Ep.37 友の頼み
「ごめん、遅れた」
客間には既に千年前とほとんど容姿が変わっていないミューカが座り、ゴルマから出された茶を飲んでいた。ミューカの後ろには見た目若い女性のメイドが立っている。ナツトはその人物に見覚えがあるが今はミューカの対応が先だ。
「構わないわ、アポなしで来た私の方が悪いしね。それより久しぶりねナツト」
流石は王の妻。ミューカの纏う雰囲気は王者の品格というものを感じる。ミューカに返事を返し席に着く。相変わらず、リアクションが薄いわねと言われたが、それはお互い様でしょと返す。ナツトとミューカはお互い、クールっ気があるので表情というか反応が全体的に薄い。二大ドライキャラと言われがちだが内心はお互い起伏が激しかったりする。このことはお互い承知のことであるため互いの心情も大体把握している。
「アルは遅れて来るわ。それまで少しお話ししましょ?」
「わかった。ゴルマ、下がっていいよ」
お互いに従者を下げ、一対一で向き合う。絵面としては子どもと綺麗な女性が向き合って座っている状態だ。何も知らない第三者が見たら親と子ぐらい年齢が離れているように見えるだろう。ちなみにアルはアルティオのことだ。
「そういえば、どうやって気付いたの?」
「…簡単よ。城の中でも長く仕えてきたゴルマとシュリアが極端に城内にいる時間が減ったもの。この報告を聞いて大体察したわ。それにこの二人は元々ナツトの専属でしたもの。何か裏があると気付くわよ。出張やら仕事であちこち行って、忙しいマーちゃんとオルウェルは知らないことだけど」
ミューカの説明を聞き大いに納得する。確かにずっと城にいた二人を急に引き抜いたことは上の人間の目に留まるのは当たり前だ。アルティオの失策だったな。
言っていなかったが、現在オルウェルは騎士団の総部隊隊長で騎士団のトップである。マーヤの方はお金が絡むそっち方面の仕事の一端を担っている。各地の財政の監督のようなこともたまにやっているらしく、その時は部下と各地を巡っているそうだ。両社とも楽しくやっているようだが、今は両者ともに首都にはいないようだ。他の都市でやることがあるのだと。
「それでも、ここを特定するのにしばらく時間がかかったわ。アルが厳重に秘密を隠していたもの」
ミューカはここに至るまでの経緯を詳しく教えてくれて、業務の区切りがついた今日やってきたようだ。
彼女と話していて、変わったなと感じた。前の彼女は戦闘中を除き日常で自分から発言することはそこまで多くはなかった。誰かの話の合間に挟まる感じで会話していた印象を持っていた。
だが、今は自ら率先して話している。一対一のせいもあるだろうが、前は同じ状況でも割合的には彼女の話す量は少なかった。いい意味での変化があったようだ。
「能力の性能が落ちた…?」
「うん、ここひと月でいろいろ試したけど、確実に落ちていると思う」
「ふーん…貴方が言うなら、間違いなさそうね…」
「原因がわからないから、詳しそうなミューカに聞いてみようと思ってたんだけど…」
「…今は判断は難しいわね…。可能なら後日城に来てくれるかしら?城の設備を使って調べられるわ」
「助かるよ。じゃあ可能な日時を教えてくれたら、そこに合わせる」
「わかったわ。後で手配しておくわ」
それからしばらくしてアルティオが合流した。今度は三人で話す流れになる。ミューカがアルティオに残念でしたというところから始めり、いつの間にかナツトの入学云々の話になっていた。
来年度入学は確定であり、彼ら二人の子どもであるチェルーティアと同期であると。友達の子どもと同級生というのはかなり違和感があるが、もう決定事項なのでそのことは忘れることにする。
二人の話を聞けば、チェルーティアは二人に似て器用で真面目なのだと。だが、絶対的な王の子ということで同じ目線で話せる友達と呼べる存在がいないのだ。王族という点では仕方のないことではあるが貴族制というものがない国なため、少しでも自分の地位に近い友がいないのは少し可哀そうではある。器用でも友達作りは不器用かもしれないな。
だが、ミューカが学長を務める学園内においては絶対的なルールとしてすべての生徒を平等に扱っている。たまに入学した他国の貴族で目に余るほど問題行為を行えば、まずは速攻停学。厳しい指導がされ、それでも治らなければそこで退学。昔は自分は特別だと自惚れている貴族が多く困ったようだ。そういうことが続いたことで現在は入学する貴族もそのあたりは弁えてきてくれるそうなのでまだマシなようだ。
こうしたルールが存在するため、チェルーティアは顔には出さないが対等の友達を作ることを楽しみにしている様子らしい。このことは彼女の専属メイドが時たま報告してくるそうだ。まだ一年以上あるというのに、今から楽しみなんて王の娘といえどかわいい子どもだなと内心感じた。
