Ep.27 中央都市リコア
凄い速さだ。近くに生えている木々が一瞬で視界外に消えていく。
駅を出たときはあんなにゆっくりだったのに、少しずつ加速していき今では常に最高時速を維持。このまま首都周辺までこの速さらしい。
滅茶苦茶速く飛行できるやつが今更なに言ってるんだと思うかもしれないが、生身で飛ぶのと何かに乗って移動するのは全然違う。
列車は現在地上三十メートル上を走行中だ。走行より飛行と言った方がいいかもしれないが、一応列車なので走行にしておく。
この列車はさっき乗ったトレーカス線を遥かに上回る性能を持っていた。あれもなかなかのものだったが、比べ物にならない。列車の音はまったくと言っていいほど聞こえない。なんてすばらしい乗り心地であろうか。
先頭三車両は一人席で後の五車両は二人席だったり三人席だったりとまちまちだ。
まぁ、先頭車両だけちょっと値段が上がるがその分他の車両よりいい席が用意されている。それを今堪能しているわけだが。
おっと、いけない。うっかり弁当のことを忘れてしまっていた。この景色を見ながら食べるとしよう。
この椅子のひじ掛けの横にはボタンがあって、それを押すことでひじ掛けの先にある透明な部分からホログラムのようなものが出てきてメニューが映し出される。その中にある、「テーブル」となっているところを指で触る。実際には触っていないが、感知機能があるのか、それを押すことでホログラムは消え、代わりに目の前に宙に浮いたテーブルが現れた。
「…は?」
これには流石に声が出た。声に出してから「あ、やべっ」と思ったが、幸いそこまで大きな声ではなかったようだ。
テーブルは先ほどのホログラムと違い、触れる上に弁当やお茶をおいても落ちなかった。ただそこにあたり前のように浮いていた。テーブルを下から支えているものはどこにもない。
テーブルに飛行魔法を使っているわけでもない。それにこのテーブルはいきなり目の前に現れた。
少し考えて、大体の仕組みを予想できたが、こんな魔法よく作ったものだな、と感心した。そういう発想に至るわけか。アルティオ達に再会することができたら答え合わせをしよう。
おお、唐揚げ弁当だ!
秘密の弁当の中身は唐揚げ弁当であった。一緒に付いている米が旨い。箸が止まらない。買った時のまま収納に入れておいたので熱々だ。
直ぐに平らげ、お腹がいっぱいになり幸せな気持ちになっていた。
再度、ひじ掛けのメニュー画面で今度はテーブル収納を押すとテーブルは綺麗に消え去る。他のメニューも見てみる。
一つは時計機能。
一つはタイマー機能。注意書きで寝ているとき専用とある。
一つは席倒し機能。寝転がることができる。
一つは顔隠し機能。一瞬何かわからなかったが、押してみるとすぐにわかった。顔から三十センチメートル程先に顔全体を覆うように黒いガラスのようなものがでてきた。寝るとき周りが気になる人や暗いところで寝たい人への配慮だろう。
最後の一つは景色機能。押すと、再び先ほどの黒いものが顔全体を覆い隠す。そして黒いそれが突如明るくなり何かが映し出された。それはこの列車の先頭から見た景色だった。しかもこの黒いものは席から、四分の一分の球形状に展開しているので左右上下それぞれ約百八十度分の景色を見ることができるのだ。
素晴らしい機能だ。こんな機能、鉄道好きじゃなかったとしても一瞬で電車が好きになるぞ。
待てよ、これに席倒しを使えば…おお、凄い。とんでもない爽快感を感じる。
この最高の座り心地、いや寝心地に圧巻の景色、そしてそれを颯爽と過ぎていくこの感じ。すべてが最高にそれぞれのよさを引き立てあい、至高の体験を経験させてくれる。
勿論、景色に疲れたというならすぐに表示を消すことができる。
この景色機能ではさっきも言ったように下の景色も見ることができる。列車は地上約三十メートルの高さに浮いているわけだ。当然線路はないので綺麗に下が見える。
そしてこの景色機能でわかったことなんだが、黒いラインが四本空中に浮かんでいることだ。そのうちの一本はこの列車が辿っているように見える。この黒いラインもトレーカス線の緑のラインも道、というわけではなく単なる光のようなものに見える。一瞬これがレール替わりと思ったが、この光自体にそういう機能はないように思われた。
それで四本ラインがあるわけだが、そのうちの二本は地上二十メートルほどの高さで、残りの二本が地上三十メートルほどの高さにある。後者の二本は前者の二本より二本間の間隔が広く取られていた。
しばらく観察していたら、下の二本で走っていた列車を抜かした。やはり、この三十メートルの方は超速特急車専用レーンなのだろう。同じ高さにあるラインがやけに離れているのはこれだけの速さで走っている以上、近かったら何かと問題があるのだろう。
地上の景色はいろいろだ。荒野を抜けたと思ったら、今度は草原であったり、ちょっとした街があったり。川を渡ったと思えば今度は遠くに山が見えたり。
景色を堪能しすぎて少し酔ってしまった。景色の表示を切り、少しだけ眠ることにした。タイマーを十分にセットし、寝た。車内でいったいどうやって起こすのだろうと疑問に思いながらも眠りについた。
