Ep.62 混乱の最中
「結局どういうのがいいんだ?」
魔法陣が刻まれた魔石系はよくない。そういう認識が共有された一行は、どれがベストなのか思案していた。
何も魔法陣が刻まれていない魔石にするのか、はたまた魔法とは殆ど無縁な一般的な宝石にするのか、その二つで揺れていた。
「シャック的にはどうだ?」
ここは、御守を否定したナツトに意見を出してもらおうと、ガルノラルクがナツトに聞くことにした。
「そうだね…これは?」
「これ?いやでもこれは…」
ナツトが指差したのは、綺麗に磨かれた魔石でも宝石でもなく、磨かれる前の魔石、つまりは原石であった。
「なにも、このまま渡すとは言ってないよ。これを購入して自分たちで加工するんだ。そうすれば、コストも抑えられるし、ノアラの言った独創性も出せるでしょ?…時間は少しかかるけど」
ナツトがそう説明すると、成程…と少し納得したような表情を見せた。
「でも、そんな加工なんて、できそうな人って、いるの?」
会話に入り辛そうにしていたノアラナチアの班の女子が声を上げた。
「いる」
「そうだね」
「いるね」
「確かに」
そんな彼女の心配は杞憂だと言わんばかりにすぐさまウルヴァロ、イアノン、ノアラナチア、ガルノラルクが返答した。
「え………誰?」
あまりに素早い回答に、質問を投げかけた彼女は少し面食らったような顔をしていたが、少ししてこう返した。
「シャックだね」
イアノンが代表して答えた。
イアノンは説明した。シャックは、クラスでもいろいろと教えているが、まだ浅いレベルであると。クラス外ではもっと、いうなれば専門的なことを勉強したり、教えている上、シャックは『魔導技術研究部』と呼ばれる部活動に参加しているので、魔法陣等の知識もある、と。
それを隣で言われているのを聞いたナツトは自分でもこう思った、「なんて都合のいいヤツ」なんだ、と。
能力訓練のときは基本的に好奇心のままに振舞っており、最低限の自重をしつつ、最大限成長しようとしているのは別に後悔していないが、自重の幅をもう少し広くしてもよかったかなと、少し考えたのだった。
時間もそれなりに持て余してあるため、これくらいのことはウェルカムであるので、原石を買うならやるよ、とだけ言った。
この台詞のせいで、原石を買おうという流れになったのは否めないが、一応全員の反応を見るに好感触で賛成のようだからオッケーとした。
というわけで、今度は魔石の原石選びの時間となった。一つ一つ色も違えば、形も違う。
第一にどんなものを作るかで選ぶ魔石の大きさは変わってくる。そこで、全員で話し合った結果、ネックレスを作ろうとなった。
大きさを絞り、今度は色の選定となる。一行は赤系統の色が綺麗にグラデーションになっている親指ほどの宝石にしようとした。この魔石はこのキュリオウラの迷宮に出現するスライムから採取される魔石であった。
しかし、ここでガルノラルクから待ったがかかる。彼はこう言った。
「その大きさのものを買うのなら、もう一つ似たような魔石を買わないか」
「なんで?」
その意図を知るべく、ノアラナチアが質問を投げかける。
「そりゃ、その色でチェルーティア、いやチェリーって言ったら『さくらんぼ』を作るしかないだろ!」
ガルノラルクが堂々とそう宣言した。
「…さ、くらん、ぼ?チェリーがそうなの?みんな知ってる?」
しかし、反対にそれを聞いたノアラナチアは聞きなれない単語に「?」を浮かべていた。ノアラナチアにそう聞かれたガルノラルク以外も同様に覚えがないと、首を横に振った。
「あれ?違う?…あ、そっか、ふーん。あ~ごめん俺の勘違いだったかも」
「そう?でも、聞いた感じデザインの案に出来そうだし、また今度聞かせてよ。参考にしたい」
