Ss.7-1 プレゼント作り
修学旅行の事件から数週間が経過した頃、いつも通りナツトは学園から家に帰ってきていた。
「お帰りなさいませ、シャック様」
玄関に近づくと、待っていたかのように執事のゴルマが玄関から出てきてナツトを迎える。いつもは、「シャック」ではなく「ナツト」と呼ぶが、事前に客が来ると知らせてあるので、ゴルマは「シャック」と呼んだのだ。そう、今日は初めて客らしい客をこの家に呼んだのだ。それは学友である。これまでの客と言えば、いつも急に来ると言い出す、やたら腰の軽い国王、王妃、そして三勇の二人。家感覚で来るので正直客かどうかは怪しい所である。だが、今回は正真正銘のお客さんだ。なんだか、久しく感じたことのないドキドキ感を感じる。
「うん、ただいま。早速だけど、ゴルマ、みんなにお茶とお菓子を用意してくれる?荷物は運ばなくて大丈夫だから。あ、部屋は、僕の部屋の隣ね」
「畏まりました」
ゴルマは深々と頭を下げた後、キッチンの方へと歩いて行った。
それを視界の端で見届けたナツトは、移動を開始しようと客_つまりは友達の方へ向き直った。今日のメンバーは、ナツト、イアノン、ウルヴァロ、ノアラナチア、そして女子二人。修学旅行時チェルーティアへのプレゼント探しの際一緒にいたメンバーである。そう、今日の目的はチェルーティアへのプレゼント作りである。
ナツトはみんなに移動するよ、と告げ部屋に向かって歩き始めた。
「…もしかしなくてもさ、シャックってお金持ちだよね?執事さんとか初めて見た」
道中、ウルヴァロは思っていたことをそのまま口にした。
「…学生生活の空き時間に色々やってるからね、お金はあるほうかな」
「いや、そう言うことじゃなくて」
「ん?あぁ、家の方?…うん、まぁ成り行きだね」
「成り行き?」
「あ、気にしなくていいよ。家庭の事情だから」
やや濁されたが、ウルヴァロはなんとなくそれ以上聞くのは良くないと察して、「ふーん」とだけ返した。
一行は案内された末に、ある部屋に辿り着いた。ナツトがいうには特に用途もなくあまり使ってない部屋であるとのこと。大したものはないから期待はするなと念を押すナツト。
「いや、なんだ、このソファ。座り心地最高かよ」
と言うのはガルノラルクの感想である。確かに部屋の中はシンプルで机とソファのみ置かれていた。
ガルノラルクの言う通り、ソファの座り心地が想像の斜め上を行き、一生座っていられそうな程であった。
程なくして、お茶とお菓子が運ばれて来て、わいわいと盛り上がっていた。
普段の学園とは違うテンション。一番戸惑っていたのはイアノンであったが、徐々に慣れてすっかり場の雰囲気に馴染んでいた。この適応力の高さは彼の長所の一つだろう。
「……さてと、そろそろ始めようか」
小一時間ほど、ボードゲーム等で遊んだナツトたちは、本題である「チェルーティアへのプレゼント作り」を開始することにした。
ナツトは材料となる魔石を収納から取り出し、机に置いた。
第一に決定しなければならないのは当然デザインである。まさか、原石をそのまま渡そうという馬鹿はいないだろう。デザインを決めるにあたって、一つ気になることがあった。ナツトがそれを言おうとしたが、その前にノアラナチアが言った。
「ねぇ、ガルノが前に言っていた、さくらんぼ?ってどんなの?」
そう、さくらんぼである。疑惑の真偽を決定するうえでも、是非とも彼の口から直接聞きたかったことである。
全員からの視線を直に受け、口籠るガルノラルクであったが、少しして「何か書くものないか?」とナツトに聞き、紙が手渡された。
ガルノラルクはその紙に、彼の言う「さくらんぼ」を書き始めた。
「これは果物かな?悪くないデザインだね」
というのは、イアノンの感想である。その台詞がみんなの感想を代弁していたのか、他もそれに賛同していた。その反応に対してガルノラルクはまんざらでもないといった表情を浮かべていた。
「シャック君はどう思う?」
女子の内の一人が、無言で絵を見ていたナツトに話しかけた。
「……………ん?あぁ、ごめん。とてもいいデザインだと思うよ」
