Ss.6 教わり、そして教える側
時系列的には修学旅行の少し前あたりになります。
「違うわよ、そうじゃないわ。ナツト」
ミューカの指摘が部屋に響く。ナツトは王城にて、ミューカから「あること」を教えてもらっていた。
それは、「能力の魔法化」の技術についてだ。
近年、この国で確立された超秘匿技術であるこの「能力の魔法化」。限られた者しか行使できない能力を魔法という万人が使用可能のツールに落とし込むことで、その恩恵を得ることを目的とした技術である。
最新の技術ということで、それに関する本は少なく、まだまだ歴史が浅い。改良の余地も沢山あれば、能力次第でこれからどんどんバリエーションを増やし、結果国のより一層の発展に繋げることができる。
ある能力を魔法言語と呼ばれる魔法陣専用の文字で再現するわけなのだが、これが非常に難しい。通常の魔法のように、平面で完結すれば簡単なのだが、能力を魔法で再現しようとすればそうはいかない。
少なくとも二次元では再現不可能である。
そこで導入するものが立体魔法陣というものだ。
名前の通り、平面で行っていた魔法陣構築に高さを加え三次元にすることで、より複雑な魔法構築を可能とする。
この立体魔法陣はレベルで言うと大学で学ぶレベルのもので、当然のごとく非常に難しいものである。
というわけで、「能力の魔法化」を学ぶ前に、この立体魔法陣という分野をナツトは勉強しておく必要があった。千年前は当然この立体魔法陣という分野はなかったので、一から学ぶ必要があったナツトは中等部入学後から現在の三年まで、コツコツと勉強を重ね、ようやくそれなりの知識と経験を積むことができた。
そして、ナツトはいよいよミューカから「能力の魔法化」に教えてもらう段階へと至ったということである。
しかし、先ほども言ったが、これがまぁ信じられないぐらい難しい。
ミューカが口で言う分には簡単そうに思えるのだが、実際やってみると全然すんなりいかない。立体魔法陣を習得するまでにもそれなりの時間がかかったことから予想はしていたが、ここまでとは。
簡単に例えるとすれば、目隠ししながら、小銭を拾いに行くようなものだ。ただ、大体の方向と距離はわかっている…そんな感じだ。だから、難しいのだが、方向さえ定まれば答えが見えてきそうな感じである訳だ。
「やっぱり、私の記憶を見る?」
悩むナツトにミューカが提案する。確かに、早さで言えばそれが一番手っ取り早い。現段階の答えを知っているミューカの記憶を能力を使うことで見る。そして瞬時に理解するというある意味ズルともいえる方法である。
ナツトは多少悩んだが、断ることに決めた。
「いや、今はいいよ。時間は沢山あるし、自分の頭で理解したい。ミューカの記憶を参考にさせて貰うのはその後でいい」
ナツトは、この理論を自分自身の力で理解したい、そう思った。
これから先、きっとこの分野は更なる発展を遂げる。それに『記憶』というこの分野にとって素晴らしく有用な能力の存在はとても大きい。
これを理解することは自身にとって使命である、ナツトはそう感じていた。
「…相変わらず真面目ね」
ミューカが呟いたが、ナツトには聞こえていなかった。久しく本気で集中して、どうすれば上手くいくのか何度も何度も思考し試していた。
「こういう場合はどうするの?」
「ここは…この文字列を軸に気持ち少し文字を傾けるの」
「…う~ん、フィーリング?」
「そうね。でも、角度で言うと八度程ね」
わからないことは片っ端から聞いていく。思えば、王妃から直接教えられているというこの状況はとても贅沢なことである。
時々彼女の感覚で言ってくる部分があるから、そういうところは何とか自分自身で解釈して答えを出していくしかない。
久しぶりに全力で楽しめそうなものを前にナツトの目は輝いていた。
学園のある教室で二人の生徒が互いの意見を言い合っていた。
「…だから、チェリー、そこがフィーリングだったら、わからなくない?」
「いいえ、ここにこそ自由さが必要なの。それよりシャックのここはどうなの?これだけじゃ不完全よね?」
「それは大丈夫。戦闘中、そこに変化を加えたら解決」
「どうやって?」