思っていた反応と違う、みたいな表情を浮かべるガルノラルクに対して、ナツトはそう提案した。
と同時に、ナツトの頭の中で「ある説」が急激に浮上してきた。
それは「ガルノラルク、転生者説」であった。確信ではないが、今の発言と発言後の挙動でかなり怪しくなった。この世界ではチェリーをさくらんぼとして認識していない。書物等にもそんなことは書いていない。話しぶりから、彼の頭の中で明確なイメージは出来ているみたいだし、親から聞いたとか伝聞系は可能性が低いだろう。
今すぐ問い詰めてみたい気もするが…今は人も多いし止めにしておこう。とりあえず今は保留することに決定した。
結局ガルノラルクの案が通り、魔石を二個購入し店を後にした。魔石は安全に持ち運ぶことができる収納魔法を持ったナツトに一任された。
ノアラナチアのグループと別れたナツトたちはぶらぶらと街並みを楽しみながら歩き回っていた。
そんな時だった。
事件は唐突に発生した。
周囲に轟音が響いた。
「何の音!?」
ウルヴァロが叫ぶ。
これは__爆音だ。音のした方向を見るとどす黒い煙が立ち昇っていた。
街中で爆発、ただ事ではない。
「なんだ!?この強大な魔力は?」
間髪入れずに今度は、爆発があった方角から途轍もない規模の魔力が放たれた。
「…誰かが、何かしらの魔法を発動したな」
ガルノラルクが思わず叫んだその言葉に対して返答するナツトであったが、この魔力にナツトは覚えがあった。
ミューカである。彼女がここまで大規模な行動を起こすとは、やはり…。
と思っていたら、更に爆発音が轟き、ナツトたちの近くの方にも遠くの方にも三か所、同様に黒煙が立ち昇った。
この瞬間、これが事故ではなく人為的な爆発だと確信することができた。
「だ、大丈夫か!?」
ガルノラルクも全員の安否を確認した。幸いこちらの方までは被害が及んでなかったため全員無傷であった。
「…みんな、大丈夫かな…」
ウルヴァロがびくびくしながらそう言った。
ここ周辺は当然観光名所で学園の生徒以外にもたくさんの観光客が観光している。
彼の心配は尤もである。
「なぁ、みんなが無事か確認しに行かない?」
ウルヴァロがみんなに提案した。
「いや、それは止めた方がいい。すぐに騎士団が到着するだろう。素人が行っても何も役に立たないし、かえって邪魔だ。二次災害に巻き込まれる可能性もある」
そんな意見をイアノンが却下した。これにはナツトも賛成である。心配になるのは痛いほどわかるが、この場合、班員全員がちゃんと固まって安全な場所にいることが優先だろう。
「とりあえず、集合場所に行かないか?爆発地点と反対方向だし、そこが一番安全じゃないか?」
ガルノラルクがそう言った。
確かにそれが今のところ一番よさそうだが…。
「不味い、人だ!」
今度はイアノンが叫んだ。ナツトは考え事をしていて反応が遅れた。
見ると、そこには数えきれないほどの人がこちらに雪崩れ込んできていた。おそらく爆発によりパニックとなった人の波だろう。
あっという間にナツトたちはその波に飲まれ、離れ離れになった。
「くそッ!イアノン!ガルノ!ウル!」
圧倒的な強さの流れに逆らえず埋もれていくナツト。この体だと潰されて圧死してしまいそうだ。
ナツトは道から外れるため、流れに従いながら脇道を探すと同時に、離れ離れになった三人の魔力を辿り、居場所を特定した。
「!!、イアノン!!」
魔力探知で全員の居場所を特定したナツトは魔力越しだが確かに確認した。四人のマントを羽織った人間が、流れる人ごみに紛れつつイアノンを完全に囲み、今まさに手に持った刃物を突き立てようとする、その様を。
どんどん、どんどん延びていく第四章。
ここに辿り着くまでに三話もかからない予定でしたのに…。
まぁ、延びるのは毎度のことですし…別にいっか。




