Ep.143 高等部修学旅行-⑩-老舗でパフェを食しながら……
なんだかんだ色々あった修学旅行だったが、それも今日で終わり。
長かったような気もするし、そうでもない気もする。
何はともあれ、想定通りに事が運んで何より……と言う感じである。
後は最後の都市観光を気楽に楽しんで、終いだ。
そして、最後の観光に際してのメンバーだが、説明するまでもない見慣れたメンバーである。
僕と、ガルノラルク、ウルヴァロ、ノアラナチア、イアノンそしてチェルーティアである。
ただ見慣れたと言っても、今回の旅行でこの全員が揃って行動するのはこれが初である。
最後の二人に関しては割とずっと一緒にいたが、他は別の班だったりして一緒にはいなかったな。
獣国の学校において行われていた交流授業もつつがなく終わりを迎えた。お互い貴重な体験を経験する事ができ、中にはとても親しくなった人達も見受けられた。
少しの間の関わりであったが、別れを惜しむくらいには生徒達に良い影響を与える事が出来たようだ。
まぁ、自分自身はあまり深く関わっていないから、別れを惜しむまでは行っていないが、気負うことなく話せる相手もいたし、自分が使ってこなかった魔法の使い方というのも知れた。
お陰で、聖女戦でも翻弄される事なく済んだ訳だし、交流がとても良い体験になったのは他の生徒と同様に、だろう。
「あーー!!家族へのお土産買うの忘れてたぁっ!!」
色々振り返っていたら、ノアラがいきなり叫んだ。それに付随して、ガルノとウルも「俺も俺も」と言った。
「確か評判のいい雑貨屋が南あって……」
「美味しいお菓子屋さんが北に……」
忘れていたのに、リサーチはしていたのかほぼ同時にガルノとノアラが言った。
「「……………」」
そして訪れた沈黙。
見守るその他も、成り行きを見ることにした。
「距離はどれくらいなんだ?お互い」
ナイスな質問をウルがした。
二人は質問に答えたが、そのどちらもそれなりに歩く距離にある事が判明した。
「ど、どうしよう……」
「両方向かっていたらお昼のレストランに間に合わないな」
問題はここである。時間的余裕があるなら両方回ればいいのだが、お昼ご飯を食べるためにとあるレストランを予約していた。
これに間に合わすためには、歩く場合どちらかの妥協を余儀なくされる。
「悩むくらいなら、別々に行きましょ」
提案したのはチェルーティアであった。
「折角、ここまで来たのに変に妥協したらダメよ。買い忘れも他にいるみたいだし、お昼までは各自好きなように回りましょ」
「そ、そうだねっ!」
「じゃあ、一時間後予約したお店の前で集合ね」
こうしてササっとお昼までの動きが決まったのであった。
「じゃあ、またね!行こう、ウル」
「おう!後でな。じゃあ、イアノン行こーぜ」
決まった通りに各自が散っていく。
流石に海外なので単独行動はやめておこうとなり、二人一組で動くこととなった。
家族へお菓子を買って帰りたいウルヴァロはノアラと一緒に行くことになり、イアノンはガルノに着いていくと自ら志願した。
……転移魔法を使えば強引にでも両方回れたという考えも浮かんだが……まぁ、旅行だ。一歩一歩自分の足で歩き回って目に映るいつもとは違う景色を観ることが楽しいのだ。
そして、そんな道中を飛ばしてしまったら面白さが半減する。邪道もいいところだろう。
そして、最終的に残ったのはナツトとチェルーティア。
果たしてこの状況は偶然なのか、それとも彼女が狙っていたのかは知らないが、このままここに居るわけにもいかないだろう。
どうしたものかね……。
「で、どうする?シャック?私、お腹すいたなぁ」
わ、わざとらしい……。
妙に笑顔で、チェルーティアが問いかけてくる。
実に曇り気のない無邪気な笑顔だ。全く、この王女様は……。
「近くに穴場の喫茶店があります。パフェが特に美味しい……と」
「いいね!流石はシャック、リサーチが完璧だねぇ……よし、行こう!」
ナツトなら地図を覚えてきていると踏んでいたのか、満足げな様子だ。
「一応、お昼前ですが……」
「大丈夫!別腹だから」
こちらでも、甘いものは別腹らしい。
「そんなことより、ちゃんとエスコートしてね?」
「……はいはい」
今日は随分と機嫌がいいらしい。ノリというか、テンションがここまで高い彼女は珍しい。
「……?何で笑ってるの?」
「いえ、別に」
まぁ、彼女には昨日もそうだが、割とお世話になっている。即席プランの観光であるが、日頃の感謝も込めて楽しんでもらえるように努めるとするか。
「このクリーム、好きかも」
「確かに」
無事、喫茶店に辿り着き絶品と噂のパフェをコーヒーと共に食べる二人。
流石は穴場というべきか、並ぶ事なくすんなりと中に入れ、街並みがよく見える窓際の二人席に誘導された。
