Ep 67. 推測と確信
「君の報告してくれた魔力を照合した結果、この人物だと判明した。ドルフィ・ラズバット、真聖カーリエ国出身だ」
「カーリエか…」
場所は王城。ナツトはアルティオと話していた。襲撃事件から約半日。騎士団からの事情聴取を終えたナツトは、その後すぐに城に呼び出されたわけだ。
「この人物がネララバーグ王子暗殺に関わったという証拠はナツトの取ってきてくれた「記憶」があるが、別件で街の至る所で爆発物を爆破させた危険人物でもある。捕らえていろいろと聞きたかったのだが、ナツトとの接触後十分から十五分で出国手続きを済ませ国家間転移魔法装置でカーリエに飛んでいる。今回の事件の重要参考人と思われるが…これではもう手が出せない状況だ。」
国家間転移魔法装置とは、国に認められた正式な国から国へ転移魔法で移動する装置のことである。普通は国から国への転移魔法はできないようになっているが、この装置を使うことにより簡単に国を移動することができる。またこの装置はペアである。同調する装置を二つ用意し、片方ずつ設置する国に設置する。その性質上、靴のようにペアが揃っていないと機能しない訳である。
…というのは置いておいて。
思った以上に相手の段取りがよく、規制を張る前に逃げられてしまった。完全に向こうの作戦に負けた形だ。
「でも、カーリエが行動を起こすのは珍しいね。本を読んだ感じあまりラーテルとの摩擦は避けていると思ったけど」
そう、ラーテル王国とカーリエ国は仲がそこまでよくはない。過去カーリエ国は革命が起こり、旧体制のトップを退け、名を「真聖」と改めたそうだが、勇者召喚を止めておらず、反対派のラーテルと関係はよくないままであるという。
「そうだね、私としても意外だったよ。名が真聖になる前も含めて、ここまで思い切った動きをしてきたは数百年ぶりだ。王子をわざわざこの国で殺害しようとするほど、かの国に理由があったということになるが…」
確かにそうだ。別に暗殺が目的ならこんな国中仕掛けだらけのやばい国で行う必要はない。イアノンが国に帰ったときとかのほうが何倍も成功確率は高いはずだ。
「…イアノン暗殺以外に別の目的があったのかな?例えば街の警備体制の確認とか」
「その可能性も確かにある…が、わからないな」
逃げられた以上、相手の真意はわからない。これ以上は無意味だと悟った二人は別の話題に移った。
「…それで、捕まえた連中だが、調自白させたところ、主大陸の方でちょこちょこ依頼を受けて暗殺を行っていた。毎度上手く証拠を隠していたようだ。今回の依頼は、かなりの額を受け取る予定であったらしく、前借と称されて渡されたというお金の金額もなかなかのものだった。連中の人数は計七人。内四人はナツトたちと戦闘。内二人は王子の護衛の足止め役。内一人は街の爆破、撹乱役。ナツトが捕らえた四人以外はミューカと騎士団が捕まえている」
アルティオが言うには、連中の作戦は、まず撹乱役が爆破を起こして町中を混乱させる、そして絶妙に調整しておいた爆発で怪我人を多く出すようにし、ミューカの意識を怪我人へと集中させる。その間に、王子の護衛を足止め、そして王子暗殺というものであった。
しかし、結果は失敗に終わった。暗殺はもちろんのこと、ミューカの対応がすさまじく早かった。一回目の爆発の後、すぐにミューカが街に仕掛けられた巨大な魔法を発動。これは、爆発や巨大な落下物が自動で識別され、もしこれらが発生したら即座にその地点を結界魔法で隔離するという高度すぎてオカシイ魔法であった。この影響により、連中が想定していた人数よりずっと少ない怪我人となった。また怪我人も恐るべきスピードで治療されてゆく光景に放心していた撹乱役は、当然ミューカに感知されていたため、その後の彼女の狙撃の前に勝負することもなく戦闘不能となった。
二人の王子護衛妨害役も護衛たちと交戦し、互角の戦いを繰り広げていたが、騎士団が来たことにより、数の暴力という偉大な力を前に屈した。
後の四人は、言うまでもないだろう。
「事が事だ。メディアへの情報提供、ネララバーグ国との連携で私もミューカも忙しくなる。しばらくは記者がインタビュー、インタビューと少々五月蠅いと思うが、学園のことはミューカが何とかしてくれる予定だ。…進展があればまた連絡する」
この後すぐにアルティオは記者会見を控えている。時間を取ってくれたことに礼を伝えたナツトは城を後にしたのだった。
「ふーん…」
少年のような人物が、項垂れている細身の男に向けてそう言った。
