Ep.41 始まりの日
教室内は騒がしくなっていた。今日は入学式だけなので、ホームルームの時間が終われば予定は終わりである。今は、生徒同士が好きに会話している。
入学式の後、保護者達への説明会が行われており、それの終了を待つ形だ。
新入生たちはクラス内を歩き回り、自己紹介をしていく。となれば、必然的に注目されている生徒のところには列ができている。そう、注目度ナンバーワンともいえるチェルーティアは見るからに大変そうだ。
彼女は席を立つ前に列ができ始め、結局彼女が席に座ったまま行列が出来上がった。クラスのほとんどが並んでいる。
最初は、全員彼女に対して戸惑いの様子が見られたが、一人が勇気を出して挨拶に向かったことでその他を奮い起こしたのだった。
ナツトは並んでいない。こうなることは予測がついていたし、無理に彼女と関わるつもりはない。貴族であれば挨拶に行くのが当然であるだろうが、ナツトは身分でいうならば平民。それにここは学園。別に今挨拶できなかったといって今後に支障が出るわけでもない。今は、この列に並ぶより他の人との交流の方が大事である、そう結論付けた。
それにしても、相手は王族と言いうのに礼儀はともかく、緊張しないで挨拶に行ける胆力は凄いなとナツトは思ったのだった。言っても、まだ九歳の子どもだし、その辺りの事情はまだ詳しく知らないのかもしれないが。
ナツトは、王女の挨拶に行かなかった人と話をすることになった。ナツトが物思いにふけていたら声をかけてきたのだ。
「イアノン・アオ・ネララバールだ」
声をかけてきたイアノンという少年。プラチナブロンドというべきか、髪がとてもしっかりとした色で目も黄色、いや黄金色かな。身長はナツトと同じぐらいだが、佇まいが一目でわかるぐらい一般庶民のそれではない。
彼が誰なのかはナツトは実は知っていた。
「シャック・クルシャウトです。…ネララバールというと、ネララバール王国の?」
「そうだ、一応そこの王子だ。ラーテル王国からすれば、まだまだな国だがまさか知っている人がいるとは、嬉しいよ。同級生なんだ。できたら素で接してくれないか?私のこともイアノンでいい。それにこの学園は平等がモットーだしな、よろしくクルシャウト」
「…シャックでいいよ、こちらこそよろしく、イアノン」
お互い握手をする。この初対面の相手と話すときの緊張感も懐かしい。
「あっちに行こう。ここは王女様の邪魔になるかもしれない」
王女から少し離れその他の王女の列に並んでいない人達のところに行った。列に並んでいないのは最初から並んでいなかったナツト含め四人と挨拶が終わって数人だけ。もともと並んでいなかった人はもう少しいたのだが、イアノンと会話しているうちに何人か列に並んだようだ。
ナツト達二人は、最初から列に並んでいなかった残りの二人のところに向かった。
その二人は、ノアラナチア・ハロラとウルヴァロ・トーンの二人。この二人は入学前にミューカから聞いた、国王特別推薦枠の生徒だ。国王特別推薦は家庭がかなり貧しいが、優秀で将来活躍する可能性が高いと各学校の初等部で判断されて推薦書類が提出される。その後、審査が通り、かつ入学試験を受け、合格すれば在学中、月に生活費が支給されるなどの制度だ。ナツト自身関係ないので詳しくは知らない。所謂奨学金のようなものだが、ここは国立の学校。日本と相違なければ税金で成り立っていることになる。…いや、そういえば以前に入学金とか授業料云々の話をミューカとしたな。それなりに高い額だったし、国立と言っても、日本とは違い私立学校のようなものかもしれない。…考えたら面倒になりそうだ。この件は忘れることにしよう。学園の運営は関係のない話だ。問題なく生活できればそれでいい。
話を戻そう。国王特別推薦、これはその名の通り、国王の目を必ず通る特殊なものなので国王が認めたという認識が周知されるという点がある。これはいい成績を修めれば将来的にいいアドバンテージになるかもしれない。