おっと、申し訳ない。絵に夢中になりすぎていて答えるのが遅れてしまった。
でも、仕方がない。
なぜなら、ガルノラルクの書いた「さくらんぼ」の絵は、間違いなくナツトの知っている、あの「さくらんぼ」と完全に一致していた。書いている最中に色の付いたペンを渡したが、彼の塗ったその絵は、配色も同様、完全に一致していた。
…これは、もう間違いないのではないだろうか。
調べたところ、この世界にも、桜のような木は存在するが、日本と似たような感じで一部観賞用にはなっているが、食用としてはほとんど流通していないのだ。もっといえば、日本のようにお花見をする文化はこの世界ではあまり見かけない。
そして、再度探してみたが「さくらんぼ」と呼ばれる果物がこの世界にはない。
ここまで来れば、親から教えてもらったという線は薄いだろう。
つまり彼が、転生者たる根拠としては十分だ。
結論は出た。今日、この場で彼に直接問おう。
「じゃあ、とりあえず魔石をこのデザインに合う感じに整えてくるよ」
目指すはガルノラルクと一対一の状況。ナツトは自室に魔石を加工するのにうってつけの機械があると言って、みんなをこの部屋に置いておき、意見係としてガルノラルクだけ連れていこうとした。
が、当然魔石を加工するなんて面白そうなことをみんなが見たくないはずもなく、ぞろぞろと移動するナツトに付いてきた。
これは、失敗か…と内心考えたナツトだったが、すぐに結構よさげな案を思いついた。
それは、あえてゆっくりと作業を進めるということ。最初は興味津々でもずっと同じ作業が続いたら流石に飽きて移動してくれるだろう、という作戦だ。
正直、魔石を球状に削るくらい十分もかからない、がここは一時間かけるスピードで行くことにした。
作戦は、綺麗に成功した。最初こそ「おぉー」だの「すげー」だの盛り上がっていたが、少しずつテンションも下がり、何人かがナツトの自室探索が開始していた。見られたら不味い国王や三勇関連のものはすべてしまってあるので、勝手にどうぞという感じで放置している。
さらにそこから十分。いよいよその大半がやることはすべてやったぞ、という風な表情を浮かべたとき、ナツトが一筋の糸を垂らした。
「みんな、もう少し時間かかるから、さっきの部屋戻ってお菓子でも食べといて。ゴルマ呼んで一押しのお菓子用意させるよ」
効果は抜群。その甘い誘惑にイアノン以外が見事釣れた。唯一釣れなかったイアノンもみんなを見といてと任せることで一緒に行動させる。
ウッキウキで部屋を出ていくナツト以外の五人。当然ガルノラルクもその中にいる。
悪いけど、君はこれから聞きたいことがあるんだ。
「あ、ガルノ。ちょっと設計で聞きたいことがあるから、いいかな?」
「お、わかった。いいぜ」
お菓子を逃したその顔は少し残念そうである。
ナツトは、こっちにも持ってくるようにしているから、と言って彼を安心させた。
その後すぐにお菓子が運ばれてきて、近くのテーブルに置かれる。お菓子は生クリームがとても美味しいと話題の店のショートケーキである。見た目だけでもう美味しいとわかる。
「…で、聞きたいことってどこだ?って、何しているんだ?」
ケーキを頬張りながらガルノラルクがナツトに聞いた。
「鍵をかけたんだよ、この部屋の」
「鍵?何で?」
空気が変わったのを察知したのかガルノラルクが怪訝そうな顔をする。
「単刀直入に聞くよ、ガルノ。…君、転生者でしょ?」
「え…?」
ガルノラルクが手に持っていた金属製のスプーンが部屋中に響き渡るような甲高い音を立てて床に落ちた。
さて、ようやく修学旅行後のお話、と。
次で番外編は御終い。紹介を挟んで、いよいよ五章に…と言っても五章は四章とは比べ物にならないほどすぐに終わる予定ですが。それこそ、これまでで一番短い章になる予感。
(てゆーか、四章が長すぎた。想定の二倍は軽く膨らんだ)
そういえば、近々カタカナ読みしたら「モ」から始まって「ー」で終わるシリーズのゲームが発売という事で超が付くほど楽しみでテンション爆上がり中です。
いやぁ、娯楽って大事ですよね…最近強く実感しています。