「それは状況に合わせて、だね」
「結局、それ私と同じでフィーリングじゃない?」
「ちょっと違う。経験を積んだ上で適切なものを選択するんだ。そのためにも、まずは基礎から理解して確実に使えるようにする必要がある」
「いいえ、感覚を掴んでからの方が理解の速度が違うわ、それに……」
「……またか」
用事があって外に出ていたガルノラルクは教室に戻るや否やナツトとチェルーティアのやりとりを見て慣れた様子で言った。
周囲にいた同級生達も頷いて、二人を見守っていた。
「で、今日の論争の議題は何?」
「えっと、実践時の中級魔法の構築について?かな」
今日はそれか、と思いながらガルノラルクは「ふーん」と返した。
シャックことナツトとチェルーティアはよくお互いの考えで論争している。二人ともクラスメイトに頼まれてよく勉強や魔法を教えている。その中で、質問に対するお互いの考え方が違うものがあればどちらがよりいいのかと言い争うことが日常と化している。たまにイアノンも混じるが、基本はこの二人である。
普段は雰囲気が大人っぽい二人なんだが、こういうときだけ周りを忘れて子どもみたいに言い合うんだな、とガルノラルクは常々思っていた。
クラスメイトもこれにはとっくに慣れているのでとりあえず論争が終わるまで静かに見守るのがいつもの光景である。
もちろん、二人の論争の中で聞こえてくる話はとても参考になるので、論争が起きたと知れば他クラスからも聞きにくる生徒がいるほどだ。
「だから、こうなるでしょ?」
黒板にチェルーティアが魔法陣を描き、説明を加えながら説明していく。クラスメイト達は慣れた手つきでそれらをノートにメモする。
「それにこうするといい感じに収まるんじゃないかな?」
そこにナツトが付け加えて要素を足していく。
それから、こうした方がいい、ああした方がいいの応酬が開始された。
見守る生徒達はその会話に付いて来ることができなかったが、どんどんと継ぎ足されていく黒板の内容を見て必死に後を追っていた。
「ちょっといいか」
その一声がきっかけでピタリと二人のやりとりは止まり、視線が声の主に集中した。
「どうした?ガルノ?」
「いや、論題が中級魔法の構築なんだろ?ちょっと高度になりすぎてないか?」
黒板を指すガルノラルクの指を見て、ナツトとチェルーティアは揃って自分たちの書いたものを静かに見返す。
「「………確かに」」
二人の意見が今日初めて一致した。確かに、ガルノラルクの言う通り、黒板に書かれた魔法陣は中級という枠を逸脱したレベルのものになっていた。これでは、教わる方が理解に苦しむ結果となってしまう。
黒板はすでに文字や図形で埋め尽くされており、新たに何かを書くには邪魔でしかない。
そこでナツトが魔法で黒板の写しを取った後、消している。移した内容は、空中で固定して、スクリーンのように設置する。
ナツトは覚えているので別にこんなまどろっこしいことはする必要はないのだが、過去に写しを取っていた生徒に消さないでくれと頼まれてから、新しく書き直すときはいつもこの形式を取っている。
準備ができたと言わんばかりに再び二人は元の主題について話し始める。
互いに一歩も引かない論争が続く。
そして、今回も休み時間内にその論争に終わりが告げられることはなかった。
「はいはい、勉強熱心なのはいいが、授業が始まるぞー」
いつの間にかやって来ていた次の講義の先生によって、強制的に幕を下ろされる。これがいつもの流れである。この時間内で決着が着くのは滅多にない。
尤も、いつも通りなら、この講義の後の魔法実践の講義で、どちらが質問に適しているか試すことになる。そこで、ようやく本当の意味で決着が着く。
勝率で言うならナツトが六割、チェルーティアが四割と言ったところである。
まったく、毎度毎度、仲がいい奴らだなと、ガルノラルクは思っていた。
登場人物が話すときって、書いているとき想定しているテンポ感と読み返してみたときのテンポ感が結構違うんですよね。
ゆっくり感を出したくても、読んでいたらスッと流れている雰囲気になったりとか、難しいんですよね。ちょっと違和感が出ると気になるので厄介です。