と思っていたら、話の流れが変わった。というのも急に二人とも真剣な表情になったからだ。
「チェルーティアは能力を有している」
「…へぇ!」
「だけど、ちょっと困ったことがあるのよ」
「困ったこと」
「あの子、既にステージ2に至っているのよ」
「…え?早くない?八歳だよね?」
「生まれてからの年数は八歳よ」
何、その含みのある言い方は。
詳しく聞いてみる。すると驚くべき真実が述べられた。なんとチェルーティアはミューカの胎内に約九百年前からいたのだと。妊娠数か月の状態で成長停止魔法で止め続けていたそうだ。それはちょっとどうなの?って思ったが、その当時世界情勢がかなり暗く、赤子を育てるのはかなりリスクを伴う可能性があったそうなのだ。そのためミューカはアルティオ承諾の元、胎にいる子に魔法をかけた。安全な時代が来るその時まで。
そして月日が経ち、世の中は以前よりかはかなり平和になった。しかし、ここでミューカが転生魔法の解明に成功する。このことがきっかけでナツトが転生するはずの年数を割り出し、それに合わせて出産しようと決心したそうだ。
しかし、胎にいたチェルーティアはこの時点で既に能力を獲得していたため長い年月の中で能力が魂に強く紐付き、能力を有する者でもほとんどが到達不可能なステージ2の領域にまで踏み込んで誕生したのだった。
そこで、だ。そう言ってアルティオはナツトに頼みごとを伝えた。「彼女をいざという時は守ってくれないか」と。入学する生徒の中でチェルーティアをまともに対処できるのはナツトだけだろう。常に近くにいる必要はない。だが、ステージ2に至っているとはいえ、精神は幼い子どもである。まだまだ未熟そのもので一人で抱えようとする。そしていつかきっと大変な局面に遭遇する。その時に手を差し伸べてやってくれないか、と。
ナツトは少しだけ考えた。…が結論はすぐに出た。ナツトは答えた、「わかった」と。チェルーティアにはまだ会ったことはないが、不思議と見守ってやろうと感じた。もともと学生生活を楽しむのが目的だったし、その中に王女を陰から見守るという項目が増えただけだ。ナツトにとってはその程度大した手間にも学園生活の支障にもならないと判断したのだった。
「来たわね、早速始めましょ」
それから数日、ナツトはミューカの連絡通りに城に来ていた。指定された場所に行くと何やら高そうな精密機械がこれでもかと並んでいた。
ミューカ曰く、ここが彼女の研究部屋らしくこの機械たちでいろいろ調べることができるようだ。白衣を纏った彼女は準備をしながらここ千年の能力についてわかったことを話した。
個人差はあるがあるとき魂の一部が剥がれ特殊な力に変質する。それが能力。変質した能力は再び所有者の魂にくっつく。この引っ付いているだけの状態が「ステージ1」だ。能力はこの段階から長い年月と能力の熟練度により魂との再融合を行う。その融合率が五十パーセントを超えたものが「ステージ2」である。このステージ2に至ることができる人間はほとんどおらず、その前までに寿命が来て死ぬそうだ。
しかし、ナツトたちのようなほんの数年で至る者も存在している。当初ミューカの推測ではこれは自身の魔法化の影響と考えたそうだが、能力を有す者(ミューカの従者たち)で実験してみたところどうにもそうではないようであった。
そもそも能力を有し、かつ魔法化の魔法を扱える者が極端に少なかったせいで母体が少なかったともいえるが、魔法化だけでは数年でステージ2に至る要素ではないと考えた。
ならば、自分たちと実験者たちの違いは何か。そう考えたとき、最大の違いは傍に勇者がいたかどうかだ。勇者には謎の力である『勇者の力』がある。この力が何かしらの作用を有している可能性が浮上した。現にステージ2に至っていた魔王ディタロも似たような力である『魔王の力』を持っていた。この二つが能力の更なる段階を引き出しやすくしているのかもしれない。だが、研究当時には勇者も魔王もいなかったので想像の範疇を超えることはできなかった。
尤も、寿命を超越すれば月日だけでステージ2に至れることは実証された。これは従者たちに実際に起こったことであるから間違いない。
ここでナツトは疑問をぶつけた。どうやって寿命を超越したのか、と。ミューカは簡単に答えた。肉体を捨てた、と。どういうことか説明が入る。
ナツトがいつ帰ってくるかわからない以上、何か寿命を克服する方法を考えたナツト以外の勇者一行は、肉体から一時的に離れ魔素によって肉体の代わりとなるものを作り出す魔法である魔法化に注目した。改良を加えた魔法化を常日頃から使用し、自身の体、いや魂に慣れさせていった。気付けば、肉体より魔法化状態で過ごすことの方が多くなった。このせいでかかった年数に比べて肉体年齢の変化は圧倒的に釣り合っていなかった。そして肉体に戻らなくても魔法化状態を完全に維持できるようになり、肉体とさよなら宣言をした。
