Ep.7 対峙、敵副将
目の前に迫る音速の剣を躱す。少しでも油断したら一瞬で首ちょんぱされる。そんな敵だ。実に隙がない。
敵がおもむろに右手を上げる。すると、光のレーザーが打ち出される。そしてそれは次の瞬間には十にも二十にも分かれてそれぞれが夏翔達を追い掛け回す。
夏翔は空中飛行しながらそれを落ち着いて一つ一つ魔法をぶつけて撃ち落とす。他のみんなも危なげなく回避する。
次の瞬間には、敵はマーヤに接近し、斬りつける。マーヤは剣でうまく受け飛行魔法を駆使して衝撃を軽減する。初撃さえ防ぐことができれば援護が間に合う。夏翔達はタイミングを少しずつずらして斬りつける。敵はそれを見て強引に体をねじり回避行動をとる。斬りつけた斬撃のうち、オルウェルの剣が翼に当たった。
「硬ってぇ!?翼だろ!?なんでこんなに硬いんだ!」
オルウェルがそう言った。そう、オルウェルが言ったように見ていた夏翔達も吃驚した。敵の翼はオルウェルの感想通り到底翼とは思えないほどの硬さであった。あのしなやかさであの強度。流石は敵の副将だと夏翔は感じた。
「でも、ようやく当たったな」
みんなの思ったことをオルウェルが代弁する。戦闘開始して約十五分ついに一撃当てることができた。こっちはまだまともなダメージをもらっていない。
「…驚きだ。まさか私に傷をつけることができるとは」
モラゾールは、その言葉通り顔に純粋な驚きを浮かべていた。察するに、長らく傷など負ったことはないのだろう。
ここまで戦い、夏翔は敵の攻撃に若干の違和感を感じていた。しかし、それが何なのかはわからず、一人モヤモヤしていた。種族とかではなく敵と自分たちでは何か決定的に違うものがある、そんな気がする。
(みんな、随分とおとなしいな、様子見はもういいだろ?なめていたらこれは死ぬぞ?)
おっと、アルティオから催促の思念が。確かに、みんな随分と消極的だ。
夏翔は先ほど飛行魔法なりしていた分の魔力の消耗があったので無意識のうちに少し控えめに立ち回っていた。戦ってわかる。確かにこの敵は強い。向こうも本気を出しておらず、こちらと同じ様子見をしてる節があったのでまだそこまで熾烈な争いにはなっていない。
「では、遊びは終わりにしようか」
モラゾールの一声で辺りの温度が数度下がったように感じた。明らかに先ほどまでとは雰囲気が違う。モラゾールはおもむろに剣を振りかぶるような構えを取る。そして、その剣も禍々しい光を纏う。
「っ!警戒!」
アルティオが叫ぶと同時にモラゾールは剣を振り、辺りに紫の光が駆け巡る。加え、鼓膜を破壊しそうなぐらい巨大な音が周囲の他の音もすべて飲み込んだ。
光が晴れたとき、アルティオは自身が岩壁に叩きつけられていることに気づく。咄嗟に防御魔法を発動したが、見事貫通。多少威力は殺せたが、正面からもろに攻撃を食らったわけであるが、生きていただけでも十分幸運だった。幸い、所々で血が垂れているが、致命的な外傷はない。周囲を見ると大きく地面が、岸壁が抉れていた。察するに相当な威力だったようだ。
「…他のみんなは?」
アルティオは魔力感知を使い、皆の安否を探る。幸いにも叩きつけられているが皆無事であった。ただ一人、叩きつけられてすらいない者がいるが。誰であろう、夏翔である。
彼が、今一人で敵を相手取っている。そのおかげでアルティオ達はとどめを刺されなかった。
(直ぐに、戦線復帰しないと…。…!いいのか?…了解。)
アルティオはすぐに戦線に戻ろうとしたが、とある指示で別の準備にかかった。
(危なかった。能力がなかったら詰んでた。)