さて、この推薦の二人、ノアラナチア・ハロラとウルヴァロ・トーン。
ノアラナチアが女の子。淡い黄色味がかった栗色の髪で目の色は緑。髪は肩程まで伸ばしている。はきはきとした物言いで第一印象は明るい女の子って感じだ。
それで、もう一人のウルヴァロの方も似たような髪色だが、ノアラナチアより暗い色をしている。茶に少し近いというのが適切だろうか。目の色はノアラナチアと似ている。緊張しているのか少し控えめな様子だった。
そうだ、言い忘れていたが、彼らのような髪はこの世界では一般的な色の一つで多くの人がこの色に該当する。実際に千年前もこのような髪を持つ人は多かった。実を言うとナツト達勇者一行は珍しい髪色の塊のような集団であったのだ。
この国の王族は金髪。世代が一つしか動いていないので変わるはずもないか。参考にはなり得ないがイアノンから推測するに他の国も王族は金髪かもしれない。
尤も、魔法はもちろん普通に髪を染めることができるので髪の色が茶色の系統だからこうだ、みたいなことはないのだが。今は学生なので髪染めは禁止。生徒は地毛で来なければならない。染めたらそれを特定する魔法でバレるそうだ。つまり、これが意味することは、ナツトも地毛で来ないといけないということ。つまり、とにかく目立つこの灰色の髪を晒さないといけないということ。口には出していないが、結構嫌である。イアノンは察してくれたのか、ナツトの髪については聞いてこなかったのだが、その他の子ども達にはそのような配慮は微塵も考えず、この後質問攻めにあった。対処が途轍もなく面倒であった。
後、もうどうでもいいが、目の色は他にも数種類あるそうだ。
それから間もなく保護者の説明会が終了したので、生徒側も解散になった。保護者達が教室まで案内され、子ども達を迎えに来た。何度も言うがまだ九歳なので保護者に一目散に駆けつけていく姿は年相応と言える光景だ。
中にはナツトのように諸事情で保護者がいない、もしくは来ることができない生徒が一部いるが、それは仕方のないことだと言えるだろう。
秀麗が終わっているので、ナツトはそそくさと教室を後にした。
向かう場所は一階、ではなく屋上。理由は後で言おう。
「うーん、やっぱり閉まっているか…まぁ普通はそうだよね」
ある程度予測していたが、屋上に繋がる扉は鍵がかかっていた。転落事故防止のためだろう。
仕方ない、別のところに行くか…と思った時だ、誰かが階段を上ってきている足音が聞こえた。しかも途中の階で止まらず一直線に屋上まで上ってくるようだ。入学式当日に屋上に用がある人間なんてまずいない。となればこの足音の主の目的はナツトということになる。足音からして子どもではない。
「おやおや入学初日に屋上に用事かな?」
「……なんだ、ミューカか。というか何その口調、違和感が凄い」
「違和感が凄いってなによ?先生モードよ」
「先生モード…それより屋上に何か用事でもあるの?」
「いえ、貴方に用よ。はいこれ」
「ん?タブレット?と何かのカード、いやカードキー?貰っていいの?ありがと」
「その赤いカードはここの屋上の鍵。特別に私が用意しておいたもの。ナツト、貴方高いところから景色見るの好きでしょ?貴方なら落ちる心配もないものね。…それに安心して使える場所が欲しいんでしょ?」
「…流石、ミューカ。よくわかるね」
「魔法的な思考は貴方と私は近いもの。ある程度はわかるわよ」
そう、ナツトが屋上に来てみた理由は二つある。一つはミューカの言った通り、景色が気になったから。ナツトは高いところから景色を見るのが好きである。この学園のメインとなる建物は八階建てになっている。ちなみに生徒の教室は四階までに収まっている。階段以外にもエスカレーターやエレベーターがあるのでそこまで移動がしんどいわけではない。なお、エレベーターは生徒の使用は原則禁止されている。
