Ss.4-3 白き竜<未知数>
「行くぞ、怪物」
気付けばいつもの抜けた口調も忘れて本気になっている自分がいた。
この事態を想定して、前もって出し惜しみはなしの準備をしていた。その準備した魔法を発動しまくる。余波で少々周辺を破壊してしまうが致し方無い。やることは、さっきと同じだ。ひたすら猛攻を続け、できる限り反撃の隙を作らせない。
もちろん、この間も鑑定は続ける。少しでも別のことに意識を割かせて、少しでも多くの情報を引き出すのだ。最早、ここでの討伐は不可。俺でも無理だ。
だが、やはり、相手の攻撃・防御共におかしい。こちらの攻撃は薄い結界一つ破れない。そして、向こうの攻撃はこちらの結界を簡単に突破してくる。理不尽だ。まさか、Sランクになってそんな気持ちを抱くとは驚きだった。
だが、悪い知らせばかりではない。一ついい知らせもあった。それは私の攻撃時、結界にヒビが入るようになったのだ。もちろん随時結界の修復を行ってくるが、確実に吉報であった。
だが、これ以上長引いても、こちらが不利になる。ここは切るか、とシヴは判断した。
「火よ、水よ、風よ、大地よ、氷よ。今此処に集まりて、純白となりて、その大いなる力を見せ給え。各種属性魔法混合、光よ今此処に。___付与光魔法」
能力なしの人間が魔法で最高火力を出す方法。それが光魔法。いろいろな魔法を混ぜ合わせることで得られる純白の輝き。その美しさと裏腹に威力は無慈悲だ。破壊力はもちろんのこと、何よりも突出しているのが他の魔法の追随を許さない圧倒的な貫通力。過去の勇者がこの光魔法で魔王を打ち倒したということも聞いたことがある。
光魔法を生み出すまでが相当訓練が必要であり、それを制御するのもまた相当な訓練が要求される。
だが、モノにできれば切り札として絶対的な信頼を置くことができる。
そして、この光魔法を剣に纏わせた。
「全能力強化!」
少しでも威力を底上げする。これのお陰で、単純な筋力は通常時の十倍。圧倒的な速さと力で持ってして、あのドラゴンを仕留める。
強く地面を踏み蹴り、一直線に突撃する。残るは光魔法の残光のみだ。
だが、ドラゴンは察していたのか熱線照射を同時に繰り出した。
「甘いッ!」
こうなることを読んでいたシヴは、短距離転移でドラゴンの背後に転移する。これで攻撃を躱すと同時に、背後から攻撃を叩き込めるのだ。
ドラゴンは危険を感じたのか結界をもう数枚張ろうとした。
「もう、遅いわ!」
繰り出すは全力の突き。その威力は先程スカしたそれとは段違いだ。
必殺の一撃がドラゴンの結界にぶつかる。途轍もない抵抗だ。やはり、普通の結界ではない。だが、それがなんだ。ここが正念場だ。
「うおぉぉぉ!貫けぇぇぇぇェ!」
そして、遂に結界を突破した。もうドラゴンとシヴの間を阻むものはない。
剣がある一枚の小さな小さな鱗に到達する。絶対の貫通性を持ったその剣はそのまま鱗を貫くと思っていた。
しかし、現実はそうではなかった。止められたのだ。鱗で剣は完全に止められた。
その原因は結界で光魔法がかなり削られたということもあるが、違う。答えは簡単。鱗の方が結界より強固であった、ただそれだけだ。結界がなければ、鱗をも削れたかもしれない。だが、それは叶わなかった。Sランクの火力を持ってしても、その鱗は恐ろしいぐらいに強固であった。
「…いいや、まだだ!」
だが、シヴはまだ諦めていなかった。こうなることも想定はしていた。結界は突破している。ならば追加すればいいだけのこと。
「付与火炎、雷電、竜巻!」
光魔法がまだ残っている剣に更に魔法を付与する。そして、何度も何度も同じ鱗を斬る。
二十程斬ったところで遂にその鱗が崩れ落ち、皮膚が露出する。これだけ斬ってやっと小さな鱗一枚。割に合わないなと心のどこかで思いながらも、その隙間を狙う。シヴには僅かな隙間があれば、よかったのだ。