夏翔は、モラゾールと剣を交わしながら一瞬そう思った。とある能力のおかげで夏翔はあの攻撃を無効化というより無力化することに成功した。そのおかげで、近くに吹っ飛んだミューカにとどめを刺そうとするモラゾールの攻撃を止めることができた。みんなもダメージこそあるが生きているようなのでとりあえずは安心。とりあえずみんなが復帰するまで時間を稼ぐことが最優先だ。
「どうした!受けてばかりでは勝つことなど不可能だぞ!」
モラゾールは挑発をする。
焦るな。乗ったら負けだ。今すべきはみんなの回復を待つことだ。せっかく人数有利なのにその利をわざわざ手放すなど言語道断だ。
というわけで、無言を貫く。敵の魔法は無視したらいちいち分散して数こそえげつなくなり、仲間が大変なことになるので、詰めて剣の戦いにもっていくか、できるだけ早く魔法で相殺する。敵の剣速は恐ろしいのものであるが、本気で敵の挙動に集中すれば対処できる。というのも、夏翔は極力怪我したくない性質なので相手の攻撃を受け流す術を特に重視していた。そのため、夏翔は攻めるのではなく待って反撃するほうが得意という、何ともイケイケ押せ押せのイメージが強い勇者のスタイルを完全に無視したと言えるスタイルをとっていた。もちろん、攻めもできるので、守りが固いが攻めもかなりいける両刀型である。力は圧倒的に向こうが勝っているが、受け流せばどうということはない。もっとも、まともに受けたら一気に不利になるわけでもあるが。
夏翔のスタイルは、今回のような状況において時間を稼ぐということにおいて実に有用なものであった。
ちなみに、このパーティには重大な欠陥があったりする。それはなんと盾役がいないのである。そのため、前衛が攻撃を裁かないといけないのだが、その役によく夏翔が駆り出されていた。
(この人間、まったく崩れん!力を隠していたな!受けが多いが差し込んでくる反撃も鋭い、それに地味に受け流しが鬱陶しい。さっきの俺の攻撃を防いだ方法もまだわからんしな。よもや、未熟者共にここまで苦戦させられるとは。)
モラゾールは内心そう思い、自身が少し焦っていることに気付く。しかし、そのわずかな瞬間が隙となった。
(ここだ!)
久々に超絶集中をしていた夏翔は徐々に敵の動きに慣れていた。そのため、敵の動きが一瞬鈍くなったのを見逃さなかった。さっき、オルウェルが剣に何も付与していない状態ではじかれたので、しっかり剣に仰々しく火魔法を付与して斬る。すると今度はかなり深く斬れた。しかし、本来は真っ二つになるくらいの威力なので彼の体の防御力には舌を巻く。
「ぐっ!?」
ようやくダメージというダメージを敵が食らった。
「やってくれたなァ!」
モラゾールが小さい子どもなら一瞬で号泣しそうな形相で夏翔に斬りかかる。物凄い殺意を孕んだ狂気の一撃だ。今日一番の速度で振り下ろされた剣の腹に夏翔は剣を垂直に添え、振り払った。すると、モラゾールの剣はありえない方向に受け流された。モラゾールは右上から左下に剣を振り下ろしたはずだった。しかし、夏翔の剣に払われたのは、なんと右下であった。
「は!?」
あまりに不思議なことにモラゾールは素で声を上げた。
そして、それのせいで見事体勢を崩すことができた夏翔は思いっきりモラゾールの腹を蹴った。足に風魔法を纏わせて。結果、モラゾールは少し上に飛ばされて、夏翔は反動でモラゾールから離れ、かなり距離が開いた。
風で押し出しただけだったので大したダメージはなかったため、モラゾールは一瞬夏翔の行動の意味がわからなかった。今の千載一遇のチャンスでなぜ追撃をしなかったのか、モラゾールは頭が?でいっぱいになったが、その答えは次の瞬間知ることになった。
