Ep.5 覚悟
「アルティオ、どういうことだ?」
オルウェルが怒気を含んだ声でアルティオに問う。
「…根拠を。」
ミューカもそれに続き、発言する。
夏翔とマーヤは互いに一瞬目を合わせて、無言を貫いている。今、空気がとてつもなく重い。
「…先ず、この作戦はさっきも言ったが、成功するかすらわからない。」
「だったら尚更全員で行くべきじゃない!?少数いや二人で行くなんて無謀もいいところだと思うけど?」
ここでマーヤが発言する。夏翔は完全に発言のチャンスを出遅れたし、失った。
「いや、だからこそだ。当然だが、皆を信用していないわけではない。残る三人には陽動をお願いしたい。」
「陽動…。」
「そうだ。君達が少々派手に魔法を戦場に投入する。そうすれば、現在の均衡が少し崩れて、敵戦力は必ず戦場のほうへ注目する。その間に乗じて、私とナツトは速やかに目的を達成する。それに、私とナツトはこのメンバーの中で魔力量のツートップだ。万が一の事態でもなんとかできるだろう。…どうだ、皆お願いできるか?」
「…それなら、俺は別にいいが…。」
「私も。…ミューカは?」
「…いいわよ。でも無茶しないでね。」
「無論だ。ありがとう。…ナツト、これでいいか?」
「ん?ああ、いいよ。それでいこう。」
「よし、話もまとまったし、早速準備に取り掛かろう。あ、そうだ言い忘れていたが、偵察隊のおかげで敵の大体の地点は割り出している。」
「流石。」
夏翔達はすぐに準備に取り掛かった。
準備がてら、一つ言っておこう。このパーティーのリーダーは夏翔ではなく、アルティオだ。よくある例だと、勇者がリーダなのだが、生憎、少し前まで庶民だった人間にそんな大層なことなどできるはずもなく。その点、アルティオは王族として長く人を扱う術を学んできた。その差は歴然。素人より、経験者のほうがいいに決まっている。適材適所が肝心であるのだ。
あれから、数時間後。夏翔とアルティオは敵陣営を低空飛行していた。起伏が激しい地形であるがゆえに移動は少々厄介であるが、身を隠して進むのにはもってこいであった。想像するならば、少し高低差が控えめなグランドキャニオンと言ったところだろう。
憂いごとであった、敵の索敵能力だが、現状そこまで高くないと結論付けた。
「そっちの現状は?」
おっと、ミューカからの思念共有だ。
「問題なし、作戦準備を進めてくれ。」
それにアルティオが返答する。
「了解。こっちはあと半刻ほどで完了するわ。」
「わかった。では、終われば、作戦開始まで待機だ。」
「了解。」
ここで共有は終了する。
「…だそうだ。こっちも手早くしないと、あいつら暇を持て余すな。」
「みたいだね。じゃあ、急ぎすぎない範囲で頑張らないとな。」
「はは、そうだな。」
今、僕たちがした、意識共有。この世界一般的には魔法通話という魔法陣を用いて、情報伝達を行うが、これには現状問題が多くあり、一つは効果範囲が約五十キロ圏内であること、一つは比較的簡単に傍受ができてしまうということである。
しかし、この意識共有はそれをはるかに凌駕する性能である。傍受することはまず不可能。なぜか。それは、この意識共有は、アルティオの能力を用いて行っているものであるからだ。少々特殊な能力だが、一応分類上で内向系能力に分類されるアルティオの能力「共有」。自己と他者が持つ情報を共有することに長けた力。これにより、いとも簡単に離れた地点との安心な情報交換を可能にした。普通に強い。
「見えた。敵の結界だ。」
「なるほど。風景に溶け込んでいるね。近づかないとわからないな。連中、隠すのはうまいな。参考にさせてもらおう。」
「よし、じゃあここからは走りだな。」
「そうだね。さっき相談した配置に着こう。」
「了解。」
ここからは二手に分かれる。二人で敵陣営を挟む感じだ。夏翔の予定待機場所は向こう側なので、急いで向かう。日が落ちかけている。夕日が淡く赤く輝いている。
「ナツト、こっちは準備完了だ。ついでに結界についても調べた。結界は外からの魔法攻撃をある程度軽減するものだ。」
「ふーん、じゃあ内部に入らなといけないかな?あ、こっちももうすぐで到着する。」
「了解。みんなの撹乱に乗じて侵入しよう。幸いにもそこまで高度な術ではない。情報を送るよ。」
「…なるほど、こんな感じか。よし、配置に着いた。」
「了解。ミューカ、オルウェル、マーヤ。十分後に作戦開始する。準備はいいな?」
「ええ、いつでも。」
「おうよ。」
「大丈夫だよ!」
「よし、ナツト、覚悟はいいか?」
ん?覚悟?アルティオらしくない質問だな。気を使ってくれているのか?
「心配いらないよ、アルティオ。らしくない質問だね。」
「ふっ、すまん、愚問だった。忘れてくれ。」
「…うん。」
地球にいたころの自分は今の自分を見たらどう思うだろうか。人殺しはだめだとか言うのだろうか。いや、言わないな。自分自身、あまり他者の生死なんて気にしない性質だったし。まあ、死ぬのが知人なら話は違うだろうが。いや、日本の倫理観だとか道徳心だとか言うのはお門違いだろう。ここは、まったくの別世界なんだから。
過去に魔物を倒したことはあるが、いざ、これからこの手で人を殺めるというのにこの冷静さが何とも言えないぐらい自分でも恐ろしい。自分は流石にここまでドライ、いや冷徹な人間だったのかと思ってしまう。はたまたこれは召喚の影響なのか、それとも本当に自身の真の姿なのか。少なくとも僕には判断できない。
戦う理由なんて、まだ死にたくない、これで十分だろう。後、強いて言うならば今の生活を失いたくないから、だろうか。この世界で一年住んだが、想像以上に居心地がよかった。いつしか執着が生まれてしまった。無くしたくない、失いたくない。幸いにも、それを守るための力がある。
ならば、それを全力で守ろう。例えどんな犠牲を払っても。それが今僕のできる最善だと感じるから…。
きりが良さそうなのでここでいったん切りました。




