Ep.45 六人の生徒
「その灰色の髪。うん、君がシャック君だね」
地下の突き当りの部屋の中はホールとなっており、大体縦横五十メートル、縦五メートルと言ったところだ。まさか、地下にここまで大きな空間があるとは。柱等は見当たらないが、何かしらの補強を行魔法で行っているのだろう。
そして、中に入ってすぐのところに教員と思われる女性が立っていた。髪は紺色で、目は赤い。身長も女性の中では高く、ボディラインはくっきりしていて、スタイルがとてもいい。ミューカにどこか近い印象を受けるスタイルのよさだ。
ここでナツトが比較したミューカはナツトが慣れていたせいで気付かなかったが、彼女はスタイルのよさに合わせて魔素体を習得したことによる人の範疇を超えた何か凄い雰囲気を纏っていて、最早まったくと言っていいほど参考にならないのだが、比較する対象がミューカしかいないナツトには無理な話であった。
いや、それは今はいい。それよりもナツトには大事なことがあった。
しかし、ナツトには目の前に立つ女性の髪色、そして目の色に見覚えがあった。脳内に二人のシルエットが現れる。
だが、ナツトは違和感を覚えていた。そう、違和感だ。脳内にしまっていた記憶が引き出されていく。
そのうちの一つは、真っ先に浮かんだ女性がボソッとこぼしていたある不満だった。
「あーあ、あたしもミューカぐらい胸が大きかったらなぁ…。せめてあと少し…………」
記憶の能力を持っているナツトは例え千年前のことでもその瞬間の景色はもちろん時刻などもまるで昨日のことのように鮮明に映像で思い出せる。
(変だ……。マーヤは自分でこういってた。彼女自身、身長は決して低い訳じゃないし、平均ぐらいか少し高い方だ。でも、これのせいで彼女の見た目はどこか幼く見えるのが特徴で…。だから、遺伝的にこんなにスタイルがいい子どもは生まれないはずだ、はず…………あ!もしかしてオルウェルの血筋由来か!…それならまだ頷ける?…か)
頭の中に浮かんだ、とある女性のことをかなり失礼に思うナツトであったが、ナツトは女性のスタイル云々の話題は滅多に持ち出さない。興味がないというのは嘘だが、基本的にあまり触れないし、考えないのだ。
そんなナツトが珍しくこれを持ちだした、というより考えた。今となっては、この女性の髪色はかなり希少な色であり、滅多にいない。誰が見てもその珍しさから忘れることなどないだろう。加えてミューカの学園長室での担当教員についての話が頭に強く残っているので、それも相まってこの女性が誰なのか予想が立てられる。もちろん、その予想が外れている可能性もあるが、その可能性は低いとナツトの直感が告げていた。そして、もしも胸の大きさが遺伝するなら、それは「彼女」由来ではなくて、きっと結婚した「彼」由来だろうと結論を出した。
「…あれ?聞こえてる?」
「あ、はい。すみません。少し考え事で…。えーと、シャックです。よろしくお願いします」
「うんうん、やっぱりシャック君であってたね。私は、ニコレット・ウィルテーゴ。ニコ先生って呼んでね」
ウィルテーゴ…。やはり、予想は正しかった。ウィルテーゴはオルウェルがアルティオから貰った家名だ。そして、オルウェル以外がこの家名を持っているということは即ち、そういうことだ。ちなみにこの世界は結婚時どちらの姓を取るかは明確に定められていない。要はどちらでもいいのだ。その辺りの判断は各々に委ねられている。
そんなことは置いておいて、彼女が前に聞いたマーヤとオルウェルの子どもの一人ということになるわけだ。そのうちの一人はまさかミューカの学園にいたとは。ミューカが我が子のように思うというのも納得である。
そんな英雄の子どもはよく見るとその実力が垣間見える。魔力が体から漏れていない。通常、魔法を使っていなくても、普段の生活で常に微量体から余計な魔力が放出されている。魔力操作を極めたら、これを抑えることが可能になる。尤も、口で言うのは簡単だが実際はとてつもなく難しい技術である。それを平然とやっている者はそれは間違いなく強者である。
「もうすぐで全員揃うと思うから、あっちで待っていてくれるかな?」
そう言って、ニコレットは後ろを指差した。そこには既に見慣れた顔がいた。
「シャックも能力持っていたんだ?」
「まぁね、みんなこそ持ってたんだね」
声をかけてきたのは、一番手前にいたノアラナチアだ。その後ろにウルヴァロ、イアノンがいた。普通に能力持っていたんだねと返したが、彼らが能力を持っていたのは大体予想はついていた。イアノンはなんとなく持っていそうだなぁ…と雰囲気から察していたし、ノアラナチアとウルヴァロに至っては「特別推薦」の生徒だ。持っている可能性は十分あった。
