Ep.142 高等部修学旅行-⑨-無茶の反動
睡眠不足であるが、気分はここ数年で一番と言っていいぐらいスッキリしていた。
やはりその理由は夜を献上して、樹林の捜索をして見事二人を無事保護できたことだろう。
憂い事が解消されたことにより、溜まっていた日頃のストレスも吹き飛んだ気がする。
……が、心が清々しくても、身体もそうである……という訳ではないようだ。昨晩はかなり短い時間の中で捜索を行なったため、疲労が結構溜まっている。
特に魔素に干渉して、魔法の記録を辿るアレは脳への負担がデカかった。
当然情報量が凄まじく、人間の脳で処理するものではないなと昨晩ちょっと思った。
あの時は見つけるの一心でやってたからテンションで乗り切ってたところがあるが、いざ終わると脳が冷静になって負担した情報量に見合う反動が来たらしい。
記録を辿っての捜索は、樹林を一定の範囲のブロックに小分けして順番に行っていた。
数日はかかり、何なら旅行期間中でも見つからない可能性も十分考えられたが、ラッキーなことに早い目にそれらしい痕跡を見つけるに至り、接触することが出来た。
だが、いざ戦闘が始まって少ししたところで酷い頭痛が襲いかかって来た。
探している時は行けそうとノリで行けてたところがあったが、身体は正直だったらしい。
確かによくよく考えてみれば、実験段階の魔法しかも脳に影響を明らかに与えそうな魔法をホイホイ使ったのだ。反動が来るのはある意味納得なお話である。
で、戦闘だが、魔法で頭痛を和らげつつ戦っていた。最大限負担をかけない様に動くのは極力抑えて立ち回ったつもりだ。
『権能:誘導』様々である。攻撃を喰らわない立ち回りをする上で、コイツ以上に適した能力はそうそうないだろう。戦闘の度、助けられているなと感謝する。
確保して、引き渡した後は真っ直ぐ宿泊施設に戻り、短い間だが起床時間まで寝た。
朝起きた時はまだ頭痛も残っており倦怠感も凄かったが、ここは魔法で誤魔化している。
身体には毒だが、今晩は自由時間になったその瞬間から寝るつもりだ。
現状はこんな感じである。
今日の予定は、昨日に引き続き交流授業である。
だが、特に話すこともないし、端折る。
獣人の彼等とは、色々話すがこちらの特出して持ち上げる話題はない。
一般的な高校生が話す様な世間話だ。
まぁ、それこそが一番楽しいまである……かもしれない。
「眠そうね」
座り心地の良い木の椅子に腰掛けて、ぼー、っとしていたらチェルーティアから声をかけられた。
彼女は常に他の生徒達に取り囲まれているのだが、今は上手く抜け出してきたのか、周りに誰もいない。
ナツトが今いる場所は割と建物の隅の方なのによく見つけたものだ。
「そう見えますか?」
例に倣って、公の場ではできるだけ丁寧に返す。
「ええ……とても」
よく見ているものだ。今日は朝会った時に挨拶をしたぐらいしか顔を合わせていないのに、気付くものなのか。
「でも、何か安心している雰囲気ね。何か良いことでもあったのかしら?」
エスパーか、この王女は?
いや、それとも顔にでも出ていたか。
色々と抜けているかもだな。注意せねば。
「まぁ、そんなトコかなぁ……あ、そんなところです」
「……やっぱり貴方、疲れてるわね。頭回っていない感じじゃない」
「あはは」
ヤバい、できるだけ丁寧にとか考えいるのに、無意識に声に出ていた。
確かにこれは彼女のいう通り、本気で疲れているのだろう。
「休んでもいいのよ?」
「今日の授業は残り一つなので、受けさせて頂きます」
「本当に?貴方が目に見えて疲れているのがわかるのは相当よ?」
「大丈夫です」
「……………だめ」
「王女殿下?」
「だめです。私が許しません。休みなさい」
「えぇ……」
そして、なんだかんだで気が付いたら保健室のベッドにいた。
周りは真っ白なカーテンで囲われており、どことなく個室感が生まれ、落ち着く。
完全に押し負けたが、横になったら待っていたかのように眠気が襲って来る。
この手のものは本人には自覚が無いと言われることも少なくないが、その通りなのかもしれない。
思っている以上に身体を酷使していたらしい。
この際だ。しっかり休ませてもらうとしよう。
瞼を閉じる。
寝るまでの少しの時間に想起されたのは、昨晩の戦闘情景であった。
秋楽の実力。サルビアの実力。
短い時間だったが、大体知ることができた。
秋楽はまだ詠唱魔法の段階であったが、何やら秘密を隠し持っている感じであった。
サルビアは、予想以上の実力であり正直少し驚いた。過去の情報から、聖女は戦闘に強いとアルティオから聞いてはいたが、なるほど確かにと言った感じであった。
サルビアが獣人であることも要因ではあるだろうが、基礎的な魔法に加え、近接戦もゴリゴリに行けるときた。加えて本気を出した彼女の戦闘は並の冒険者など遥かに凌駕している実力だった。
