Ss.2 特異個体
ここはとある、深い森の中。若いBランクの四人のパーティが異常がないか探索に来ていた。
「うーわ、ここらの地面、ぬかるんでいるよ。気持ちわりぃ…」
パーティの前衛を担う若い男性が愚痴をこぼす。
「うるさいわよ、わかりきっていたことを今更文句言っても仕方がないって、そういう依頼でしょ。それにそんなことよりしっかり前、警戒してよね」
男性の文句を近くにいた女性が窘める。彼らはギルドにあったこの地の調査のためにやってきていた。報酬が美味しかったので受けたのだ。
「わかってるって。そうだ、魔力感知になんか引っかかったか?」
「ううん、全然。反応なし」
魔法枠の女性に話しかけるも、目立った動きはないようだ。
「逆にこうも静かだと怪しいな」
一番後ろで盾を構える男性が言う。
「そうだな、直近で見つけた魔物がゴブリン数匹だけだしな。いっそのことゴブリンだけでしたって報告するか?」
「そうやって、油断していると酷い目に…きゃッッ!?」
「どうした!?ってスライムかよ。びっくりさせるな。ほらもう燃やしたぞ」
「…あ、ありがと。いきなり出てくるものだから…」
「…あーあ、純魔もすべてスライムぐらい弱ければいいのにな」
魔物の中には区分けが存在する。魔素から直接生まれた純魔と動物などの肉体から魔物へと変化したものだ。
今倒したスライムは純魔に区分されるが、単体では非常に弱い魔物で強力とされる純魔の中でも例外的にスライムは弱いものとされている。
「ドラゴンもスライムぐらいの弱さにか?だとしたら俺達でも簡単に倒せるな!」
盾の男性が笑いながら言葉を返す。
「…皆、待って、この先に何かいる。それも複数」
魔法役の女性がそれを言った瞬間、全員に緊張が走る。と同時にその方向から轟音が鳴った。
全員が通信魔法を使い、作戦を練る。とりあえず、静かにその場に向かい状況を確認することにした。この依頼はあくまで調査だ。無理に戦闘を行う必要はないのである。
音を立てずに姿勢を低くしてそこに向かう。
茂みの隙間から様子を窺う。
「あれは…」
そこは少しひらけた場所だった。狼型の魔物十匹が何かを取り囲んでいる。草が地味に高くて中心にいる何かが見えにくい。かと言って下手に身をさらしたら気付かれる恐れがある。
「あの狼の魔物。今鑑定したけど多分星三はある。しかもそれが複数。群れ全体で見たら星四になるかも」
それを聞き全員がかなり危険だと感じる。星三ならCランク以上推奨だ。単体なら自分たちでも問題なく倒せそうだが、ああいった魔物は頭がいい。基本的に集団で行動するだろう。Bランクの自分たちでさえ襲われればかなり危ない。だが、それよりも今気になるのは…。
狼の魔物の一匹が中心にいる何かに向かって突進した。…が次の瞬間には、彼らの近くの木にその魔物が吹き飛ばされて激突した。
それを見た狼の魔物の仲間が次々と殺到するが、全員等しく同じ結末を辿った。
残ったのは狼たちの群れのリーダーと思われるひときわ大きな魔物と中心にいた何か。周囲を囲んでいた狼たちがいなくなったことでついにその姿を視界に捕らえることができた。
「ど、ドラゴン…」
そこにいたのは、本で見たことのあるドラゴンそのものだった。しかし、その見た目は想像していたものよりずっと小さく、せいぜい大人の身長の半分ぐらいの大きさだった。
「…もしかして、ドラゴンの幼体?」
「…かもしれないな」
「あんな白いドラゴン、本にも載ってなかったよ。今鑑定してみたけどやっぱり見たことない」
そう、そのドラゴンはとにかく白かった。純白の鱗が輝き、幼いながらも立派な翼を持っていた。目は真っ赤だった。自然で生きる上では不利に働きそうな見た目だが幼くも神秘的な印象を受ける、そのドラゴンに一行は少しの間見惚れていた。
「でも、変だな。ドラゴンがこんなところに普通いるか?ドラゴンは竜の島に住んでいるはずじゃなかったのか?それもこんな幼体が」
そう通常、純魔の最強格であるドラゴンは主大陸のはるか南に位置する大きな島通称『竜の島』に住んでいて、滅多に海を渡ってくることはないのだ。そのため、こんな森の中にドラゴンがいるということは不自然すぎた。
そんな盾の男性の質問に答えたのは魔法役の女性だった。
「いや、可能性はある。ドラゴンは今では雌雄間での繁殖で数を増やすけど、もう一つ自然発生で生まれた可能性もある。他の純魔のように」
「いやいや!?それ、伝説の中のお話でしょ!?ありえるの!?」
「だが、確かに、そうだとしたら辻褄が合う。もしそうだとしたら、あれは相当希少な存在ってわけか」
彼らが話しているうちに戦いが始まった。狼魔物は風の魔法を駆使し、白いドラゴンを翻弄するように立ち回る。
彼らはその狼の動きを見た瞬間、その繊細な魔力のコントロールにこの狼が自分たちより強いことを確信した。
しかし、狼が背後から白いドラゴンを攻撃しようとして接近した瞬間、轟音が鳴り狼が地に叩きつけられていた。
白いドラゴンはその場を動かないまま狼の魔法を軽くいなし、狼が間合いに入った瞬間魔法をぶつけたのだ。
見ていた彼らはそのことには気づけなかったが、あの白いドラゴンが圧倒的であることは瞬時に理解した。
決着がついた、と思われたが狼は立ち上がった。風の魔法で激突の衝撃を和らげたのだろうか。
狼は白いドラゴンが動かないことを理解したのか、今度は離れて大魔法を放つ気だ。魔素が渦巻くように見える。狼が魔力を集中させていくのが見てわかる。数秒の溜めの後、光線が放たれた。
それを見て、白いドラゴンは口から小さな火球を吐いた。拳大の火の玉が光線に向かって飛んで行った。光線と火球が正面衝突をした。
そして、光線だけがどんどん消滅していき、火球が狼に直撃する。その瞬間火球は弾け、狼から後方三十メートルぐらいを焼き尽くした。
狼が成すすべもなく敗北した。
白いドラゴンは狼との戦闘が終わると今度はそれを見ていた彼らの方を向いた。目が完全に合う。
「逃げろッ!!」
男性のその一声で全員が一目散に走りだす。
幸いにも、その白いドラゴンは追う気がなかったのか追ってくる様子がなかった。
そのままの勢いで街に戻った彼らは、ギルドに報告書を提出した。でまかせだと言われないためにちゃんと魔法で写真も付けた。
~の森にて正体不明の白いドラゴンを確認。見た目は幼いドラゴンであるが、星四に相当する狼の魔物との戦闘も一方的に勝利をおさめる。鑑定の結果、本当に生まれて間もない個体であることも確認。本来幼体のドラゴンは弱いはずだが、これは明らかに異常である。Aランク以上の冒険者で脅威となる前に即刻討伐を求む。
数日後、BランクとAランクの冒険者たちが集められそのドラゴンを探しに再び森に入るが、その白いドラゴンを見つけて、討伐することは叶わなかった。
魔物要素が冗談抜きで皆無だったので追加しました。魔物の区分を忘れちゃったって人はEp.20をどうぞ。
本当は2章の途中で夏翔と出会う予定だった奴。書いていたらすっかり入れるのを忘れていたのである。