最初に光魔法を作ったとき、その一部を取って、残しておいた。すべてはこの一撃のために。最後でドラゴンの鱗の下の肌に直接魔法を撃ち込むために。例えどんなに小さい的でも、この距離は外さない。そんなくだらないへまなどしない。
「喰らえ!絶光乱爆!」
この魔法はまず、光魔法の効果で対象を貫く。そして、体内で拡散し爆破する。例え魔物でもこれを喰らえば基本的に致命傷となる。
事実、この魔法で多くの魔物を屠ってきた。
それにこの魔法は見てからじゃ回避は間に合わない。先ほどのシヴの突きも恐ろしい速さだったが、そんなものとは比較にならない。光速だからだ。魔法は想像から成る。光魔法は圧倒的な攻撃性能と同時に実際の光のイメージも持っている。そのため、光速。見えたときには既に当たっているのだ。
「消えた!?上かッ!こいつ、まさか短距離転移を…」
だが、魔法は見事に外れた。その恐ろしい危機察知能力で、このドラゴンは備えていたのだ。シヴが魔法を放つ絶妙なタイミングでシヴから見て学んだ短距離転移で見事遥か空中に移動したのだ。
そして、押し付けるような悪寒がシヴを襲った。
「こいつっ!ぬおッ!??」
ドラゴンの動きを見て何かを察したシヴだったが、何かに押されて地面に押し付けられたのだ。
「これは…結界か!」
シヴを地面に押し付けているもの。それはあのドラゴンの結界だった。地面がへこむほど強く押し付けてくる。もちろんシヴはそれだけでは死なない。では、何のためか。シヴにはそれが何のためかはすぐにわかっていた。
それは、次の一撃を当てるための足止めだ。おそらく、あのドラゴンは次で終わらせる気だ。そして、それはおそらく全力の一撃だ。だが、転移をすればこの状況を簡単に脱せる。転移先として二つ候補があった。一つはあのドラゴンのところまで転移し、空中戦を始めること。もう一つが、仲間のところに転移すること。
前者は、シヴとしてはアリな選択肢だ。ただ、タイミングがあのドラゴンが何かした直後となる。距離的に魔法が飛んでくると思うが、もし威力が壊れていたら、シヴ以外の冒険者たちが死ぬことになるだろう。それに、先ほどあのドラゴンが短距離転移を行った。シヴを上空に連れ出し、下の冒険者を片付けに行かれる可能性もある。
とすれば、取るべきは後者か。そろそろ頃合いであるだろう。すべてとはいかないが、必要最低限の情報も取れた。討伐できなかったのは実に遺憾であるが、人命優先だ。
「他の冒険者は…よし、ちゃんと全員集まっているな」
シヴはまず仲間の元に転移した。
「!シヴさん!」
「待て、話は後だ。撤退するぞ。身代わり設置してっと、ホレ長距離転移」
シヴは自身らの周りに霧のようなものを作り、ドラゴンから自分たちを見えないようにした。そして全員分の身代わり人形を作り、すぐさま指定範囲内にいた冒険者全員を長距離転移を用いて、一緒に遠くに避難した。場所は一つ隣の山の山頂。戦闘中にいくつか一次避難場所の目星をつけていたのだ。
「シヴさん、これは一体どういう…」
転移先で冒険者の一人が、シヴに話しかけた。レスタフは気を失っていた。
「これ以上は、無理だと判断した。お前たちが死ぬ」
「え?」
「見ておけ」
そう言ったシヴは視線を先ほどまでいたところ辺りに向けた。それにつられて気を失っていない冒険者が一斉にそちらを向いた。次の瞬間、大地が爆ぜた。先ほどまでの魔法の攻防が可愛く見えるほど大きな爆発だった。大地を震わす轟音と地震かと勘違いしそうな揺れが起きる。そして、向こうの衝撃が離れたこちらまで到達する。シヴは一応結界を張って全員を守った。
少しして、大きな黒煙が立ち昇っていた。森の一角が完全に消し飛び、巨大なクレーターを作っていた。
「な…」
見ていた冒険者たちはあまりの威力に呆然としていた。