彼の声はいつもと同じトーンなのに、どこか冷たさを感じるのは、今日はどんよりとした曇天でいつもより城内が暗くなっているからだろうか。
「報告はこれで全部か?ドルフィ」
「はい」
男は正直に答えた。男は知っていた。この人に対して嘘はもちろんのこと曖昧なことを言うだけ無駄だと。
「…時間があればできます、と自信ありげに言ってたけど、肝心の部分は得られず…か」
確かに意気揚々と任に受けたのに、得られた情報はいいとは言えない始末。王子の戦闘データを得るために大量の機械を用意したのに、結界によって阻まれ肝心の内部の様子は得られなかった。
今日は以前の報告会と異なり、大司教はいない。目の前の人物が言うには、外せない予定があるため海外に赴いているとのことで、後日報告を聞くそうだ。
「申し訳ございません。真の目的である王子の情報収集、それと準目的である暗殺を達成できず…」
「……大司教ならばふざけるな、と言ったであろうが、私としては別に構わん。そもそも冷静な判断ができるやつであれば、いくら積まれてもあの国で暗殺などしようとも思わん。それに、それを補えるだけの報告はあるからな。…では、説明を」
「は」
その言葉を聞いて少しは安心できた。
そう一番重要な部分は達成ならなかったが、結界外の様子と結界崩壊後の様子は得られていた。男は、順を追って説明を行った。
「…ふむ、成程。予想はしていたが、街の防衛システムを見ることができたのは大きいな。王妃の戦闘も僅かだが確認できたのも評価に値する。…それで、この灰色の髪の少年はなんだ?えらく追い詰められたようだな」
「はい、王子と一緒に行動していた学友のようで、名はシャック・クルシャウト。転移魔法の腕はかなりのものです。逃亡前に雇った者たちのリーダーの脳に接続できたので、結界内の情報を抜き出そうとしたのですが、それによるとこの者にかなり妨害されており、魔法にかなり長けていると推測されます」
「ほう…お前はこの者についてどう思う?」
「と言いますと?」
「何者であるか、ということだ」
「何者か…ですか。そうですね、雇った者たちのリーダーも同様のことを考えていたようですが、ラーテル王国が用意した護衛ではないでしょうか?」
「……成程。まぁいいだろう。この者については別の者に探らせておこう」
「私ではないのですか?」
男は気が付いたら質問していた。てっきり、自分に回ってくると思っていたからだ。
「知っているか?お前はあの国で実名で指名手配されているぞ」
「えっ!?」
その予想外の言葉に、うっかり間抜けな声が口から漏れた。
そんな馬鹿な。姿も変えていたし、自身に辿り着くような痕跡はすべて消したはずだ。
断定など到底できないはずだ。
「その反応を見るに知らなかったようだな。くくく、機械の爆発も正常に行われていたのなら特定方法は絞られ、かつ思い当たるのがいくつかある。そのうちの一つは、お前も使ったはずだ。情報を抜き出す際、その能力の力の一端を」
「…まさか、『権能;記憶』ですか!?ですが、その能力は…」
「あぁそうだ。勇者ナツトの力だ。そして、我々の方法では魔力情報までは取れない…つまり、あの場に再現したものではないオリジナルがいた可能性は十分ある」
「まさか…!じゃあ、一体誰が…」
「そんなこと考えるまでもないだろう、馬鹿か」
その言葉が心を抉る。心に鋭利な針が刺さったみたいだ。
「とりあえず、大司教が帰ってくる明後日までに、報告書を作成し、私に直接渡しに来い。上への報告は私がしておいてやる。加えて、必ず姿、名前を変えておけ。お前は私にとって有用だ。くだらないことで捕まったりでもしたら許さんぞ。…では、ご苦労であった」
「ありがとうございます!」
打って変わって男は満面の笑みで深く礼をし、退出していく人物を見送った。自分が役に立てているという確かな実感を覚え、心が震えた。
部屋を出た少年のような人物は物音ひとつしない薄暗い廊下を歩きながら、ぼそぼそと独り言を話していた。
「ナツトは十中八九戻った…。素晴らしくも忌々しい能力の帰還か…しっかりと報告しないとな。…貴様の大好きな変化が来たじゃないか…旧時代の神よ」
お、終わったー!第四章!
サイドストーリー入れるからまだ終わってはいないけど、ストーリー部分はひとまず終わったと。
先週三話更新したせいで、今回の話は結構ギリギリになってしまった。
自分で自分の首絞めちゃったけど、しゃーない。
さてさて、気付けばもう六月間近。時とは早いものですね。ではでは、また来週更新できればお会いしましょう。