あんな雑に強力な魔法を行使していたにも関わらず、彼女自身の魔力量に変化が見られなかった。
それはつまり、何かしらの要因で魔力の消費を抑えていたということ。
それが聖女に隠された秘密なのだろうか。
それに、あの状態の彼女が使った魔法。
魔法陣と無詠唱魔法を組み合わせた魔法であったが、魔法陣には見たことのない魔法文字が描かれていた。
恐らくは、失われた言葉。
太古の時代に使用され、今では伝聞されずに失われたと言われる魔法文字だ。
そんな文字を聖女が使っているということは、その元締めの聖国は、失われた言葉について世界中が周知しているものより進んだものを知っているはずだ。
扱える魔法文字が増えると、魔法陣を作る時により表現を豊かに出来る。
まだ知らない言葉があるかもしれない。
魔法陣を多く多用する魔法道具を作る身として、これほどまでに興奮することがあるだろうか。
聖国には是非とも公表して欲しいものだ。
…
……
………ね、眠気が……。限界か……。
時は少し遡り、夜明け前。
聖国、地下のとある施設。
「獣国、未開の樹林にて星の魔力が強制的に引き出されました」
淡々と透き通るような女性の声が空間内に響く。
そこにいた人物は、それを聞いて何かの作業の手を止めた。
「何?地図を」
「畏まりました。表示致します」
女性がそう言うと、施設内の開けた場所に三次元の地図がホログラムのように映し出される。
それと同時に、赤いピンが地図のある地点に刺さり、それが彼女の言う場所の位置であるとわかる。
「やはり見立て通り、獣国か。状況は?」
「実行しましたが、その他の情報は取得出来ません」
「何?」
彼女は非常に優秀な装置の人工知能だ。
大抵の事ならば容易に情報を取得出来るのだが、出来ないとなると……。
「対象地域に結界を確認。結界内の魔力を隠蔽するものと判断致しました」
相応の理由がある訳だ。
しかし、彼女に情報を抜かれないレベルの結界を張れるとは、結界を張った者はかなりの実力を有しているはずである。
例え、情報が得られなくとも、そこから考えを延長することは可能なのだ。
「……では、誰が張ったものだ?」
「結界の魔力情報も隠蔽されております」
駄目元で聞いてみたが、やはりそんな初歩的なミスはしていないようだ。
「……器用だな。まあいい」
「星の魔力の強制引き出しが終了致しました」
時間にして僅か一分たらずだ。話したり考えている間に戦闘はどうやら終わりを迎えたらしい。
「……決着したか」
「結界が消失。人の反応も確認されません」
場所的には魔物が蔓延る領域だ。同じ場所に留まり続けるのはリスクが高い。
そのため、戦闘が終わればさっさとその場を離れる……これには同意だ。
…しかし、一切の反応が消えるのは少し妙である。
少なくとも、逃走した二人にそこまでの配慮も技量もあるとは考えづらい。
となれば、考えられるのは第三者の関与である。
追求を逃れるために痕跡の全てを残さない慎重な者がいたら、納得である。
この地図上でしか見ていない戦闘が、対人ではなく、対魔物であった可能性も考えられるが、状況的にその可能性は低そうだ。
よって、対人戦だったと判断する。
そして、こちらの指示で獣国に向かった捜索隊で戦闘になったと言う報告は受けていない。
これは即ち……。
「……これは保護されたと見るべきか……概ね予想通り。捜索は打ち切りだな」
「如何されますか?」
「ここまでの情報だけで十分だ。アズ、お前は引き続き魔王の動向を監視し続けろ」
最低限ではあるが、欲しい情報は取れた。
下地は整いつつある。
その他の試みも悪くない段階までは来ているし、ようやく始めて行けそうだ。
「畏まりました。マスター」
ねぇ……早く最後の遺跡を探そうよ、ナツト。
「はっっ!」
沈んでいた意識が覚醒する。
飛び起きたナツトだったが、すぐにそういえば保健室で寝ていたなと現状を思い出す。
窓から差し込む日の色からして、夕方なのだろう。
結構な間眠っていたようだ。
……それよりも、直前に見ていたであろう夢の内容があまり思い出せない。
二回目だ。
前にも似たようなことがあった。
尤もあの時は夢の中の一部が思い出せなかったので、厳密には違うだろう。
夢のその全てを思い出せない、という一点で似ている……そう言うことである。
そう言うわけで、夢の内容は思い出せないが、最後の最後に言われた言葉は頭の中に強く残っている。
「最後の……」
遺跡というのは各地で見つかっている太古の文明の遺跡のことだろう。
確かに前に見た遺跡はまだ生きていた物だったし、気になる仕掛けもあった。
しかし、もう一つ探せと言われても、場所なんて知る由もない。
なんだか、旅行が始まってから怒涛の展開すぎて追いついて行けない感じが否めない。
……国に帰ってからだな。
既にやることが山積みだ。