「あれが、竜息吹だ」
「あ、あれがですかッ!?そんな、ドラゴンはみなあんなものを撃てるのですか!!?」
「いや、俺でもあの威力は見たことない。昔討伐した成竜でもあんな威力ではなく、もっと優しめだった」
「え?いやいや、おかしいですよッ!あれは、まだ幼体でしょう!?そんなのありえないですよ!それともあれは実は成体だったのですか!?」
「そうだ、鑑定の結果、あれは間違いなく幼体だ。…ただし、親から生まれたのではなく、自然から生まれたオリジンモンスターだ」
「お、オリジンモンスター…?スライムならまだしも、ど、ドラゴンの?それって、伝説の存在じゃないですか!?う、噂話ではなかったのですか!?」
「俺もそう思いたかったが、確定だ。鑑定の結果だ。そしてもう一つ。あのドラゴン、能力を有している」
「…そ、そんな…。オリジンモンスターってだけで驚異的なのに、その上能力まで…!?」
「だが、能力を有しているのがわかったが、それが何なのかはわからなかった。だが、何度もやった攻防である程度の推測は済んだ。恐らく自身の攻撃や防御を強化するものであろう」
「強化系能力…なんて厄介な」
「…とりあえず、街に戻るぞ。ギルドへの報告は俺がやっておく。お前らは怪我人を病院に運んで診てもらってくれ。病院までは送ろう」
「シヴさん、ありがとうございます。貴方がいなかったら我々は…」
「ええい、止めろ止めろ、そういうの。別にいいから、気にするな」
「しかし…」
「ああ、じゃあその代わり、将来俺が困っていたら助けてくれ、それでいいか?」
「…はい!」
「はい、話は終わりッ!帰還!」
無理矢理、シヴは長距離転移を再び行い、出発した街へと戻った。冒険者の彼らを病院に置いた後、すぐにギルドに向かった。
ギルドマスターは、シヴたちが向かった森で大規模な爆発があったのでその情報整理のため忙しくしていた。シヴはすぐに取次ぎを行い、ことの顛末を詳細に話した。その後、報告書を書き上げギルマスに託した。ギルマスはすぐに本部に伝えると言っていたので、とりあえずはやることが終わった。
それから少しして、どこから漏れたのかSランクが討伐できなかった魔物とか一年前の魔物の再来だとか事実だけどそう言った噂話が広まった。そして、しばらくしてから発表されたこの白いドラゴンの話を聞いて、冒険者たちの会話はこれで持ちきりになった。もちろん、この情報は世界中のギルドに通達された。
後日、ギルドは調査隊を派遣したが、一年前と同じく白いドラゴンを発見するには至らなかった。
Sランクでも討伐できなかった。この事実を踏まえ、ギルドはこの個体に対する認識を改め、この白いドラゴンを危険度星五に指定した。そして、シヴの「こちらから攻撃を仕掛けてなければ、攻撃しない可能性がある」という報告と人を襲っていない点を鑑み、冒険者たちが下手に刺激しないよう指定討伐対象から外し、Sランク限定指定討伐対象としたのだった。
白き竜の足取りは不明である。次、姿を現すのは一体いつになるのだろうか。
名前:--- 年齢:1
能力:『権能;???』
種族:オリジンドラゴン
これで、三話終了。そういえば、ルビを振ってる文字がありますが、作者の気まぐれでつけているので特に法則性等はありません。ルビの性質上振れる文字数が決まっているので、元々付けようと思った文字があっても、それ以上の文字数になれば適当に略してます。
一月は超が付くほど忙しかったので、正月に勢いで三話分書いた自分に感謝。
ていうか、既にかなりの化け物になってしまった。本当はもう少し控えめで行く予定だったんだけど、如何せんこいつの能力のせいでなぁ…。
まぁ、「そういう」能力に決めちゃったのだから仕方ないか…。
では皆さん、また次回の更新で。本編に戻ります。