次の瞬間にモラゾールは爆炎の中にいた。加え、衝撃が何重も重なって襲ってきた。激しく彼の体を焼く。
その正体は、ミューカの魔法である、火属性上級広範囲魔法"獄炎"であった。ミューカはこの魔法の範囲を大きく縮め、敵単体を焼き尽くすためのものを開発していた。
「さっきのお礼よ。ありがたく受け取りなさい」
「何発撃ったの?」
「十よ。ナツト、囮役ありがと」
「いやいや、チームだからね。それよりも…」
「ああ、多分まだ生きているんじゃない?流石に魔王の右腕さんだし。そんな気がするわ。でもかなり効いているはずよ」
徐々に煙が晴れる。魔力を探知すると、反応があった。やはりまだ生きていたようだ。
「生きていると思っていたけど、やっぱり頑丈ね。普通なら消し炭になっているのに」
この人は恐ろしいことをサラッと言うなと夏翔は思った。
いや、自分もさっき真っ二つがどうこう言ったし同類か。
「おのれ、喰らえッ!!」
すさまじい量の魔法が打つ出される。実に視界の八割が敵の魔法で埋め尽くされる。
「ミューカ!」
「ええ、よろしく」
一つ一つの威力自体は大したことはないが数が数なので先ほど同様に攻撃を無力化する。今度は近くにミューカがいるのでついでに守る。
魔法の弾幕が晴れると、モラゾールは困惑を示していた。モラゾールを中心に見たことのない魔法陣が浮かんでいる。
「なぜだ、なぜ転移が発動せんのだ!?結界、結界か!?しかし、転移に対抗できる結界を人間が張れるだと!?」
「へえ、転移魔法。残念だけど通用しないよ」
と言って、アルティオが姿を見せる。オルウェルとマーヤは結界の維持に回っている。
アルティオは通用しないと言ってはいるが、はったりである。魔王がいくら逃げる部下を切り捨てると言っても自分の右手を切り捨てるということは考えにくい。そのため相手が逃げる頭を持っている可能性を考慮し、夏翔とミューカが陽動で時間を稼ぎ、その間その他三名はこそこそと結界の作成に取り掛かってもらった。もちろん相手に気取られないよう慎重に。彼らが張ったのは空間隔離系結界。少し仰々しく言っているが要はどこぞへ飛んで行かれないよう仕切りを張っただけだ。もっとも、既存の一般に使用されるものと違い、彼らのアレンジが組み込まれている特別製であるが。そして今回それが結果として、敵の転移なるものを防いだということだ。おそらく既存のものだと突破されていたことだろう。
「…仕方ない、ここで全力で潰してやる!!」
そうモラゾールが叫ぶと、モラゾールは無数に分裂した。いや、分散というべきか。モラゾールの体が細切れになり、空中に広がる。細切れ一つ一つをよく見ると極小サイズのモラゾールである。
見ていてちょっと気持ち悪い。
夏翔のそんな考えをよそに、モラゾールそれぞれが紫の光を帯びる。
「まさかっ!」
アルティオが叫ぶ。
「アルティオ!」
ミューカは近くにいるが、アルティオとは少し距離がある。先ほどの一発で夏翔以外全員の防壁が貫通されたことを踏まえ、この技は夏翔が対応しないといけない。それに位置も悪い。夏翔、アルティオ、ミューカの三名はモラゾールより下にいる。確実に直撃をもらうことになる。そんな中で防御が効かないのなら、末路は死である。
「残りのやつがどこにいるか知らんが、まとめて消し飛べぇッ!」
モラゾールたちが一斉に地面に向けて放つ。一つ一つが先ほどとほぼ同じ威力のようだ。サイズが小さくなったからと言って攻撃が温くなる訳ではないようだ。