鑑定魔法を使えばもっと早くに核心に迫れたかもしれないが、ナツト自身鑑定魔法というものを知ってまだ日が浅い。暇時間に練習をしているが、まだ完璧に制御できていない。今の完成度では鑑定時に感知される可能性があるし、そもそもクラスメイトに無許可で鑑定をするのはあまり気が進まなかった。
それから、少しして誰かやってきた。
王女だ。
「ニコ姉!」
チェルーティアが部屋に入ってきたチェルーティアはニコレットを見た瞬間、ぱぁっと明るい笑顔を浮かべニコレットの元に向かった。その様子は普段の落ち着いた印象のチェルーティアとは少し違っていて、ナツトは少し吃驚した。
「久しぶり、チェリー。でも、ここは学校だよ。ニコ姉じゃなくてニコ先生ね」
「あ…ごめんなさい。ニコ先生がこの授業を?」
「そうだよ。ミューカ学園長から直々にお願いされたの」
「お母様から?」
「そ…おっと最後の一人が来たね。チェリーは向こうにいる子達のところで待っててね。えーと…君はガルノラルク君かな?」
「はい!」
ガルノラルクと呼ばれた少年は、はきはきとした声で返事した。チェルーティアは指示通り、ナツト達のところに合流し、会話に混ざる。
ナツトは一度会話から外れ、ニコレットと話す少年に注目した。薄い茶色の髪を短く整えている彼は今のナツトの身長より少し高めだ。大体百四十と言ったところだろう。この年齢にしては少し大きいほうか。第一印象は運動神経が良さそうなスポーツ少年と言った具合だ。
彼はAクラスの中にはいない顔なので他クラスの生徒だろう。
どうやらいくつか質問をしているようで、少し話している。それが終わるとニコレットと一緒にこちらに歩いてきた。
「これで、メンバーは揃ったね。初めましての顔もあると思うし、質問は後回しで改めて自己紹介しよっか。まずはこの特別授業担当のニコレット・ウィルテーゴだよ。一度言ったと思うけど、気軽にニコ先生で呼んでね」
と順番に自己紹介が始まった。いつものメンバーはもう知っているので省略。
「ガルノラルク・ノノージア、これが俺の名前だ。よろしく!」
近くで見るとやはり大きいな。声も大きくて聞き取りやすい。にしても、彼を見ていると少し緊張しているのか、全員をチラチラ頻繁に見ている。
まぁ、無理もないだろう。周り全員が違うクラスで完全に自分だけ孤立しているしな。それに、そのうちの二人は王族ときた。チェルーティアを見た瞬間の彼の顔は、驚きで完全に停止していた。
何に対して驚いたかは不明だが、これが一般的な反応なのかもしれない。
そう思うと入学式の日から話しかけに行ったAクラスの生徒はなかなか肝が据わっていたのだろうか。
「さて、もうわかっていると思うけど、ここでやるのは能力の制御訓練!君たちが入学してくるまで生徒の中に一人も能力保持者はいなかったのに、まさか六人も同時に入学してくるなんて最初に聞いたときはかなり驚いたよ。でもちゃんと私が全員を漏れなく見るから失敗を恐れずどんどんチャレンジしよっか!じゃあ、とりあえず説明からするね」
そう言ってニコレットは説明を始めた。
「能力は約十万人に一人が有す、魔法と似ているところもあるけど違うものだよ。それを持っている君たちは確かに特別なのかもしれない。でもね、持っていても使いこなせなければそれは単なる枷にしかならない。君たちは特別だからこそ、大部分の人はしなくていい「能力を使いこなすため」の努力を積み重ねる必要があるの。それを補うためにこの特別授業があるの。参加するしないは個人の判断に任せるけど、私としては絶対に受けてほしい。将来後悔しないためにも、ね」
そういうニコレットの表情は真剣でまっすぐにナツトたちを見ていた。だが、ナツトはその表情の中にどこか寂しさや後悔の念も混ざっているように思えた。
「もちろん、この授業で能力のすべてを理解することは不可能だから、完全に使いこなせるようになれるとは言えない。でも、自分の能力が何をできるのか、その足掛かりはきっと掴めるはず。みんなにはそれを是非とも見つけてほしい」
ここで、いったんニコレットは説明を止めた。
「今日は説明だけにしようかなって思ってけど、ちょっとやろうか。でも、その前に三分待つから、受けないよって子はここで帰っていいよ」
……いや、帰れないだろ、この空気。この真剣な空気の中で「帰ります!」ってなれる人はきっと凄い勇気を持っていることだろう。まぁ、僕は話聞いてて受けようかなって思ったから、関係ないが。
そして、誰も去ることなく三分が経過した。
「三分経ったね。……全員参加ってことでいいのかな?」
各々がコクリと頷く。
「じゃあ、始めよっか!」
今回、一話で終わる予定だったのに、なんと三話になります!なんだかすみませんね。
これが終われば番外編にする予定です。




