Ss.5-2 目的は…?
「やっぱり、気付いてただろ?シャック」
完全に待ち伏せていたシャックに向けて、ガルノラルクがそう言った。
「まぁ、ペン買ったあたりから、もしかして付いてきてるかな~って」
「どうりで転移先が割り出しやすかったのか、ご丁寧にどうも」
「いやいや、ガルノの飲み込みがいいからだよ。予想よりずっと早かった」
「ごめん、ちょっと先にいい?」
二人が談笑して盛り上がる中、ウルヴァロが会話に割って入った。
「シャック、ここに何の用事があるの?もしかして…家ここにある!?」
「…まさか、違うよ。家はリコアにあるよ」
ウルヴァロの質問に対して、シャックは「ないない」という風な素振りで否定した。しかし、こうなってくると自然と湧き上がる質問がある。
「じゃあ…」
「じゃあ、なんでここに来たの?」
ノアラナチアの台詞がウルヴァロの台詞を搔き消した。
そう、ここトレーカスに来た目的である。なぜ彼はこんな遠く離れた土地に来たのか、全員の注目が集まる。
「あぁ、それはね…行きつけの喫茶店があるからだよ」
「喫茶店…?」
意外な答えに対して思わず私が呆気に取られている中、シャックは説明を続けた。
「以前にギルドの依頼でお世話になった所なんだ。紅茶もコーヒーも美味しくて生徒会の活動がない日で余裕があるときは通っているんだ。結構穴場でね、多くの人に知ってもらって繁盛してほしいって思うけど、自分だけが知っておきたいって思っちゃうんだよね…」
独占欲、というものだろう。でも、その店について話す彼の姿は年相応の挙動に見えたノアラナチアであった。
「折角来たのだし、みんなも来る?奢るよ」
そんな彼の提案で、ノアラナチアたち三人はその店に行くことになった。
「いらっしゃい」
入り口の扉に付けられた小さな鈴が無機質な音色を奏でる。それを頼りに店にいた従業員は入ってきた客に向かって声をかけた。
「お、シャック~いらっしゃい。他の子はお友達かい?」
若いウェイトレスさんが、シャックに親し気に話かけてきた。
「うんそう。連れてきた。あ、マスターこんにちは」
シャックは近くのカウンター席に立っていた店主に会釈した。マスターと呼ばれた若い男性は軽く会釈を返した。どうやら無口な人のようだ。
「じゃあ、今日はあの席にしようか」
ウェイトレスさんは私たちを窓側の四人席に連れて行った。その席の窓からは街を一望できて、とても絵に出来そうな光景だった。
「注文はどうする?」
「うーん……ん?これ新商品?」
メニュー表を見ていたシャックが指をさして聞く。
「そうそう、主人が上手くゲットしてくれてね。期間限定の特別メニューだよ」
「流石、マスター。じゃあこれ四つで…飲み物は…今日はストレートかなぁ…。みんなは?」
「俺も同じやつで」
「俺も」
「わ、私も…」
正直なところ、こんな店に来たことがなかった私はシャックに合わせることにした。多分それで間違いないはずだとノアラナチアの直感が告げていた。
「…で、結局、何頼んだんだ?」
ウェイトレスさんがバックヤードに向かってから、気になったのかガルノラルクが聞いていた。
「これ、スペシャル苺パフェ」
シャックがメニューを指差したところには苺がふんだんに使われた立派なパフェの写真があった。
「うわ、美味しそう」
「ホントだ~」
「え、これ四人分は結構たか…」
「気にしない、気にしない」
私とウルヴァロはその見た目に思わず喉を鳴らす。真っ先に値段に目が行ったガルノラルクはその値段に思わず息をのんだが、シャックに言葉途中で切られた。
暫くして、興奮が収まってきたノアラナチアは、店内を見渡そうとようやく思い至った。
店内は広くもなく狭くもなくと言った広さで、席数は大体二十五席程。特徴は何と言っても「木」であり、店内の中心に森からそのまま切り出してきたかのような大きな木の幹が天井を支えている。また、床が落ち着いた空間を作り出してた。
それから間もなく注文したパフェが届き、一口食べただけでも思わずほっぺたが落ちそうになった。
「そういえば、みんなは何で付いてきたの?」
思い出したかのようにパフェを頬張りながらシャックが聞いてきた。私は事の経緯をありのままに言うことにした。
「へー…でも、そういう心配はいらないよ。そういったことはないから」
シャックが嘘をついていう風には見えない。というこは今回の心配は無用であったということだろう。そう心の中で納得したノアラナチアは、心を入れ替えて目の前の美味しいスイーツを食べることを全力で楽しむことにした。
「美味しかったぁ…」
気付けば、パフェはなくなっていた。最初運ばれてきたときはたくさんあって食べきれるか心配だったのにペロリと平らげてしまった。
今の気分は最高。食べ物でここまで幸せな気持ちになったのは初めて。
「さて、と。日も暮れそうだし、帰ろうか」
全員食べ終わって、少し待ってからシャックが立ち上がりながら言った。その言葉にハッとしたノアラナチアは窓の外を見た。そこには夕焼けで朱に染まる街々が広がっており、どこか神秘的な印象を受ける。
ノアラナチアが見惚れている間にシャックは会計を済ませていた。
「ご馳走様でした。美味しかったです」
支払い後、シャックは店主とウェイトレスさんに挨拶をした。
私たちもそれに続いて例を言った。
するとそれまで無表情だった店主はにっこりと笑顔で感謝の気持ちを返してくれた。
「うんうん、また来てね~」
ウェイトレスさんも笑顔で私たちを見送ってくれた。
絶対、また来よう。シャックに転移魔法教えてもらわないと。
その後は、シャックがみんなを「リコア」まで送ってくれて、私は遠足のときのように満足な気持ちで家に帰った。
しかし、ノアラナチアは何かひっかりを覚えていた。
何か、忘れている、ような……。
あ!
「シャックの家、どこにあるのか聞くの忘れたー!」




