Ep.18. エルトラ王国
考えていたら、兵士に見つかってしまった。冷や汗が倍増する。兵士は、中年男性でどこか優し気な雰囲気を纏っていた。
「…あれ、聞こえなかったかな?今ここから出てこなかったかい?」
兵士の男性は、夏翔の後ろの鬱蒼とした茂みを指さす。誤魔化しはおそらく効かないだろう。ここは正直に答えるか。別に悪いことはしていないし。
「…あ、はい。ここから出てきました」
「お、おう。ありがとう。ちょっと待ってね」
あっさりと返事したことで少し驚いた兵士だったが、すぐに冷静に戻って後ろに振り向き何やらぼそぼそと話し始めた。おそらく通信魔法でも使っているのだろう。
聞き取ってみると、謎の少年を発見。もう二、三人こっちに寄こしてくれ。という内容だった。
後、言語が転生前と変わってなくて安心した。
「君、名前は?」
「あ…」
名前を聞かれて言葉が詰まる。名前、そうだ完全に忘れていた。夏翔と答えるのはよくないし、そもそもこんな日本の名前はこの世界ではかなり珍しい感じだった、転生前は。多分だけど現在もそうだと思う。
今、人前に出す名前を考えよう。夏翔、夏…サマー…summer…sum、サム?いやいやそれは流石に嫌だな。
かと言って適当に言うのも嫌だし。一応自分に関係ある名前にしたいな。
でも、季空夏翔からいい感じの名前は思いつかないしなぁ。旧姓とかはどうだろうか。母の顔はあまり覚えていないが母の旧姓は覚えている。実際、母型の祖父母の家に住ませてもらっていたし。
旧姓は影浦だ。影はshadowで浦は裏と置き換えてbackだろ。うまい感じにくっつけたらshack、意味は確か小屋だったかな。それも粗末な小屋だったか。
シャックか…。なんだか少し変な名前な気がするが、転生した場所が技術が未熟な古代の遺跡の小部屋だったからどこか少し親近感が湧く。今の自分にちょうどいい名前ではないだろうか。これでいくことにしよう。
この間僅か数秒である。
「あ、シャック、です」
「シャックか。いい名前じゃないか。あ、そうだ。俺も自己紹介しておこうか。俺はトーマスだ。ここの護衛兵士をやってる。よろしくな。ところで、シャック。君はどこから来たんだ?教えてくれないか?」
トーマスと名乗った兵士が聞いてくる。さて、なんて答えるべきか。少しの間思案したが、ここは正直に答えようか。
「この森をまっすぐ歩いてきた。山の向こうから」
嘘は言っていない。
「山からかい!?相当歩いてきたね…」
そのとき、後ろから声が聞こえる。見てみると、先ほどの応援の要請でやってきた兵士たちだった。兵士が増えたことで周囲の注目を集める。なんか恥ずかしくなってきた。
そんな時、トーマスさんからありがたい申し出があった。
「シャック、ここじゃ話づらいし、一緒に来てくれるかい。椅子があるところに行こう」
「あ、はい」
というわけで、壁の一角にあったちょっとした狭い部屋に連れていかれた。その際、より一層視線を集めたので連行されているみたいで余計に肩身が狭くなる思いをした。
いや、実際連行されてるな。完全に。
部屋の中は四人用の机と椅子が六脚重ねて置いてあった。
トーマスは、椅子を二脚取り、置いた。夏翔はその上に座らされ、トーマスもその向かいに座った。トーマスが視線を別の兵士に向けると、オレンジジュースみたいなのが出てきた。美味しかった。久々の甘味と程よい酸味は最高だった。
「お前たちは勝手に座っておけ」
「「はい」」
部屋には夏翔とトーマス以外に若い兵士が二人残り、会話からトーマスの部下であることがわかった。
「少し話を聞くだけだから、緊張しないでね」
いや、多分無理です。兵士に囲まれて緊張しない人間は果たしているのか。一応丸腰だし。
そこからの質問は実に事務的な質問ばかりであった。もう一度名前から始まり、ここに来るまでの経緯や親はいるのかだとか、何歳だとか。年齢はとりあえず八歳と答えておいた。それと入国の意思の有無。目的。滞在期間。入れるならば入りたいと言っておいた。そのことをトーマスは聞きながら紙に書いていく。
「お前らは、どう思う?」
トーマスは後ろにいる兵士たちに意見を仰ぐ。
「はい、特に嘘もついている感じではないですし、自分は問題ないと思います。年の割には少し落ち着いた印象を受けますが」