その状態は最早魔法化とは別物だった。明らかに魔法化とは異なる存在になった。決定的に違ったのはその存在の強さであった。魔王ディタロに次ぐ新たな魔王が現れ、召喚した勇者が敗れたためその尻拭いをしてくれと頼まれたときがあった。その時に『魔王の力』を行使されたのだが、魔法化状態であれば魔法化は強制解除されるのだが、この時の彼らの体は強制解除されなかったのだ。
この変化は最早進化ともいえるのだろうか。彼らはこの状態の体を魔素体と称した。魔素体になることで寿命が消し飛んだ。不老不死ではなく、不老である。不老ということは魔素体になった瞬間の年齢から成長しないということ。これは魔素体の長所でも短所でもある。魔力を使えば外見の年齢はいじくれるのだが、常時魔力を消費してしまう。ちなみにベースとなる元の年齢の状態なら消費はゼロ。年取りたかったら一度肉体に戻ればいいじゃないかと思うかもしれないが、一度魔素体になるともう肉体の年齢と関係がなくなるようだ。
同様の内容を共についていくと誓った従者にも施したが、ほんの数名を除いて彼らの領域に踏み込めた者はいなかった。その代わりなのかはわからないが、彼らは人間を超えた身体能力を手に入れた。同時に長い寿命も手に入れ、身体的な成長・衰えも非常にゆったりとしたものになった。一言でいうと超人である。この現象は魔物にも見られる「進化(生物学的には変態だろうか)」とも酷似していた。人間も進化し更なる存在と成れるようだ。
尤も、ある悪魔の契約と呼ばれる魔法を使えば無理矢理でも生かすことができる。その魔法は「主従永劫の誓い」と呼ばれる契約魔法だ。非常に強力で一度契りを交わせば解くことは不可能。効果は契約した主の方が死ぬまで従者は永遠に生き続けるという効果だ。しかし、主が死ねば一緒に従者も死ぬというかなり恐ろしい契約だ。従者が主とどこまでもお供しますタイプなら最高の魔法かもしれないが、そうでなければ地獄である。とまぁ、かなり尖った魔法である。
検査に話を戻そう。
ナツトはいろいろな機械を使って調べられた。レントゲンや魔力検査、能力発動検査機など検査した項目は多岐にわたった。検査中、ミューカはとても楽しそうにしていた。口笛なんか吹いていることからもそれは明らかだった。もともと彼女は研究好きだし、転生魔法から生まれた存在というのはとても興味深いのだろう。
「凄いわ、母体から生まれてもないのに肉体構造は人間と完全に一致しているわ…」
時たま、ぶつぶつと独り言が聞こえる。完全に自分の世界に突入している。
数時間後、全検査が終了しそこから結果が出るまで本を読んで時間を潰していた。本を読むこと二時間。全結果と彼女なりの結論が出揃った。
「これ、検査結果をまとめた資料ね。それで…貴方の思った通り、能力の出力が確かに落ちているわね。ステージ2の平均的な出力と比べたら確かに弱いわね」
成程。やはり能力の弱体化が起こっていたか。データがあるとやはり説得力がある上に実にわかりやすい。
「でも、能力と魂の融合度は完璧だからいろいろとおかしいのよね。強化ならまだしも弱体化は本当に原因がわからないわ。能力の出力のデータから大体ステージ1と2の間って言ったところかしら。かなり不安定な状態ね。あ、不安定っていっても悪い意味ではないわ。どこかで急にステージ2に戻るかもしれないってだけ」
やはり転生魔法による影響なのだろうか。転生魔法を使うことで能力が弱くなるのだろうか。
「もう一つ、能力関連の話ではないけど、わかったことを言っておくわね。ナツト、魔法化はあまり、いや使わない方がいいわ」
「…理由は?」
「先ほど言った能力の融合度から、貴方の魂は転生に至る過程の中でも融合が進んでいた。このことは異空間にでもいたのか、方法はわからないけど肉体がない状態で長い月日を過ごしたことを示しているわ。これは私たちが魔素体に至るまでの過程にとても似た状態よ。つまり、その状態で魔法化を行えばその年齢で固定される可能性が大いにあるわ」
なんと、それは嫌だ。八歳の見た目で永遠に固定は流石に困る。
使うとしたら、少なくとも成長期が終わってからだな。危ない危ない、言われなかったら何かの拍子で使ってしまうところだっただろう。
後は彼女から渡された資料を隈なく見れば自身の体が今どんな具合かよくわかることだろう。後は、あれらを片付けるとしますか。
読者の皆さん、ご機嫌よう。十月となりだんだん冬が近くなってきましたね。
今回は設定系の内容が入ったので少々長め。
今回の内容で一つ敢えて書かなかったこともあるけど…。
次回も少しそういう系を入れる予定。
察した人もいるかもですが、一部台詞の中で名前の呼び方が変わっている人達がいます。オルウェルは変わりませんでしたが。




