Ep.69 陰り
魔王との戦いで、被害や影響を受けた種族はほぼ全ての種族と言える。
だが、その中でも特に被害を被ったのは、二つの種族である。
一つは吸血鬼等の一部を除いた魔族。魔王が魔族だったためにその影響をもろに受けた。先の対戦を起こした過激派の魔族以外の温厚派はラーテル王国にて保護、その他の吸血鬼等の元々少数の魔族に分類される者達のみ、魔王の優先度が低かったためかあまり影響を受けなかった。
二つ目の種族がエルフだ。魔王にて徹底的に殲滅された種である。エルフの成人男性は先の対戦で例外なく戦死。生き残ったのは女性や子どもたちのみといった状況である。彼らは長命種なので人族ほどすぐに子孫問題にはならないが、その数が対戦以前と比べ、多種族より減少率が大きいことは考えるまでもない事実だ。ただ、残ったエルフの中から、すぐに統治者が現れ、彼らの混乱を取り去ったのは幸いであった。彼らとはよい協力関係を築き、支援を行っていくつもりである。
今日はそんなエルフの代表と会談に赴いている。
「お久しぶりです、トリシア女王陛下」
「こちらこそ、お久しぶりです、アルティオ陛下」
目の前にはアルティオの金髪より濃い金髪をした美しい女性がいる。お互いに固い握手を交わした後、席に着く。場所はエルフの国の城だ。以前は深い森の中という自然の要塞の中に複数の村が存在していた。魔王との戦争時にそれらの村は統合され、一人の族長が決められた。だが、魔王に敗れ、同時に森も大部分が燃やされた。
残ったエルフたちはその地に人口が激減したとはいえ、新たに国を作ろうと努力した。彼女たちの国が国と呼べるまでになったのはつい最近のことで、ナツトの死後の話である。そんな国の名は「サーラ王国」。そして王は当時の族長の妻であった、トリシア•サーラ•アーティアゴである。今日は一対一の対談。人目を気にすることなく思い切り話ができる。
「お陰様で、公共施設も充実して来ました。本当に感謝しかありません」
「気にしないで下さい。こちらも、貴女方の技術力提供のおかげで開発現場が助かっていますので」
初めは互いの国の近況報告を挨拶がてら済ませる。
現在同盟関係にあるニ国は、良好な関係を築けていた。
彼女の話によれば、燃やされた森も二百年程で元の状態に近い状態にまで戻すことができるそうだ。魔法を使えばもっと早く出来るそうだが、あまり大規模に手を加えないのが彼女たちのポリシーのようだ。
しかし、さすがは長命種。計画の見通しも人族とは異なり、長期的に見ている。
私達もナツトが帰って来るまで生き抜く約束を交わした以上、寿命を克服する術を探さなければならない。
ヒントは既に得ているので、そう遠くない未来に答えに辿り着けそうだ。
そして、寿命を克服できたら、彼女のような遠い先を見通すものの見方というものは参考になるだろう。
会談が終わってから、アルティオは同伴して来ていたミューカとともに晩餐会に招待されていた。準備ができるまでにそれなりに時間があったため、二国の交流を深めるべく、広間で二人はサーラ国の重鎮達と会話していた。
「お久しぶりです、アルティオ陛下、ミューカ王妃様」
そして、そんなとき一人のエルフの少女が頭を深々と下げてアルティオにお辞儀をした。
少女はまだ小さく身長はアルティオの半分と少ししかないが、トリシアのような濃い金色の長い髪が美しい。また頭の頂点にぴょこんとアンテナのような癖毛があり、それが何とも言えない存在感を醸し出していた。その少女は神と同じ色の金の瞳でアルティオ達を強く真っ直ぐ見ていた。
「ああ、久しぶりだ。ティアメシア殿下」
彼女の名はティアメシア•サーラ•アーティアゴ。その名の通り、トリシアの実の娘である。
戦争時、トリシアと共に逃げた彼女は当時こそ年相応の幼い少女であったが、六年という月日の中で心が強く成長した。
悪い話だが、戦争が彼女を成長させたのだ。
彼女の目には強い意志がある。己の考えを信じ、前に進もうとする強い意志が。
世界会議の際でも、ここまで強い目を持っている人はそうそういない。
彼女はきっと大物になるだろう。そんな予感がした。
少し彼女と話したら、アルティオは別の者に捕まって話をすることになった。
その間、ティアメシアはミューカと話していた。ミューカはティアメシアのことを大層可愛がっており、まるで自身の娘のように気にかけている。一方のティアメシアもミューカに対して好意的である。というより、ティアメシアは世界を救ったアルティオ達に強い尊敬と憧れを持っている。初めて彼女に会ったときは既にナツトはこの世にはおらず、彼女はひどく残念そうな顔をしていたが話を聞いて彼を知ろうとする人物の一人である。
そのため、アルティオ達の話にとても興味があり、かつ大好きなのでアルティオ達が国に来るたびミューカに聞かせてもらっているのだ。
話を聞いている時の彼女の顔は、先ほどまでの真剣な表示から打って変わって微笑ましい笑顔を浮かべ、輝いていた。
あのような表情を守れたことは私達にとって誇りだ。
そして、私達はこれからもこれを守らなければならないのだ。
「何!?本当か!?」
「はい…確かに確認しました」
時は経ち、白永暦1003年。白永歴はこの世界の暦であり、この年はナツトがいなくなってから十年が経過した年である。
自身の能力で特殊な変化を加えた魔法通話越しの相手はアルティオの部下だ。密偵、潜入に特化したスペシャリストで、信頼のおける優秀な者だ。
アルティオは、そんな彼をある国へ送り出していた。所謂スパイとしてだ。
その国は聖カーリア国。世界に大きな影響を及ぼしている宗教国家であり、ナツトを召喚した魔法を唯一知っている大国である。
「勇者を召喚していた、だと!?」
知らされたのは諸外国に知らされていない秘密裏の情報。明るくなりつつあった世界に一つの影が舞い降りた瞬間であった。
さて来週ですが、投稿を休みます。
これまで、さんざん「更新できないかも」とか言ってた割には更新してましたが、今回はマジです。
理由としては、ここからちょっとややこしい部分に差し掛かるのため、ちゃんと整理してから書かないと後々時系列とか色々と狂ってきて面倒になるんですよね。
なので、誤解を生まないためにも来週はお休みです。
勝手な理由で申し訳ないですが、ご理解のほどお願いします。
…それにしても、暑い!!暑すぎる!!