「私も、同じ意見であります」
「そうか、じゃあ、規則だから確認だけしておこうか。シャック、これに手を当ててくれ」
といって、透明の板を差し出してきた。言われた通りに手を当てると、青く発光した。
「ありがとう」
そういって、板を回収したトーマスは後ろにあった機械に板を入れる。十秒ほどでピピっと音が鳴りトーマスは機械をのぞき込んでいた。そして確認が済んだのか、夏翔の方に振り返った。
「うん、問題はない。犯罪者登録には該当しなかった。入国可能だ。シャック、名前は書けるか?」
トーマスの問にコクリと頷く。
「よし、じゃあここにこの書いてあることに間違いがなければ名前を書いてくれ」
といって差し出された紙は、先ほどまでトーマスが夏翔に質問しながら書いていたものだった。どうやら専用の書類で最後に本人のサインが必要なものみたいだ。
記載事項を確認し問題はなかった。バレないように怪しい契約書になっていないか紙自体も確認したが本当にただの紙だった。「シャック」とサインを行い紙を返す。
そういえば、声には出さなかったが紙に書いてあったところで気になったところが一か所あった。
それは、日付。紙には”白永歴1993年6月20日”とあった。転生前は確か白永歴993年だった。つまりあれから千年後の世界に転生したのだ。
思わず大きな収穫があった。だが同時に不安になった。千年という月日を人間が生きることができるはずがない。かつての友達は皆亡くなっているのではないか。
…やめよう。今考えても時間の無駄だ。結論を出すには情報が少なすぎる。
「最後にだが、中に入ったらまずは冒険者ギルドに行って登録をするといい。ギルドは何百年も前から存在していて各国からの信頼も厚い。登録することでもらえるギルドカードは犯罪歴さえなければ身分証の代わりとして十分使えるからな。後、これが一応入国許可証だ。大切に持っておけ」
これまた、とんでもなくありがたい話だ。何百年も前から存在するギルドか。少なくとも千年前にはなかったけどいろいろ便利なものができたんだな。
ギルドまでの道のりを記した地図を貰い、正面入り口から堂々と入る。
「いろいろ、お世話になりました。ありがとうございました」
「気にするな。何かあればまたここに来るといい。さて、改めてようこそエルトラ王国へ」
壁を抜けた先はレンガの道が広がり、家々もレンガ造りの一軒家が目立つ。綺麗にレンガが敷き詰められた街道とレンガの家が統一感を出し、独特の雰囲気を醸し出している。ここだけ見れば西洋風な街並みだなと思っていたのだが、地図通りに進むにつれそこそこ高いガラス張りのビルも出てきて一概にそうではないようだ。レトロと現代が合わさった、そんなイメージに落ち着いた。
地図によれば、この国エルトラ王国は相当広いみたいだ。隅っこに小さい国全体の縮小図が乗っていてそのある部分を拡大しているそんな地図だった。国の中心にはどうやら城があるようなのだが、遠すぎる。見てみたいとは感じるが、優先順位としては低めだ。
自分が今いる地区は国の内外に出る門があるためか近くにギルド支部が設置されているようだ。基本登録はどこでもできるそうなのでここでいいだろう。歩いて大体十分ぐらいといった具合か。
ここだな。目の前にはひときわ大きレンガ造りの建物があった。ご丁寧に入り口の上に「冒険者ギルド エルトラ北支部」と書いてある。
木の扉の入り口はちょこちょこ人が出入りしていた。かなり筋肉質ないい体をしている人や、見るからに魔法使いですというような服装な人など様々だ。武器も腰から下げていたりするのでつける分にはいいのかもしれない。
じゃあ、さっさと登録済ませるとしますか。
これでなんと本日四回目の投稿か。もう少しペースを落としてもいい気がするけど、忙しくない今週のうちに進めたいのでね。
まぁた、一話分先延ばしだよ。書きたいことの前座を書いたら気付いたらもう一話分のボリューム。
書きたかったことは結局書けない、と。はぁ。
あ、そうだ前もって言っておきますね。主人公の表記ですが現在は基本「夏翔」と表記します。たまに必要によって「シャック」を使うかもしれませんが。
あと最終的に「夏翔」→「ナツト」に表記が変わることになると思います。もっとも、それは予定通りに進めば四章以降かなぁ。