何の前触れもなく唐突に目が覚めた。予想していた音が鳴り響くアラームはなかった。じゃあ、まだ十分経っていないだけかと思い、時計機能を使う。時刻を見るとアラームをつけてからちょうど十分だけ経っていた。
偶然なのか、と疑う。
到着まで後三十分ほどだ。もう一度試す時間は、ある。もう一度タイマーを今度は秒針がちょうどゼロになったときセットし、寝る。流石に二度寝は無理かな、と思ったが全然そんなことなくすぐに眠りについた。
またも唐突に目が覚めた。すぐに時刻を見る。時刻はちょうどあれから十分後。
…どうやら、本当にアラーム通りに起きているようだ。
試しに一分でセットし、寝ずに何か起きるか試してみたが、何も起きなかった。寝ているとき専用という意味はこういうことなんだろう。
遊んでいたら、アナウンスが入る。
「首都地域に間もなく入ります。首都リコア駅に到着まであともう少しです。お忘れ物をなさらないようご注意ください。降りる際、席は元の位置にお戻しください。この列車は一番線に到着予定です」
もうすぐ着くのか、確かに言われてみればスピードも少しずつ落ちてきているな。まぁそれでも新幹線ぐらいの速さはあるが。
ここで、ふと気になって景色機能を起動した。
パッと映し出される先頭車両の景色。
なんだこれ!?それが素直な感想であった。声が出そうなったのを全力で抑えた。声に出ていたらきっとそれはそれは大声で周囲の人から心底冷たい目で見られていたことだろう。
視界に映る景色、首都。リコアという中心都市はもっと中の方の呼称だから、ここいら、つまり外周付近は首都の一部であるが厳密にはリコアではない。
それでも、景色はすごかった。
まずリコアが水というか多分海に囲まれている。ちょうど列車の真下が海だ。以前図書館で地図を見たとき敢えてスルーしていたが、形容でもなんでもなく水に囲まれている。所々橋がかかっているが、少なくとも千年前はこんな景色はなかった。
次に目に映ったのは首都の周囲を囲う黒い壁。形は壁の断面を切り出すと円になってそうだ。そんな形をしている。周囲の建物の高さからそこまで高くないのがわかるが、黒というのがやけに目に付く。それに所々で青い光が黒いそれに走っている。いかにもヤバそうな装置にしか見えない。
というか内部の建物もおかしい。普通にビルだ。ビルが立ち並んでいる。
他の国でもビルっぽい建物は確かにあった。本当の意味でトレーカスの街並みは見ておらず、その周辺地域の街並みでもビルはあった。だがいずれも、割合的にビルの方が圧倒的に少なかった。しかし、ここはどうだ。どこを見てもビル、ビル、ビル。一軒家とかあるかもしれないがビルが多すぎてとても見つからない。ビルも綺麗に立ち並んでいて見る者を圧倒する景観を作る。
列車はそんなビルの中を突き進み、首都の中心へと向かう。
中心に向かっていくほど徐々に徐々に建物のデザインが斬新なものや凝っているものが増えてくる。街中には緑もそこそこ溢れて街の景観との調和もできていた。
そして、遂に中心都市リコアが姿を現した。
周りより一段上がった地形の上に立ち並ぶビルたちはそれまで見た者たちとは一線を画しており、別世界の中にまた別世界が存在していた。それはもうまさに異色の一言。
蕾のような形をしたビルや最早どうやってバランスとっているの?と質問したくなるような形をしているビル。他にもとりわけ大きな城のような建築物や、野球球場のようなものがいくつも並んでいたりとやりたい放題だ。そこに列車の光るラインがあちこち引かれて、そこを実際に列車が走っているもんだから、SFの世界にしか見えない光景が広がっていた。
遠くに映るビルたちがあるところから先は一切立っていなかった。
いくらビルが高く視界を妨げていたとしてもわかる。綺麗に円を描くようにビルが一切立っていない。
しかし、その円の中に一つだけ、とりわけ巨大で存在感を出している建物があった。
円の中にただ一つだけだからとりわけ目立つのか。
いや、もう一つ理由がある。存在感を放つ最大の理由、それはその建物は空中に浮いているからだ。
細かく繊細に作り上げられた、高さは十分高いがそれよりも全体的に平らなに見える建物に白く大きな美しい見たこともない造形の建物があった。土台となっている建物の周囲は塔が立ち並んでいる。見たことがないのにそれがなにか何かわかってしまう。
「王城」だ。あれこそが、あそここそが首都の、いやこの国の中心。こここそが自分が目指していた約束の地。
これが世界が恐れる圧倒的な技術力を有す国。友達と創り上げた国のその千年後の姿なんだ。
なんで列車のくだりだけで何話も書けてしまうんでしょうね。不思議です。
列車の話なんて一話で終わるはずだったのになぁ…?
こうだったらいいなぁという夢を随分と詰め込んだ列車でした笑
昨日PC開いたら、急にPV数が増えていて本気で目を疑いました。ホントに吃驚。
評価もレビューもいただき、本当にありがとうございます。
評価はあまり気にしないとか書いた気がしますが、嘘です。今とても嬉しいです。
今後とも、『千年ぶりだね、大英雄。』をよろしくお願いします。




