争になるかもしれない。
いや、戦争まではいかずとも将来的に関係は悪くなる可能性は十分に高いな、とアルティオは一人思っていた。
さて、皆さん二週間ぶりですかね。
連日暑い日々が続いていますが、熱中症には十分お気をつけて。
この五章、最速で話が動くとすれば次週からですかね。
年数、飛びますよ。七、八年ほど。