老夫婦が営むこの店は、この国には珍しい年季を感じる木造の作りとなっていて、レトロな雰囲気を醸し出し、同時になんとも言えない居心地の良さを中にいる人達に等しく提供している。
よく冷やされたホイップクリームは仄かに甘く、器の中に同居しているフルーツ達の美味しさを引き立たせる。
これは確かに美味しい。
周りの席や店の周辺からはチェルーティアの護衛の気配がするが、チェルーティアが鬱陶しいという理由から二人の周りには防音の結界が張られており、これと彼女の命令によってナツトは普段口調で会話していた。
この状況、側から見ればデートである。
笑って会話こそしているが、護衛達から報告が上にされるだろう。
そう、つまりはアルティオに。
……いや、今更か。
悩んだところでしょうがない事だし、今日は彼女の我儘に応えるためのものだ。周りの事ばかり考えるのは彼女に対して失礼だろう。
……ということで、一旦忘れよう。
「結局、卒業後はどうするの?」
のんびりと談笑していたら、ふとした事でこういう話題になった。
「うーん……これっ!っていうのは決まっていないけど、色々調べたり学んだりしながら魔法道具を作ろうかな」
色んな人から度々聞かれるこの話題。
立場上どうするべきか考えて慎重になってしまい、ついありきたりな返事になってしまう。
本当にざっくりとしか言わないので、聞き手が変な勘違いを起こして勝手に納得してくれるまでがいつもの流れであるのだが……。
「……この時期でまだ決まっていない…?貴方、最終的にニートになるんじゃないの?」
それに関してはその通りである。
流石に卒業も近い学生がそんな事を言っていたら心配するのも仕方ない。
もっと具体的なものにしておくべきだった。
「あははっ、ご心配なく。冒険者で頑張る道もあるからそうはならないと思うよ」
ナツトの実力なら、冒険者として適当に魔物を狩って生計を立てる事はできそうだ。
貯金もあるにはあるし、卒業後すぐに困ることになる……なんて事は先ずない。
「ふーん……ねぇ、提案だけど私の元に来ない?」
「え???」
そういう方向に話が逸れるのか、と驚く。
もしかして、この話題こそが彼女の目的なのだろうか。
「だから私の部下として働かない?問題ないでしょう?」
にっこりと笑っているが、目が本気だ。
本気で引き入れるつもりか……?
「い、いきなりだね。ちなみに何で…?」
思わずたじろぐナツト。
「何でって……優秀な人材を逃すなんてバカのする事じゃない。万が一貴方が他国へ移ることになったら大きな損失よ」
「それは、とても嬉しい評価だね」
思っているよりずっと嬉しい評価を真正面から言われて、照れる。
さっきから驚いたり怯んだり照れたり忙しいやつみたいになっている。
「まあ、それを抜きにしても、単純に貴方が欲しい。他の誰かに取られる前に」
「…………なんだか、告白みたいな台詞だ」
彼女は畳み掛けてくる。ちょっとドキッとした……かもしれない。
「そう思う?そう受け取っても構わないわよ」
「……からかわないでよ。君が言ったら洒落にならない」
本当に今日の彼女は大胆だ。元々、素の彼女は親しい仲間には気兼ねなく接してくる人だが、学園の外でここまで突き詰めてくるのは初だ。
「ふふっ……あぁ、もちろん即答しなくていいわよ。そうね……一週間待つわ。返事はその時にね」
良かった。この場でどうぞ!的な展開になっていたらすごく困ってた。ちょっと状況について行けていないので、猶予をもらえるのは大変助かる。
「さ、そろそろ出ましょ。集合時間が迫ってる」
チェルーティアは店内の時計を見て、話を切り上げる。
気が付けば随分と話していたものだ。
彼女のいう通り、予定集合時間まであと少しになっていた。
「お会計は……」
「済ませてあるよ」
「えっ!?いつの間に……お互い一度も席は立っていないはずなのに……」
チェルーティアは驚いた。確かに二人とも席は一度も立っておらず、ずっと何かしらのことで話していた。
普通ならば、席を立たずに支払いを済ませるのは無理だろう。
だが、ここは剣と魔法の世界。目の前の人に気付かれないように会計を済ますことくらい出来ちゃうのだ。
驚きぶりを見るに、どうやら彼女に振り回された分の仕返しは出来たようだ。満足である。
チェルーティアは咄嗟にお金を出そうとする素振りをしたが、それは制止する。
「気にしない気にしない」
「……一丁前にカッコつけちゃって………ありがとう」
「どういたしまして。さ、行こう」
その後、二人はみんなと再会し、昼食を済ませた。
そして、そのまま長かった高等部修学旅行は終わりを告げることとなった。
立場上ナツトはいずれ三友として表舞台に出ないといけないだろう。
アルティオの元か、チェルーティアの元か。
一つの大きな選択はそこまで迫っているようだ。
修学旅行終わりっ!!
国に帰還するっ!




