Ep.53 三勇、再会
「ん?シャックはどこに行ったんだ?誰か知っているか?」
「あ、先生!シャックは、トイレに行くって言ってたよ。場所分かっているからすぐに合流するって」
「そうか……あいつなら大丈夫だとは思うが、迎えにいくか」
点呼をしていたAクラスの担任のアーサックは、一人いないナツトを探しに行くため、来た道を戻り始める。既に自分のクラスの生徒は体験場所に着いており、自分が離れても問題はないだろう。一応その間生徒たちを見てもらうよう別の教員に声をかけておけばいいだろう。
何度かここに来ていたので、この辺りのトイレの位置は把握している。だが、何か所か確認したが、シャックの姿は見当たらなかった。ムム、と少し困りながら来た道を再度引き返すと、Aクラスの体験場所に向かうシャックの姿があった。アーサックは、この建物は結構道が分かれているのでどこかで行き違ったのだと勝手に判断した。
「あれ、先生…あ、もしかして探してました?すみません」
「いや、迷子になっていないならいい。いくぞ」
「はい!」
「ん?珍しく明るいじゃないか?いいことでもあったのか?」
「それは内緒です!」
そんな会話を交わしながらアーサックはシャックを連れてクラスの元に戻ったのだった。
あぶないあぶない。あやうくバレるところだった。
何がって?そりゃもちろん、二人に会っていたことだな。
ホールの説明が終わった瞬間、近くにいたクラスメイトの男子にトイレに行くという嘘を吐き、ホールから出る。頭の中でオルウェルたちが出ていった舞台側の出口から、行く方向を推測する。建物内のマップは、ホールまでの道中に地図があったのでそれを記憶した。
その記憶を頼りに、可能性の高いルートに向かう。恐らくだが、このタイミングで会うのが一番リスクが小さいはずだ。
もし、オルウェルが各クラスの体験授業に参加するつもりなら、その場でバレるリスクがでかすぎる。今のナツトは体は完全にそこいらにいる子どもであるが、顔立ちは以前の姿を引き継いでいる部分が多いので気付く可能性がある。正直、千年もすれば人の顔なんて忘れるものだと思うんだが、アルティオがすぐにナツトだと気付いたようなので、気付く前提で動くのがいいだろう。それに周りと髪色も違い、目立つに目立つので注目されるのは確実であるのだ。
ある角を曲がると、視線の先に目的の人物二人がいた。他の隊長たちと一緒に。
そうだった、この可能性になんで気付かなかったんだ。普通に考えて、他の隊長と一緒にいるに決まっている。あの状況で単独で動いている方が変だ。
いや、でも大筋は変わらない。周囲に彼ら以外の人の気配はなさそうだし、隊長たちもこの国の中でもかなり上の存在の人たちだ。最悪彼らにバレても、その他大勢にバレるよりマシだ。
ナツトは道に迷っている風を装って、彼らに近づく。すると一番後ろにいた、女性の隊長であるリピアがナツトに気付いた。
「あれ?ボク、迷子かな?」
「おや、学園の子だね、誰か___ 」
彼女の隣にいたヴィングが彼女の言葉で振り向き言おうとしたとき。
「……!!!?ゴッホ、う、ガッホ、ゴッホ!!」
ナツトを見たオルウェルが大げさに見えるぐらい急に咽だした。
「ちょ、団長!クッキー食べながら咽せないでくださいよォ!」
オルウェルは信じられないものを見ているというような目でナツトを見る。オルウェルの前にいたマーヤも驚愕の表情でナツトを見ていた。マーヤは次第に目が潤んできているようにも見える。オルウェルの咽る声が五月蠅くて聞こえ辛いが、マーヤは小声で「嘘、嘘」と言っているのが聞こえた。
ナツトは、そんな二人を見て「あぁ、やっぱりわかるんだ」と感じると同時に、気付いてもらえたことと再会できたということでちょっと泣きかけた。
でもちょっと状況がカオスになりかけているからナツトは一旦空気になることにした。
そんな事情を知らない隊長たちは少し困惑していた。自分たちが尊敬する団長がいきなりすごい勢いで咽せだしたのだ。オルウェルに対して「咽せないでくれ」と叫んだカーラインは予想より長く咽ているオルウェルを見て心配しだした。
だが、その後すぐにエリゼオがオルウェルの背中を叩き、水を渡した。
それを飲んでようやく落ち着いたオルウェルは、「あ~」と一息吐くと、エリゼオに礼を言った。
「ふう、お前ら、先行っとけ。俺はこの子どもを案内するわ」
「団長自らですか!?」
「ああ、俺の株を上げるためだ」
「…それ子どもの前で言ったらだめでしょう…」
「いいツッコミだな、カーライン。だが気にするな。マーヤ、一緒に来てくれ。帰りの話し相手が欲しい」
「…いいよ」
上手いなオルウェル、自然にマーヤを誘った。ここで隊長たちと離れ、二人に連れられナツトは移動を始めた。
「それにしても、咽せた団長レアだったな。お前でも滅多に見ないんじゃないか、エリゼオ?……おーい、エリゼオ君?」
「…ん?あ!?スマン、どうしたカーライン?」
「お前、全然聞いてないだろ…まぁ別にいいや。で、なに悩んでんだ?」
「ん?いやぁ、大したことじゃないんだが母上がちょっと泣いていた…ような?」
「ンナッ!?大した事あるじゃない!?なんでよ!?」
「さぁ、俺にはわからん。欠伸でもしたんじゃないか?気になるなら母上に直接聞いてくれ」
「あんたねぇ…無理に決まってるじゃない…」
(でも、母上。笑っていたような…気のせいかな)
「…で、ナツト、なんでここにいるの?」
まわりに誰もいないことを確認したオルウェルがいきなり核心を突いた質問をする。やはり、目の前の子どもがナツトであるという確信があるようだ。
「それは、学園の生徒だからかな」
「「いや、違う、そうじゃない!」」
おや、見事なシンクロ、流石夫婦。
「あ、なんで転生してるんだってこと?」
「ちょっと違うが…まあ、そうだ」
「それは長くなるから別の機会に」
「おい」
「それより、久しぶり。オルウェル、マーヤ」
「ああ、久しぶりだな、ナツト」
「うん、久しぶり!…それにしても随分可愛くなったね~」
「まぁ、うん。ありがとう」
「それにしても、ナツト、もっと早く知らせろよ…学園に通っているなんて結構前から__あっ、アルティオたち隠してやがったな!」
「まぁ、いろいろ言いたいと思うけど、今時間がないから、挨拶だけね。文句は後でいくらでも聞くから」
「…わかったよ」
「それと、今はシャックっていう名前で通しているから間違えないでね」
傍から見れば随分あっさりと見えるかもしれない。だがお互いに内心どんな心境か察している。アルティオのときは転生後間もなかったので実感が少なかったが、一年という時を過ごした今その実感がどんどん湧いてくる。ここで深く語り合う必要はない。こうして顔を合わせることに何よりも意味があるのだ。
三人の再会、やっと。
あ~久しぶり。