そしてメインとなる二つ目の理由。転移魔法を安心して使える場所の確保。法律で私有地や公共施設などに無断転移は禁止されているが、これは転移先とは関わり合いのない部外者に適応される。
そのその、転移防止のため、基本的にどの建物、敷地内には転移防止の強力な魔法が常時発動されているため、侵入することは無理になっている。
では、関係者たちは転移できないのではないか、という質問が挙がるがそこの心配は無用である、基本的に関係者であることを証明するものが一人ひとりに支給されて、それに魔力登録を済ませると個人専用のパスになるというわけだ。それを所持している状態であれば建物に直接転移できる、というシステムだ。もちろん逮捕されない。それに、他者が自分のパスで転移しようとしても登録魔力が異なるので転移できない。
そしてこの学園で、そのパスにあたるものが「生徒証」もしくは「教員証」である。生徒証は先ほどホームルームのときにすでに手に入れている。魔力登録もそのときに一緒に行っている。
ほとんどの生徒がまだ知らないが、この生徒証には学園内に、もしくは学園内から外部に転移することができる権限があるのだ。
転移魔法の資格を有し、家が馬鹿でかいナツトとしてはこれを使わない手はなかった。
ナツト的には屋上がいいなと思い、こうして足を運んだわけだ。
そしてミューカから屋上のカードを貰ったので、これで転移場所の確保完了だ。
「折角だし、屋上にでましょうか」
ミューカの提案で屋上に出る。扉を開けると冷たく強い風が吹き込んできた。屋上は三百六十度ひらけた少しだだっ広い場所で一応転落防止の柵が設置されている。
景色はそこそこいいと言ったところだった。というのも、この学園がある場所は中央都市リコア内。背の高いビルが多いので目の前にはビル街が広がっている。
しばらく景色を眺めていたら、ビル街をバスや列車が飛んでいるので、意外と絵になるかもしれないとナツトは思った。
「それで、もう一つのあなたが言ったタブレットの方は城に転移する用のパスとアルとの通信ができるものよ。アルから頼まれていたの」
スマホのようなものか。そして同時に家に帰らなくても直接城に移動するためのアイテムであると。すでにナツトの魔力登録を済ましているので、今からでも使えるそうだ。転移先も前にナツトが一時的に使用していた城の部屋になっているそうだ。加えて、ナツトの魔力を込めると電源が付き、アルティオの時間が空いているときがざっくりわかった。とんでもないプライバシー確認装置だ。
勿論、ナツト以外が使うと単なる黒い板である。
「アルがお互いの予定が合う時にまた来てくれって言っていたわ。貴方の予定が合う日時のところに魔力を込めたらアルに伝わるわ」
教えることもできるのか。それは便利だ。
「伝えること伝えたし私はこれでお暇するわね。今日は娘と一緒に帰る約束をしているのよ」
「あ、時間取った?ごめん」
「大したことないわよ、じゃあまた」
「うん、ありがとう」
その場を後にする彼女の後姿はどこか嬉しそうに見えた。どうやら、家族の仲はいいようだ。なんだか安心した。それにしても、一緒に帰るために仕事を全力で片付けたってことか。娘の晴れ姿だしな、自分に子どもはいないが気持ちはわかる。
「…さて、僕も帰るとするか」
そう言い残したナツトは数秒後には跡形もなく消え去り、屋上にはただ風の音のみが残った。
少々長くなりました。
作者は導入に一体何話使うつもりなんでしょうか…。
これのせいでどんどん長くなっていくんですよ、全く。もう四十話超えているというのに。
あ、屋上の扉は自動ロック式です。ナツトは鍵かけていないけど大丈夫です。ちゃんと閉まりました。
章タイトルを『初代勇者の学園生活』から『初代勇者の学園生活►中等部編◄』に変更しました。