闇の圧力がとてつもないスピードで周囲を押しつぶし、破壊する。先ほどの一発とは比較にならない凶悪さだ。全力で能力を発動する。体感的には二十秒は続いた気がした。攻撃が晴れるとさっきまで立っていた地面が三十メートルは抉れて、夏翔達はその抉れた地形の底に立っていた。空が遠い。
結論から言うと、アルティオはなんとか無事であった。放たれる直前、アルティオは全力で飛行し、ちょうど夏翔とモラゾールの間で止まった。そしてすぐさま防壁を張り、攻撃をもらった。先ほどの一発でノックバックがすさまじいことがわかったアルティオは一か八かそれを利用した。そして、夏翔は飛んできたアルティオを一瞬一部防壁を解除し、アルティオを入れた後再び張り直した。結果的に成功はしたが、アルティオはかなりの深手を負った。これ以上の戦闘は控えた方が望ましそうだ。夏翔も左肩から指先までやられた。かなり痛い。体感では押しつぶされた感覚があった。ミューカがとりあえず止血してくれたが、魔法の効きがあまりよくないと。やはりというべきか、なにかしらの魔法阻害効果があるのだろう。現状完全回復は不可である。
しかし、攻撃は凌ぎ切った。ここが正念場だ。いやここを正念場にする。夏翔は剣を握りしめる。
「忌々しい。これでも尚生きているのか。だが、ダメージはあったようだな。それに剣で斬りかかると見せて、魔法詠唱をしているのだろう?気づかないとでも思ったか?手に取るようにわかるぞ?」
たくさんのモラゾールが再び合体しながらそう言った。そして全員が合体し、元の状態のモラゾールに戻った。
「それともあれか?あえて詠唱に気付かせて突っ込んでくるように誘っているのか?突っ込むわけないだろう!もう一発くれてやるよ!ガっ!?な、なんだと!?」
モラゾールは剣に再び紫の光を纏わせようとしたが、それはかなわなかった。背後から斬られたからだ。
「やっと、私の出番!くらえくらえ!えいえいえいえい!!」
背後からマーヤが斬りまくる。どうやら、見せ場が少ないことを気にしていたみたいだ。マーヤは大胆にもモラゾールの頭上にずっといた。一部細かい細工をして気付かれにくくしていたがよくそんな大胆なことができるもんだなと夏翔は思った。
「こ、この!こいつ一体どこにいた!?どうやってあの攻撃を!?ぐ、がっ!この小娘がァ!」
モラゾールはマーヤの攻撃に耐えかねず、無理矢理距離を取った。マーヤは火属性付与魔法剣で斬ったのでモラゾールの斬られた部分がまだ燃えている。それは、時間をおいてもなかなか消えず、長時間モラゾールの体を焼く。
「くそっ!鬱陶しい!能力か!…だが、拡散すればこんなもの…」
モラゾールの体は再び細切れになった。
「ついでだ、喰ら…ん?」
モラゾールはその流れで先ほどの一斉射を行おうとしてが、自身の周囲に赤い球が浮かんでいることに気が付いた。夏翔とミューカの魔法、"獄炎"である。
(いつの間に!?いや回避が先だ!)
「させるわけないだろ」
隠れていたオルウェルがモラゾールの周囲だけ結界を張る。効果はない、ただ単純に頑丈である、それだけのものだ。
「貴様っ!」
「わるいな」
二人の魔法が結界内で爆裂した。
更新遅れた!申し訳ない!言い訳ですが、忙しゅうございました。ハイ。
今回は少し長め。どうしてもここで終わらせたかったので。
書き忘れていましたが、全員近接、遠距離の心得あります。
あと、全員の身長。
マーヤ:160ぐらい
ミューカ:165ぐらい
夏翔;175ぐらい
アルティオ:180ぐらい
オルウェル:190おーばー
です。
備考、ジャンル選択少々ミスってました。申し訳ない。異世界(恋愛)→ハイファンタジーです。よく読まずに設定していたわ。まあ、恋愛関連は余力があれば差し込むということで…。




