Ep.47 能力の有無
「全員自己紹介終わったね。じゃあ、始めるよ」
手をパンっと叩いて、ニコレットが全員の注目を集め、授業を始める。
「さっきも言ったんだけど、能力を持っていない人達と違って君達は気を付けることが多い。その最たる例が、魔力だよ。持っていない人は、魔法にだけ魔力を使えばいいからいいんだけど、持っている人は魔法に使う魔力と能力に使う魔力、この二つを常に意識しながら立ち回る必要がある。もちろん、能力を使わないっていう選択肢も、魔法も使わないっていう選択肢もあるけど、あまり現実的じゃない。能力があるっていうのは大きなアドバンテージだから積極的に使うべきだと私は思う。そうだね、一回その例を見せようかな。………管理窓起動」
ニコレットがそう唱えると、彼女の正面、胸の高さ辺りに、浮いた白い半透明の板のようなものが現れた。どうやらそれはタッチパネルのようなもので、ニコレットはそれを人差し指で操作した。
すると、ナツト達から十メートル離れたところに本物かと思ってしまうほどリアルで体長十メートルはあるであろう大きなトカゲが現れた。いや、大きさ的に最早トカゲではなく恐竜のようなものだが、小さくして見たらトカゲだろう。
「きゃっ!??」
そのトカゲがあまりにもリアルでしかも急に現れたため、ノアラナチアが思わず悲鳴を上げた。彼女以外も声こそ出していないが吃驚している様子だ。
「あー、ごめんね。いきなりは吃驚するよね…。でも、本物じゃないから安心して。…でも、リアルすぎもよくないかな?」
小さくそう口にしたニコレットは再び白いウィンドウを操作した。すると細部まで本物かと思われたトカゲがみるみる黄色く染まっていき、公園に置いてそうな動物のオブジェクトみたいなものになった。
「これで大丈夫かな?」
それを見て満足したニコレットは、話を再開した。
「例えば、一般的な魔法を無詠唱であの的に撃ってみるね。___熱線照射!」
ニコレットがトカゲの的に向けてかざした右手の掌から赤い光線が出て、一瞬でトカゲに到達する。
熱線が過ぎ去った後、トカゲの頭から上が蒸発していた。なかなかショッキングな光景だったが、しばらくするとトカゲの顔は何事もなかったかのように元通り再生された。
「とまぁ、これが無詠唱で普通に魔法を撃ったときね。で、これが能力のバフを付けたものね。__熱線照射」
次に赤き光がなくなった時、そこにいたはずのトカゲの姿は完全に消えており、トカゲのいた場所が床ごと抉られていた。
今度も先ほどと同様、しばらくすればトカゲも床も元通りになったが、二度目にニコレットが放った魔法が一回目に放ったそれより遥かに強力であったのは言うまでもないだろう。
ニコレットは実に簡単に能力の有無の差を示してみせた。それを見た生徒たちの反応は様々だ。
元々知っていた者達は特に驚く様子はない。逆に能力の有用性をまだ知らなかった者達は、その有無の違いをここまで違うものなのか、と深く感じていた。
「いきなり、やれって言われても無理だからまずは能力に慣れることから始めようか」
そこから本格的に特別授業が開始された。
元々能力に関する教育が施されていたチェルーティア、イアノンの二名はとりあえず後回しで、その他の四人をまずは見ていくと言われた。
ナツトはこの中でも少々特殊な部類なので自ら最後でいいと申告した。
そのため、ナツトは他のみんなが説明を受けている間、チェルーティア、イアノンの方にいた。
また、先程ニコレットが使用していた管理窓は全員が使えるようにしてくれた。
そのため、この部屋の中にいたらいつでも的を出せるわけだ。管理窓のメニューを見ると結構色々できそうなので、使う機会があれば使わせて貰おう。
先程、ナツトの能力が特殊と言った。その理由は他の者達と比べナツトの能力が外部に影響を出し辛いという点だ。
ニコレットのように強化系は思いっきり外部に影響を出しているのはわかるだろう。
しかし、ナツトの能力は体内で完結することが多く、傍から見ても能力を使っているようには思えないだろう。
ナツトも内心しばらくは能力を使うという点から本等を読み漁る日々が続きそうだなと感じているのだった。
(まぁ、ここは魔法の訓練とかにも向いてそうだし、同時にそれも鍛えるか。それに、能力と魔法の組み合わせを考えるいい機会になるし、ね)
他のメンバーより、能力の練習に割く時間が少なそうだと察したナツトは代わりにできそうなことを思いつき心の中でニコニコしていた。
例え同じ能力があったとしても、人によってその能力のどこを伸ばすのか異なってくるだろう。自身の能力について何ができるのか、これを他人の意見を聞くというのはありだろう。しかし、やっぱり大事なのは自分自身で考え、見つけ出すということだ。結局のところ、能力のことなんて所有者しかわからないというごく当たり前なことである。
「水弾乱射」
イアノンの頼みでナツトは魔法を放っていた。
この魔法は本来は銃弾の形を模した水滴を作って放つ技なので当たったらかなり、いや本気で痛いし余裕で怪我する。
しかし、今回は威力を落としまくり、当たっても雨粒が当たった程度の威力に調整してある。もちろん形も配慮して、当たっても安心安全のただの水滴にしている。
千を優に超える水滴がイアノンに殺到する。
いくら水滴とはいえこれらに当たれば、びしょ濡れは必至だろう。
しかし、水滴はすべてイアノンに到達する前にその軌道を大きく変え、イアノン周辺に導かれるように集まり、五ヶ所で水塊を形成し宙に浮かんでいた。
それを見ていたナツトはイアノンの能力が自分の能力と似ていると感じていた。
(根本的な部分では違うけど、できることは一部似通ってそうだな。イアノンを見てたら自分の能力にも応用できる部分があるかもしれないな…)
「ん?」
ナツトがそう考えていると、イアノンが困惑したような声を漏らした。
ハッとなり彼の方を見ると、宙に浮かんでいた水塊がまるで力を失ったように重力に従い、地に落ち水が周囲に飛び散った。
イアノンが何かしたわけでもない。…ということは。
「…今の、チェルーティアが?」
「正解」
やはり、予想は正しかった。チェルーティアは何らかの方法でイアノンの能力の影響を消したのだろう。この場において彼女が使ったのは能力であるはずだ。彼女が言うには彼女の能力は『変換』。
考えられるのは、そうだな…。何かを別のものに変換か。とすれば、イアノンがあの水球を維持していた微小な魔力を別のものに変換したとか、かな?魔力は一種のエネルギーだから、別のエネルギー、そう例えば熱エネルギーとかに変えたとか…。
え、待って、それ滅茶苦茶汎用性高くないか?今の仮説が合っていたとしたら、今の操作の逆もできるんじゃ…。
…いや、今考えるのは止めておこう。今は、能力を鍛えるのが先だ。
そう思い、ナツトは特別授業初日に目一杯励んだのだった。
明けましておめでとうございます。
早いもので、この作品を初めて投稿した日から八ヶ月が経過しようとしています。
昨年まではなかなかどうして平和な日常回が続き、バチバチな戦闘が第一章だけで、なんとも盛り上がりに欠けるという…笑。
今年は、もっと戦闘シーンも折り込んでいければ、と思っています!
宣言通り、この次はちょっと番外編を挟みます。その後に章を分けるか判断します。
それでは本年も『千年ぶりだね、大英雄。』をよろしくお願いいたします。




